国家錬金術師の英雄譚 作:河竹
アメストリス軍中央司令部。
ここは軍事国家アメストリスの中でも最高権威を誇る軍事施設。
その一室にて、一人の男が黒電話を片手に不機嫌そうに顔をしかめながら話をしていた。
「おい、黒乃。これはどう言うことだ?」
電話口で苛立たしげに文句を垂れる男に、口元に笑みを浮かべながら答える。
「どうもこうも、そのままだ。どうだ、受けるか?」
「ふん、話にならん。悪いが他を当たってくれ。うちはそんなことを気にかけるほど暇じゃない」
そう言って机の上に先ほど届いた資料を放り投げる。
見ると、そこには国家錬金術師であるエドワード・エルリックの破軍学園への編入と書かれた資料の束であった。
「いいじゃないか、エドワードはもう18歳だ。いい加減そろそろ学園に通わせてもいいんじゃないのか?」
「あいつは国家錬金術師、つまり国家の人間だ。そうやすやすと国外への渡航に許可など出せん。それにやつは日本の高校程度の知識など、とっくに履修済みだ」
国家錬金術師の試験はその程度の知識で突破できるほどヤワなものじゃない。
いわゆる国家の特級なのだ。
ただの一般人でも解けるような問題は出していない。
男の答えに溜息をつきながら答える。
「はぁ......学校は問題の解き方や戦い方を教えるだけのための場所じゃない」
「何が言いたい?」
「あいつにはもっと同じ年頃の者と接する機会が必要だと言っている、マスタング大佐。............それに例の事件も大方片が付いたんだろ?」
「......はぁ、なぜ貴様がそのことを知っている。機密情報だぞ。それと大佐じゃない。大将だ」
「ふっ、私もそこそこ広いネットワークを持っているからな。それに、あんなに大きな事件に気付かないなんて、私たちの立場上そちらの方が無理難題だ。それで、どうする?」
腕を組みをしてギシリと椅子にもたれかかり、腕を組んで暫し思案した結果。
「......まあ、ヤツにも少しは休暇が必要か。ここ数年はあの事件で休暇を与えられなかったからな。それに、これ以上働かせたものアームストロング大佐に何を言われるかわからんからな」
「ほう、随分と物分りが良くなったじゃないか」
予想外に簡単に許可が出たことに驚く。
「ふん、ただの気まぐれだ。渡航の許可は出したからあとは本人に直接話してくれ。あと、一応あいつも軍や国家に関する人間だ。わかっているな」
エドワードかて国家錬金術師という特権を持った人間だ。階級で行くと少佐。
それにあいつにはそこらの少佐と同系列には扱えないほどの功績を残した者だ。
故に先の会議により、中佐への昇格が行われたばかりである。
そこいらの者と同程度の待遇をされたら軍の面子にも関わってくる。
「わかっているさ。本人にはこちらが問い合わせよう。それと彼には悪いが、一応2年ということで入ってもらうことになるが、いいか?」
「構わん。あとエドワードにくれぐれもこちらに面倒ごとを持ってくるなと伝えておいてくれ。頼むぞ」
「お前も苦労しているんだな。伝えておこう、それではな」
それだけ言うと電話が切れ、椅子にもう一度深くもたれかかり、一度ため息をついてコーヒーへ手を伸ばす。
電話をする前に部下であるホークアイ中佐が入れたコーヒーは、入れ立てとは程遠くぬるくなってしまっているものの、今はできるだけ思考を鮮明にしたかった。
煎った豆の香ばしいコーヒーの香りと、コーヒー独特の苦味が頭をクリアにする。
「はぁ......次から次へと厄介なものに巻き込まれおって」
溜息をつき、これから起こるであろう面倒事を頭に浮かべながら眉間あたりを指で抑える。
それからしばらく頭を悩ませながらコーヒーを堪能していると扉をノックする音が聞こえた。
「......入れ」
そう言うとガチャリと扉が開き、直属の部下であるホークアイ中佐が入ってくる。
「失礼します。マスタング大佐、ご報告したいことがありまして」
「今はもう大将だ、中佐もいい加減覚えてくれ。いや、わざとか。......はぁ、それでなんだ?」
またも面倒ごとかと顔を思わずしかめそうになる。
「マスタング大将、エドワード君の件についてなのですが」
「あぁ、今黒乃から電話がきた。一応本人の了承があれば了承する旨を伝えたいところだ。後で日本行きの飛行機でも取っておいてやってくれ」
「あの、それなのですが......」
「なんだ、何かあったのか?」
ホークアイ中佐は言いにくそうな表情を浮かべながら答える。
「彼、エドワード君から朝、電報がありまして」
「そうか。それで?」
一呼吸置き、意を決して答える。
「彼は今......」
「なんだ、何か任務でもあったのか?」
「いえ、その............」
彼、すでにもう日本にいるそうです
「..................」
その言葉に、溜息を吐き出し再度椅子にもたれ掛かり、天井を仰ぎ見る。
「そうか............ホークアイ中佐、電話を」
「............はい」
ふつふつと煮えたぎる怒りが徐々に溜まっていき。
ついに爆発した。
「............あんのクソガキがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
都内某所。
「ヘックシ!誰だ?俺の噂してるやつは」
長い金髪を後ろでくくり、同じく金色の瞳を持つ青年、エドワード・エルリックは、マスタング大将の知り合いだという黒乃という人物を訪ねるべく、科学技術の大幅な進歩を遂げている日本へと渡航していた。
「しっかし、流石にマスタング大将に言わなかったのはまずかったか」
先ほど届いたマスタング大将からの怒りの電話に冷や汗を流したエドワードは、帰国した時に起こるであろう惨状を思い浮かべた。
「ま、来ちまったもんは仕方ねーか!それより破軍学園ってのはどこだ?」
素早く切り替え、再度先日届いた手紙を見返す。
破軍学園へと招待としか書いていないその手紙は、校長の直筆サインしか他に書いておらず、行き方などは何一つ書いていなかった。
「とりあえず聞いてみるか。すんませーん!」
声をかけたのは、同じ歳くらいの、綺麗な茶髪を三つ編みにした眼鏡の少女だった。
「はい?どうかしましたか?」
「この破軍学園ってどこにあるか教えてもらいたいんだけど」
少女はエドワードの言葉に一瞬キョトンとし、あ、外国の人だからかなと納得する。
「何かご用でも?」
「いや、ここの理事長の黒乃さんだったか?に呼ばれたんだよ」
「理事長に?」
そう首をかしげる少女に先ほどの手紙を見せる。
「確かに理事長のサインですね。わかりました、それでは私に付いてきてください。私も今から行くところなので、一緒に案内しますよ。私、この学校の生徒なので」
「お、マジかっラッキー!んじゃ頼むわ」
「ふふ、それでは付いてきてくださいね」
エドワードはそう言って歩き出した少女の後ろを付いて歩いた。
「そういえば、破軍学園にはどういったが用事で?」
外国の人であるエドワードは、日本人からすふと見ようによっては年上に見える。
さらに昔からの悩みである身長も徐々に伸びていき、今では成人の平均まではいかないものの、そこそこに伸びていた。
故に20過ぎと言われても遜色がなかった。
「俺、そこに編入するんだ」
「編入ですか?珍しいですね。というか歳が近かったんですね。それに理事長の推薦なんて」
「俺も結構びっくりしたよ、この手紙が届いたときは」
「そうですよね、学校の方は大丈夫なんですか?」
首を傾げながら聞いてくる。
「俺、一応軍人だからさ。学校には行ってないんだ」
「あっ、すみません。不躾な事を聞いてしまって」
申し訳なさそうに目尻を下げながらシュンとしている彼女に首を振りながら
「いーよ、そんなこと。俺も別に気にしてねーし、それに今から俺もその仲間入りってわけだ」
明るく笑顔で答える。
そんなことを話していると、目の前に豪壮な建物が見えてきた。
破軍学園である。
「あれが破軍学園ですよ。あちらの階段を登った先が理事長になりますので」
「あれがか。随分でけーな!!サンキューな、案内してくれて。えっと......」
「そういえば、まだ自己紹介がまだでしたね。私、ここ破軍学園の生徒会長を務めさせていただいています、東堂 刀華と申します」
改めてこちらに向き直り自己紹介をした彼女、東堂がまさかの生徒会長だということに驚きながら、エドワードも自己紹介をする。
「俺はエドワード・エルリック!鋼の錬金術師だ!」
これは、鋼の錬金術師、エドワード・エルリックの英雄譚である。