国家錬金術師の英雄譚 作:河竹
その後、東堂の案内通りに校内を進み、理事長室に入ろうかと考えていたその時。
「アッツ!!??」
中からかなりの熱量のエネルギーが発せられ、ドアの隙間から熱風が吹き出てきた。
「......入りずれぇ.......はぁ」
長年の経験上、今はいると確実に碌でもないことに巻き込まれるだろうことは容易に想像できる。
が、しかしここでずっと突っ立っていたところで何もことは始まらない故に、意を決してドアノブを回し、中へと入った。
その少し前、理事長室にて。
「君たちは今日から同室、つまりルームメイトだ。君たち意外にも他に男女のペアの部屋もある。文句があるなら退学してくれて構わない」
とどのつまりは僕とステラさんが同室になり、それに気付かずに部屋に入った僕が、丁度ステラさんの着替えシーンを目撃してしまったことに始まる。
そして現在、怒ったステラさんと共に理事長室へと向かい、事情の説明を受けたところだった。
そしてその理事長の退学発言に、さすがのステラさんもまずいと感じたのか少し鎮火されつつあるも、しかしその視線は未だ僕を射殺さんとばかりに突き刺さっていた。
「で、でも!何か間違いがあったらどうするんですか!?」
「ほう、一体どんな間違いがあるんだる?」
「そ、それは......」
いやいや、それ完全にセクハラでしょう。
そんな酔っ払ったおっさんのような絡み方をしなくても。しかも王女様に。
そんなことを考えていると、キッとステラさんは僕をにらみ、三つの指を立てた。
「いいわ、同室の件、認めてあげる!でも三つ条件があるわ。話しかけないこと、目を開けないこと、息をしないこと!」
「無理だよ!?それ僕もう死んでるよね!?」
「知らないわよ!そもそも王女である私の下着姿を盗み見て生きていられるだけありがたいと思いなさい!」
「それは謝るけどせめて息ぐらいさせてよ!?」
「嫌よ変態!私の匂いを嗅ぐつもりでしょこの変態!!」
「嗅がないよ!そんなに嫌ならがんばって口で呼吸をするから!!」
「嫌よ変態!がんばって私の息を味わうつもりでしょ!!」
「そんな考えに辿りつかなかったよ!!この変態!!」
「はっはっはっ」
いやいやいや、助けてくださいよ理事長!
もうステラさん激おこじゃないですか!
もう髪の毛なんてピンピンに立ってもうスーパーサイヤ人ですよ!?
「どっちが変態よ!この変態!!」
突如、彼女の怒声と共に大量の高温の熱風が吹きあれる。
さすがAランク伐刀者だ。
そして被害を受けたのは僕だけじゃないようだ。
ドアの向こうから「アッツ」って聞こえてきた。大丈夫だろうか。
「まぁまぁ落ち着け、二人とも。ここで暴れて理事長を壊されてもいけないからな。伐刀者なら伐刀者らしく、勝負で決めたらどうだ?」
理事長がようやく助け舟を出してくれた。
というか遅すぎる気がするんですけど。
「うん、それは公平でいいですね」
「はぁ?悪いけど、私これでもAクラスよ?勝てると思ってるの?」
ステラさんが僕を睨み、威圧的な態度を取ってくる。
けど、
「そのための努力はしてきたつもりだよ」
僕だって僕なりに覚悟もあるし、信念もある。
負けられない理由もある。
それにこんなところで躓いているようではいけないんだ。
「......私が努力してないみたいに」
その呟きが僕に聞こえることはなかった。
でもステラさんの表情は先ほどと打って変わって苦しそうな表情をしていた。
しかし、そんな曇った表情は一瞬だった。
ステラさんはすぐに活力を取り戻し
「いいわ!でも負けたら一生下僕よ!犬のように従いなさい!」
「げ、下僕って。冗談だよね!?」
「冗談なわけないわ!いいから、さっさと」
すると突然、すごい勢いのまま話すステラさんの言葉が途中で遮られた。
「すいませーん、理事長室ってここであってますかー?」
あまりにも白白しすぎると演技とタイミングと共に、長い金髪のを後ろでくくった外国の人が入ってきた。
あまりに突然すぎて僕達の間に沈黙が宿る。
が、そんな中で思い出したかのように時計を確認しながら理事長が声を発した。
「おっと、そろそろだったな。すまない、気づかなかった」
「お、ていうことはあんたが理事長か。別にいいよ、なんとなく事情は察したし」
「すまないな、こいつらが思った以上に問題児過ぎたからな」
((あんたのせいだろうが!?))
僕とステラさんの思いが重なった気がした。
「ま、とりあえず俺がエドワードだ。これから頼むぜ、理事長さん」
そう言って僕達の横を通り過ぎ、理事長の前まで行くとフランクに手を出し握手を求めた。
「すまなかったな、見ての通り少し立て込んでいてな。迎えを寄越すのをすっかり忘れていた」
「いんや、大丈夫だ。ここの生徒会長に案内してもらったからな」
「そうか、それなら後で東堂にお礼を言っておかなくてはな」
理事長はそう言って手を握り返した。
というか、僕達の存在が空気になんだけど。
「あ、あの、理事長。その人は?」
さすがに耐えきれなくなった僕は、理事長にその唐突に部屋に入ってきて場を凍らせた人物の紹介を求める。
「あぁ、こいつはエドワード・エルリック。アメストリスからの編入生だ」
「アメストリスっていうと、あの軍事国家の?」
「あぁ、そこからだ」
アメストリス。名の知れたヨーロッパの軍事国家であり、世界でもトップクラスの軍事力や防衛力を兼ね備えた地球上最強と言われている国だ。
平和な国日本と共に、ある意味最も安全な国として有名である。
そんな国からの編入生、しかもこの破軍学園にだ。かなりのやり手だということは容易に想像できる。
不意にとなりのステラさんを見てみると、先ほどまでの勢いはどこに行ったのか、目を見開いてエドワードさんを見つめていた。
「どうしたんだい、ステラさん?エドワードさんをそんなに見つめて」
僕がそう言うと、ステラさんはこちらを見て軽蔑目で見てくる。
「はぁ?あんた、知らないの!?あのエドワード・エルリックを!?」
「そんなに有名な人なんだ?その、エドワードさんって」
「あんた、エドワード・エルリックって言ったら、最年少で国家錬金術師になった天才じゃない!?」
「国家錬金術師?」
「そこからなわけ!?信じらんない!!いい?国家錬金術師っていうのは!ーーー」
その後、僕は国家錬金術師についステラさんから語られるのをしばらくの間、ただ一方的に聞かされ続けたのだった。