俺の義妹が可愛すぎて生きるのが辛い   作:水代

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悲報義妹まだ出てこない①

 

 かつてこの世界には、魔物と呼ばれる存在が溢れていた。

 数百年前、かつての人類は魔物と呼ばれる存在と千年近く争っていた。

 かの有名な千年戦争である。争っていた、と言っても実際には人類は劣勢に追い込まれていた。

 魔王と呼ばれる存在は魔物を無尽蔵に生み出し続け、人類を常に数で押し続けていたからだ。

 だがそんな時、一人の英雄がアイギスという名の女神の力を借り、魔王を打ち倒すことによって、世界に溢れていた魔物たちはその数を大きく減じた。

 

 千年戦争の終結である。

 

 戦争を終結させた英雄の名をアーサーペンドラゴン、後に『英雄王』と呼ばれる男である。

 『英雄王』は千年戦争の後、国を作り上げた。そして、『英雄王』の元に一丸となった人々の力によって、世界は急速に平和を取り戻していった。

 そうして世界に平和が戻り、魔物の脅威が忘れられると共に、『英雄王』と共にあったはずの女神アイギスの名も人々の記憶から抜け落ちていく。

 

 後に残ったのは、初代『英雄王』の作り上げたログレスという名の王国と、その逸話の数々だけだ。

 その王国の中ですらも、アイギス信仰というのは年々縮小化されていくほどに人々の生活は安定し、平和がもたらされていた。

 

 それでも、未だに女神を信仰する人たちは確かにいて。

 

「……バケモノだ」

 

 癒しの奇跡たる、神官の治癒(ヒール)を弾いた俺を見て、村人の誰かがそう呟いた。

 何が起こったのか、自分で分からない。

 

 そもそもの始まりは七年前。

 

 ()()()()()()()()()()()ことから始まる。

 

 一体、どうしてこんなことになったのか、自分で分からないことではあるが。

 自分は以前、こことは違う世界で生きていた知識がある。

 どうやらその世界で死んで、こちらの世界で……俗に言うところの生まれ変わり、をしたらしい。

 とは言え、知識こそあれ、前世の自分が一体どんな人間だったのか、まるで記憶も無く。

 まだろくに言葉も話せない頃、ふと自分が生まれ変わったことを自覚した。

 そこからは自意識の発達だけは早かったが、それ以外はちょっと変な知識があるだけの普通の子供として、この世界で育ってきた。

 

 この世界には以前の世界よりも随分と文明的には劣っている、らしい。

 テレビも無ければ、電話も無い、それどころか自分が住んでいる村に至ってはガスコンロや水道すら存在しない。

 以前の世界にあった文明の利器は軒並み無い、何もかも自分の手で、と言ったあり様であったが、そもそも以前の世界における経験というものが記憶から欠落してしまっている以上、馴染むのは容易だった。そもそもが赤子からのスタートだったというのも良かったのかもしれない。まあ赤子の時のことなど、寝て起きたらいつの間にか過ぎていたと言った感じではあるが。

 四歳、五歳になって体が出来上がってくると、親についていって家の外で『仕事』をするようになった。

 

 そうして家の外の世界を知ると、それが自分の知る世界と全く異なる世界なのだと、改めて思い知らされた。

 

 この世界には魔物と呼ばれる存在がいる。

 

 過去、それこそ何百年と昔には世界中に溢れていたらしいが、現在となっては、ゴブリンやウルフといった力の弱い魔物が時折現れるくらいのものである。

 とは言え、魔物は人を襲う脅威だ。特に森に囲まれた中にある集落である自分たちの住む村はいざ、という時に警護のいる王都などとは違い、自衛の手段が必須となる。

 

 故に、ある程度大きくなるとこの村の子供たちは武器を与えられる。

 

 自分に与えられたのは子供の手には大振りな短剣(ダガー)だった。

 

 身を守るためだけでなく、森での採取や狩りで仕留めた獲物を解体するのにも使えて便利だから。猟師の息子である自分にはちょうど良い武器だったのだろう。

 来る日も来る日も父親から短剣の扱い方を習いながら、森の恵みを得る術を学んでいた。

 時には魔物に遭遇することもあったが、幸いゴブリンやウルフの一匹くらい、父親でも追い払えたし、弱らせた魔物へとトドメを刺すこともさせられた。

 幸い、自分は肉体と資質に恵まれていたらしい。子供ながらに大人顔負けの運動能力と知識で狩りも戦いも採取も急速に身に着けていった。

 そうして少しずつ、森での生き方、魔物との戦い方を学んでいき。

 

 田舎の地方のさらに森の中とかいう文明からやや隔絶された場所にある村では暦という概念が薄いためはっきりとしたものではないが、恐らく七度目となるだろう誕生日を迎えた翌月。

 

 ――――村に巡回の神官がやってきた。

 

 それ自体は珍しいことではない。アイギス信仰自体は薄れつつあろうと、回復魔法の本家は神殿であり、神殿の権威が堕ちることは無い。

 そう、魔法……この世界にはそう呼ばれるものが存在するらしい。

 メイジ、ウィッチ、プリースト、他にも様々な魔法の使い手が存在しており、その中でもプリースト、つまり神官は神殿で回復魔法を学んだ者がそう呼ばれるようになる。

 どんな傷をも瞬く間に癒してしまう奇跡の癒し、それ故に神官たちは定期的にこのログレス王国内を巡回し、各村へとやってきては無償で怪我人を治癒してくれる。

 

 それとは別に、もう一つの役割もある。それが出産の立ち合いである。

 医者というものが相当に大きな街くらいにしかなく、あっても診療所程度の国では、治癒の魔法が使える神官が村々を巡り、出産の立ち合いをすることが多い。

 衛生という概念すら薄い文明レベルのため、この世界における出産時の妊婦や赤子の死亡率は非常に高い。だがそこに神官が一人立ち会うだけで、その死亡率を大きく減じることができる。

 尤も、一切の金銭的なやり取りも無く神官を遣わしているのはここログレス王国を除けば非常に少ないらしいのだが。

 だからこの国では妊娠が分かった時から近くの神殿へと届け出をすれば、出産時期になると神官がやってきて妊婦へと付いていてくれる。

 

 何とも便利な制度であり。

 

 だがそれも今は都合が良かった。

 

 ――――母が妊娠していたのだ。

 

 弟か、それとも妹かは分からないが。

 すでに出産まで幾ばくの余裕も無いというほどに膨れ上がった母の胎を毎日見ていただけに、村にやってきた神官を見て、父と二人で安堵の息を漏らした。

 

 だから、だろうか。

 生まれてくる新しい家族に、浮かれていたせいだろうか。

 採取の途中に襲われた魔物に油断して手痛い怪我を負ってしまったのは。

 すぐに村に来ていた神官の元へと連れていかれ、初めての治癒魔法を受けることとなった。

 これまで自分はその治癒を受けることは無かった。別に神官がどう、とかいう話ではなく、単純に治癒を受けるほどの怪我をすることが無かったからだ。

 故に、自分が治癒を受けるのは七歳のこの時が初めてとなった。

 

 採取中に現れた魔物に手傷を負わされすでに魔物は屠ったが、未だ子供の体でゴブリンのこん棒で殴られた腕は赤く腫れあがっており、痛みはあれど動くことから骨折こそしてはいないだろうが、けれど痛々しい様相を呈していた。

 神官の人が来た時のために村の中央に作られた簡易テントのような診療所へと案内され、椅子に座っていた神官の前に立ち。

 

「ヒール!」

 

 神官の女性の指先から放たれた光が自分の赤く腫れあがった左腕へと宿っていく。

 

 そして。

 

 ぱぁん、と音を立てて光が弾けた。

 は? と、誰かが口を開けて、声を漏らした。

 そうして神官が、一切治る様子の無い自分の腕を見て、一瞬硬直し。

 

「ヒール!」

 

 二度目の治癒を試みるが。

 

 ぱぁん、と再度光が弾かれた。

 

「……これは、一体」

 

 目を見開き、ぽつりと呟いた神官を他所に、ざわめく村人たち。

 村の広場の中央でやっていたのが災いし、その瞬間を多くの村人たちが見た。

 

「……バケモノだ」

 

 癒しの奇跡たる、神官の治癒(ヒール)を弾いた俺を見て、村人の誰かがそう呟いた。

 何が起こったのか、自分でも分からない。

 ただ、ひたすらに不味い状況なのは分かっていた。

 

 どうすればいいのか分からず、動けない自分を。

 

「来い」

 

 父親が手を引いて歩きだした。

 村人たちが呆然と見送る中、そのまま村の外まで出て。

 

「剣はあるな?」

「え、あ……うん」

 

 時には村の中まで魔物がやってくることもあるためいつも腰に下げている短剣の柄に無意識的に触れる。

 それを見た父親が一つ頷き。

 

「なら、出ていけ……そしてもう帰ってくるな」

 

 告げられた言葉は、文字通りの絶縁だった。

 

 

 * * *

 

 

 それが、父親なりの精一杯の妥協だったのだと、冷静になって気づいた。

 気づいた時にはもう随分と村から離れていたが。

 あの村には父だけでなく、母もいる。母のお腹の中には新しい家族もいる。

 

 バケモノだ、と自分を見て村人の誰かが呟いていた。

 

 あのまま村の中にいては不味いことになる、それは分かっていた。

 だから、父は先手を打った。

 そういうことなのだろう、きっと、そういうことなのだと思う。

 

 剣はあるな、と聞いた。

 その意味もまた、そういうことなのだろう。

 

 この世界で生きるためには戦う術が必要だ。

 そのための剣であり、森での生き方(サバイバルスキル)である。

 

 ――――生きろ、と暗にそう言われたのだと、気づいた。

 

 そこに気づいた時にはすでに一昼夜が過ぎていた。

 ただ茫然と土を塗り固めただけの道を歩いてた。過去の大戦時のようなどこにでも魔物がいる危険地帯、というわけではないが、それでも決して安全というわけでも無いその場所で、意識がはっきりとするまで襲われなかったのは、幸運としか言いようが無かった。

 

 そうして思考が回りだす。回りだして、困窮した。

 どうすればいいのか、まるで分からなかった。

 分からないまま、けれど行く宛ても無いままに歩いた。

 二日で限界が来て、空腹で倒れた。

 当然だが村は見えない。道があるとは言え、自動車なんて便利な物はないのだ、馬なんて金持ちしか持っていない。近隣の村まで大人の足で歩いて数日。子供の足なら一週間と言ったところか。町まで行こうとすればもっとかかる。

 見渡す限り、森、森、森。一本に真っすぐ伸びる道をこのまま歩いても、先に飢え死ぬのが先だろうことは容易に予想がついた。

 

 どうすればいいのだろう、どこにいけばいいのだろう。

 

 そんなことを考えて、考えて、考えて。

 

 取り合えず何か食べて空腹を満たそうと思いついた時には、すでに体は動かなかった。

 

 このまま死ぬ、それが分かっていながらも気力も体力も限界に達していた体はあっさりと意識を手放し。

 

 死にたくないな。

 

 薄れていく意識の中でそれだけを思った。

 

 

 * * *

 

 

 がらがらと馬車の車輪が舗装された道をがたごとと車体を揺らしながら走る。

 

「やれやれ……揺れるな、だから遠出は嫌いだよ」

 

 馬車の中でローブを纏った老人が一人、嘆息する。

 揺れを抑える魔法、というのもあるにはあるが、そんなもの移動中常に使っていては魔力のほうが持たない。

 だからこうして布地を重ね合わせたクッションで衝撃を抑えてやるしかないのだが、それにしたって揺れるものは揺れる。

 とは言え、後半日ほどの辛抱でもある。

 

「帰ったらまたゆったりと過ごすことにしようかね」

 

 久々の遠出だったが、まあそれに見合うだけのものはあった。

 自らの家がある街とは別の街へと移り住んでしまった娘夫婦は元気にしていたし、可愛らしい孫娘も順調に成長しているようで、思い出すだけで口元が緩んだ。

 

「む?」

 

 ふと馬車の外の景色の中に映った村の姿に、すでに帰り道も半ばに差し掛かっていることに気づき。

 

「ふむ……多少走らせるかな」

 

 手の中にある分厚い書を片手に持ち。

 

「ほれ、急げ、急げ」

 

 ()()()()()()()()に向かって言葉を放りながら、その身に秘めた魔力を解き放つ。

 直後、馬車がその速度を上げる。

 がたがたがたがたがた、と揺れも激しい物となるが。

 

「これこれ、揺らすでないぞ」

 

 老人が馬車を撫でるように手を滑らせた途端に揺れが収まる。

 

「ほほ、快適快適」

 

 ぐんぐんと速度を上げる馬車に反して揺れの静かな内部で、老人が一人笑い声を零す。

 代償とばかりにその身の内にある魔力は目に見えて減っていっているが、その総量からすれば微々たるものに過ぎない。

 とは言え、減った魔力はすぐに戻るようなものではない。数日かけてゆっくりとまた溜まっていくものなので、そう簡単に減らすような真似はしたくないのが本音だが、いつまでもこの揺れる馬車の中で森ばかりの変わらない景色を見続けているよりは精神的にも良いだろうと判断した。

 

 付与魔術師、と老人のような存在を差して総称されている。

 

 物質に魔力を付与することで、魔術的変化を起こす者たちの総称である。

 自他からその泰斗と称される老人からすれば、御者の居ない馬車を動かすことも、馬車から揺れを失くすことも赤子の手を捻るがごとき容易いことであった。

 

 とは言え、どれだけ魔術の研究を進めようと、人間の身である以上は、根本的に魔力の量という問題が絡みついてくる。

 いかな素晴らしい魔術を使えようと、魔法を唱えることができるようと、魔力が有限である以上は限界というものがある。

 

 だが老人はそれを嘆いたことは無い。

 

 魔道とは世界の深層を覗き込むことだと、魔術師は良く言うが、付与魔術師というのはそうではない。

 付与魔術は単体で意味や効果を持つ通常の魔術と違い、何かに『付与』することで初めて効果を持つ。

 つまり、それ単体では何の意味も持たなず、他の物質があって初めて意味と効果を持つ。

 

 付与魔術は、他の魔術とは違う、人のための魔術である、と老人は考えている。

 世のため人のため、とまで言うつもりはない。そこまでの博愛精神は老人には無いが。

 人を守るため、人の生活を豊かにするため、それがこの魔術の根源であり、根本である。

 だからこそ、老人もまた自ら生み出した魔術の大半を隠さない。

 教えを請われれば素直に教え、助けを求められれば手の届く限りは助ける。

 

 尤も、無計画に何でも放出していては世の調和が乱れるため、ある程度の選別はしているが。

 

 何事も適度に、が重要なのだ。

 過ぎたるは猶及ばざるが如し、という言葉が東の国にはあるらしいが、全く持ってその通りだ。

 強すぎる力は結局、自らに災いとなって降り注ぐ。

 だからこそ、分散するのだ、人に、民に、分け与えた力は災いから転じて福となる。

 そんな老人の考え方を、娘夫婦も理解してくれていた。だからこそ、わざわざ別の街へと移り、そこで付与術師として人のための魔術を振るっているのだから。

 そしてそんな両親を慕う幼い孫娘もまた、良い付与術師になるだろう。

 

「次は簡単な魔導書でも持って行ってやるかね」

 

 もう当分遠出は嫌だと先ほど言ったばかりにも関わらず、もう次のことを考えている自分に気づき、思わず苦笑する。

 

 

 ――――瞬間、それが視界に映った。

 

 

「止まれ!」

 

 それが何かを認識するのと、停止の命令を出すのはほぼ同時だった。

 土を盛って固めただけの道をその蹄と車輪で大きく抉りながら、馬車が急速に速度を落とす。

 完全に馬車が止まったのを確認すると即座に老人がローブをはためかせながら馬車から飛び降りる。

 タッタッタ、と来た道を戻るように土の道を走り。

 

「……なんと」

 

 道の端、草むらに倒れ込む子供を見た。

 

 

 

 




テンマ(アビで魔法耐性-15)!
シルセス(スキルで魔法耐性-20/最大-30)!
エステル(150秒魔法耐性半減)!
イングリッド(範囲内の敵の魔法耐性70%減少)!

以上、作者が使ってるアンリちゃんのお供。

あとミヤビちゃんとナナリー&クリッサ、偶に鬼刃姫。
だいたいの敵はこれで死ぬ。

アンリちゃんが弱いとか言ってるやつに言いたい。

可愛い! それだけで全部許される!
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