俺の義妹が可愛すぎて生きるのが辛い   作:水代

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アイギスは基本的に情報が少ない、というか制作陣もそこまで深く考えてないんじゃね? 的な部分が多いため、基本的に独自設定とかねつ造が多いです。
嫌だ、という人は素直に読むのを辞めましょう。


では今回も。

『この世の全てをちりにしろ』


悲報義妹まだ出てこない③

 

 書庫の窓を開けば日の光が薄暗い室内に射し、明るさを増す。

 埃っぽい空気を吐き出すように二度、三度と開閉し、換気をすると共にはぁ、と息を吐く。

 

「掃除しないとなあ……」

 

 閉め切っていると一呼吸でせき込み出す酷い埃の量に窓の外の新鮮な空気を吸い込みながら再び呼吸を止める。

 振り返り、ずらりと並ぶ本棚に並べられた本の背表紙を見やりながら、その中から一冊、二冊を本を抜き出す。

 まだ七歳の身には随分と大きい本だと思うが、さして苦も無く両手に持って書庫を出る。

 

「今日はまだ用事あるし、明日こそ……掃除しよ」

 

 そう言って昨日も同じことを言ったな、なんて心の中で呟きながらも二人暮らしには広すぎる屋敷の廊下を小走りに進んでいき、書庫から近くの一室の前までやってくる。

 

「爺ちゃん、持ってきたよ」

 

 とんとん、と両手が塞がっているため足で扉をノックすれば。

 

「これ……扉を蹴るなと何度も言ったじゃろ」

 

 扉が開き、呆れた様相の老人が出てくる。

 よれた藍色のローブの裾を引きずりながら老人が嘆息し、その手の中にある二冊の書物を見て柔らかい笑みを浮かべる。

「おお、持ってきてくれたか……」

 七歳児の手で持つには大きすぎる本も老人からすればさして大きい物でも無い、二冊とも片手で受け取り部屋の中へと戻っていくのでその後をついて行く。

 

 部屋の中は非常に質素だった。

 

 ベッド、机、椅子、以上。

 いっそシンプルと言っていいほどに最低限の物しかない部屋だったが、けれど机や床の上に散らばった大量の紙が実際の面積よりも部屋の中を狭く感じさせた。

「爺ちゃん……もっと片づけてよ」

 ぼやきながらも床に落ちている紙を拾っていく。

 紙と言えばそこそこ高級品なのだが、魔術師たちにとっては必需品であり、屋敷に文字通り山のようにあるのでこうして贅沢な使い方をしていても最早気にしなくなった。

 どれもこれも大量の殴り書きが書かれてはいるが、捨ててあるということは老人からしたら必要無い物だろう。

「済まんな……どうにも考え出すと他のことに手がつかんでな」

 済まないと口では言いながらも、すでに視線と意識は手の中の本へと注がれていることは自明の理であり、言っても無駄だとここ半年の付き合いで理解していた。

 

 半年、だ。

 

 自分が老人に拾われた日からそれだけの月日が経つ。

 暖かい食事と寝床、老人はそれを提供する代わりに自分の実験に付き合うことを提案してきた。

 付与魔術師の泰斗(その道の大家)たる老人にとって、自分のような体質の人間は初めて見たらしく、一体どういう仕組みでそうなっているのか興味深いらしく、非人道的なことはしないと約束すると言いながら受け入れるか否かを問うてきた。

 とは言っても選択肢など無い。七歳児がこの世界で生きる術などそう多くはない、というかとてつも無く難題だ。

 実験という言葉に多少の不安はあるが、それでも食いっぱぐれることも無く寝る場所に困ることも無い、それだけでも十二分な価値があった。

 そしてそれ以上に自分でも知りたかった。自分のこの体質が一体何なのか……化け物と呼ばれたこの不可思議な体のことを。

 

 そうして自分は老人の提案を受け入れ、それ以来老人の屋敷に厄介になっている。

 

 当初は実験という言葉に不安も覚えていたが、やっていることは健康診断の真似事や副作用の小さな魔法薬を飲んだり、その過程を見たり、後は老人の手伝いをしたりと本当に危険なことは無く、今となっては安定してた生活を送っていた。

 この実験がいつまで続くのか、終わる時が来たとしてその時自分がどうなるのか。

 未来への不安はあれど少なくとも今の生活は安定していた。

 

 

 * * *

 

 

 家事は自分の仕事だった。

 当初は老人がやっていたのだが、実験も基本的には経過観察が多くやることも無い身。

 世話になっている礼を少しでもしようと老人……爺ちゃんを手伝うようになり。

 自分の中に薄っすらと残る前世の記憶を活用し作った料理の数々が爺ちゃんに好まれたため料理番は自分の仕事となった。

 次いで洗濯や掃除などもやろうと思ったのだが、そこはさすがは付与魔術師の泰斗か。

 

 ゴーレムと呼ばれる鉄製だったり木製だったりする人形に魔術を付与したソレが箒片手に廊下を掃除するし、水桶に突っ込んだ衣類の類は爺ちゃんが片手間で唱えた魔法であっという間に綺麗になる。

 

 なんだこのチートな生活魔法と思わずにはいられない。

 

 自分も使えたら相当に便利だろうな、とは思ったのだが残念ながら使うことはできなかった。

 爺ちゃんは付与魔術は人のための魔術だとしている。

 そのためもし学びたいという意欲があるのならば誰にでもその門戸を開いている。

 そのため自分も学びたいと言えば教えてはくれた……のだが。

 

 魔法を使うには魔力と呼ばれるものが必要になる。

 

 これは神官の使う回復魔法も同じであり、他の魔術師たちの使う攻撃魔法も同じだ。

 魔力というのは基本的にどんな人間にでも存在する。

 この世界は目に見ることはできないが魔力に満ち溢れており、人は生まれたその時から大なり小なり魔力を身に宿す。

 魔力とは内側から溢れる力でなく、外から取り込む力であり、同時に体の内側に留めることのできる量には個人によって大きな差があるらしい。

 魔術師とは特に多くこれを貯めることができる人間がなるものであり。

 

 自分の魔力量は絶大としか言うしかないらしい。

 

 調べた爺ちゃんが目を見開くほど、正直本当に人間か怪しいほどの魔力量であると言われた。

 ならば自分にも魔法が使えるのか、と言われればノーであった。

 

 問題となるのはまたもや自分の体質であった。

 

 付与魔法や回復魔法など、本来プラス効果の魔法すらも弾く自身の体質はただ魔法を弾くのではない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()のだということが分かった。

 

 つまり体内には大量の魔力があるにも関わらず、自分はそれを一切表に出すことはできない。

 まさしく宝の持ち腐れ、そして自分が七歳の子供にも関わらず大人同然の身体能力を持つ理由もまたこれだった。

 体内で魔力を燃料としてエネルギーを生み出している。

 体内で消化しきれないほどの大量の魔力をそうやって消費しているらしい。

 魔力とは本来人間の身には過ぎた力だ。

 ある程度までは蓄積することはできるが、一定のラインを超えると肉体の変質すら及ぼすこともある。

 だがこの魔力が表に出ないせいで肉体は変質しないし、入ってくることも無いせいで抜き取ることもできない。

 人間は呼吸するだけで大気中の魔力を吸収するらしく、生きているだけで魔力は溢れていく。

 だが発散できない、そのために魔力を別のエネルギーへと変換し、無意識的に肉体を強化しているのではないか、というのが爺ちゃんの推論だった。

 

 こうして半年にも及ぶ実験の結果。

 魔法を発露できず、遮断もするのに魔力は吸収はでき、変換して発散することはできるという意味の分からない体質が判明した。

 

 全く持って意味が分からない、自分もだが推察した爺ちゃんもまた首を傾げ、過去どれだけ遡ってもこんな体質の人間見たことも聞いたことも無いと言っていた。

 そうして凡その概要は分かったが、結局原因のほうは何一つ分からないままあっという間に半年が過ぎて。

 

 

 * * *

 

 

「明日、来客があるから出迎え頼むぞ」

「え?」

 

 二人だけで夕食の席を囲みながら、ふと爺ちゃんが呟いた一言に目を丸くする。

 ふわふわのパンを齧れば僅かな酸味とフルーティな香り。

 この半年の間に前世の記憶を頼りに作った天然酵母のパンは白パンには及ばないものの今まで食べていた黒パンと比較すれば比べ物にならないほど柔らかく美味だった。

 基本的に黒パンが固いのは日持ちさせるために乾燥させるからであり、一日で消費するなら別物のごとく柔らかい。とは言え、毎日パンを焼く手間というのもあるのだが、基本的に村に居た時のように朝から森に出ることも無く、爺ちゃんの手伝いをするくらいしかやることも無いため時間だけは余っているのだ。

 基本的に夜だってやることも無い上に明りも少ないのでさっさと寝るし、日の出前に起きては毎日パンを焼くのは最早日課である。

 そうして焼いたパンも爺ちゃんが毎日大量に廃棄する紙で包んで保管すれば夕食くらいまでなら乾燥せずに持つ。

 さらにそこにスクランブルエッグと庭で育てたトマトから作った特性のソースを乗っければ時代を考えれば随分と豪勢な……ってそうではなくて。

 

「来客? このお屋敷に?」

「うむ……先週手紙が届いてな、孫娘がやってくるらしい」

「お孫さん?」

 

 この屋敷には爺ちゃんと自分しか住んでいない。

 家族のことを聞いたことはあるが、どうやら爺ちゃんの付与魔術と理念を継ぎ、付与魔術師として別の街で人のために働いているらしい。

 

 人が好い、とは思う。とは言えこの平和なご時世だ。それで問題無いのだろう。

 魔物の脅威は限りなく少なく、戦争なんてこの近辺で起きる気配も無い。

 

 ログレス王国は英雄王の直系たる王家が支配している。そして周辺の国々は全て英雄王の血筋の分家が統治しており、周辺全ての国の王族がログレス王家の血縁ということもあって、小国ながらもログレス王国は周囲からそれなりに重んじられていた。

 まあ力関係だけで言えばログレス王国は否定しようもなく小国なので戦争でも仕掛けられれば滅びる可能性もあるのだが、英雄王の直系という立場はこの世界においてそれなり以上に重みのある立場であり、これを迂闊に滅ぼせば世界中に喧嘩を売るようなものであり、どの国も手出ししてくることは無かった。

 長く続く平和は人を腐らせるというが、けれど爺ちゃんやその家族はそんな平和のぬるま湯に漬かることも無く、志と理想を持って生きているようだった、正直眩しい。

 

 問題はその家族……というか孫娘が明日ここに来るらしいということだが。

 

「お孫さんっていくつ?」

「まだ四か五だったはずだな」

「俺より下か……ご両親は?」

「忙しいらしくな、しばらく家を出て戻らんらしい……だからこちらで孫娘を預かってくれ、と言われた」

「一人で来るの?」

「いや、娘……母親のほうが送ってくるらしい、とは言え本人はそのまま婿、父親のほうへと向かうらしいが」

 

 と言うことはしばらくこちらに住むのか。

 まあ元々爺ちゃんの一人暮らし、自分一人増えて二人暮らしにしても随分と広い屋敷だし孫娘一人増えてもスペース的な問題は一切無いのだが。

 

「俺は……居ても良いの?」

「問題無い。お前さんの体質の謎もまだまだ分からんことだらけだしな。まだまだ実験に付き合ってもらうぞ」

 

 そんな爺ちゃんの答えにほっと安堵の息を漏らす。

 何だかんだ、生家を追い出された身だ。住む場所や食べる物の問題もあるが、それに加えて単純に人恋しい。前世の記憶なんてあっても、所詮ただの七歳児なのだ。

 

「お孫さんは……俺のこと知ってるの?」

「うむ、娘夫婦には伝えておるからな、孫にも伝わっとるはずだ」

 

 そっか、と息を吐き。

 

「じゃあおもてなしの準備しないとね」

「うむ、頼んだぞ」

 

 告げる爺ちゃんの声に、一つ頷いた。

 

 

 * * *

 

 

 付与魔術というのは本当に便利だ。

 魔力がある限り燃え続ける不可思議な炉から火種を貰い、竈に火を起こす。

 抜いても抜いても込められた魔力がある限り沸き続ける魔法の水が甕を満たしているので鍋にたっぷりと水を取って竈に置く。

 勝手口から出てこの半年の間に許可をもらって庭に作った菜園から実った野菜を適当に収穫していく。この菜園だって付与魔術が使われており、成長促進の付与された土で作られた野菜は実りが早く、そして美味だ。

 冷蔵庫などの保管技術の無いこの時代において、生野菜というのは非常に高価だ。

 大抵の人間は干した乾燥野菜をスープなどで戻して食べるのが基本なのだが、屋敷を見ればわかる通り爺ちゃんは人並み以上の金持ちなためこういう無駄な時間が作れる上に魔術で割となんでもできてしまうためこんなものは無いかと提案しては爺ちゃんが楽しそうに新しい魔術を作ってくれたりする。

 

 付与魔術を人の生活に役立てる。

 

 それが爺ちゃんの理念であり、むしろこういう生活に密着した魔術というのは歓迎しているらしい。

 そしてそんな爺ちゃんの魔術の恩恵に今日も預かりながら朝食を作っていく。

 前世の知識というのは凄まじく曖昧で、特にどんな人間だったのかという記憶に関してはほぼ無いと言っても過言ではない。逆に知識的な記憶はいくらか頭の中にありその中には食に関する知識もあった。

 

 人が生きるためには栄養が必要であるが、この時代においてそんな概念は存在しない。

 食えるものを食う、それが基本であり、食を選べること自体が贅沢だった。

 腹が満たせるならば何でも良く、だからこそ食べる物によって体に影響が出るなんて考えは自分の知る限り誰も持っていない。

 とは言えそんな誰も持っていない知識を自分は持っているのだ。

 さらに爺ちゃんのお陰で食を選べる立場にもある。

 故に食べて美味しく、尚且つ栄養のある食事というのを考えて毎日提供している。

 一体前世の自分はどういう人間だったのか分からないが、何であれ前世の自分が学んだ知識が今こうして生きているのだから覚えてもいない自分に感謝である。

 

 それに今日からは爺ちゃんの孫娘もやってくるのだ。

 

 どんな子なのかは分からないが、同じ家で暮らす以上は仲良くやっていきたい。

 そして一番手っ取り早く人と仲良くなるならば食卓を囲むことはとても重要だ。

 美味しい食事は人を幸せにする。

 そのために普段は使わないちょっと高い食材も使って仕上げていく。

 

「それにしても……」

 

 孫娘か。

 

 ―――どんな子が来るのだろう。

 

 仲良くなれると良いな。

 

 そんな期待に胸を膨らませた。

 




この小説書き始めて早くも四か月(にしてまだ三話目)。
次回、ついにアンリちゃんが出てくるぞおおおおおおおお。
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