二次覚醒アンリちゃん可愛すぎかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
ぶんと振るった短剣が獲物の体を切り裂く。
だがそれは致命傷とまでは言えず、悲鳴を上げながらも獲物は逃げ出す。
何事もそうだが、技量とは使わなければ落ちていく物である。
「……あちゃあ」
握った短剣の重さに体が振り回されるのを自覚する。
傷口から多量の血を流しながら、それでも逃げようとする獲物を一息に追い詰め、トドメを刺す。
本当は最初の一撃で絶命させるはずだったのに、狙いがズレて仕留めきれなかった。
たった一年と少し、使わないだけであっという間に錆びついてしまったと自覚する。
剣の腕だけではない、狩りの腕自体だ。
狙いがズレたのは気づかれたからだ。
そもそも気づかれるより早く握った短剣で一撃の元で仕留めるのが理想なのに、気づかれた、隠れきれなかった、隠しきれなかった。
鈍っていると自覚する。
狩人の家に生まれて、父親に技を仕込まれ、幼い頃から何度も狩りをしてきたはずなのに。たった一年前までその繰り返しだったはずなのに。
爺ちゃんの家に世話になるようになってからそんな必要が無くなってしまった。
自然の中で自然と共に生きる狩人と、街中で人と共に生きる今の生き方は真っ向から相反していると理解しているのでまあそうもなるだろうと理解はできるが、けれど納得できるかと言われればまた別の話だ。
狩人としての技は、父親に習った物だ。
あの村を出て、家族との縁も切れ。
父親にもらった短剣とその技だけが、かつて自身が家族と共に暮らしていたことの証明で、繋がりなのだ。
「鍛え直さないと」
教えられたことは全て覚えている。
ただ頭に残っていても体から抜け落ちていた。
たった一年。けれど一年である。取り戻すのにどれだけの時間がかかるだろう。
爺ちゃんのところで暮らすようになって、食べるに不自由が無くなった。住むに不自由が無くなったし、着るに不自由が無くなった。
良いことばかり、それでも不自由が無くなったからこそ衰えてしまったものがあった。
「ああ、そっか」
考えていて、そうして気づく。
「未練かな、これは」
捨てられた村への、家族への未練。
捨てた村への、家族への未練。
ちょうど一年。
村ではすでに自分の妹が生まれているのだろう。
残念ながら自分はもう会うことはできないだろうけれど。
「今だって別に悪くはない、か」
実の妹の代わりというわけでは無いが。
義妹ができることだし。
* * *
先週ほどのことである。
爺ちゃんの娘さん、つまりアンリの母親が屋敷にやってきた。
アンリが屋敷に預けられてからちょうど一年。
遠くの街での仕事にもひと段落ついて戻って来たらしいのだが。
「ねえ、良かったら―――」
これでアンリも母親と一緒に元の街に戻るのだろう。
けれどそれを少し寂しいと思ったのも事実。
広い屋敷に爺ちゃんと二人。それが苦痛だったわけでも無いが、それでも毎日楽しそうに笑みを浮かべるアンリの姿にこちらもまた楽しかったのも事実。
だからアンリがいなくなることに一抹の寂寥感を感じていた自身に、彼女の母親は言った。
「―――良かったら、私たちの子供にならない?」
突然の提案だった。
驚き戸惑う自身に、すぐに答えは出さなくても良い。ゆっくり考えて欲しいと彼女は言っていた。
次に会う時にまだ答えを聞かせて欲しいと告げて彼女はまた屋敷を去って行った。
アンリを置いていくことに疑問を覚えたが、どうやらもう少しだけ用事があって一週間か二週間程度、アンリも爺ちゃんの家に滞在するらしい。
つまりそれが返事の期限、ということなのだろう。
一人考えてみる。
あの人の子供に、それはつまり。
そのことに抵抗があった自分に驚いた。
条件だけ考えれば文句がつけようがないほどに良い話だった。
それなのに、そう分かっていて、それでもどうして自分はその話を素直に受け入れられないのか。
「……家族、かあ」
家族。その言葉で真っ先に出てくるのは……やっぱりあの村のこと、両親のこと。
そして生まれてくるだろう妹のこと。
「…………」
思い出し、けれど同時に今の屋敷の住人たちを『家族』と思うような感情もあって。
もやもやする。心の中が霞がかったかのように不明瞭で、自分がどうしたいのか、どう思っているのかすら良く分からない。
それでも考えて、考えて、考え抜いて。
* * *
―――そうだ、森へ行こう。
では無いが、別に。
とは言え、
そうして屋敷でのことを全て終わらし久方ぶりにやってきた森で。
「ちょっとショック、かも」
まさかここまで腕を鈍らせているとは思わず、内心が口を突いて出た。
とは言え、単純な実力で言うならば一年前よりも随分と強くなったという自覚がある。
腕が落ちたのに強くなったとはおかしな話ではあるが。
単純に、
自身の極めて特異な体質によって自身の中には人外染みた魔力が溜まっているらしい。
けれどまあ、自身がそれを自覚するこはできないのだが、とにかく普段から自分がそれを転換することでエネルギーにし、そうして蓄積され続ける魔力を発散しているらしく、子供ながらに大人顔負けの身体能力はそういったところから来ているらしい。
とは言えかつての自分ならばそれを知ったところでどうにもならなかっただろう。
魔力の扱いなんて、あの村の人間が知るはずも無いし、それを知る機会も無かった。
だが爺ちゃんの屋敷ならば話はまるで変わる。
魔術師たる爺ちゃんに、その爺ちゃんが集めた書籍から得られる知識の数々。
普段から魔力という物に触れることの多い環境は、自身に魔力というものの扱い方を意識させるのには十分で。
ぐるぅ、という唸り声を魔力で強化された聴覚が捉えた。
がさごそと近づく音に視線を向ければ、草陰から飛び出してくる狼の姿。
子供の自身とほぼ同じ体格の狼が牙を向いて襲い掛かって来るその光景を視認しながら。
右手に持った短剣の柄でその鼻頭を叩きつける。
子供の細腕で殴りつけたそれは、けれど大きな運動エネルギーを持って狼の巨体を吹き飛ばす。
明らかに質量の差を無視したその一撃は、つまり魔力による物であり。
「これで、トドメ、っと」
地を蹴り、吹き飛ばされ転がる狼との間合いを詰め、短剣を振り下ろす。
ぐさり、とその脳天に突き刺さった短剣でさらに
転がったまま動かない狼を足蹴にして、反応を見る。
―――動く様子は無い。
「死んだか」
魔物の場合、偶にここから起き上がってくる時があるので気が抜けない。
とは言え、自分と同じサイズの獣までこの様である。
前世において魔力などというものは空想の産物ではあったが、この世界においては確かに存在する『エネルギー』であり、それを使えば技なんてものが必要無いほどに強い力になってしまう。
「とは言え、か」
だからと言って父親から受け継いだ物をむざむざ腐らせるのも勿体ないし、何よりも申し訳無い。
それに鍛えたからと言って何か無駄になるわけでも無い。数は多くは無いが、それでも魔物などというものが跋扈する世界なのだ、強くあることに損は無い。
記憶の中の父親の姿を思い起こす。
その動きを思い出しながら、ゆっくり、それでいて丁寧に、型をなぞる様に何度も何度も剣を振る。
鈍った体で、何度も、何度も。
迷いを振り切るためにも。
―――未練を断つ。
そう決めたから。
* * *
「お爺ちゃん……レッくんは?」
朝から見かけない家族を探し、アンリは祖父の部屋の戸を叩いた。
相変わらず紙が散乱し、片隅には本が積み上げられた部屋である。
換気のために彼がいつも開けるようにしている窓は今日は閉め切られており、部屋の中はインクの匂いに満たされていた。
「む? アンリか……あの子なら今日は出かけているぞ」
「おでかけ?」
うむ、と頷く祖父に困惑する。
「どこに?」
「さてな? 森に行ってくるとは聞いたが、どこにいるかまでは……」
「……もり?」
一体何故そんなところに、というアンリの疑問に気付いたのか、祖父が手招きする。
特に拒否する理由も無くアンリが祖父のところにとことこと歩いて行き。
「あやつは今少し悩んでいる。そっとしておいてやりなさい」
「……はーい」
一瞬戸惑ったが、けれど祖父がそう言うならばそうなのだろうと自分を納得させる。
正直事情や理由はさっぱりではあるが、彼には何らかの悩みがあるらしい。
今日も本を読んでもらおうと思ったのだが、居ないとなるとどうすべきか、そんなことを考え。
「アンリ」
「なーに、お爺ちゃん?」
部屋を出ようと背を向けた直後に、祖父に呼び止められる。
振り返ると、祖父が少しだけ先ほどとは違う様子でアンリを見つめていた。
「アンリは……あの子のことを、どう思っている?」
「レッくん?」
うむ、と頷く祖父の問いにアンリが少し考え。
「えっとね、レッくん好きだよ!」
まあ五歳児の思考など安直な物である。
質問の意味をよく考えることも無く、ただ思ったことを答えたアンリに祖父はそうかと嬉しそうに破顔する。
「なら……あの子が家族になったら、嬉しいかい?」
「家族? でもレッくん、お父さんでもお母さんでも、お爺ちゃんでもないよ?」
続けて問われた言葉の意味を考えるがよく分からず首を傾げる。
少し質問が難しかったか、と祖父が一度呟き、少し考えた様子で。
「あの子がアンリの兄になるとしたら、嬉しいかい?」
「おにいちゃん?」
そうだよ、と頷く祖父の言葉に思案する。
―――お兄ちゃん、お兄ちゃん、レッくんが、お兄ちゃん?
考えてみて、けれどやっぱりよく分からない。
実感が湧かないというべきか、いまいちピンと来ない。
ただ……一つだけ。
「家族とか、お兄ちゃんとか……よく分からないけど」
それでも。
「ずっと一緒にいられるなら、嬉しいよ」
そんな答えに祖父が一度沈黙し。
「……そうかい」
告げつつ、笑みを浮かべながらアンリの頭をそっと撫でた。
* * *
衰えたとは言え、一度は身につけた技術である。
老齢したならともかく、若年のこの身では覚え直すのも早い。
とは言え。
「まだ身体能力に振り回されてるなあ」
昔から大人顔負けに運動神経の良い体ではあったが、魔力を意識的に運動能力に転換する
前世の常識ではあり得ない超人もびっくりの運動能力に意識のほうがまだ追いついていないのを自覚する。
とは言え体と意識のズレとて超人的な動きによってカバーされてしまうので問題ないと言えば問題無いのだがどうせならきちんと使いこなしたい。自分の体なのだ、これは。
「覚えて損は無いしね」
むしろ性急に覚えるべきだと思う。
強すぎる力は身を滅ぼすというが、この力は子供の自分には完全に持て余してしまう類の物である。
しっかりと御することができるようにしておかなければならない。
スイッチのオンオフはある、だがそれは意思一つで切り替わるような簡易なものであり。
まあそんな何かがある予定も無いのだが。
制御できないままにしておくと、何かの拍子にうっかり発動してしまうこともあるだろうし。
もしそんなことになれば。
「……誰かを傷つけるかもしれない」
その時、自身の一番近くにいるのはきっとあの二人だから。
あの屋敷の……
そう考えて、ふと気づく。
「家族、かあ」
自然と、そう思っている自身がいた。
そう思えることに驚く自身がいた。
「ま、そういうことなんだろうなあ」
ぐるぐると思考が迷走していた。だから考えを纏めようと、思いを確かめようと街の近くの森までやってきた。
無心になって走って、剣を振って、それで多少すっきりした頭はようやくそのことに整理をつけたらしい。
切り捨てたわけでも無いし、割り切ったわけでも無い。
ただちょっとした気づきのようなものだ。
少なくとも、自分は村にいる両親や生まれているだろう妹を家族だと未だに思っているし。
「屋敷にいる爺ちゃんやアンリのことも家族とも思っている」
別にそれは相反することはない、そのことに気づいただけであり。
結局、そう思うこと自体が答えなのだ。
考えてみればそれだけのことであり。
何を迷っていたのやら、そんな自分に苦笑し、嘆息した。
あらすじちょっと変えました(キチガイ
取り合えず魔力に関してなんでもありになってるけど、そもそも公式に大した説明無いのでええねん(
因みにレッくんの未練って家族のことじゃなかったり……(うらばなし感