アンリちゃん可愛い。
アンリちゃん尊い。
アンリちゃんマジもう無理、サイコー過ぎ。
付与魔術の根本とは『抽出』と『付与』だ。
『付与』魔術、である以上『付与』が根本であるのは理解できるが、では『抽出』とは一体何なのか。
答えは『属性』である。或いは『概念』と言っても良いのかもしれない。
この世界には『
前世でイメージできるような『火属性』だとか『水属性』だとか『土属性』だとか『風属性』だとかそういう観念だ。
魔法なんて物が存在するのだから、まあそう言うものがあっても良いのだろう。
とにかくそれは普通の人間には分からないし、知覚することもできないが、魔術を扱う人間にはある程度馴染みの有る物らしく、世界中どこにでも満ち溢れている物らしい。
魔法のある世界でまともな物理法則になんて期待するほうが間違っているのかもしれないが、物質が燃えるのはそこに『火属性』が作用しているから、なんて素面で言われても正直意味が分からないとしか言い様が無い話ではある。
とは言え現実にその証左として『
すごく分かりやすく言うと『属性』のエネルギーが具象化した存在であり、知っている人間から言えばそれはある種の『現象』らしい。
ただし精霊にも意思はある、自我は無いか相当に希薄らしいが。
まあその辺はどうでも良いとして。
この世界には『属性』というものがあって、それは世界中のあらゆるところにそれが満ちており、この世界における『現象』の多くにはこの『属性』の力が働いている、この三つが大事なところだ。
例えばコップの中の水をお湯に変える魔術を使う時。
爺ちゃん曰く、最初からいきなり『火属性』を『付与』することはできないらしい。
何故ならコップの中で揺れる水にはすでに『水』と『氷』の属性が密集しており、いきなり『火』の属性を入れようとしても『隙間』が無いらしい。
因みに何故水に『氷』の属性があるのか、水を凍らせれば氷になるから……ではない。
つまるところ温度だ。
『冷たさ』という概念に対して、この世界においては『氷属性』が働いている、と認識される。
科学的に言えば『熱い』も『冷たい』も同じ温度の上下でしかない。
もっと細かく言えば分子の運動で熱量が上下する。つまり熱いも冷たいも同じ『温度』という括りで見られる。
だがこの世界の法則で言うと熱いとは『火属性が高い』状態で冷たいとは『氷属性が高い』状態と言える。
故に最初に『氷属性』を水から『抽出』するのだ。
そうして『抽出』されてできた隙間に今度は『火属性』を『付与』する。
これによって水に熱量を加え、お湯へと変化させることができる。
因みに抽出する氷属性の量によってお湯の温度も変化するらしい。
「と、言うことだ。分かったか?」
「全く分からない」
首を振る俺に、爺ちゃんが嘆息する。
「ボク、わかったよ」
「おお、そうかそうか。さすが私の孫だ」
「えへへ……」
さすがに血筋ということなのか、理解した様子のアンリに破顔する爺ちゃん。
別に愛想が悪い人でも無いが、普段以上に嬉しそう……を通り越してにやけたその顔は立派な爺馬鹿である。
とは言え別にそれが悪いわけでは無い。
家族が大事だというのはそれは良いことなのだから。
……家族、か。
爺ちゃんに頭を撫でられて笑みを零すアンリを見ながら、二人に聞こえないようにそっと呟いた。
* * *
アンリの母親から養子の誘いを受けて早一週間。
そろそろ答えを返す必要があるだろう。
とは言え、答え自体はもう決まっていて、なら何故まだ返答をしていないのか、と言われれば簡単な話。
居ないのだ、アンリの母親が。
確か一週間から二週間くらいは爺ちゃんの屋敷、つまり今の俺の住んでいる家に一緒に住むという話だったのだが、どうにも忙しい人で朝早く……それこそ日の出と共に起きているような俺とほぼ同じ時間に起きて朝食もほどほどに出て行って、帰って来るのは俺やアンリが眠った後。
正直これを住んでいると表現していいのかどうか悩む。
ただ同じ家に『寝泊まり』しているだけ、と言ったほうが正しいのでは?
顔を合わせるのも朝の僅かな時間だけだし、朝から忙しそうにあくせくとした様子で支度をして飛び出すように出かけるのを見ていると呼び止めてこの間の返事なんですが、なんて言いだし辛い。
アンリの父親のほうも遠くの街で忙しくしているらしいし、ワーカーホリックか何かなのだろうかこの夫婦と思わなくも無い。
まあ確かにアンリをこの屋敷に預けたのも理解できる、これで親の役目を果たしているとか言われたら子にビンタされても仕方ないレベルだ……まあしないだろうけど。
とは言え期限を区切ったのは向こうなのだ。
多分どこかで返答を聞いてくるだろうからその時に答えれば良いかと今は鷹揚に構えている。
別に今すぐ返答しなければどうこう、という話でも無いのだ。
それはそれとして話は変わるのだが、以前にも言った通りアンリがこの屋敷に着てからすでに一年以上が経つ。
つまり一年もの間アンリはこの屋敷で暮らし、その中で日々勉強をしていたわけだが、最近ようやく文字の学習に終わりが見えてきた。
と言ってもさすがに専門的な言葉などはまだ読めないがそれでも日常的に使う文字や絵本などは大よそ独りでも読めるようになった。
ならまあ取り合えずこれで日常生活においては不便しないだろう、とまずは一区切り。
と言うわけで今日は爺ちゃんが『付与魔術』の授業を行うことになったのだ。
* * *
ついでにお前さんも聞いていくかね? との爺ちゃんの言葉に甘えて付与魔術について色々教えてはもらったものの、はっきり言って『さっぱり』というのが本音だ。
というのも、付与魔術、という名の通り『魔術』なのだ。
先も言った『属性』など魔術師ならば感覚的に感じ取れたり理解できたりする類の物らしいのだが、残念ながら俺にはその感覚というものが完全にシャットダウンされている。
なので魔術師の感覚を前提とした教えを受けても一欠けらたりともそれに共感できないのだ。
逆に幼くとも魔術師としての素養があるのだろうアンリは爺ちゃんの喋っている言葉の内容など大半理解できていないだろうにも関わらず、感覚だけで何を言っているのか実感している節がある。
他人に説明するための言語化はできずとも、感覚的に語られている内容が理解できる……そういうものなのだと爺ちゃんは言っていた。
不思議な世界である。
魔法なんてものがあるのも不思議な話。
属性精霊なんてものが実際に存在するのも不思議な話。
そして属性の力が現象を起こしているというのも不思議な話。
だが同時に物理の力が無いわけでも無いのだ。
当然の話、皆が皆魔力を扱えるわけでは無い。
そもそも魔力を持たないという人間のほうが多いのだ。
じゃあ魔力を持たない人間はどうやって生きているのだと言われれば物理的法則に従って生きているのだ。
狩人だったうちの実家で言うなら火起こしは摩擦熱を利用した着火装置を使って行っていた。
もしくは近所の家から種火をもらってきたこともある。
そこに魔法的な力は一切ない。そこに『属性』なんて物は一切感じられない。
あるのかもしれない、あの村の住人たちが自分たちの家で起こす竈の火にも属性の力はあるのかもしれない。
だがそれを起こすのはあくまで物理の力だ。
結論を言えば、物理の力でも現象は起こせる。だが魔法の力でも現象は起きる。
つまりこの世界は『物理的な法則』と『魔法的な法則』の二つの力が作用しているということだ。
だからどうした、と言われれば困るのだが。
「不思議だなあ……」
「……? なにが?」
隣に立つアンリが首を傾げるので、何でも無いよ、と告げて苦笑する。
コンロに火を点けながら朝の内に調理を済ませておいた具材の入ったフライパンを火にかける。
「レッくん」
「うん、ありがとう」
今朝生みたての卵をアンリが丁寧に水洗いしてくれたので布で水気を切ってやる。
さらにそこから半分ずつ数を分けるとボウルに割って行く。
「レッくん、これは?」
「アンリも一品作ろうか。前にやりたいって言ってたしね」
半数に分けられた卵を目の前に置かれ、アンリが首を傾げるのでそう告げると、うわあ、と喜色満面でこちらを見る。
俺が作っている様子を見て、前からアンリもやってみたいと言っていたのだが包丁を使わせるのも火を使わせるのも怖いので、材料の水洗いくらいしか任せていなかったのだがさすがにそれだけでは料理しているとは言えないだろうし、何よりこれまでの言動を見るに自分の想定よりもアンリは理性的で聡明な子だ。
俺の見ていないところで怪我したり、危ないことをしたり、という心配も無さそうなので簡単な物を一品作ってもらうことにする。
「じゃあまずはアンリもこのボウルに卵を割って行こうか」
「はーい」
ふりふりとエプロンの裾を揺らしながらアンリがボウルを受け取って目の前に置く。
自分もそうだがアンリも作業台が高いので足台を使っての作業だ。足場が少ないので少し不安にもなるが、まあ見た限りで問題は無さそうなのでこちらはこちらで作業を進める。
「あ……からはいっちゃった……うーん、とれない」
後ろで聞こえる声に苦笑しながらボウルの中の卵を菜箸でかき混ぜていく。
因みに王国は基本洋風文化なので当然『箸』なんて物はないが、言っちゃなんだが同じサイズの木の棒二本並べるだけの話なので作るのは割と簡単だった。
かき混ぜた卵を別のフライパンに流し込んでいくと、熱されたフライパンの上ですぐに卵が固まって行く。
適度に菜箸でかき混ぜながらもう一つのフライパンで今朝の内に炒めておいたひき肉とタマネギを卵の上に落とし、最後に卵で包んでいく。
「ほい、一つ目っと」
皿の上に乗せればオムレツの完成である。
時間がかかるであろう中の具材を朝の内に作っておいたので後は卵で包むだけの簡単な作業だ。
手慣れた手つきで二つ目、三つ目と作り終えて。
「レッくーん」
困ったような声音でアンリが呼ぶのでそちらを見やれば。
「あらま」
砕けた卵の殻がボウルの中に大量に浮いていた。
失敗しちゃったんだな、と思いつつ泣きそうになっているアンリの頭の上にぽん、と手を置く。
「大丈夫大丈夫、これくらいなら問題無いから」
告げてもう一つボウルとザルを出して漉してやればあっという間に卵と殻が別かれる。
そうしてボウルに残った卵をアンリに渡してやり。
「じゃ、次は牛乳と砂糖を入れてよく混ぜようか」
「うん、わかった!」
冷蔵庫へととてとてと走って行くアンリの姿を見送りながら嘆息する。
まあ当然ながらまだまだ覚束ない手つきだ。
いくら歳の割に賢いからと言って、見ていてハラハラする時もあるし、思わず手を出してしまうそうになる時だってある。
役に立っているかと言われても正直それほど、としか言い様が無い。
自分一人でやっているほうが気楽だし、早いだろうことも事実。
でもそれでも、嬉しく思う。
初めて会った時を考えれば信じられないほどにアンリと仲良くなれたと思う。
そのことが嬉しいし、こうして一緒に料理している時間はとても好ましい。
―――家族だから。
それはきっとそういうことなのだろう。
もう何だかんだと言って一年以上一緒に暮らしているのだから。
だからこそ、余計に『はっきり』させたいと思う気持ちもある。
そのことを彼女に告げたからと言って突然何か変わるわけでは無いとは分かっている。
そこに緊急性が無いことも、急がなくてはならないわけでもないのも、分かってはいるのだ。
ただそれでもはっきりとさせたい。
俺は。
「……家族になりたい」
そう思ったから。
* * *
冷蔵庫、と皆がこの場所を呼んでいるのは一番この場所を活用している少年がそう呼んだからだ。
付与魔術の力によって温度が低温に保たれた部屋には少年が買い込んだ多くの食材が溜め込まれている。
「えっとぉ……たしかこのへんに」
カップ片手に少女、アンリは壺も封を一つずつ開いていく。
液体系はだいたい壺に貯蔵されているので、多分この中のどれかが牛乳だ。
食材の種類ごとに少年がそういう風に整理してくれているので余りこの場所を利用することの無いアンリでも分かりやすい。
「あ、あったー」
壺の中に満たされた白い液体を認め、アンリを声をあげる。
後はこの中身を手持ちのカップに掬って少年のところへと持って行けば良いだけだ。
そう考えて。
「……レッくん」
ふと先週の祖父との会話を思い出す。
―――あの子が家族になったら、嬉しいかい?
「かぞく……?」
それはアンリにとって両親のことを指す言葉だった。
こちらの屋敷に来てからは祖父のことも含まれるようになった。
ではあの少年はどうだろうか?
あの少年はアンリにとって『家族』になるのだろうか。
「…………」
少し考えてみて、けれどやっぱり分からない。
あの時以来、祖父はそのことを口にはしなくなったが、けれど幼いながらも明晰なるアンリの頭脳はたった一度だけの会話を決して忘れることは無かった。
だからこの一週間、ずっと考えていた。
それを誰かに口にすることは無かったが。
だからこそ、一つの結論にたどり着く。
「……おにーちゃん」
そう呼べば、少年は一体どんな顔をするのだろう。
「ふふっ」
少しだけ、そんな悪戯心が芽生えた。
体操服アンリちゃん可愛すぎだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!
あ、10連でお迎えしましたよ(煽り
因みにグランドエンチャンターとゴーレムマスター両方作りました(
https://twitter.com/clamlate/status/1245668258356719616
あ、それと付与魔術に関してのあれやこれやはだいたいオリ設定です。
アイギス基本的に設定情報が少なすぎるので、全年齢イベントでちょこちょこ情報回収しながら適当に整合性合わせて書いてます。これはそういう小説なので悪しからず。