問題児と刀使いが異世界から来るそうですよ?   作:zkneet

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第7話

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

五人が通されたのは白夜叉の私室。

個室と言うにはやや広い和室の上座に腰を下ろす白夜叉

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の外門、三三四五外門に本拠を構える“サウザンドアイズ”幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

感謝半分呆れ半分で言葉で受け流す黒ウサギ。

 

その隣で耀が首を傾げて問う。

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心に近く、同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです。箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられています。ちなみに、白夜叉様がおっしゃった三三四五外門などの四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する人外魔境と言っても過言ではありません」

 

「おんしも、恩人に対してよういうな」

 

物言いに苦笑する白夜叉に慌てて頭を下げる黒ウサギ。

 

白夜叉は気にした素振りも見せず紙に箱庭の略図を紙に書き始める

 

 

「・・・・・・超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「けど、真ん中ほど高くなっているようだったからタマネギじゃないか?」

 

「どっちでも良くないか?」

 

見も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

 

対照的に、白夜叉は面白そうに笑いながら二度三度と頷いた。

 

「ふふ、うまいこと例えるが、私はバームクーヘンに一票だ。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。あそこはコミュニティに属してはいないものの、強力なギフトを持ったもの達が住んでおるぞその水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。白夜叉が指すのは箱庭に来て早速という具合に世界の果てに向かっとき、十六夜が素手で叩きのめした蛇神のことだろう。

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、あれに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」

 

小さな胸を張り豪快に笑う白夜叉。

 

「白夜叉は一体いくつなんだ?」

 

葉月が聞くと

 

「女子に年を聞くとは…」

 

「葉月さん、失礼ですよ」

 

「葉月は少し考えて発言すべき」

 

女性陣からバッシングを受けた

 

「…………今のは無かったことにしてくれ」

そんな言い合いも気にせず十六夜が話を続ける

 

「神格ってなんだ?」

 

「神格とは、生来の神そのものではなく、種の最高のランクに体を変化させるギフトのことだ。人に神格を与えれば現人神や神童に。蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。更に神格を持つことで他のギフトも強化される。コミュニティの多くは目的のために神格を手に入れるため、上層を目指して力をつける。」

 

「へぇー。そんなもんを与えられるってことはお前はあの蛇より強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者だからの」

 

最強の主催者、その言葉に、葉月を除くは一斉に瞳を輝かせた。

 

「そう・・・・・・ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「まあ、そうなるのう」

 

「そりゃ都合の良い話だ、探す手間が省けた」

 

三人は剥き出しの闘争を視線に込めて白夜叉を見る。

 

白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声を上げた。

 

「抜け目ない童達だ。私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え? ちょ、ちょっと御3人様!?」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうのは好きよ」

 

「後悔すんなよ。」

 

全員が嬉々として白夜叉を睨む

 

「そうそう、ゲームの前に確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、表情を壮絶な笑みに変えて一言、

 

「おんしらが望むのは挑戦もしくは、決闘か?」

 

白い雪原と湖畔そして、水平に太陽が廻る世界へと視界が変わった

 

「・・・・・・なっ・・・・・・!?」

 

あまりの異常さに、十六夜達は息を呑んだ。

 

遠く薄明の空にある星は、世界を緩やかに廻る白い太陽のみ。

 

唖然と立ち竦む3人に、今一度、白夜叉は問いかける。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は“白き夜の魔王”―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への“挑戦”か? それとも対等な“決闘”か?」

 

魔王・白夜叉。少女の笑みとは思えぬ凄みに、再度息を呑む3人。

 

「水平に廻る太陽と・・・・・・そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽とこの土地はオマエを表現してるってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤・・・・・・!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は? “挑戦”であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だがしかし“決闘”を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「・・・・・・っ」

 

白夜叉がいかなるギフトを持つのか定かではない。だが四人が勝ち目がないことだけは一目瞭然だった。

 

「降参だ、白夜叉」

 

「ふむ? それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意できるんだからな。あんたには資格がある。―――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」

 

 

 

プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩なのだろうが、『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑を上げた。

 

一頻り笑った白夜叉は笑いをかみ殺して他の二人にも問う。

 

「く、くく・・・・・・して、他の童達も同じか?」

 

「・・・・・・ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

「俺も十六夜と同じ意見だ。“今回は”試されてやるよ」

 

「ついでだ俺も混ぜてくれよ」

 

と葉月は言うが

 

「おんしにはまた別の試練を用意してある、しばし待っておれ」

 

「そうなのか?じゃあそうしとくよ」

 

少し待てと言われてしまう

 

一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸をなでおろす。

 

「も、もう! お互いにもう少し相手を選んでください!」

 

「いいじゃねえか。大事になる前に止めたんだし、今回は空気読んだだろ」

 

「黙らっしゃい! そもそも、“階層支配者”に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う“階層支配者なんて、冗談にしても寒すぎます! それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

 

「何? じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

ケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉に、ガクリと肩を落とす五人。

 

その時、彼方に見える山脈から甲高い叫び声が聞こえた。

獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応したのは、耀だった。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ・・・・・・あやつか。おんしら四人を試すには打って付けかもしれんの」

 

湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする白夜叉。

 

すると体調五メートルはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く四人の元に現れた。

 

「グリフォン・・・・・・うそ、本物!?」

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。“力”“知恵”“勇気”の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ」

 

白夜叉が手招きすると、グリフォンは彼女の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

 

「肝心の試練だがの。おんしら四人とこのグリフォンで“力”“知恵”“勇気”の何れかを比べ合い、背に跨って湖畔を舞うことが出来ればクリア、という事にしようか」

 

すると虚空から“主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。

白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

四人は羊皮紙を覗き込んだ。

 

゛ギフトゲーム名:“鷲獅子の手綱”

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

          久遠 飛鳥

          春日部 耀

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

 ・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

 ・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

                              “サウザンドアイズ”印゛

 

「私がやる」

 

読み終わるや否やピシ! と指先まで綺麗に挙手をしたのは耀だった。彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。

 

「にゃ・・・・・・にゃ、にゃー『お、お嬢・・・・・・大丈夫か?なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』」

 

「大丈夫、問題ない」

 

耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。

 

キラキラと光るその瞳は、探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。

 

隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

 

「気を付けてね、春日部さん」

 

「うん、頑張る」

 

二人は耀に言葉をかけ送り出す

 

「ちょっと待て、耀。」

 

「なに?」

 

「白夜で湖畔を回るにはその服装は寒すぎる。俺の上着でも使いな」

 

そういって葉月は上に羽織っていたパーカーを耀に渡した

 

「ありがとう。それじゃあ行ってくる」

 

頷き、耀はグリフォンに駆け寄った。

 

耀がグリフォンに駆け寄るが、グリフォンは大きく翼を広げてその場を離れた。

 

戦いの際、白夜叉を巻き込まないようにする為だろう。

 

耀を威嚇するように翼を広げ、巨大な瞳をぎらつかせるグリフォンを、追いかけるように耀は走り寄った

 

数メートルほどの距離で足を止め、まじまじとグリフォンを観察する。

 

(・・・・・・凄い。本当に上半身が鷲で、下半身が獅子なんだ)

 

鷲と獅子。猛禽類の王と、肉食獣の王。数多の動物と心を交わしてきた耀だが、それはあくまで地球上の生物の話。“世界の果て”で黒ウサギや十六夜が出会ったと言った、ユニコーンや大蛇などの生態系を遥かに逸脱した、幻獣と呼び称されるものと相対するのは、これが初めての経験。

まずは慎重に話しかけた。

 

「え、えーと。初めまして、春日部耀です」

 

「!?」

 

ビクンッ!! とグリフォンの肢体が跳ねた。瞳から警戒心が薄れ、僅かに戸惑いの色が浮かぶ。

 

耀のギフトが幻獣にも有効である証だった。

 

「ほう・・・・・・あの娘、グリフォンと言葉を交わすか」

 

白夜叉は感心したように扇を広げた。

 

耀は大きく息を吸い、一息に述べる。

 

「私を貴方の背に乗せ・・・・・誇りをかけて勝負しませんか?」

 

「・・・・・・グルル!?『・・・・・・何・・・・・・!?』」

 

グリフォンの瞳と声に闘志が宿った。

 

気高い彼らにとって、『誇りを賭けろ』とは、最も効果的な挑発だ。

 

耀は返事を待たず、続ける。

 

「貴方が飛んできたあの山脈。あそこを白夜の地平から時計回りに大きく迂回し、この湖畔を終着点と定めます。貴方は強靭な翼と四肢で空を駆け、湖畔までに私を振るい落とせば勝ち。私が背に乗っていられたら私の勝ち。・・・・・・どうかな?」

 

耀は小首を傾げる。

 

確かに、その条件ならば力と勇気の双方を試すことができる。

 

「グルルル・・・? 『娘よ。お前は私に“誇りを賭けろ”と持ちかけた。お前の述べるとおり、娘一人振るい落とせないならば、私の名誉は失墜するだろう。―――だがな娘。誇りの対価に、お前は何を賭す?』」

 

「命を賭けます」

 

即答だった。あまりに突飛な返答に黒ウサギと飛鳥から驚きが上がった。

 

「だ、駄目です!」

 

「か、春日部さん!? 本気なの!?」

 

「貴方は誇りを賭ける。私は命を賭ける。もし転落して生きていても、私は貴方の晩御飯になります。・・・・・・それじゃ駄目かな?」

 

「・・・・・・『・・・・・・ふむ・・・・・・』」

 

耀の提案にますます慌てる飛鳥と黒ウサギ。

 

それを十六夜と白夜叉が制する

 

「双方、下がらんか。これはあの娘から切り出した試練だぞ」

 

「ああ、無粋な事はやめておけ」

 

「そんな問題ではございません!! 同士にこんな分の悪いゲームをさせるわけには―――」

 

「大丈夫だよ」

 

耀が振り向きながら飛鳥と黒ウサギに頷く。その瞳には何の気負いもなく、むしろ勝算ありと思わせるようなものだった。

 

「そんなこと言われても・・・葉月さんも何か言ってくださいよ」

 

「なんでだ?」

 

「なんでって」

 

「仲間を信じなくてどうするんだ?」

 

そんな話をしていると

 

「グルル・・・・・・。『乗るがいい、若き勇者よ。鷲獅子の疾走に耐えられるか、その身で試してみよ』」

 

耀は頷き、手綱を握って背に乗りこむ。

 

鞍が無いためやや不安定だが、耀はしっかりと手綱を握り締めて獅子の胴体に跨る。

 

ふと、耀は手袋を片手だけ脱ぎ、鷲獅子の強靭で滑らかな肢体を擦りつつ、満足そうに囁く。

 

「始める前に一言だけ。・・・・・・私、貴方の背中に跨るのが夢の一つだったんだ」

 

「グル。『―――そうか』」

 

グリフォンは翼を三度羽ばたかせる。

 

前傾姿勢を取り、大地を踏み抜くようにして薄命の空に飛び出した。

 

「うわ!?」

 

「「きゃあ!?」

 

衝撃で吹き付けられた雪を、両腕で顔を庇うことで防ぐ。

 

「いた! ・・・・・けど、あれは?」

 

山脈へ遠ざかっていく姿を発見できたが、グリフォンの翼が大きく広がり固定されていることに驚いた。

 

「鷲獅子って、飛ぶのに翼は必要ないのか?」

 

 

同じことに耀は逸早く気が付き、強烈な圧力に苦しみながらも、感嘆の声を抑えられずに漏らした。

 

「凄い・・・・・・! 貴方は、空を踏みしめて走っている!!!」

 

鷲獅子の巨体を支えるのは翼ではなく、旋風を操るギフト。

 

彼らの翼は彼らの生態系が、通常の進化系統樹から逸脱した種であることの証だった。

 

「―――グルルル。『娘よ。もうすぐ山脈に差し掛かるが・・・・・・本当に良いのか?この速度で山脈に向かえば』」

 

「うん。氷点下の風が更に冷たくなって、体感温度はマイナス数十度ってところかな」

 

森林を越え、山脈を跨ぐ前に、グリフォンは少し速度を緩める。

 

低い気温の中を疾風の如く駆けるグリフォンの背に跨れば、衝撃と温度差の二つの壁が牙を剥き、人間に耐えられるものではない。

 

これはグリフォンの良心から出た最終通告。

 

耀の真っ直ぐな姿勢に思うところあっての言葉だろう。

 

だが、その心配を耀は微かな笑顔と挑発で返した。

 

「だけど、大丈夫って言ったから。それよりいいの?貴方こそ本気で来ないと。本当に私が勝つよ?」

 

手袋越しに強く手綱を握り締める耀。

 

「グルル、グルァア!『よかろう。後悔するなよ娘!』」

 

グリフォンも挑発に応じる。

 

今度は翼も用いて空を踏みしめる

 

遠くにあったはずの山頂が瞬く間に近づき、眼下では羽ばたく衝撃で割れる氷河が見える。

 

衝撃は人間の身体など一瞬で拉げさせてしまうほどだが、耀は歯を食いしばって耐えていた。

 

これだけの圧力、冷気。これらに耐えている耀の耐久力は少女を逸脱している。

 

(なるほど・・・・・・相応の奇跡を身に宿しているという事か・・・・・・!)

 

グリフォンは背中から聞こえる僅かな吐息に、驚嘆とも困惑ともいえる感情が湧き始め、苦笑を洩らす。

 

手心不要と悟るお、グリフォンは頭から急降下、さらに旋回を交えて耀を振るいかける。

 

鞍が無い獅子の背中は縋れるような無駄は無く、掴まるものは手綱だけになり、耀の下半身は空中に投げ出されるように泳ぐ。

 

「っ・・・・・・!!」

 

流石にもう軽口は叩けない。

 

耀は必死に手綱を握り、グリフォンは必死に振り落とそうと旋回を繰り返す。

 

「「春日部さん!!」」

 

飛鳥と黒ウサギが耀を応援するため叫ぶ。

 

グリフォンは地平ギリギリまで急降下して大地と水平になるように振り回す。

 

それが最後の山場だったのだろう、山脈からの冷風も途絶え、残るは純粋な距離のみ。

 

勢いもそのままに、湖畔の中心まで疾走したグリフォン。

 

耀の勝利が決定し、飛鳥と黒ウサギが喜んだ瞬間―――春日部耀の手から手綱が外れ、耀の小さな体は慣性のまま打ち上げられた。

 

「!?『何!?』」

 

「春日部さん!?」

 

安堵を漏らす暇も称賛をかける暇もなく、耀の身体が打ち上げられ、グリフォンと飛鳥は息を呑んだ。

 

助けに行こうとした黒ウサギの手を十六夜が掴む。

 

「は、離し―――」

 

「待て!まだ終わって―――」

 

焦る黒ウサギと止めようとする十六夜。

 

すると耀の身体が突然動きを変えた。

 

決着がつき、慣性のまま打ち上げられたとき、耀の脳裏からは、完全に周囲の存在が消えていた。

 

脳裏にあるのは只一つ、先ほどまで空を疾走していた感動だけが残っている。

 

(四肢で・・・・・・風を絡め、大気を踏みしめるように―――!)

 

ふわっと、耀の身体が翻った。

 

慣性を殺すような緩慢な動きはやがて彼女の落下速度を衰えさせ、遂には湖畔に触れることなく飛翔したのだ。

 

「・・・・・・なっ」

 

その場にいた全員が絶句した。

 

先ほどまでそんな素振りを見せなかった耀が、湖畔の上で風を纏って浮いているのだ。

 

ふわふわと泳ぐように不慣れな飛翔を見せる耀に、呆れたように笑う十六夜が近づいた。

 

「やっぱりな。お前のギフトって、他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

軽薄な笑みに、むっとしたような声音で耀が返す。

 

「・・・・・・違う。これは友達になった証。けど、いつから知ってたの?」

 

「ただの推測。お前黒ウサギと出会った時に“風上に立たれたら分かる”とか言ってたろ。そんな芸当は人間にはできない。だから春日部のギフトは他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく、他種のギフトを何らかの形で手に入れたんじゃないか・・・・・・と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」

 

興味津々な十六夜の視線をフイっと避ける。

 

そこに、

 

「まさか飛べるようになるとは思わなかった。あの時黒ウサギを止めたのは確信があったのか?」

 

葉月が十六夜に聞く

 

「俺だって春日部が飛ぶとは思ってなかったが、どうにかなりそうだったからな」

 

「それは信頼してるってとっていいのか?」

 

すると、耀の傍に三毛猫が駆け寄った。

 

「ニャー!『お嬢!怪我はないか!?』」

 

「うん、大丈夫。服のおかげで凍傷にもならずに済んだ。ありがとう葉月」

 

「どういたしまして」

 

耀から服を返してもらうとグリフォンが近寄ってきた

 

「グルルルル。『見事。お前が得たギフトは、私に勝利した証として使って欲しい』」

 

「うん。大事にする」

 

「いやはや大したものだ。このゲームはおんしの勝利だの。・・・・・・ところで、おんしの持つギフトだが。それは先天性か?」

 

「違う。父さんに貰った木彫りのおかげで話せるようになった」

 

「木彫り?」

 

首を傾げる白夜叉に三毛猫が説明する。

 

「にゃにゃにゃ、にゃー。『お嬢の親父さんは彫刻家やっとります。親父さんの作品でワシらとお嬢は話せるんや』」

 

「ほほう・・・・・・彫刻家の父か。よかったらその木彫りというのを見せてくれんか?」

 

頷いた耀は、ペンダントにしていた丸い木彫り細工を取り出し、白夜叉に差し出す。

 

白夜叉は渡された手の平大の木彫りを見つめて、急に顔を顰めた。十六夜、飛鳥、葉月もその隣から木彫りを覗き込む。

 

「複雑な模様ね。何か意味があるの?」

 

「意味はあるけど知らない。昔教えてもらったけど忘れた」

 

「・・・・・・これは」

 

木彫りは中心の空白を目指して幾何学線が延びるというもの。

 

白夜叉だけでなく、十六夜、黒ウサギも鑑定に参加する。

 

表と裏を何度も見直し、表面にある幾何学線を指でなぞる。

 

黒ウサギは首を傾げて耀に問う。

 

「材質は楠の神木・・・・・・? 神格は残っていないようですが・・・・・・この中心を目指す幾何学線・・・・・・そして中心に円状の空白・・・・・・もしかしてお父様の知り合いには生物学者がおられるのでは?」

 

「うん。私の母さんがそうだった」

 

「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表しているのか白夜叉?」

 

「おそらくの・・・・・・ならこの図形はこうで・・・・・・この円形が収束するのは・・・・・・いや、これは・・・・・・これは、凄い! 本当に凄いぞ娘!! 本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ! まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは! これは正真正銘“生命の目録”と称して過言ない名品だ!」

 

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ? でも母さんが作った系統樹の図は、もっと樹の形をしていたと思うけど」

 

「うむ、それはおんしの父が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、すなわち世界の中心を目指して進む様を表現している。中心が空白なのは、流転する世界の中心だからか、世界の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか。―――うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ! 実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

 

「ダメ」

 

熱弁した白夜叉だったが、耀はあっさり断って木彫り細工を取り上げた。

 

白夜叉は、お気に入りの玩具を取り上げられた子供のようにしょんぼりした。

 

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

 

十六夜に問われ、白夜叉は気を取り戻すが、首を捻った。

 

「それは分からん。今分かっとるのは異種族と会話できるのと、友になった種から特有のギフトを貰えるということぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住む者でなければ鑑定は不可能だろう」

 

「え?白夜叉様でも鑑定できないのですか今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 

黒ウサギの要求にゲッ、と気まずそうな顔になる白夜叉。

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

ゲームの褒章として依頼を無償で引き受けるつもりだったのだろう。

 

白夜叉は困ったように白髪を掻きあげ、着物の裾を引きずりながら四人の顔を両手で包んで見つめる。

 

「どれどれ・・・・・・ふむふむ・・・・・・うむ、四人ともに素養が高いのは分かる。しかしこれではなんとも言えんな。おんしらは自分のギフトをどの程度に把握している?」

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「さあな?」

 

「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに。」

 

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札張られるのは趣味じゃない」

 

ハッキリと拒絶するような声音の十六夜と、同意するように頷く飛鳥と耀、葉月

 

困ったように頭を掻く白夜叉は、突如妙案が浮かんだとばかりにニヤリと笑った。

 

「ふむ。何にせよ“主催者”として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには“恩恵”を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

白夜叉がパンパンと拍手を打つ。

 

すると十六夜・飛鳥・耀・葉月の四人の眼前に光り輝くカードが現れた。

 

カードを見るとそれぞれの氏名と宿すギフト名が書かれていた

 

十六夜には淡い青色のカードに逆廻十六夜 ギフトネーム 正体不明(コード、アンノウン)

 

飛鳥には真紅のカードに久遠飛鳥 ギフトネーム 威光

 

耀には青と緑が混ざったような色のカードに春日部耀 ギフトネーム生命の目録(ゲノムツリー)

 

葉月には銀色のカードに東雲葉月 ギフトネーム 刃を司る者 名称未定、名称未定、祢々切丸 属性付加

 

それを見た黒ウサギは驚いたような、興奮したような様子でカードを覗き込む

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「菓子包み?」

 

「違います!なんでそんなに皆さん息が合ってるんですか!このギフトカードは顕現しているギフトを収納出来る超高価なカードですよ!」

 

「へぇ、便利なお得アイテムか」

 

「あー、だから俺には名称未定が二つあるのか、銘を付けてない刀が2本あるから」

 

「じゃあこの水樹もしまえるのか?」

 

「もちろん、そのまま水も出すことが出来る、試すか?」

 

「ダメです!水の無駄は行けません!それはコミュニティの為に使ってください!」

 

ちっ、とつまらなそうに舌打ちする十六夜

 

「そのギフトカードは、正式名称を“ラプラスの紙片”、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった”恩恵”の名称。鑑定はできずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

「じゃあ俺のは特別ってことか?」

 

ん?と言いながら白夜叉は十六夜のカードを覗き込むとそれを勢いよく奪い取る

正体不明と書かれたカードを見て白夜叉は

 

「そんなバカな…正体不明”だと・・・・・・?いいやありえん、全知たる“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど」

 

「まあ俺のはこれでも分からないってことだろ?その方がありがたいさ」

 

(そういえばこの童・・・・・・蛇神を倒したと言っていたな。種の最高位である神格保持者を人間が打倒する事はありえぬ。強大な力を持っていることは間違いないわけか。・・・・・・しかし“ラプラスの紙片”ほどのギフトが正常に機能しないとはどういう・・・・・・ギフトを無効化した?いや、まさかな)

 

十六夜のように強大な奇跡を身に宿す者が、奇跡を打ち消す御技を宿しては大きく矛盾する

それに比べればラプラスの紙片にエラーが起きたという方がまだ納得は出来る

ただここで考えても拉致が開かないので次の話にうつる

 

「まあ鑑定はこれでいいじゃろう、次は待たせておったおんしの番じゃ」

 

葉月を見ながら白夜叉は言う

 

「何をやるんだ?」

 

「これを見るが良い」

 

そう言うと葉月の手元にはギアスロールが出てきた




キリのいいところでと思ったらかなり長くなりました……
あと白夜叉の口調難しいですね……
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