CoCキャラが、ダンまちの世界に来たようです。   作:みかん

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なんとなくで思いつきました。


COCキャラが、ダンまちの世界に来たようです。

 窓から、窓の表面から現れた黒い手によって、貴方は沈むようにガラスの奥へと引きずり込まれました。

 

 「またか」

 

 もう何度、このような唐突で奇妙な体験をしたのか解らない。

 暗い部屋の中で、奇妙なスープを飲まされたり、平行世界に飛ばされたり、謎の施設の手術台で目を覚ましたり、神殿の中で数人の仲間と脱出したり。

 グロテスクな神々との遭遇、化け物達の狂宴への招待状、狂気に満ち溢れた伝説と向き合わなければいけないのだろう。

 

 これは冒険の始まりである。

 奇妙で、恐ろしく、悍ましく、不可解で、我々の理解を越えた世界へ誘う始まりだ。

 

 ……ただ、もういい加減平穏に生きさせて欲しい。もう放っておいて欲しい。

 

 人間、人生で一回経験出来るか出来ないかの無茶苦茶な冒険を、幼い時より何度繰り広げたことか。何回死んだと思ったことか。何回精神に異常をきたしたことか。

 今回で何回目だよ。もう覚えてないよ。またかよって惰性に包まれてるよ。おのれ、ろくでもない神々め。またニャルラトホテプか。また異貌の神か。あいついい加減にしろ。

 サンデーの某名探偵マンガのように、毎回事件に巻き込まれるおかげで、目出度く留年一年目である。そして、もう少しで二年目の道も見えてきた。

 

 もう最近は悍ましい神々よりも、恐ろしい儀式よりも、二年目の留年のほうが怖い。

 目が覚めたら時間が経っていない事もあるが、中には一ヶ月失踪していたなんてこともあるのだ。最長は半年、現実への影響はお察しのとおりである。私の人生プランはとっくの昔に銀河の彼方に消え失せている。

 

 「ああ、また神隠しにあったんですね」と先生に呆れられる気持ちが、あいつらはわからないのだろう。友人に「お、今度は二週間で戻ってこられたんですか」と言われる悲しさが、あいつらにはわからないのだろう。飛ばされる世界の時間軸がおかしいおかげで、二十歳を超えても容姿が中学生の悲哀が、あいつらにはわからないのだろう。

 

 殴ってやる。神々(おまえら)にもらいまくった加護の拳で殴ってやる。変な薬を飲み、飲まされ、変な本を読み、変な儀式に掛けられ、修羅場を越えて生き残って成長した人間の強さを見せつけてやろうではないか。

 樹齢百年を超える木を破砕する拳、化物を圧倒するマーシャルアーツ、火災の中から助けた子供にドン引きされた跳躍。

 「実はお前、異貌の神々が化けた存在じゃないよな」って最近疑われている私の怒りを、思う存分ブツケてやる!

 

 私は人間だボケ!全部お前らのせいだ!彼氏が出来ないのも、ゴリウーマンって陰口叩かれるのも、年齢詐称と噂されるのも、全部お前らのせいだ!またぶっ潰してやる!

 

 貴方はそう固く決心し、意識を失ったのでした。

 シナリオ、『神々のダンジョン』をこれより始めていきたいと思います。

 

 ■ ■ ■

 

 暗く、静かな洞窟とも思える空間の中で、一人貴方は佇み、考える。

 

 「……あれ?おかしいなぁ」

 

 下に散らばる化物達の死骸を余所に、貴方は首を傾げた。

 

 そう、化け物達の死骸である。

 潰れた顔に、平べったく長い鼻。三日月のように大きく裂けた口からは、鋭い歯が幾つも並んでいた。子供のように背丈は小さく、緑の色の肌はそれが人間ではないことをはっきりと教えてくれるだろう。

 手には錆びたナイフや剣、荒削りの棍棒を持つ彼らは、貴方の知識によってゲームやマンガで見るところの『ゴブリン』と似通っている事が分かる。生物学的に観察しても、それは地球の進化の中で生まれた生物とは言い難いものである。

 

 が、そんなことは些細な問題だ。

 こんな存在の発見など、日常茶飯事であるからだ。

 

 目の前にウサギがいるからって、そのウサギが話しだしたからって、そのウサギが霧になって姿を消したからって、特に驚くべきところは見当たらないだろう。貴方にとってはよくあることだからだ。そういう存在だったのだろうと納得できる。

 同じように、目の前の小さな化け物達を貴方は自然に受け入れたのだ。変な匂いもしないし、変な魔眼も、呪文も使わない。ただ襲い掛かってくることなど、何を怖がり気にするところがあろうか。

 これがこの世のものとは思えないほど美しい女性や男性であったり、人の心を見通せると噂される貴方の心理学が、全く機能しない存在であれば話は別だ。だが、そういうこともない普通の化物である。

 

 襲い掛かってくるなら、そしてその化物に会話が通用しないようなら、化物はぶっ飛ばすものである。逃げるのは面倒だ。

 

 彼女は安心して遠慮なく化物をぶっ飛ばした。

 グールどころか、ムーンビーストすら格闘技で圧倒する貴方にとっては、小さな化物の相手など造作も無いことであった。最早それは戦闘とすら呼べない、圧倒的なものであった。

 途中逃げ出した化物達であったが、容易に追いつかれ、首から上が掌底によって吹き飛ばされる。意を決して挑みかかっても、同胞の死骸を盾にされ、投げられて攻撃は届かず、終いには彼らの身体は蹴りによって、枯れ葉のようにクルクルと宙を舞った。

 

 そんな蹂躙が繰り返されること数回、その度に貴方の足元には無数の死骸が転がることとなったのだ。

 もう見慣れた死骸を気にするほど、貴方は暇ではない。このおかしな状況を脱すべく、頭をぐるぐると回転させて考える。

 

 「鍵となる人物も動物もいない。何か示したり表したりするメモや蝋燭もない。化物が現れる規則性も無い。ただただ、こんな洞窟が続いているだけ。地質学で分かったことは、ここが広大な空間で上や下にも同じようなものがあるって事ぐらい。でも、全然道がわからないしなぁ」

 

 言ってしまえば、序盤の街でひたすらザコ敵相手にレベリングするようなもの。

 謎解きもなく、ヒントもなく、心を削られることもなく、時間だけが化物相手に消化されていく。

 

 こんなに面白みがない世界を、わざわざ彼らは創るのだろうか。

 

 わけがわからないとばかりに、貴方は天を仰いだ。

 思えば、最初からここはおかしかった。貴方は襲いかかる狂気も、悪意も、悍ましさも、何かの意志も、この空間から感じることができなかったからだ。

 あいつらにとって、自分は玩具でしかない。遊んで遊んで、壊れたらハイおしまい。そうじゃなかったら、またこれで遊ぼうじゃないか。そうやってニヤニヤと嗤い喰らう、何者かの悍ましい悪意が、これまでのどの事件や世界でも感じられた。

 

 しかし、そういう悪意をここでは感じられない。

 箱庭に投げ込んで、意味もなく放置プレイ状態では、気味が悪いったらありゃしない。そんな連中でないことは、これまでの経験で十二分に理解している。なんだこれは、これまでに無いパターンじゃないか。

 

 「こりゃぁ、きっとデカイ一発がくるんだろうなぁ」

 

 ああ、とため息を吐き出す。その時であった。

 

 尖らせていた神経、感覚が貴方に何かを告げた。

 聞き耳だ。微かな音も逃さないと、集中して耳を澄ませた。その結果、貴方は此方に何者かが走ってくる音を聞いた。

 さらに貴方は情報を得ることが出来る。その足音に余裕は感じられず、必死に何かから逃げるように全力である様子が感じられた。大きな何かが洞窟を踏みしめ、それを追いかける音も聞き取ることが出来た。

 

 不安、恐れよりも先に、貴方は安堵を覚えた。ああ、ようやく何かを理解する切っ掛けが出来たのだと。人の理解が及ばない世界で、理解できることが見つかることは、救いであることを彼女はよく知っていたのだ。

 

 「んー、知らず知らずのうちに、何か琴線にふれることをしていたのかな。まぁ、事態が動くならなんでも良いや。このまま餓死ってのが一番問題だったからね」

 

 小さな足音。大きな足音。未だ現れぬ何者かに対して、貴方は何の感情も見えない顔で向き合う。

 その手にはいつの間にか、光り輝く奇妙な本が姿を表していた。青とも赤とも、黄とも言えない淡い光。まるで宇宙で煌めく星々のような不思議な光が、貴方の横顔を照らした。




ふとクトゥルフ動画を見ていたら思いつきました。
だいぶ書きなぐっております。楽しかった……。
こんなキャラが、思いっきりダンまちを旅したら、きっとろくでもないだろうなぁと(鬼畜KP感)

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