SAVE A LIFE   作:Emizabeth

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二作目と言えどほぼ処女作(というより構想はこちらが先)ですのでどうか生温かい目で見守ってください。


第1話

4月10日月曜日の朝。

 ごく普通の高校生、五河士道は心地よく、抗い難い微睡みの中にいた。この素晴らしさを詩が詩になるあたり、この感覚は古今東西、万国共通なのであろう。そんな益体もない事を考えていると……

 

 

「おにーちゃん! 起きるのだ~」

 

 

 どうやら、そんな時間も終わりが来たらしい。最愛の妹、五河琴里によって。

 具体的に言うと、“兄の体の上を舞台としたサンバ”という斬新な芸術的活動によって。

 ついでに言うと、さして短くもないはずの制服のスカートとはいえほぼ真下から覗くかたちなので、何がとは言わないがチラどころではなく丸見えである。非常にはしたないことになっている。

 我が妹に年頃の羞恥心というものはないのであろうか。将来が心配である。

 などと考えている間も全く人の上からどこうとしない。

 

「いや、下りろよ。重いよ」

 

士道がそう言うと、

 

「ぐふっ!」

 

反動として小さくない衝撃を残して飛び降りていった。

 

「あははは、ぐふだって! 陸戦用だ! あはははは!」

 

琴里よ、お前はいつの時代の人間だ。

 そう思いながらもまた布団に入る。

 

「あー! こらー! なんでまた寝るんだー!」

 

何やら咎める声が聞こえてくる。ならば仕方ない。この手は使いたくなかったが…

 

「に、逃げろ、琴里。俺はとりあえずあと十分(以下略)なウイルス、T-ウイルスに感染しているんだ!」

「な、なんだってー! そんな! おにーちゃん!」  

「がーっ!」

「ギャ――――――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、なんとかして琴里にはどいてもらい、手早く制服に着替えて一階に降りる。

 顔を洗い、ダイニングに入ると、美味しそうな肉の焼ける匂いとそして…

 

何と木製のテーブルで簡易的なバリケードが出来ていた。

 

「琴里を怖がらせるのもいいが、ちゃんと後始末も頼むぞ。」

 

声をかけられ、そちらを向く。

そこには当然ながら声の主、士道と同学年の兄、五河士郎が立っていた。我が兄ながら、日本人離れした容姿である。浅黒い肌に白い髪、身長は190近い。

 

「ごめん、兄さん。それに琴里も。もう兄ちゃん大丈夫だからな~。」

「本当に本当に本当か?」

「本当に本当に本当に本当だ」

 

「さぁ朝ごはんにしよう。士道手伝ってくれ」と士郎。

 

 その言葉で各々準備を始める。といっても琴里は食べる準備だけだが…少々甘やかし過ぎな気もする。と、

ニュースからこの近辺で空間震が起きた事が告げられる。

だが、もう慣れたものだ。慣れてはいけないのだろうが…

 

「でも一時は全然起こらなくなったんだろ?なんでまた増え始めたんだろうな」

「どうしてだろうねー」

 

と、準備をしながら琴里と話を続ける。

 

「なんか、ここら辺一帯って妙に空間震多くないか?去年くらいから特に」

「ああ、そうだな。全く何故この町に限って」と士郎。

「んー、そーだねー。ちょっと予定より早いかなー」

「早い?何がだ?」

「早い?何がかね?」と、士道と士郎の声が重なる。

「んー、あんでもあーい」

 

士道は首を傾げた。主に琴里の声がくぐもった点に関して。それは士郎も同様だったらしく、料理を運びつつ琴里に近付いてゆく。

 

「琴里、私の料理はお気に召さないのかね」

「むー、ちがうのだー。チュッパチャプスは別腹なのだー」

 

やはりというか何というか、お決まりのチュッパチャプスだった。

 

「残したらピーマンの刑だぞ。わかったな」

「むー、わかったのだー」

「よし、朝食にしよう」

「「はーい」」

 

こうしていつも通りの朝が始まった。

 

「そういえば今日は中学校も始業式だったな。何か昼食のリクエストはあるか?」

 

と士郎が問うと、琴里は少しの思案の後、急に姿勢を正し、

 

「デラックスキッズプレート!」

 

半ば予想していたことだが、やはりと言うべきか近所のファミレスのメニューだった。

 

「そうか、では完璧にとは行かないだろうが頑張ってみよう」

 

士郎は少し思案したような顔になると、少し意地の悪い顔をして答えた。どうやらデラックスキッズプレートを模倣してみるらしい。

 

「むー、そうじゃなくって…」

「ふっ、冗談だよ。たまには外食もいいだろう」

「じゃあ、学校が終わったらいつものファミレスで待ち合わせかな」

「ああ、それでいいだろう」

「よーし、決定!絶対だぞ!絶対約束だぞ!地震が起きても火事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」

「いや、占拠されてちゃ飯食えねえだろ」

「それくらい絶対ってことなのだ!」

「わかったわかった」

「了解したよ」

 

士郎と士道が答えると、琴里は元気そうに返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人が学校に着いたのは午前八時十五分過ぎだった。

 廊下に貼り出されたクラス表を確認し、お世話になる教室へ向かう。クラス表によると、士道と士郎は同じクラスで二年四組だった。

 教室に着き、ふとクラスを見渡す。以外にもクラスには結構な人数が集まっていた。しかしあまり見知った顔を見つけることは出来なかった。士道が黒板に書かれた座席表を見ようと首を回すと、

 

「ーー五河士道」

 

 後方から不意に、聞き覚えのない、静かであまり感情の込められていない声がかけられた。不思議に思い振り向く。と、そこにはやはり見覚えのない、細身の少女が立っていた。

 肩に触れるか否かの白っぽい髪に、人工物のように端正で感情の窺えない、まさしく人形のような顔の少女であった。

 士道は戸惑い辺りを見渡す。一瞬名前のよく似た兄と間違えたかとも思い、士郎の方を向く。しかし士郎も首を振った。とうとう訳が分からなくなり、首を傾げる。

 

「……俺?」

「そう」

「な、なんで俺の名前知ってるんだ………?」と尋ねると今度は少女の方が首を傾げ、

「覚えてないの?」と尋ねられた。

 

思わず答えにつまると、

 

「そう」

と言い一人納得した様子で、窓際の席へと去って行った。

 一体何なのかと戸惑っていると、

 

「とうッ!」

「げふっ」

 

唐突に強烈な平手打ちが背に叩きこまれた。

 

「ってぇ、何しやがる殿町!」

 

こちらの犯人は、すぐにわかった。というより一人しかいない。

 

「おう、元気そうだなセクシャルビースト士道」

 

士道と士郎、共通の友人、殿町(と言っても決してこのノリで士郎を叩いたりはしないが)は再開の喜びやら、同じクラスになった喜びやらを吹っ飛ばして、いきなり人をディスり始めた。

 

「……セク……何だって?」

 

と尋ねるとセクシャルビーストだの淫獣だのと罵って来た。どうやら鳶一と話していたのが気にくわないらしい。

 だが殿町の話には一つの疑問があった。

 

「鳶一‥……?誰だそれ」と尋ねると嫌みを吐きつつ顎をしゃくって窓際の席を指す。

 そこには先程の少女が座っていた。どうやらこちらの視線に気付いたらしく少女もこちらに視線を向ける。

 士道が気まずさに目を背けるも、殿町は馴れ馴れしそうに笑って手を振っていた。

 少女が視線を手元の本に戻すと殿町は彼女の難攻不落ぶりを語り始める。だが、知らないものは知らないのだ。そう言うと殿町は彼女の能力の高さを話し始めた。そして話は付き合いたい女子、男子のランキングへ移った。ちなみに主催者は殿町(358位)だった。士道は匿名の一票により52位(他の理由はホモ扱い)という聞き過ごせないものだった。

 

「謂われなき中傷に死の鉄槌を!」

「まあ落ち着けって。『腐女子が選んだ校内ベストカップル』では、俺とセットでベスト2にランクインしてるぞ」

「これっぽっちも嬉しくねぇぇぇぇぇッ!」

「ちなみにお前達兄弟がベスト1位だ!」

「仲が良さそうという意味で受け取っておこうか、それは」

 

と、殿町と二人で話しているうちに席の確認やら知り合いとの挨拶やらを済ませたらしき士郎が帰って来た。

 

「まあとにかく、校内一の有名人っつっても過言じゃないわけだ。五河くんの無知ぶりにさすがの殿町さんもびっくりです」

「いや、何キャラだよそれ」

と、士道が軽いツッコミを入れたところで予鈴のチャイムがなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は経ち、放課後。

 士道と殿町がとりとめのない話を交わし、そこに士郎が入って来た時それは起こった。

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーーーーー

 

 防災訓練などで聞き慣れた不快なサイレン、空間震警報だった。

 だが自分も含め周囲の人は皆、緊張や不安を顔に滲ませこそすれ、パニックになるなどせず、落ち着いていた。

 それはそうだろう、皆空間震を恐れはするものの、防災訓練やら避難訓練やらで慣れてしまっているのだから。皆シェルターに向かってすでに列を作っていた。と、

 

「鳶一……?」

 

そう、朝話題に上がっていた彼女が列とは逆ーー昇降口へと向かっていたのだった。

 

「おい!何してんだ!そっちにはシェルターなんてーー」

「大丈夫」

 

何が大丈夫なのかはてんでわからないが、警報から空間震の発生には時間がある。どうせ忘れ物か何かだろうと見当を付け、殿町と列に並ぶ。と、さっきまで共にいた兄の姿がない事に気付く。まあ彼の事だ手早く先に列に並んだのだろうとこちらも見当を付ける。

 と、ふと気になった事がもう一つ。可愛い妹、五河琴里の安否だ。まあ大丈夫だろうと思いつつも何度か電話をかけてみる。が、繋がらない。どうも不安が拭えず、一応だ一応と自分の心に言い聞かせ携帯のGPSを使った位置確認サービスを起動させる。と、

 

「ーーーーッ」

 

衝撃的なことに、その位置を表す赤いマークは約束のファミレスの真ん前を指していた。

 

「あんの、馬鹿……ッ」

 

 携帯を画面を消さずに閉じ、駆け出す。殿町の静止の声が聞こえるもそれどころではなかった。

 

「……っ、こんなんなったら、普通避難するだろうが……!」

 

そう言いながらも、士道の足は人生の中で最速と言える速度で動き続ける。そんな士道を迎えたのは人の姿が消えた不気味な街並みだった。生活感を残して人が消えた街並み、それは過去にテレビで見た「人が急に滅亡したら」という想定の街並みそっくりだった。

 と、ふと首を上げたその瞬間、視界に妙なものが映る。それは空を飛ぶ三つ四つの人影だった。

 だがすぐにそんなものは気にしていられなくなった。

 突然、視界に映る前方の街並みが眩い光に包まれた。それに続くは激しい爆音、凄まじい衝撃波だった。

 咄嗟に己の顔を両手で庇い、足にぐっと力を入れる。

 だが、そんな細やかな抵抗を嘲笑うかのように、大型台風並みの風圧が士道を襲う。そのままバランスを崩し後ろへと転げてしまう。

 

「ってぇ……一体なんだってんだ……ッ」

 

チカチカする目をこすりつつ身を起こす。と、

 

「ーーはーー?」

 

思わず間の抜けた声を出してしまった。だがそれも当然だろう。何故なら、今の今さっきまでそこにあった街並みが、跡形もなく、消え去っていたのだから。

 

「な、なんだよ、なんだってんだよ、これは……ッ」   

 

 呆然と、呟く。

 比喩でも冗談でもなく、隕石が落ちた、否、地面が丸ごと削り取られたかのごとく。

 街並みという日常の中にクレーターという非日常が、一瞬のうちに出来上がっていた。

 そしてそのクレーターの中心に更なる非日常が立っていた。

 恐らくだが何やら金属製の玉座のようなものである。RPGなどで王様が、ーー或いは魔王が、座っているようなそれがそこにあった。

 だが、それよりも注目すべきはその玉座に座った、奇妙なドレスを着た少女の方である。自然と視線を持っていかれる。長い黒髪に、幻想的なスカートだけはなんとか見て取れた。女性であることはほぼ間違いない。

 と、その少女が気怠そうに首を回し、こちらに顔を向けた。

 こちらに気付いたのだろうか、と困惑していると、少女は動きを続けた。

 ゆらりとした動作で、玉座の背もたれから何かを抜きさる。

 それはーー幻想的な光を放つ、幅広の刃を持った長大な剣であった。虹霓がごとき、また星光がごとき、そんな光を放つ剣であった。 

 そしてーー

 

「い……ッ!?」

 

 少女が士道に向けて剣を横に薙ぐ。

 その瞬間、咄嗟に頭を下げる。ーー否、正しくは士道の身体を支えていた腕から力が抜け落ち、ガクンと上体の位置が下がったと言うべきであろう。

 その、今まで士道の頭があった位置を閃光が駆け抜けて行った。剣が届く筈でないその場所を。

 だが実際はーー

 

「……はーー」

 

 士道は目を見開き、視線を後方へと向ける。

 士道の後方にあった街並みーー家屋や店舗、その他諸々は一瞬のうちに、その高さを切り揃えられていた。遅れて崩落の音が聞こえる。

 だが士道にはそんな音は耳に入らなかった。目の前で起きた超常の現象に、それに対する戦慄に心臓を鷲掴みにされる。

 ただ理解出来たのは、もしあの瞬間頭を下げていなかったら、自分もまた切り揃えられていたであろうことだけだ。

 

「じょ、冗談じゃねえ……っ!」

 

 士道は抜けた腰を引きずり、後退る。一瞬でも早く、1ミリでも遠く、早鐘のような焦燥うが士道を襲う。

 だが。

 

「ーーおまえも……か」

「……っ!?」

 

 ひどく疲れたようなーーそれこそ人生に絶望しきったようなーー声が上方から聞こえてきた。

 一拍遅れて視覚が追い付く。目の前に先程まで遠方にいた少女がいる。

 

「あーー」

 

 思わず、声が漏れ出る。

 歳は士道と同年代くらいであろう。

 膝まで伸びた黒髪に、愛らしさと凛々しさを併せ持った魔貌。

 その中央にはまるで水晶に様々な色の光を多方向から当てたかのような、不思議な光を放つ双眸が鎮座している。

 その装いも奇妙なもので、布でもなく、金属とも言い難い素材がまるでお姫様のようなドレスを形作っている。さらにその継ぎ目やインナー部分、スカートといった部分は物質ですらなく、不思議な光の膜によって構成されていた。 

 そしてその手には忘れられない長大な剣が握られていた。

 状況、風貌、存在どれを取っても異常、奇異、特異、異質であった。

 しかし、士道の目をひいたのはそんなものでは、そんな不純物ではなかった。

 一瞬の間。

 先程までの死の恐怖も、呼吸すらも忘れ、少女に目が釘付けになる。

 それほどなまでに。

 少女はそれこそ暴力的なまでに、或いは致命的なまでにーー美しかったのである。

 

「ーー君、は……」

「……名、かーーそんなものは、ない」

 

 少女のその銀鈴のような声は、どこか悲しげだった。

 

「ーーーーっ」

 

 そのとき。士道と少女の目が、初めて交わった。

 それと同時に、名無しの少女はひどく憂鬱そうにーー今にも泣き出してしまいそうな顔で、カチャリという音を鳴らして剣を握り直す。と、

 

「その少女から離れろ、士道!」

 

この場にはいない筈の、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「何者だ!」と名無しの少女が返す。

「その少年から離れてもらおう。これは警告だ」と恐らく廃墟の一つから士郎の声が聞こえる。

「やはり、おまえたちも、私を殺しに来たのか」と少女は物憂げな表情で返す。

「私に殺意はない。私が欲しいのはその少年の安全だけだ」

 

 その返答に少女の横顔は驚きと猜疑、困惑に彩られる。

 思わず士道も殺意の否定の言葉を返そうとする。

 が、少女はすぐさま眉をひそめると、士郎がいると思われる廃墟からも、士道からも視線を外し、空に顔を向ける。

 自然、それにつられて士道も目を上方にやる。と、

 

「んな……ッ!?」

 

 これ以上ないほどに目を見開き、息を詰まらせる。

 何しろ空には奇妙な格好をした人間が数名飛んでいてーーあまつさえ、手に持っている武器から、士道と少女目がけてミサイルらしきものをいくつも発射してきたのだから。

 

「ぅ、わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッーー!?」

 

 思わず、叫び声を上げる。

 だがーー数秒経っても、士道の意識ははっきりしたままだった。

 

「え……?」

 

 呆然として、声が漏れる。

 それもそのはず、空から放たれたミサイルは少女の頭上数メートルのところで、見えない手に掴まれたが如く静止していたのだから。

 少女が気怠げに息を吐く。

 

「……こんなものは無駄と、何故学習しない」

 

 そう言って少女が、剣を握っていない方の手を上にやり、グッと握る。

 すると何発ものミサイルがその威力さえスケールダウンされ、その場で爆発した。

 だが、上空の人間たちは狼狽しつつも、その攻撃の手を休めない。次々とミサイルを放ち続ける。

 

「ーーふん」

 

 少女は小さく息を吐くと、今にも泣き出しそうなーー先程と同じ表情になった。

 しかし士道はその表情に、先程よりも大きく心臓が跳ねるのを感じる。

 なんとも奇妙な話である。

 少女が何者か、上空にいる人物が何者かどちらもまた、わからない。

 しかし、この少女が、上空を飛ぶ人間たちよりも圧倒的に強大な力を持ち合わせていることだけは理解出来た。

 それゆえの、漠然とした疑問。

 その、圧倒的強者が。

 ーーなんで、こんな顔を、するのだろう。

 

「……消えろ、消えろ。一切、合切……消えてしまえ……っ!」

 

 そう言いながら。

 彼女の双眸の如き不思議な輝きを放つ剣を、疲れたように、或いは悲しむように無造作に一振りする。

 瞬間、風が、嘶いた。

 凄まじい衝撃波が周囲を襲い、太刀筋の延長線上の空を斬撃が駆け抜ける。

 それを上空の人間たちは慌てて回避し、離脱してゆく。

 しかし次の瞬間、別方向から、少女目がけて凄まじい出力の光線が放たれた。

 

「……っ!」

 

 思わず目を覆う。

 しかしその光線もやはり、少女の上空で見えない壁に当たったかのように掻き消された。夜空に打ち上げられた花火の如く、四方八方に煌めきを散らして美しく弾け飛ぶ。

 そしてその光線に続くように、士道の後方何者かが舞い降りた。

 

「な、なんなんだよ次から次へと……ッ!」

 

 もう意味がわからなかった。

 だがーーそこに降り立った人影を見て、士道は身体を硬直させた。

 それもそうだろう。何故ならーー

 

「鳶一ーー折紙……?」

 

 見慣れたまでは行かないものの、知り合った程度には知っているその顔の下には見慣れない、ーー機械の鎧を纏っていたのだ。背には大きなスラスター、手にはゴルフバッグのような形状の武器を装備していた。

 

「五河士道……?」

 

 返答のように、怪訝そうな顔でそう返される。

 

「……は? な、なんだよその格好ーー」

 

 愚かな質問と知りながらも、そう聞かざるを得ない。

だが、困惑する士道を他所に、折紙はドレスの少女に向き直る。それもそうだろう、何しろ、

 

「ーーふん」

 

 少女が先ほどのように、手にした剣を折紙に向けて振り抜いたのだから。

 折紙は即座に地面を蹴り、剣の太刀筋の延長線上から身をかわし、そのまま恐ろしい速さで少女に肉薄した。

 いつの間にか、折紙の手にした武器の先端には、光の刃が形成されている。そしてそれを少女目がけて思い切り振り下ろした。

 少女は微かに眉根を寄せ、手にした剣でその一撃を受け止める。

 ーー瞬間。

 少女と折紙のつばぜり合った一点から、凄まじい衝撃波が発せられた。

 当然士道には、情けない叫びを上げながら、身を丸めてやり過ごすことしか許されない。

 折紙が弾かれ、二人は一旦距離を離し、油断なく睨み合う。

 自然、士道を挟んで二人の少女は一触即発の空気を作り出す。

 当然、士道は気が気ではない。

 しかし、そのとき、急にポケットの中の携帯電話が、軽快な着信音を響かせた。

 

「ーーーー!」

「ーーーー!」

 

それが合図となり、戦闘が再開される。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 その圧倒的な風圧に、士道は情けなく転がされ、塀にぶつかって昏倒した。

 

「大丈夫か!士道」

 

 最後にその言葉を耳に拾いながら。

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