「君の名は。inクロマティ高校」   作:高尾のり子

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第1話

「君の名は。inクロマティ高校」

 

 

 

 

 

 前略、お母さん、朝起きて突然に男の子の身体だったのも、驚きだったけど、それなりにイケメンで神山高志くんというそうです、私はなんとか制服を着て彼の高校に登校してみたのですが…。

「…ぅぅ…」

 見慣れない人たちに囲まれて、いささか戸惑っています、と宮水三葉は心の中で亡き母親に相談してみたけれど、何も解決しない。都立クロマティ高校の教室にいるのは、ほぼ全員が不良だった。金髪のリーゼントは、まだおとなしい方で、モヒカンもいれば、スキンヘッドの生徒もいて、みな一様に目つきが恐ろしい。眉毛が無いなど当たり前で、顔に大きな傷跡のある男子さえいて、不良やヤンキーの領域を超えて三葉にはヤクザにしか見えない人もいる。教室なのに堂々とタバコを吸っているし、糸守高校だと不良は学年に一人いるか、いないかくらいで、いても、ここまで怖い生徒は見たことがない。大都市東京で洗練された不良たちは山奥の町とはレベルが違った。

「……ぐすっ…」

 悪そうな人だらけだよ…、緊張して鉛筆を持つ手も震えるし…、と三葉が泣きそうになって震えていると、うっかり鉛筆を机から落としてしまった。

「あ…」

 カコン…

 教室の床に転がった鉛筆を急いで拾おうとしたけれど、近くにいたパーマ髪をリーゼントにした不良が拾い上げてくれた。

「え…あ、ありがとう」

 なんだァ、中には親切な人もいるんだなァ、と三葉は一瞬だけホッとしたけれど、その不良は鉛筆を渡してくれない。

 バキン!

 いきなり不良は鉛筆を噛み折っている。

「なっ?! ……………」

 驚く三葉を前にして不良は平然と、鉛筆を噛み砕いていく。

 ぼりぼりぼり…ごっくん

 丸一本の鉛筆を不良は飲み下してしまった。

「…………え……鉛筆を食べた……」

 なんて不良なの、もう普通のワルとか、そんなレベルじゃないよ、それとも、もしかして私が持ってる神山くんの鉛筆は、もともと食べられる物なのかな、東京だし、いろんな新商品があるのかも、と三葉は興味を抱いて筆箱にある鉛筆を食べてみた。

「……うえっ…ゲーぇ…」

 食べられずに、吐き出した三葉は口噛み酒を造るときの要領で口元を隠した。休み時間になって三葉は恐る恐る校舎内を探ってみた。

「………なんでゴリラとかいるの……っていうか、不良校なのに、すごい高性能なロボットまでいるんだ……」

「おい、神山」

「は、はい!」

 教室に戻った三葉は不良の一人に声をかけられた。

「な…何ですか?」

「オメーも中学ん時、アダ名があっただろ! ヘタレとかタコスケとかよ」

「え……」

 私には、吐き巫女とか、人間サーバーとか、ゴックンしない子とか、思い出したくない陰口があるけど、神山くんが、どうなのかは知らないし、そんなこと言われても困るよ。

「オレらには武勇伝にふさわしい二中の火の玉、とか、三中の病院送り、ってのがあるがよ。お前にはなんかねぇのか?」

「……」

 ううっ…テッシーとか、サヤチンにはあるけど、私って定着したアダ名は無いんだよ。

「お前、悪いことなんかしたことねーだろ」

「え…うん……ずっとマジメに生きてるから……たぶん……あ、でも」

 ちょっとは話を合わせておかないと怒られるかもしれないし、と三葉は女子らしく空気を読み、自分の悪事を語ることにした。

「そんな私でも、一つだけ悪いことをしてるんですよ」

「オメーの悪さなんてたいしたことねーだろ?」

 他の不良も言ってくる。

「ピンポンダッシュか賽銭泥棒くらいじゃねぇか、せいぜい」

「え、ええ、まあ、ホントにたいしたことないんですけど」

 三葉が自慢にならないように気をつけながら勅使河原克彦のことを語る。

「私のことを好きでいてくれる異性がいるんですけど、こっちとしては付き合うほど好きじゃないっていうか。まあ、嫌いじゃないけど、どうしよう、くらいの人なんですよ」

「オメー、まさか、好きじゃねぇけど、とりあえずヤったって自慢話か?」

「いえ、まさか! そんな大それたことできませんよ」

「ちっ、びっくりさせやがって。んで?」

「で、その人のことを好きな人もいて、それが私の友達だったりするんです」

 三葉が名取早耶香のことを言った。不良たちの脳内では、性別が逆転した克彦と早耶香が浮かぶ。

「ほォ~、いわゆる三角関係だな」

「けど、私は今すぐ誰かに決めようって気持ちはなくて、とりあえずキープというか、ちょうど、その友達がフォローに入ってくれる分、つかず離れず中学から、その異性の気持ちには気づかないフリして、ずっとキープできてるし、このまま、いよいよ結婚相手を決めるって時期の25歳くらいまで、キープできたら、いいなって。あえて、恋人はつくれないんじゃなくて、つくらないってポジションが最高かなって。母がね、言ってたんですよ、なにか大きな頼み事をするときとか、恋人になってるより片想いのままでいさせる方が、より頑張ってくれるからって。だからですね、悪いなぁ、と思いつつもキープしておこうかって。理想の人を探したりして、いよいよ結婚適齢期を過ぎそうになったら、そのキープを使えばいいし、キープ解除しても、友達が拾ってくれるかなって」

「「「「「……………」」」」」

「まあ、皆さんに比べたら、私の悪さなんて全然たいしたコトないんですけど。テヘっ」

「「「「「お前とんでもねぇワルだよ!!!」」」」」

 三葉は不良たちの中で深慮遠謀の策士として一目を置かれるようになった。

 

 

 

副題「君の名は。inクロマティ高校、略して、君クロ。意外と黒い三葉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さてさて、三葉さんと神山くんは、いずれくる隕石に、どう対処するのか。次回は神山くんin三葉ボディで、お送りします。
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