「君の名は。inクロマティ高校」   作:高尾のり子

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第4話

 

 朝起きて、三葉は鏡を見て悩む。

「う~ん……眉毛、なかなか生えてこないなぁ……昨日、もうちょっとあった気もするのに……育毛剤とか買った方がいいのかなぁ……育毛剤といえば、夢の中にいた林田くん、すごい髪型……カラオケ楽しかった……フレディさんの歌すごいし……リアルな夢だったなぁ……リアル感あるのに登場人物は、ぜんぜんリアルじゃないし。まあ、どうでもいいや。それより私の眉毛、どうか、早く生えてください!」

 眉を見て悩み、それからスカートが干してあるのに気づいた。

「スカートなんか干したっけ……」

 干してあったスカートを身につけ、なんだか着ている下着は24時間以上、一度も脱がなかったように蒸れて汚れている感じがするので着替えて、また鏡を見つめてアイライナーを持った。

「うまく眉を描くって難しい」

 アイライナーで失った眉毛を描き始めた。

「う~ん……薄いかな……もう少し濃く……こんなもんかなぁ……今度は、濃すぎるかな……けど、もう時間ないし。髪型は、いつも通りにしよ。貞子がアダ名で定着したらイヤだし」

 身支度をして、朝ご飯を食べる。四葉と一葉が長女の眉毛を見て黙る。

「「……………」」

「何よ?」

「「別に………」」

 思春期なので、色々試したいのだろうと思い、何も言わなかった。けれど、通学路に出ると、克彦に言われた。

「その眉、オレみたいだな……オレに妹ができたみたいだ」

「プッ!」

 早耶香が笑い出す。

「きゃはっははは! ホント、並んだら兄、妹みたい! きゃははっははは!」

「ぅ~……そこまで笑わなくても……」

「きゃはっはははははは! ごめん、ごめん! でも、プっ! プフ! フフフ! きゃははっは!」

 爆笑したらメンチ切られてボコボコにされるかもと思っても、笑わずにはいられなかったし、三葉は拗ねるだけでメンチは切らず、また貞子になった。

 

 

 

 高志は登校してから林田など他の仲間たちと話し合っていた。

「カラオケで楽しませたと……なるほど、それで成仏してくださればよいですが……二度あることは三度あると言いますし。もしまた彼女がボクに取り憑いてきたら、なんとか供養してあげてください」

「もう三年も現世を彷徨ってるのか、あわれな女よ」

 しみじみとメカ沢が言い、神山に問う。

「その女は、自分がお死んじまったことは、わかってねぇのか?」

「それはそうでしょう。それゆえ憧れの東京に来ているのかもしれません」

「いっそ、お前は生きてる人間じゃねぇ! と教えてやるのは、どうよ?」

「「「「「……………」」」」」

「メカ沢くん、誰にだって言われたくないことはあるでしょう。むしろ、彼女も心底ではわかっていて、あえて気づかないフリをしているのかも。だから、彼女に自分が死んでいることを教えるのは、なしにしましょう」

 林田が頷いた。

「そうだな。気に障ることを言ったら怨霊になって暴れだすかもしれねぇしな」

「そういう意味では腕力のないボクでよかった。ゴリラあたりに取り憑かれていたら、大変なことになるところでした」

「そりゃ怖いなぁ」

「おっかねぇな」

 不良たちが怨霊に操られて暴れるゴリラを想像して身震いした。

「ところで話は変わるけどよ。彼女が取り憑いてる間、神山は逆に彼女が生きていた頃の身体に入ってるんだろう?」

「ええ」

「ってことは、おっぱい揉み放題。それどころかパンツ脱がせて、うれし恥ずかし、いろいろできるんじゃねぇのか。いっそ写真でも撮って残しておけば最高だぜ」

 パシィ!

 林田の頬を神山が平手打ちした。

「テ、テメー、何しやがる?!」

「林田くん、ボクが人生において人を殴るのは三度目だ。それだけボクは怒っているっていう事だよ。彼女は青春のまっただなかで非業の死を遂げた。そんな彼女を辱めて君は男として恥ずかしくないのかい?」

「っ……す、すまねぇ。オレが間違っていた」

「わかってくれればいい。ボクも彼女の身体になっているときは最大限の注意を払って彼女の名誉を守っているつもりだから」

「そうか。神山と入れ替われて彼女は幸せだな。いや、そんな神山だからこそ、彼女が選んだのかもな」

「ともかく、三葉さんには死んでいることを教えず、供養していく方針であたりましょう」

「「「おう、まかしとけ!」」」

 かわいそうな三葉を供養することでクロ高のメンバーたちは一致した。

 

 

 

 前略、お母さん、やっぱり不良校は不良校です、日曜日に楽しく遊んでくれた人たちなのに、今朝からイジメが始まりました、と三葉は登校して着席しながら、机に置かれた花瓶を見つめている。

「……………」

 明らかに死んだ生徒の机に置く感じに、花を生けた花瓶が置かれていてイジメられている気がしてくる。

「……私がイジメられてるのかな………それとも神山くんがイジメの対象……う~ん……このクラスの中だと、私が不良でもイジメるのは神山くんしかいないかも。外見的に」

 三葉が対応を悩んでいると、北斗の子分が線香をもってきた。

「これを、あなたに」

「…………」

 花瓶の隣に、線香立てが置かれ、北斗の子分がライターで着火した。線香の煙が漂う。他の不良たちも次々と線香を立て、線香が無くなると代わりにタバコへ着火してから立てていく。そして、みんな手を合わせて祈ってくれた。

「……う~……モヒカンとかリーゼントみたいな派手な外見のわりに、意外と陰湿なイジメをするんだなぁ……男子なら、もっと殴る蹴るかと…」

「バカ野郎!!」

 メカ沢が祈っていた前田を殴った。

「な、なにすんだよ、メカ沢!」

「こんなに露骨にやるんじゃねぇ! これじゃ、どんなアホでも気づくってもんよ! もっと秘かにやらねぇか!」

「そ…そうだな…すまん…」

 花瓶と線香が片付けられると、不良たちが距離をとって祈り始めた。

「なむあみだぶつ」

「ザーメン、ソーメン」

「かわいそうにな、つらかろうな。これからって時によぉ。ひでぇな」

 メカ沢まで涙ながらに祈っている。他にも壁際や廊下から、こそこそと半分隠れて祈られている。

「もう帰ろうかな……」

 三葉が神山の身体で立ち上がると、みんなが道を譲ってくれる。

「学校にいるなってことなのかなぁ……どうせ、授業もたいしたことしないし……とりあえず校舎から出よう」

 校庭に出ると、様子を見るように不良たちもついてくる。

「……ううっ………ついてくるよ……やっぱり殴る蹴るもされるのかな……職員室とかに逃げ込んだら、なんとかなるかな……でも、先生とか、ぜんぜん見かけないし……」

 三葉が肉体的な苦痛を恐れていると林田がつぶやいている。

「オレたちで、きっちりあの世に送ってやらねぇとな」

「おうよ。ちゃんと三途の川を渡らせてやるぜ」

 前田も小声で語っている。

「ひっ……やっぱり、ヤる気だよ……どうしよう、神山くんの身体、ボコボコにされるわけにもいかないけど、走って逃げても……とにかく、人目につかないところをさけて目立つところにいよう」

 三葉はグラウンドの真ん中に移動した。

「ぅうっ……包囲されちゃったよ」

 不良たちが円陣となって三葉を取り囲んでいる。

「こ、ここは一つ、なんとかコミュニケーションをとって暴力は避けてもらおう。でも、話題が…、あ、そうだ。メカ沢くん」

「おう、何だい? 何でも言ってくれ」

「じゃ、じゃあ、メカ沢くんって下の名前とかもあるんですか?」

「そりゃ人間だから当然あるさ。聴きたいか?」

「はい、お願いします」

「オレは新一、メカ沢新一ってんだ」

「へ、へぇ、意外と普通なんですね。じゃあ、前田くんは?」

「フ、オレは前田彰だ。冥土のみやげに覚えておいてくれ」

「ぅぅ……かっこいい名前ですね」

「そ、そうか?! かっこいいか?! アダ名なんて無くてもイケてるよな、オレ!」

「はい、すごくイケてます!」

 三葉が頑張ってお世辞を言っていると、北斗が問いかけて欲しそうに長髪を揺らしているので、三葉は女子らしく空気を読んで声をかける。

「北斗くんの名前は?」

「我が名は北斗武士! 北斗七星の北斗にブシと書いてタケシだ。ちなみに剣道、空手、柔道、書道など合わせて10段だ!」

「うわぁ、すごい、すごいですね!」

 こうなると、北斗の子分が名を訊いてほしそうに三葉の前にきた。けれど、三葉は彼の名字さえ知らないことに気づいた。

「えっと……、…えっと、…き…君の名は?」

「オレか? フフ、オレの名か?」

「は、はい。君の名は?」

「フフ、いいかぁ! よ~~く聞けぇっ! オレの名前は…」

 その瞬間だった。

 ドコーォン!!!

 校舎の屋上に隕石が落ちてきた。直径10メートルくらいの隕石が屋上に直撃して最上階が半壊している。前田が北斗の子分の声を遮って叫ぶ。

「た…大変だ! 学校に隕石が落ちてきたぞォ!!」

「ぐぅぅ…」

 北斗の子分が呻いているけれど、メカ沢が気づいた。

「危ないところだったぜ。あのまま校舎にいたらオレらの命はなかった。あんたのおかげだ。そうか、あんたはオレらを助けにきてくれたのかもしれねぇな。もう隕石なんぞで人が死なねぇようにさ」

 メカ沢の冷たい手で温かく撫でられながら三葉は思う、お母さん、クロマティ高校は、すごいところです、普通に隕石が落ちてきます、誰も死ななくて本当に良かったけど、東京がすごいのか、クロ高がすごいのか、もう私にはわかりません、草々。

 

 

 

 前略、オフクロ様、ボクは女性の尊厳を守りつつ三葉さんとして学校生活をうまく過ごしています、と昼休みに食後のコーヒー牛乳を飲みながら思っていた。克彦が心配そうに言ってくる。

「三葉、あんまり飲まない方がいいんじゃないか?」

「なるほど……たしかに……お弁当とセットになっていたので、つい……朝一番から我慢して、朝食のお味噌汁とお茶……昼にも水分を……これでは限界も……」

「なんなら、オレがもらってやろうか?」

「……テッシーと私は間接キスをする間柄ですか?」

「「っ…」」

 克彦と早耶香に妙な緊張が走り、高志は察した。

「違うようですね。やはり、これは飲みきりましょう。もう暑い季節です。脱水症状などを起こしては大変ですから」

「「…………」」

 三葉の唇がコーヒー牛乳を飲みきると、質問してくる。

「さきほど言っていた夏祭りは、いつですか?」

「いつって、三葉の家がやるのに忘れたのか?」

「三葉ちゃん、巫女の仕事を嫌がってるもんね」

「巫女か……夏祭りの次、秋祭りの日には彗星が来て……。ともかく、そろそろ教室にもどりましょう」

「ねぇ……三葉ちゃん、おトイレ、行かないの?」

「ご心配なく」

「「………………」」

 二人が心配した通り5時間目が終わるチャイムと同時に、おもらしした三葉のお尻が濡れて足元に水たまりができた。

「残念……今日は6時間目まで保たなかったようですね……ちょうど休み時間で片付けるのには都合がいい……」

 拭き取るためにバケツと雑巾を取りに行こうとしたところを、からかわれる。

「クスクス、また漏らしてる。これで三度目らしいね。よく人前で漏らせるね?」

「………あなたは、たしか、一回目に登場した……名前は……」

 高志は一度目の入れ替わり時にメンチを切った女子を少しは覚えていたけれど、名前は知らなかった。

「えっと……名は……いや、別に、君の名など、どうでもいい事か」

「なっ?! 私の名前を知らないっていうの?!」

「ええ」

「くぅぅ! いつもお祭りを見に行ってあげてるでしょ?!」

「……テッシー、サヤチン、彼女の名を知っていますか?」

「「…………」」

 克彦と早耶香も顔を伏せた。人口の少ない山奥の町なので、住民は皆顔見知りだったし、とくに同学年の生徒とは小中高といっしょになるので普通は知っているはずだったけれど、記憶にない。

「…た、たしか、いつも三葉ちゃんのお祭りを見に来て、口噛み酒のことを、いつも何か言うよね」

「ああ、そうだ。いつも三葉をバカにして、よく人前でできるね、とか、それだけを言うために祭りにきてる女だよな」

「ぐぅぅ! 私にも、ちゃんと名前があるのよ! 私の名は…」

「ところで話は変わりますが、君、ずいぶん学校を休んでいませんでしたか?」

「ぅぅ……」

 その女子はメンチを切られて、おしっこを漏らして以来、今日が久しぶりの登校だった。そのことでクラス内での優位を失いつつあるので、三葉へ対抗心を燃やしている。

「あんたこそ、三回も漏らして、よく人前に出られるね!」

「これはお茶です」

 高志がメンチを切ると、女子は怯んだけれど、頑張る。

「っ…ぅぅ…負けないんだから! おもらし巫女なんかに!」

「お茶です」

「っ…ぅぅっ…」

「お茶を零して、喉が渇きました。君、イチゴミルクを買ってきなさい」

「はァ?! 私をパシリに使おうっての?!」

「買ってきなさい」

「ぅぅ…」

「買ってこい」

 立ち上がった三葉の眉毛が無い眉間にシワがより、美人といっていい顔で凄まれると、つい後退ってしまう。後退った分だけ三葉の顔が迫る、キスしそうでキスしない、ヤンキー独特の絶妙な間合いで、気合い負けした。もともと町長の娘かつ巫女で美人の三葉をやっかんで野次っていたけれど、おとなしく野次られていてくれるなら強気に出られるものの、対抗されると父親は町の政治的な頂点にいるし、仲のいい克彦は町の経済的な頂点にいる建設会社で、さらに仲のいい早耶香は町役場に代々勤務していて町の官僚的な頂点にいる。そして宮水は町の宗教的な頂点にいた。この町で宮水、勅使河原、名取の御三家に逆らって生きていくのは難しい。そして何より、メンチの切り方がベテランっぽくて怖い。

「……ぅぅ…」

「買ってくる前に床を拭いておいてください」

「……おもらしの…後始末まで私に…させるの…」

「返事は?」

「………はい……三葉様」

 もう逆らうより、従うことで自分の地位をあげよう、と打算してバケツと雑巾をとりに行った。

「うむ、今日も、ちゃんと三葉さんのウラ番としての権威を保てたようだ。よかった」

 頷いた高志は従えた女子のことは、三葉の子分、と呼ぶことにした。

 

 

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