起床した三葉は深刻な顔で悩んでいた。
「……くすんっ……眉毛が、ぜんぜん生えてこない……ハゲになったのかなぁ……眉毛ってハゲるの……」
自室の鏡を見ている。そして、伸びてくれるのを待っているのに、まったく眉毛が伸びていない事実に直面していた。まるで、きっちり剃られたようにツルツルだった。
「……なんとなく私、汗臭いし……夕べもお風呂を忘れたのかなぁ……」
また身体にベタつきも感じる。
「眉毛は剃られたみたいにツルツルなのに、腋は伸びてきてるし。この時期、毎日手入れしたいのに、なんで忘れるかな、私……」
腋は入浴していないような匂いがするし、毛も剃っていないような様子で毛先がゴマ塩をふったように目立っている。女子として夏服を着る時期は整えておきたいのに、洗ってさえいないようで三葉は多めに制汗スプレーをかけて誤魔化した。
「パンツも、また黄色く染みができてるし……ぅぅ……やっぱり、気づかないうちに漏らしてるのかな……オネショなんて、してないよね……あいかわらずクロ高の夢ばっかり見るし……でも、デザート美味しかったなぁ……夢の中で、あんなに美味しい物を味わって食べたの初めてだよ。……でも、パンツは、おもらししたみたいに黄色いし……蒸れてるし」
着けていたショーツも匂い、かなり蒸れているので、すぐに履き替えた。股間に痒みを覚え、掻きたくなるけれど、それは女子として我慢する。汚れているような気がして今すぐにでも洗いたいほどだった。
「ぐすっ……お風呂に入りたい……このまま登校なんてヤダなぁ……」
つぶやきながら制服を着て一階におりると、四葉にあきれられた。
「お姉ちゃん、また曜日を忘れてるね」
「え?」
「今日は学校お休みだよ」
「ラッキー♪ じゃ、お風呂を沸かそう」
「本当に、何もかも忘れるんだね。今日は、夏祭りだよ。早くご飯たべて準備しなよ」
「うっ………夏祭り………って! それなら絶対に腋は剃らないと!」
「なんで?」
「巫女服って和服だから、腋が開いてるでしょ。舞いの動作によってはチラ見えするから!」
「腋のチラ見えくらい、いいじゃない別に」
「思春期きてないお子様にはわからないの! 女の子は腋が伸びてるのなんか、見られたら死ぬほど恥ずかしいの! まして町中の人が見に来るんだよ!」
「じゃあ、夕べ、ちゃんと剃ればいいのに。また、お風呂に入らなかったし。人として入るべきではないとか、わけわかんないこと言って。お風呂とトイレは人として入ろうよ」
「私そんなこと言ってないし! お風呂、お風呂!」
急いで三葉は水を貯めて風呂を沸かす。時計を見ると、すでに時間に余裕がない。多くの町民が見る神事は夕方の舞いと口噛み酒の製造が中心だったけれど、祭りの当事者である三葉と四葉には午前中から細かい行事がつまっている。お湯が沸くのを待つのも、もどかしく、三葉は制服を脱ぎ捨て、着けたばかりの下着も脱ぐと全裸になった。
「カミソリとソープ……あとは、……ぅう! おしっこしたい」
裸になって尿意を覚えたけれど、トイレは母屋とは別棟になっている屋外の厠なので道路から見えないとはいえ全裸で出て行くのは避けたい。起床してから最初のトイレだったので尿意が強いし、昨夜は寝る前にもトイレに入らず寝たような感じがするほど、貯まっている。
「うぅうっ……出る出る!」
思わず三葉は両手で裸の股間を押さえた。いつもより我慢が効かないほど、おしっこをしたくなっている。外の厠に行くなら、ノーブラノーパンでもいいから、せめてスカートとブラウスは身につけたいのに、その余裕も無さそうなほど、膀胱が疼いている。
「あぁ……くぅぅ……漏れるぅぅ…もう、いいや! ここで!」
シャァァァァ…
「お姉ちゃん、行儀悪っ」
四葉が風呂場で、おしっこをしている姉を見て、げんなりした。慌てて放尿した三葉は足を飛び散る小水で汚さないように大きく開いているし、しゃがむ時間もなかったので立ったまま全裸でおしっこを出している。とても肉親とは思いたくない姿で10才の妹は深いタメ息をつく。
「それが17才の女子がすることなの……はぁぁ…」
「見ないでよ、バカ! 仕方ないでしょ、急に限界が来たんだから! お風呂場だから、すぐ流れるしいいの!」
「人として、それは、どうかなぁ……それが許されるのは小学校に入るまでだと思うよ」
「ぅぅ……」
ショワ…ポタ…ポタ…
おしっこを出し切った三葉は、まだ冷たい水を湯船から汲んで洗い場を流した。
「お姉ちゃん、もう時間が無いから急いでね。ほら、オニギリにしてあげたから、お湯が沸くまでに食べて」
「うん、ありがとう」
三葉は全裸のままオニギリを食べつつ、お湯が沸くのを待つ。オニギリを食べきっても、まだお湯は温かくならない。
「四葉、ごめん、お味噌汁もある?」
「はいはい」
妹が盆に載せて味噌汁と漬け物、目玉焼きを持ってきてくれた。
「ありがとう。いただきます」
「…………」
「何よ?」
「…………いえ……何も…」
四葉は全裸のまま風呂場で朝食を摂る姉を悲しく思ったけれど、何も言わないことにした。
「私たち、祭りの日はお昼ご飯、あたらないからね。しっかり食べて」
「うん……ご飯、おかわり欲しい」
「はいはい」
四葉がオニギリでなく御飯茶碗によそった白米をもってきてくれる。
「お昼ご飯抜きとか、巫女って損ばっかりだよ」
「口噛み酒を造るとき、いっぱい唾液を出させるためらしいね」
「屋台が出ても、何も食べちゃいけないし」
「たこ焼きの青のりとか、イカ焼きの匂いが口噛み酒に入ったら、それはそれで神事として問題だから」
「巫女服も重いし苦しいし」
「夏服は、まだ薄いから」
「冬は冬で寒くて死にそうだし」
「………。ぶつぶつ言ってないで、さっさと腋を剃って準備して」
四葉は姉が食べ終えた食器を片付けて巫女服に着替え始めた。三葉も湯船に浸かって身体と毛を温めると、洗い場で腋を剃ってから、全身を入念に洗った。
「頭も痒い……」
時間がおしているけれど、髪も洗って入浴を終えると、バスタオルを巻いただけの全裸のまま二階へあがって押し入れから巫女服を出して着る。
「パンツもブラジャーも無しとか、これってセクハラだよ」
「昔の和服に西洋の下着があるわけないから」
すでに着付けを終えた四葉が姉の部屋に置いてある祭り用の化粧道具を取りに来た。
「お化粧、下に持っていくよ」
「うん」
返事しつつ三葉も諦めて下着無しの身体に巫女服を着る。着終えて一階へおりると、妹と化粧をし合って、難関にさしかかった。
「眉毛……」
「いっそ、平安時代風の眉毛を描いてあげようか?」
「やめて」
「いつも通りの眉毛を描くから、動かないで」
「お願いだから、ちゃんと描いてね。眉毛で印象、すごく変わるから」
「はいはい…………うん、できた」
四葉が頷き、心配だった三葉が鏡を見た。
「……ありがとう……四葉、うまいね」
「まあ、毎日、見てる顔だから。この頃、オールバックだったりする日もあるけど」
「オールバック?」
「次は装飾品か。これは重いよね、確かに」
四葉が桐箱から髪飾りや冠を出してくる。どれも見た目の華やかさと美しさを重視しているだけに、重さや実用性は考えられていない。すべてフル装備すると、二人とも重さと暑さで、まだ一つも神事を行っていないのに疲労感を覚えた。
「四葉、エアコン、最強にして」
「うん」
居間のエアコンを強風かつ最低温にセットして、戸を閉めて二人で時刻まで待つ。すぐに一葉が神社で太鼓を叩いている音が聞こえてきた。
「「……」」
すっと二人とも黙って立ち上がると、エアコンはつけたまま、きっちり戸を閉めて自宅から神社へ向かう。夏の昼間の暑さに加えて巫女服と装飾品のおかげで体温がこもって、すぐにでも汗が噴き出そうになるのを化粧が崩れるので精神力で押さえつつ、しずしずと歩いて境内へ向かう。すでに境内には氏子の役員や、今年の当番が数十人ほど集まっていた。まだ屋台の準備もされていないし、観客も少ないけれど、神事としては本番が始まっている。
「三葉ちゃん、四葉ちゃん、頑張ってな!」
「暑いのに、ご苦労やね!」
役員や当番たちが声援を送ってくれるけれど、姿を現した時から神事が始まっているので挨拶したり手を振ったりもせず、まっすぐ前を向いて無表情に回廊を進むと、舞台にあがった。
「「かしこみて糸守の地に豊穣の…」」
三葉と四葉は決まっている祝詞をあげ、一葉は太鼓を打ち、婦人会のメンバーが雅楽を奏でてくれる。祝詞が終わると、舞いを始める。
「「………」」
二人とも真剣に、やや額に汗を浮かべつつ、舞い終わると神前に拝礼して、すぐに回廊を戻って自宅の居間へ入った。
「暑っ!」
「はぁぁぁ…」
三葉も四葉も装飾品を丁寧に身体から外して卓袱台へ置くと、巫女服は乱雑に着乱して胸を出して、袴をバサバサと両手であおぎ、エアコンの冷気を送り込む。
「「ふぅぅぅ……倒れるかと思った」」
やや熱中症になりかけているほど暑かったのでゴクゴクと麦茶を飲み、皺にならないよう巫女服を脱いでしまうと、裸で畳に寝転がる。
「次は3時に、また舞いをやって、あとは夜の舞いと口噛み酒かぁぁ……ダルい」
「3時が、また暑そう。せめて夜は涼しくなってくれるといいなぁ」
三葉も四葉も押さえていた汗が浮いてきて、それがエアコンで心地よく冷えてくれる。
「お風呂に入りたいけど、また化粧しなきゃいけないし」
「なかなかにつらいね。3時の後、水浴びしようよ」
「そうだね。化粧直しするより、完全に落としてやりなおす方がいいし」
休憩して時間を過ごしているうちに2時過ぎとなり、また巫女服を美しく着付け、装飾品を身につけ、しずしずと神社へ参内して舞いを披露して戻ってくると、すぐにエアコンの前で裸になる。
「暑い……お腹空いた」
「お昼抜きは、つらいね」
エアコンで身体を冷やすと、二人とも風呂場で水浴びして身体を洗い、裸のまま休憩する。下着くらい着けたいけれど、なるべく下着の痕も残っていない方が良いという風習なので仕方なく従っている。それでも祭りの日は二人が何度も着替えることがわかっているので、誰も宮水家を訪ねてはいけないことになっているおかげで安心して裸でいられた。
「あぁ……いい匂い…」
「美味しそうだね」
そろそろ屋台が出てきたのか、たこ焼きや綿飴のソースや甘い香りが、どこからともなく入ってきた。二人とも軽い朝食以後、何も食べていないのでお腹が鳴って、ヨダレが湧いてくる。
「ううっ……食べたい……何か食べたい…」
「一食抜くだけで、このつらさだから、昔の人は飢饉のとき大変だったんだろうね」
「たこ焼き………チョコバナナもいいなぁ……」
「そんなに欲しいなら、誰かに買って置いてもらえば?」
「現場で食べるから、美味しいんだよ」
「たしかに……実質、チョコバナナって、たいして美味しい物じゃないし」
「四葉は小学生のくせに夢がないね」
「夢と現実の区別はつけた方がいいよ」
「う~……お腹空いた……」
「そろそろ歯磨きしようか」
「うん」
二人とも洗面所で歯磨きをして、口噛み酒を造る準備を整える。再び巫女服を着て化粧をし、装飾品を身につけると、時刻までエアコンの前で待機する。
「巫女に憧れるとか言う人いるけど、実際はつらいのにね」
「まあ、見せてる面は華麗なところだけだから」
「華麗でもないよ………ヨダレ垂らして……舞いはいいけど、口噛み酒だけはヤダなぁ……これって、うちの神社だけなんでしょ。他の神社の巫女はやってないらしいよ」
「愚痴っても始まらないから。そろそろ時間だよ、お互いの化粧、チェックしよ」
「うん。あ…」
「どこか変?」
「……おしっこしたいかも」
「はァ? このタイミングで?」
四葉が高速道路のサービスエリアから出発した瞬間にトイレへ行きたいと言い出す幼女を見る母親のような目で姉を見ている。
「もう始まるよ」
ちょうど一葉が太鼓を鳴らし始め、二人が参内する時刻になったことを知らせている。
「まあ、我慢できるよ。ちょっと、したいかな、ってくらいだから」
「それなら言わないでよ。行くよ」
「はい。……」
もう黙って二人は自宅を出ると神社に向かう。昼間と違い、境内は観客で埋まっている。見た目には町民のすべてが集まっているような気がするほどだったけれど、実数としては500人ほどで全町民の三分の一ほどだった。カメラやスマフォで撮っている者も少なくない。
「「………」」
二人とも、いつも通りに静かに回廊を進むし、声援をもらっても答えたりせず、目線も固定している。いつも通りでなかったのは三葉の膀胱だった。
「……ぅっ…」
さっきまで、おしっこしたいかな、くらいの尿意だったのに、どんどん尿意が強くなってきていて、今すぐにでもトイレに駆け込みたいほどになっている。舞いが始まって身体を動かすと脂汗が出るほど、おしっこをしたくなり汗で化粧が流れて眉が薄くなってくる。それでも神事を中断してトイレに行くわけにはいかないので三葉は歯を食いしばって我慢して舞った。
「…ハァ……ハァ……あと少しだから…」
やっと舞いが終わり、口噛み酒を造る段階になった。なぜか膀胱が訴える尿意は強烈で中身が沸騰しているのではと感じるほど、おしっこを出したくてたまらないけれど、三葉は頑張って白米を口に含むと、噛みしめた。口の中にヨダレが大量に湧いてくる。空腹のおかげで極度の緊張状態なのに唾液は出てくれた。
「「……」」
隣にいる四葉とタイミングを合わせて酒枡へ咀嚼した白濁液を口から垂らしたときだった。
「っ?!」
じわっ…
本当なら歯を食いしばって我慢したいところを上の口を開いたせいで下までユルんでしまい、少し漏らしてしまった。
「っ…っ…」
少し漏らすと、もう膀胱が一気に収縮してくる。
ビシャァアァァア!
今までに無いような勢いで、おもらしした三葉は下着を着けていないので赤い袴の中で、おしっこが乱れ飛ぶのを内腿で感じた。
「…っ…っ…」
「………」
四葉は姉が漏らしたことに気づいたけれど、どうしてやることもできないので落ち着いて神事を続ける。口の中にある白米を飲み込むことなく一粒残らず吐き出さねばならないので、それに集中する。
「…ぅっ…ぅっ…」
沸騰していた膀胱は解放されて楽になったけれど、今度は三葉の羞恥心が沸騰して泣けてくる。両目からボロボロと涙を零してしまい、今回の口噛み酒には三葉の唾液に加えて涙で味付けがされた。それでも神事なので中断すること無く、とにかく口の中にある咀嚼物を吐き出していく。もう観客たちも三葉の袴が変色したので、おもらしに気づいていく。
「ママ、あの巫女さん、おもらしているよ」
「四葉ちゃんが、おもらし?」
「いや、大きい姉ちゃんの方みたい」
「かわいそうに」
「最近、学校でも漏らすって」
「わざと我慢して遊んでるらしいよ」
「それ変態じゃない」
「人前でよくやるよな」
「三葉様の気合い! 素晴らしいです!」
「ダブル聖水最高っすよ! 宮水様!」
「三葉ちゃん……こんなとこでまで……」
「三葉………お前って……何を考えてるんだ……」
いろいろな声がざわめきとなって境内に響いているけれど、もう三葉は聴いていない。ただ、一秒でも早く、この場を逃げ出したくて、口噛み酒を造り終えると、決まり切った動作で拝礼して、回廊から立ち去ろうとする。
ズッ…
それなのに濡らした袴が足にまとわりついて、前のめりに思いっきり転んでしまう。
ベシっ!
鈍い音がして顔を回廊の床にぶつけてしまった。
「…うっ……くっ…くぅぅ…」
「お姉ちゃん、泣くのは、あと少し我慢だよ」
四葉が泣き出しそうな姉の肩を持ち上げて立たせてくれる。もう顔を出したくないので巫女服の袖で顔全体を隠すと、四葉に手を引かれて自宅に戻った。
「…っ…っ…」
「お姉ちゃん………よく頑張ったね。もう泣いてもいいよ」
「…っ…っ…」
妹に慰められて三葉は涙を零しながらも歯を食いしばって泣き声は耐える。そっと四葉が装飾品を外してくれ、さらに袴の帯を解いてくれると、三葉は巫女服の上着を着たまま階段を駆け上がり、自室に入ると布団に潜り込んだ。
「うわああああああ! うわあああああああああ! うわああああああん!」
「……お姉ちゃん……」
四葉は号泣する姉をかわいそうに思ったけれど、とりあえず袴がシミにならないうちに洗う準備に入る。
「うわあああああん! おおうううう! うおおおうううう!」
その間も三葉の号泣は続いたし、人間がオイオイと声をあげて泣くのを四葉は初めて聴いた。
「……私が慰めても逆に傷つくかな……」
普段の言動は幼稚だけれど、それでも姉としてのプライドはある様子なので四葉は巫女服の始末を終えると、仕出し屋から取り寄せてある夕食の祝い膳を一人で食べ始めた。一葉には、まだ酒宴での氏子たちとの応接があるので、味わって一人で食べ終えると、さすがに泣き声が小さくなってきた姉の部屋へ、祝い膳をもってあがる。
「お姉ちゃん、夕ご飯だよ」
「……くすん……」
「ここに置いておくね。お風呂も沸かすから、沸いたら呼ぶね」
「…ぐすっ…」
まだ三葉は巫女服の上着だけで丸くなって泣いている。
「寝間着に着替えなよ。巫女服の上着は、そのへんに置いておいたら片付けるから」
「……うぐっ…ぅううっ……うっ、うわああん!」
思い出し泣きを始めたので、あまり見ないようにして風呂を沸かして姉に入ってもらう。かなり深く傷ついた様子で、泣きやんでからも、スマフォを見て、ぼんやりしていた。
「………ぐすっ……ひっく……」
「お姉ちゃん………」
だんだん四葉は心配になってきた。三葉がスマフォで、家から出ないで生きる方法、不登校の暮らし、素晴らしきニート生活のすすめ、等の調べ物をしているうちは、そのうち立ち直るかと思っていたけれど、さらに、楽な死に方、本当は気持ちいい自殺、痛くない怖くない最期、といったサイトまで見ているので四葉は固定電話で克彦と早耶香を玄関前に呼び出した。
「夜遅くに、すいません。お姉ちゃん、さっきのことで、かなり傷ついてるみたいで二人から慰めてもらえませんか? 妹の私が言うと、余計に嫌みたいで」
「ああ、わかった。……やっぱり、三葉も恥ずかしいんだな」
「お姉ちゃんは、前から、かなりの恥ずかしがり屋ですよ。だから、学校でのウワサは信じられないんですけど、本当なんですか? わざと、おもらししてるの」
「小学校でもウワサになってるのか?」
「はい。……昨日はサヤチンさんまで、おもらしして遊んだって本当に?」
「っ…勝手なウワサを信じないでよ! 私は三葉ちゃんに強制されて漏らしたんだから!」
いきなり怒鳴られて四葉はビクリとしたし、それで早耶香も年下に大人げない態度だったと反省する。
「怒鳴って、ごめんなさい。四葉ちゃん」
「いえ……でも、……お姉ちゃん、そんなこと強制するような人だとは……バカな姉ですけど、……そういう方向にはバカじゃないと……」
「オレもそう想いたいんだけど……サヤチンに強制したのは本当なんだ」
克彦が思い出し泣きしそうな早耶香の肩を撫でた。撫でてもらって早耶香は甘えるように克彦の胸に頭をつける。
「とにかく三葉に会ってみる。あいつ、最近、かなり変だから」
「はい、変な日がありますよね」
三人で三葉の部屋へ入ると、ぼんやりとしていた三葉は恥ずかしそうに布団へ潜り込んだ。
「……ぐすっ……何よ? ………四葉が呼んだの?」
「お姉ちゃん、あんまり思い詰めないで」
「思春期きてないお子様に、私のつらさはわからないよ! あんな大勢の前で…ぅっ…うぐっ…町のみんなに見られた……ううっ、うえええん!」
また泣き出したので、四葉は心配し、克彦と早耶香は顔を見合わせる。
「なあ、三葉、お前は本当におもらしして恥ずかしいのか?」
「っ…ぐすっ? 当たり前じゃない! 高校生にもなって、おもらしして恥ずかしくないわけないよ! もう生きていけない! この町から出るか、死ぬか! 二つに一つだよ!」
「………そんなに恥ずかしいなら……どうして……」
「私にまで強制して……私だって、もう学校に行きたくないって思うくらい嫌だったんだよ…ぐすっ…」
「え? サヤチンも、おもらししたの?」
「っ!」
早耶香が怒って三葉の頬を平手打ちしようとするのを克彦が止めた。今の様子を見ていると三葉は叩かれると、わけがわからず大泣きして心を閉ざしそうだったので止めたのだったけれど、叩かれそうになっただけでも怯えていた。
「…ぅぅ……サヤチン…怖い……なんで、怒ってるの?」
「なんでって……私は、あなたに……ハァ……ハァ…」
怒りで爆発しそうな早耶香の肩を押さえて克彦が代弁する。
「三葉が昨日、サヤチンにトイレに行くなって強制したろ? それで、サヤチンは五時間目に教室で漏らして早退したじゃないか。覚えてないのか?」
「わ、私そんな意地悪しないよ!」
「「…………」」
「ほ、ホントだよ! なんで、そんな目で見るの?! お願い信じて! 私、そんな意地悪した覚えないから!」
早耶香が恨みのこもった目で見続けてくるので、三葉は信じて欲しくて克彦にすがって訴える。
「絶対にしてないから! お願いだから信じて! 何かの間違いだよ!」
「三葉………」
克彦は涙を零しながら訴える三葉の瞳を見ていると、ふざけているわけでも、とぼけているわけでもないと信じたくなる。
「じゃ……じゃあ、サヤチンのことは置いて。お前自身、なんで何度も教室で、おもらしするんだよ? ちゃんとトイレに行けばいいだろ?」
「わ……私が、…おもらしって………さっき、お祭りでしたこと?」
「いや、そうじゃなくて、学校の教室でも何度も漏らしたろ?」
「………小学校のとき?」
「昨日も! その前の前の日も! だいたい週に2、3回の割合で、お前は漏らしてるじゃないか」
「……うそ……」
「そうやって指摘されても、ウソだとか、お茶だとか言って否定するけどさ。どう見ても、おもらしだし。変な女にしか見えないぞ。………こんなこと……言いたくないけど…」
「…………」
三葉は克彦の瞳を見て、以前は感じた好意が半減し、半分は軽蔑されていることに気づいた。
「……お願い……わ……わけがわからない………テッシー……サヤチン……あ! もしかして、これは夢! そうだ! そうだよ! お祭りでおもらししたあたりから、きっと夢なんだ! お昼寝でもしてるのかも!」
「「「……………」」」
「この頃、変な夢ばっかり見るし! 現実感あっても、きっと夢なんだよ! ああ、よかった。夢か、夢なら変なこと、いっぱいあるよね。ゴリラもいるし隕石も降ってくるし、爪楊枝つっこんだだけで、ご飯もタダになるし! お尻も切れずにスカートだけ切れるし! お祭り中におもらしなんて、ありえるわけないことも起こるし!」
「……お姉ちゃん……少なくとも今は夢じゃないよ。お祭りで漏らしたのも現実」
「またまた。四葉って、いっつもそう。夢の中でも、いちいちうるさいよねぇ。もう、いいから何か美味しい物でも食べに行こうよ。どっかのカフェとかがいい。どうせ夢なんだから楽しく過ごそう!」
「はぁぁぁ……」
「いっそ夢なら、私と四葉が入れ替わって、私が妹で、四葉がお姉ちゃんなら、バランス取れたのにね。しっかりしてるんだから、四葉がお姉ちゃんやってよ」
「自分の情けなさを夢の中だからって開けっぴろげに認めてないで、そろそろ受け止めて。これは現実で夢じゃないの。私とお姉ちゃんが入れ替わり………入れ替わり……近頃のお姉ちゃんって、まるで人格が入れ替わったみたいに、様子がおかしくないですか? テッシーくん、サヤチンさん」
「え……ああ、……そういえば…」
「そういえば……髪型がオールバックのとき……眉毛も剃って描かないで……」
「私の眉毛……ずっと生えない……ぅっ、また、おしっこしたい。うくっ…出る…」
三葉が急激な尿意に身震いしてトイレに向かおうとして、間に合いそうにないので投げ出した。
「どうせ、夢だしいいや。ここでしちゃおう。だいたい、こんな急に漏らしそうなほど、おしっこしたくなるのが夢っぽいし」
プシャ…シャワ…ショワァァ…
強い尿意のわりに少量のおしっこを漏らした三葉は、やっぱり現実感があるので恥ずかしそうにティッシュで拭く。
「ぐすっ……これって起きたらオネショしてるパターンかな……」
「「「…………」」」
「テッシー、あんまりこっち見ないで。夢とはいえ恥ずかしいよ」
「お、おお。…す、すまん」
「テッシー、夢の中でも紳士だね」
「………ま……まあな……いや……夢じゃないぞ、これ」
「そういえば、夢の中にいる神山くんは、どんな人なんだろう? 顔は知ってるけど、会ったことないし。あんな不良たちの中で生き残ってるなんて、すごいなぁ」
「「「…………」」」
「お腹空いた……夢なのに……」
「お姉ちゃん、祝い膳があるよ」
「あ、ありがとう。やっぱり、夢の中は都合がいいね。いただきます」
もう祭りの最中に失禁したのは夢だと思っているので三葉は美味しそうに祝い膳を食べ始める。
「あ、テッシーとサヤチン、夕ご飯は?」
「オレは、もう祭りの屋台で食べたから」
「同じく」
「そっか、夢のわりに状況設定が細かいね」
食べ終えて、お茶も飲んで寛いでいる三葉は、また尿意に震えた。
「ぅぅ……また漏れそう…」
ショワ…
ほんの少しだけショーツを濡らして、またティッシュで拭いている。
「サヤチンさん、これって膀胱炎じゃないかな?」
「うん、私もそう思う」
早耶香が自分のスマフォで膀胱炎について検索している。
「急な尿意で切迫して漏らすこともあるって」
「ふーん……気持ち悪いからパンツ着替えるし、テッシー、あっち向いてて。ま、どうせ夢だから見たいなら見せてあげようか?」
「お姉ちゃん、夢じゃないよ、夢じゃないから」
四葉が悲しくなって目尻に涙を浮かべつつ、せめて克彦と姉の間に立った。克彦も目をそらしている。同じ部屋に男子がいるのに三葉は恥ずかしげもなくパンツを替えると、布団に寝転がった。
「どうせ、そのうちオチがつくよ。テキトーに隕石でも落ちてきて目が覚めるって。これがホントの夢オチみたいな」
「「「…………」」」
「あ……眠くなってきた……これで寝たら目が覚めそう……じゃ、おやすみ」
すべてに対して投げやりに三葉は眠ってしまった。
「……三葉ちゃんは、こんな人じゃなかったはず……」
「ああ……明らかに様子がおかしいよな……」
「たぶん、お姉ちゃんは半分は今が現実だって、わかりつつも、わかりたくなかったんだと思います。お祭りで、あんな失敗をしたから。けれど、それはおいても、人格が入れ替わったみたいに変貌するのは、どう思いますか?」
「そうだな……オールバックのとき、紳士なのかヤンキーなのか、わからない感じになるな。一応、女子として振る舞ってるけど、男っぽい感じだし」
「あの三葉ちゃんは三葉ちゃんじゃないのかも……私に意地悪するような子じゃないし、もしも意地悪しても、あそこまでトボけることはないよ」
「ああ、ちょっと、じっくり観察した方がいいかもな。とくに神山って名は糸守にはいないのに三葉は口にしてるし」
「よろしくお願いします」
すやすやと眠る三葉の寝顔を見つめてから三人は解散した。
いつも通りにクロマティ高校へ登校した高志が、いつも通りに着席しているけれど、その隣にセーラー服を着たミキがいるので林田は気になって訊いた。
「おい、神山、その女は何だ?」
「さあ?」
高志もミキを見てみる。ミキは茶髪だった髪を、さらに明るい色に染めて、パーマをあて、眉毛を剃って、タバコを咥えて着席している。セーラー服は、よく似合っていた。
「「…………」」
「…………」
ここにいて当然という顔で座っているミキは知り合い等に訊いて、クロマティ高校は引き算さえできれば入学できるし、そもそも学籍があるのか、無いのか怪しいゴリラでも何でも、ここにいて当然という顔でいれば、クロ高生になると聞いていたので、その通りにして高志の隣にいた。
「なあ、神山。うちって男子校じゃなかったのか?」
「どうでしょう。ですが、メスのゴリラもいますから」
「なるほど、たしかに。ゴリラのメスがいるんだから人間の女子がいても当然だよな」
「ええ、当然です」
もうクラスメートが増えたことを受け入れる気になっている度量の大きさにミキは、ときめいた。
「神山くんには彼女はいますか?」
「いえ、いません」
「付き合ってください」
「わかりました」
「お! おい! そんな、あっさりOKするのかよ?!」
「ものは試しというでしょう」
「あ、わかった! この女が前に言ってたキープちゃんだな?!」
「は? そんな話をしましたか?」
「おう。してたぜ」
「では、そうなのでしょう。君とボクは、どこかで会ったことがありますか?」
「はい。…………」
女子大生ルックから、郷に入っては郷に従えで、ヤンギャルルックに変えてきたミキは思い出してほしそうにするけれど、かなり風貌が変わっている上、高志にとっては初対面なのでわからない。
「すいません。思い出せません。君の名は?」
「奥寺ミキです」
「わかりました。ミキさん、よろしくお願いします」
「はい」
高志にヤンギャル風の彼女ができた。
前略、お母さん、私に彼女ができました、といっても正確には神山くんの彼女ですし、どのみち夢の中だと思うのですが、とにかく彼女ができました。
「あ、あのときレストランにいた奥寺さん?!」
「思い出してくれたの? うれしい」
クロ高の校風に合わせて、真顔で斜め上ばかりに視線を送っていたミキが笑顔になった。三葉が高志の指でミキのカバンを指す。
「あのときの刺繍があったから」
じゃなきゃ、わからないよ、眉毛も無いしパーマも染髪もキツイし、と三葉は変貌したミキのファッションには引きつつも、刺繍を大事にしてくれているのは嬉しかった。
「けど、この刺繍、あのレストランの制服にしたのに……」
「辞めるついでにパクってカバンに仕立てたの」
「ああ、なるほど」
ワルの世界では、ごく初歩的な略奪行為なので気にもせず二人で楽しく会話して過ごした。
前略、オフクロ様、とうとうボクが宮水三葉でないことを看破されたようです、と高志は克彦の視線を受けて覚悟を決めていた。
「今、オレが神山って呼んだのに返事したよな?」
「………くっ、不覚……」
「お前は誰だ?!」
「こうなっては語りましょう。まずは人のいないところへ」
高志と克彦は教室から体育館裏へ移動した。
「ボクは神山高志、なぜだか、ときどき宮水三葉として行動しています」
「高志って……男なのか?」
「はい」
「…………三葉として行動って……じゃあ、三葉は、どうなってるんだ?」
「おそらくボクの身体に三葉さんの魂が入っていて、ボクとして行動しているでしょう」
「心と身体が入れ替わっているのか……」
「そのようです」
「それで、ずっと様子がおかしかったのか」
「完璧に成りすましたつもりでしたが、とうとうバレてしまいましたか。で、どうします?」
「……どうって?」
「これを公表したところで意味はないでしょう。みなが信じる信じないはおいて、このまま、そっとしておいてもらえませんか? 私は三葉さんの生活を守ってあげたいのです」
「守るって……、お前! 三葉の生活をメチャクチャにしてるじゃないか!」
「そうですか……努力はしているのですが……まだ、足りませんか。ウラ番としての迫力が……」
「何言ってるんだ?! んなことじゃなくて、おもらしてやるなよ!!」
「あれはお茶です」
「お茶じゃねぇだろ?!」
「お茶です」
高志が三葉の顔でメンチを切る。キスしそうなほど三葉の顔に迫られると、克彦は怖いというより照れて、目をそらした。
「と、とにかくだ。どう見ても、おもらしだし。何の恨みがあって三葉の学校生活を破壊するんだ? おもらしなんかされたら、恥ずかしくて学校これなくなるだろ」
「…………。では、テッシー、君なら、どうします? このパンツを脱がせますか? そして拭きますか? そんなことを見知らぬ男子にされて、三葉さんが傷つくと思いませんか?」
「な…………た……たしかに………そうか。あのときの質問は……」
「三葉さんのパンツの奥を見ていいのは、三葉さんが選んだ男子だけです」
「そ……そうか……お前は、いつでも三葉の身体を自由にできるのに……ずっとパンツを脱がないために限界まで我慢して……漏らしてからも着替えなかったのか……」
「人として女性への当然の配慮です」
「………お前、……なんて紳士なんだ……」
「わかってくれましたか」
「ああ、尊敬するぜ」
高志と克彦は気脈を通じ合った。
前略、神山くん、あなたと私が入れ替わっていることをテッシーから聞きました。ずっと夢だと思っていましたが、現実だったんですね。ちょっとショックです。いえ、かなりショックです。
まだ動揺しているので、一つだけ今はお願いします。
おもらししないでください。お願いします。
前略、三葉さん、わかりました。最大限の努力をして我慢します。
最高記録では帰りのHRまで我慢できています。あと少しで帰宅まで我慢できるでしょう。ご期待ください。
前略、ちゃんとトイレに行って!!!
前略、お言葉を返すようですが、トイレに入るということは密室になりますし、三葉さんの下着をおろし、大切なところをボクの視線に晒してしまうことになります。
それでも、よろしいですか。
また、用を足した後には拭き取ることになるかと思いますが、触ってもよいものですか。
前略、私の身体に配慮してくれたことは嬉しいです。ある面で神山くんは、とても紳士なのかもしれません。でも、私は神山くんの身体で、なるべく見ないように、あんまり触らないように、ちゃんとトイレで済ませています。
私の身体のときも、目を閉じて済ませてください。
あと眉毛は剃らないで!!
前略、ボクも紳士として振る舞いたいと常々心がけて生きているのですが、女性経験は無く、最近彼女はできましたが、いまだ童貞です。
そんなボクが三葉さんのパンツをおろしてしまったら、必ず理性的でいられるという保証は無いのです。男は野獣と言うじゃないですか、目を閉じていても拭くときに触ったら本能が爆発するかもしれません。
ちょっと自信がないのでパンツをおろすのは遠慮させてください。
眉毛の件は了解しました。ですが、三葉さんのお顔は大変に可愛らしいので、迫力に欠けるかもしれませんよ。いっそ、剃り込みを入れるのは、どうでしょうか。
三葉は高志からの書き置きを読んで、朝から絶叫する。
「ああああああああ!! もうイヤ!! お母さん、助けて!!」
「お姉ちゃん、大変そうだね」
「週に2、3回も、おもらしする女子高生って、どうよ?!」
「……かなしいね……オムツでも着けて登校する?」
「それもイヤ!!」
「だよね。でも、まあ、男の子からすると、女の子のパンツをおろすのは覚悟がいるのかもよ?」
四葉も書き置きを読みつつ、姉に同情している。
「私だって好きこのんで男子トイレに入って立って済ませてるわけじゃないのに!」
「まあ、男だと見られるダメージは少ないよね。見たお姉ちゃんも、それで、どうこうするわけじゃないし。男の子の方は興奮しちゃうかもっていうのは、あるのかもね。膀胱炎は大丈夫?」
「うん、薬をもらったから。くっ……あいつのせいで、私が私のときまで何度も、おもらしして死ぬほど恥ずかしかったんだから。今度、あいつになったら、竹ノ内くんに頼んでボコボコに殴ってもらおうかな」
「やめときなよ。一蓮托生なんだし。一番に痛い思いをするのはお姉ちゃんだよ」
「そうだけど……」
「朝ご飯できてるよ」
「はぁぁ……やっと眉毛だけは生えてくれるかな……この入れ替わり現象、いつまで続くのかな……一生だったらゾッとする……」
仕方なく朝食をとった三葉は通学路に出た。
「おはよう、三葉ちゃん」
「おはよう、三葉」
「おはようございます、三葉様」
「おはようございます、宮水様」
「………うん、おはよう」
もう変な友人がいることも諦めつつ、三葉は切なげに空を見上げた。
「あ……彗星……もう肉眼でも見えるんだ」
克彦も陽光を手で遮りつつ、空を見る。
「明日、最接近らしいな。昼間でも見えるようになってきた」
「いっそ、糸守高にも隕石が落ちて、私のおもらしのことも、みんな忘れちゃうような事態にならないかなぁ」
「おいおい、それは危ないだろ」
「大丈夫だって、タイミングよく学校に誰もいないときに、学校だけ無くなる感じにさ。クロ高だと、よくあるよ。そういうこと」
三葉は再び彗星を見上げると、ほどほどに落ちてきて欲しいと祈った。