ルヴィア邸 客間
士郎「立派な屋敷だなー遠坂家くらいあるかな」
凛「どうでもいいわ……」
執事「お飲み物はいかがなさいますか?」
凛「紅茶で」
士郎「自分も同じで」
執事「畏まりました」カチャ
ルヴィア「さて。正直わたくしはシロウの事を詳しく聞きたいですけども、アナタが襲われた事について喋ってもよろしくてよ」
凛「士郎、帰るわよ」
士郎「まぁ待てよ。ルヴィアがいたおかげで遠坂の場所が分かったんだ。今回の事も協力してくれるようだし、な?」
凛「はぁ……。ホントついてないわ」
士郎「で、実際どうしてあんなとこいたんだ?」
凛「……記憶に無いのよね。意識を奪われたというか、気付いたら眠らされたのが近いかしら? どうやって私を連れて行ったかは分からない。気付いた時は、あの紙の人形が私を襲ってきて……いや多分私を抑えつけようとしたんだわ。私が抵抗したから襲いかかったんだと思う」
士郎「よく気が付いたな」
凛「護身用の宝石が私を覚醒させたのよ、でもおかしいの」
士郎「眠らされた時に発動しなかった?」
凛「それもあるけど……。私は魔術に対する抵抗措置をしているの。例え無意識でも私に対して呪いのようなものを仕掛ければ私は気付くし、ある程度の抵抗が出来る。けど今回はそれが効果がなかった。……私は何か物理的な、科学薬品を使われたと思うんだけど」
ルヴィア「あるいは間接的に呪いをかけたのかも」
凛「どういうこと?」
ルヴィア「これを見なさい。今もう感じませんが、拾った時には微かな魔力を感じました」
士郎「ルヴィアが遠坂のベンチで見つけた紙きれだな」
ルヴィア「えぇ。調べたところ、わたくし達を襲った紙人形と同じ紙質のようですわ」
凛「見せて……何も書いてないわね。六センチ三センチくらいの長方形、紙の種類は分からないけど、何か特別な紙かしら? 今は何も感じないってことは本当に僅かな魔力だったのね」
士郎「気付かないか?」
凛「うっ!? 意識してないと分からないわ」
ルヴィア「私は気付きました。おおかたデートに浮かれてたんでしょう?」
士郎「遠坂おまえ……」
凛「うるさいわね! こっち見るな!相手が上手にやったんでしょ!」
ルヴィア「……その紙、本当に何も書いてないのか、それとも何か書いてあったのか」
凛「そうね。やってみましょう」
士郎「なんだ?」
ルヴィアは最初から察していたのか水差しとペーパーナイフを持ってくる。
凛「私がやるわ。……っ」
凛は自らの指を軽く切ると滲み出た血を水差しに垂らした
凛「この水は聖水、本来なら穢れるとその力を失うのだけれど魔術師の血を混ぜるとちょっとした検査薬になるの」
凛は皿の上に紙を置き、その水をかける。
しばらくすると白い紙にうっすらと赤い文字のようなものが浮かび上がってきた。
士郎「これは……」
凛「見えないように細工された魔術式よ。最初から見えないようになっているか、術を使用すると消えたりだとか色々あるけど」
凛「血の色で見えるようにしたの。私の血に含まれる僅かな魔力と消えた術式を結びつけて、聖水の魔を祓う力で浮き上がらせたのよ」
士郎「なるほどな。……で、この浮き出た模様と紙の感じといい御札みたいだな。神社とかお寺で見たような感じだけど」
凛「梵字……に見えるけどちょっと違うわね」
ルヴィア「梵字を崩して別の魔術系統の魔方陣に組み込んだのかしら……ここまで弄るとほとんどオリジナルですわね」
凛「参ったわね、私こっち系の魔術は疎いわ」
ルヴィア「日本に住んでいたのに情けないですわね!」
凛「うるさいわね! 日本の魔術はいろんな文化が入り乱れてガラパゴス状態なのよ!お盆を迎えてクリスマスを祝うのよ!」
ルヴィア「日本人はまったく……」
士郎「ん~。あの紙人形といい、札といい、陰陽道ぽいけど……確かあれって魔術じゃないんだよな?」
ルヴィア「いえ陰陽道は魔術に通じるものですけど……紙人形はともかく、基本的に他の魔術と同じ呪術を使う以上、魔力を使うはずですわ。仮に呪術をかけるくらいの魔力を込めた場合、普通の魔術師ならそれに気付くはずですわ」チラッ
凛「ふん! ……けど士郎が当たりかも。相手は陰陽道に精通してるわね」
凛「陰陽道系の魔術は瞑想、トランス状態が基本にあるの。私達の魔術でももちろん使うけど、こっちの基本は集中。意識を自然に戻すやり方は向こうが上手いの」
ルヴィア「なるほど、そういうことですの」
士郎「え、どういうことだ?」
凛「無理矢理、眠らせたんじゃなくて『自然に眠らせた』のよ。体をゆっくりと自然体にさせて自発的に眠気を起こした。確実じゃないけど気付かれずに相手を眠らせられるわ。そして、そう。私が眠ってしまったあとに、呪文で『本当に』眠らせたんだわ」
士郎「相手の目的はなんなんだ? わざわざそんな周りくどい手を使って遠坂を誘拐するなんて。……何か恨まれたりとかあるのか?」
凛「………………」
士郎(わりと思い当たることがあるようだ)
ルヴィア「ふん。相手を見れば分かることですわ」
凛「どういうこと?」
ルヴィア「わたくしあのモールの新しいオーナーと知り合いですの。今日だってそのオーナーに食事会に誘われましたのに緊急の用事が出来たとかで無しにされて……本当に無礼ですわ!やはり――」
凛「ちょっとちょっと、そうじゃなくて相手を見ればってどういうこと?」
ルヴィア「防犯カメラの映像を寄越すよう言いましたの。ミス・トオサカを襲った犯人が写ってる可能性は高いでしょう」
士郎「凄いなルヴィア!」
ルヴィア「ふふふ。これが出来る淑女ですわ!」
凛(どういう淑女よ……)
執事「お嬢様それが……」
ルヴィア「どうしたの?」
執事「はい。向こう方が言うには改装工事で電気回線の一部を止めており、外の防犯カメラは起動されてないとのことで……」
ルヴィア「なんて使えないのかしら! それとも協会に繋がってるのをいいことにエーデルフェルト家を舐めているのかしら!? ジィ! もう二度と関わらないようにしなさい!」
執事「はいお嬢様」
凛「……ねぇ、オールドストーンモールって協会の会社なの?」
ルヴィア「このロンドンの、特に時計塔まわりにある大きな企業は魔術協会と何らかの関わりがありますわ。あのモールはそもそもクルイド魔術会の所有物だったのだけれど、さっき言った違う会社のオーナーが買い取ったのよ」
士郎「……クルイド魔術会」
凛「まさか昨日の今日よ? ……でも今のところそれ以外に繋がりが見えないわ」
ルヴィア「知っていますの?」
士郎「あぁ、昨日遠坂がその魔術会に誘われたんだ」
凛「今思えば、あの株主優待チケットはモールに誘き寄せる罠?」
士郎「けれどオールドストーンモールに行くなんて言ってないぞ?」
ルヴィア「……怪しいことこの上ないわね。ジィ!」
執事「はいお嬢様」
ルヴィア「クルイド魔術会について調べて。…………ついでにオールドストーンモールとその新しいオーナーについてもね」
執事「わかりました」
ルヴィア「……ミス・トオサカ、これは借りですわよ?」
凛「何言ってんの、その借りは士郎が紙人形から助けた事でチャラよ」
ルヴィア「それはシロウの借りですわ!ねぇシロウ? なんでこの女をパートナーに選びましたの?」
士郎「え、遠坂はいいやつだぞ?頼りになるし、俺に魔術を教えてくれるし、ロンドンまで俺を連れて来てくれたし。……なんだかんだで優しいしな」にっこり
凛「む~~~~」顔真っ赤
ルヴィア「……………」
士郎「ん?」
ルヴィア「ふーん……アナタ日本人の割りになかなか紳士ね。ますます気に入ったわ!」
凛「ちょっとぉ!」
ルヴィア「シロウ、アナタ今夜はここに泊まりなさい。アナタの事よく教えてくれるのでしょう?」
士郎「え、あの遠坂は?」
ルヴィア「ミス・トオサカ、アナタも泊まりなさい。アナタが襲われるのは構わないけどシロウが同じ目に合うのは可哀想だもの」
凛「ムッ!……そうね、そうするわ。もちろん士郎と私は同じ部屋にさせてもらうわよ。……ねぇ士郎? 私襲われたショックで眠れないわ、眠れるまで一緒にいましょ?」
士郎「お、おい、遠坂!?」
――――ブチッ
ルヴィア「我が屋敷のベッドを汚す覚悟があるなら、まずはこの家の主を倒してからにすることね!」袖チギリッ!!
凛「人の弟子にちょっかいかけて偉そうに言ってんじゃないわよ!」八極拳の構え!!
士郎「またかよっ!!」
翌日の朝 時計塔近くの通り
士郎「いいのか工房に行くなんて。ルヴィアからの情報を待ってからでもいいんじゃないか?」
凛「入学まであと四日よ?一日だってもったいないわ。それに向こうから仕掛けてくれた方が手っ取り早くていいわ、返り討ちよ!」
士郎(昨日の誘拐未遂で不覚をとったこと相当根に持ってるな……当たり前か)
士郎「しかしルヴィアが聖杯戦争の事知ってたなんてな。……昨日の事といい、あいつ味方になってくれると頼もしいな」
凛「味方じゃないわ、敵よ敵!あいつにやられたノーザンライトボムのせいでまだ首が痛いわ!」
士郎「あははは……」(その後二人でお風呂入ってたのはなんなんだ……)
凛「!?」立ち止まる凛
士郎「どうした?」
凛の視線の先を追うと高そうなスーツに身を包んだ中年の男が立っていた。
???「……初めてましてだね遠坂君。私は時計塔第二魔術研究機関室長、そしてクルイド魔術会の長でもある。クルイド・メルフェール・サナモンだ。……よろしく」
男は握手でも求めるように士郎達へ近づく。
前に出る士郎を凛が止める。
凛「……お会いできて光栄ですわ、ミスター・クルイド。しかし残念ですわ『昨日の件』のせいで右手を痛めてますの。握手は無理そうです」
凛の言葉に立ち止まると男はすまなそうな顔で両手を広げた。
「流石だ遠坂君。いや、本当にすまない。謝って済む問題ではないがね。『アレ』はこちらの伝達ミスなんだ……あ~お時間いいかね?そっちのボーイフレンドも?」
凛「……えぇ」
某コーヒーショップ
クルイド「学生の頃はこのようななんの風情もない喫茶店は嫌いだったのだが。忙しい身になり、こちらの方が正しい形のようにさえ思うようになった。金を払いコーヒーを買う。それだけでいいと思える人間が余った時間で世の中を動かすのだ」
凛「……私達とのおしゃべりも無駄な時間ですか?」
クルイド「ハッハッハッ。皮肉を言ったわけじゃないんだ。えーと今ちょうど9時だから……331時間振りに時計塔を出て少し気分が高ぶってるんだ。……日本語上手だろ?日本のビジネスマンとやり合う為に覚えたんだ。あいつらなかなかヤり手でね、こっちも儲けたが奴らはもっと儲けたよ。……おっとすまない無駄話が過ぎたな」
凛「いえ。失礼かも知れませんが、思ったより明るい方で驚きましたの」
クルイド「フフ。まぁ魔術師で更に研究者なんて社交性や人間性なんてありゃしないのが大半さ。私は結構お話好きの、人間好きでね。人と関わるのが好きなのさ。研究のインスピレーションはいつも他人との会話が始まりで――」
凛「話を! 遮って悪いですが、さっきの返し。昨日の件、クルイド魔術会が関わってるを認めるのですね?」
クルイド「あぁそうだよ」
士郎「……おい、あんたふざけてんのか!?」ガタッ
クルイド「おいおいやめてくれよ恋人君、君に睨まれると私は怖い」
凛「士郎待って」
士郎「遠坂にしたこと分かってのか?何をしようとしたかは知らないが、遠坂に乱暴したのがアンタだって分かった以上俺はアンタを許さない」
クルイド「いや、ホントすまないね……。私はあんな命令だしてないんだよ。私はフルイシを使って平和的に君達を仲間にしたかったんだが、私の研究チームには早く研究を進めたい連中がいてね。勝手に物事を進めたのさ」
凛「……単刀直入に聞きます。アナタ達は私の『何が』欲しいのですか?」
クルイド「……君自身優秀さ。経歴を見たが才能と努力を感じる」
クルイド「だか何より!」
クルイド「『あの戦争』を体験した証を持っている!刻まれた魔術師の証を持っている!」
――――私が欲しいのは令呪が刻まれた君の魔術回路だ
冷たい空気が流れる。
凛「言っている意味が分かってるの!? 『内蔵をくれ』と言っているのと同じようなものよ!」
クルイド「分かるよ君達より大分先輩魔術師さ。よくわかる。でも研究させて欲しいんだ」
凛「もう令呪は消えたわ! 何も残ってない!」
クルイド「いや残ってるんだ、刻まれてる。令呪の仕組みをはっきりと理解してるわけじゃないんだが、令呪が刻まれた時、その仕組みが魔術回路に刻まれてるはずなんだ、多分、おそらく! ――だから調べたいんだ!!」
士郎「待て! なんで遠坂なんだ! 俺にも令呪は刻まれたぞ!」
凛「バカッ!!」
クルイド「へーそうか。じゃあ君も貰う。……でも一番は君の魔術回路だ遠坂君。なんたって君の魔術回路はあのシステムを造った始まりの御三家なのだから!」
凛「なにを――!!?」
クルイド「調べたからね『331時間』!! なぁいいだろう? 君の魔術回路、研究させてくれよぉ~~」
士郎「凛っ!!」
凛「こいつイカれてるわ!」
クルイド「……残念だよ。それを調べれば『スイッチ』が完成するかも知れないのに、いや、私は諦めない絶対に諦められない!」
店内の空気が変わる
日常から非日常へと
――――魔術師の夜が始まる
魔術師にとって『争い』は常に想定されている事態である。
それは魔術(世界の神秘)を追求するという行為は他のそれ以外の人々にとって不理解と脅威にしかならないからだ。
そしてその事を一番理解しているのは魔術師自身に他ならない。
魔術師は知っている。
ある日世界に突然異形の怪物が暴れまわっていても。
神を名乗る奇跡の代行者が大地を海に沈めても。
それはあり得る事で『仕方がない』ことだからだ。
魔術師は理解してる。魔術を追求するならば、平穏などないことを。
時計塔 周辺の???
士郎は一人でそこにいた。何処かは分からないが周りの景色を見てどうやらどこかの廃ビルの中のようだ。
士郎「遠坂! 遠坂ー!!」
???「ここにはいませんよ」
士郎「アンタ……フルイシか?」
フルイシ「彼女は今、偉大な研究のお手伝いをしているんです。邪魔しないで欲しいですね」
士郎「俺達に何をした!?」
フルイシ「色々と仕込みましてね、転移させてもらいました。彼女はともかく、君に暴れられると困る。……あそこのコーヒーショップは私の傘下が管理してる店でしてね。まぁこの周辺の店はだいたいそうです」
士郎「お前分かっているのか? クルイドはまともじゃない。それを手助けしているお前だって!」
フルイシ「いや、彼はまともだ。他の魔術研究者に比べれば。世のため人のために魔術を追求している」
フルイシ「君はどうですか衛宮君? 何故魔術を学ぶ? 自分の名声の為ですか? 世の真理を見つける為ですか?」
士郎「話にならないな。そういう話は遠坂を俺の目の前に連れて来てからするんだな!」
士郎(――トレース、オン)
フルイシ「やれやれですね。もう少しお話をしたかったですが、やはりそうはいきませんか」バッ
フルイシが懐から一枚の紙を出すと呪言を唱える。
フルイシ「――開前敵滅、急急如律令」
紙が燃え上がり、士郎の周りに備えられていた複数の人型の紙が動き出す。
紙人形「オーーン」
士郎「あれはお前だったのか!」
干将莫耶を完成させ構える士郎。
フルイシ「クルイド様は私に勧誘するよう言いましたが……私には解るのです。君らが私達の仲間にならない事が」
フルイシの眼が人間ではあり得ないほど怪しく光る。
フルイシ「この義眼はクルイド様お手製でしてね。相手の心理状態が色で分かります。また私が念じれば、アナタ達が意識しなくともアナタ達の『本質』が私の質問に答えてくれます。そしてそれはほぼ間違いなく揺るがない答えなのです」
士郎「そうかよ!」
紙人形に斬りかかる士郎。瞬く間に一体を切り伏せる。が、数が多い。
フルイシ「アナタ方は特別です。普通の人、魔術師だろうが人は欲に弱いものです。金であったり名誉であったり。遠坂凛は金と名誉を欲していたが本質では金や名誉で買えない『平穏』を望んでいた。しかしそれでも彼女だけなら我々の仲間にできたかも知れない。だが――」
フルイシ「君だけは無理だ。君だけは! 君は何なんだ? どうやったら君みたいな普通の人間でありながらその様な『本質』を持てる? まるで神話の英雄のようだ。人の形をした剣だ! そして彼女は君を受け入れている。私は君が恐ろしいのに!」
士郎「人を化け物みたいに言いやがって!」
フルイシ「化け物ですよ君は。だから私は諦めて彼女を頂くとしました。君の側にいる限り彼女もまた普通ではないですからね」
士郎「…………」
士郎は紙人形を倒していく。数の多かった紙人形が残り数体になっていく。
フルイシ「君は私の式紙をあっさり倒しますが、その式紙はそれが炎だろうが魔術的なものならば、ほとんど通用しない魔術師殺しの特別性です。どうやらアナタの投影した剣には意味をなさないようですが」
士郎「ならさっさと諦めるんだな。遠坂はどこだ!」
全ての式紙を倒した士郎がフルイシに向かう。
フルイシ「……私は特別強いわけではありません。日本の古い寺で産まれ、両親は私に陰陽術を教えました」
フルイシ「両親は先祖代々、権力者達の運勢を占う陰陽師でした。しかし両親の代ではその力が失われてきたのです。両親は産まれたばかりの私の目を潰しました。盲(めしい)の者は霊能が強いと信じられてきたからです」
フルイシは溜め息をつく。
フルイシ「それは成功し、私は力を得ました。しかしそれは何の意味もありませんでした。彼ら(権力者)は私の力が本物であろうとなかろうと関係なかったのです。ただ心から『安心』したいだけなのです。私が占ったことなど構わず決断し、成功し、失敗する!」
士郎「お前の話は聞き飽きた。遠坂の居場所を言わないなら、料理も出来ないような身体にするぞ?」
フルイシ「……そんな下らない理由で奪われた私の光をクルイド様は再び私に下さったのだ! 人間の『本質』を教えてくれたのだ! もう誰にも私の『光』は奪わせない!」バッ!
フルイシはいつの間にか手にしていたスタングレネードを士郎に放り投げた。
士郎「なっ!? うわっ!!?」
危険を察知しビルの柱の裏まで駆け出す。強烈な光と音がビルのフロアに溢れる。
フルイシ「殺しはしない、君も令呪を刻んだ者ですからね。……私には尊敬する魔術師が二人いる。一人はクルイド様。もう一人はどんな手段を使ってでも目的を果たす非情の魔術師だ。さぁ君の『本質』を見せてくれ」
――――――――――――――――――――――――――――――
士郎「くそ、どうする?!」
光が消えるとフルイシの姿はなかった。
士郎は携帯電話を使おうとするが圏外になる。ビル自体に何かの妨害があるようだ。
窓から外を見ると最低でも10階以上はあるだろうビルの高さに目眩いした。
士郎「…………」
ビルから脱出すれば何とかなる。士郎は意識を集中する。
士郎(――同調、開始)
ビルの構造を掴もうとする。
士郎(俺の理解を越えたモノだが――俺の予想外れてくれ!)
ビルの全体の幾つかに士郎の理解できるモノがあった。
士郎「……まいったな、トラップだらけだ」
ビル全体にトラップが仕掛けてあった。屋上から下の玄関口、非常階段まで。全ての箇所に凶器がセットされていた。
把握出来ないモノも含めれば、通常手段の脱出は困難だろう。
士郎「セイバーがいれば、多少の無茶は出来たんだけどな……」
しかしやらねばならぬ。士郎は決心する。
――――――――――――――――――――――――――――――
フルイシ「さてどうするか……」
ビルの外で複数の部下と共にフルイシは待ち構えていた。
フルイシの任務は士郎をビルに閉じ込めること。
複数人で押さえつけて制圧してもよかったが、士郎の不気味な強さにフルイシは警戒した。
正直なところ、正面からの戦闘ならば、例えフル装備の特殊部隊や熟練の魔術師達でも士郎には勝てないような気さえした。
フルイシ(それでも私はやり遂げる)
占い客の一人が話した一人の男の話。
殺しの為に策を使い、罠を使い、銃を使い、魔術をも使うという外法の殺し屋。
他の魔術師から忌み嫌われ侮蔑を受ける彼。
人の世と魔術師の世の間(あいだ)で生きていたフルイシには彼に対する魔術師が感じる侮蔑は無い。
興味を持ち、彼を調べる程に何か強い希望(ねがい)を求める、信念のようなモノを感じさえした。
きっと彼もそこまでしても欲しいモノがあったのだろう。
目を閉じるフルイシ。
(さぁ眼を開けたまえ・・・・・・そうか見えるか!)
(医療チームと共同研究で開発した魔眼だが、いい商品が出来たな)
(ん? 魔術をそんな風に使っていいのかって? ハハッ、フルイシ君古いね~)
(いつだって魔術は人の世で便利に使われてきたもんさ。君の占いだってそうだろ?)
(ならせいぜい使ってやろうじゃないか、便利にさ。まぁ現状怖い人達が見張っていてなかなか出来んがね)
(それでもだ。私には夢があるのだよ――――)
フルイシ「私はクルイド様の夢をかなえる」
目を開き、ビルを見上げる。
遠坂凛の存在が気になる以上、彼は間違いなく動く。
フルイシ「彼が普通の人間ならトラップにハマってくれるだろう。魔術師ならビルから飛び降りるだろうが、……我々がそれを許さない」
出来れば生け捕りがいいが……無理なら殺すしかない。要は魔術回路を手にいれることが出来ればいいのだ。
フルイシ「衛宮士郎君、君が魔術師として来るならば。飛び降りる最中を『銃弾』と『呪術』で狙い撃つ」
――――――――――――――――――――――――――――――
士郎は『あの時』をイメージする。あれは『アイツ』が作った贋作だがそれは確かにあの場所にあった。
士郎は埋葬された剣の丘を歩く。
士郎「――トレース、オン」
魔術回路に魔力が通る。
今この瞬間の心配は成功するかどうかじゃない。
魔術回路が士郎の無茶に答える為、唸りだす。全身がズタズタになるような激しい痛みが襲う。
俺の身体が文句を言うように軋みを上げる。
何の為に無茶をする?
自分の生命よりも大事なモノか?
――――遠坂凛を助けること
当たり前だろ!!
士郎「――体は剣で出来ている」
士郎は窓ガラスに向かって走り出す。
――――――――――――――――――――――――――――――
フルイシ「!? 愚かな! 撃て!!」
士郎がビルから飛び降りるのを確認するとフルイシは躊躇なく命令を下した。
銃弾。呪い。あらゆる殺意が士郎に迫る。
士郎「――――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」
士郎の身体を包むように一枚の花びらが咲いた。
本来それは七つの花びらの内の一枚に過ぎないものだが、その一枚で十分だった。
士郎に向けられた殺意など『英雄の殺意』一枚分にも満たないものだった。
フルイシ「なんだとぉっ!!?」
士郎の着地の衝撃で花びらは砕け散る。
士郎「ウオオオッーー!!」
身体の故障など無視して即座に干将莫耶を投影し、莫耶を銃を持ったフルイシの部下に投げつける。
莫耶はまるで意思を持った鎌のようにフルイシの部下を次々と切り刻む。
慌てる部下達。その隙を士郎は逃さない。隊列を組む暇など与えず容赦なく斬り込んでいく。
士郎の剣幕と先ほど見た異質な魔術に魔術師が怯える。
魔術師だけが分かる士郎の異常な投影魔術に恐怖したのだ。一人が奇声を上げ逃げ出すと一人、また一人と逃げ出す。
銃を持った戦闘員を全員戦闘不能にすると士郎はフルイシに向きあった。
フルイシ「やはり君は恐ろしい!!――しかし!」
フルイシは両手に札を持つ。一枚、一枚が人一人呪い殺せる魔力が秘めている。
フルイシ「死ねえっ!!」
投げられた札が生者を求め這い寄る霊のように士郎に迫る。
士郎は止まらない。
士郎は両手の干将莫耶を投擲した。干将莫耶は札を切り裂きそのままフルイシの肩に突き刺さる。
フルイシ「グッ!――ま、まだ、何ィ!!?」
よろけるフルイシが次に見たのは再び投影した干将莫耶を構えた士郎の姿だった。
フルイシ「――――クルイド様っ!!」
『×』に切り裂かれ倒れるフルイシ。
そのまま彼は動かなくなった。
士郎「ハァッ、ハァッ――――」
肩で息をしたまま士郎は歩き出す。フルイシ達が立ち退かせたのか、歩く人すら見当たらない。
ビルから離れた所にあったバス停にもたれかかる。
携帯電話を見る。使えるようになったようだが遠坂からの着信はない。こちらからかけるが繋がらない。
士郎「ハアッ……ハアッ……」
士郎は少し考えると最近アドレス帳に載ったある人物に電話をかける。
この異国の地で唯一の味方であり、最大の味方になる人物に。
ルヴィア「大丈夫よシロウ――お任せなさい」