関西将棋会館から歩いて10分もかからない場所に我が家はある。
古く小汚いアパートではあるが、住めば都だ。
ドアを開きながら、俺は天衣に声をかける。
「さあ、お嬢様。ようこそ我が家へ」
だが、天衣は動かぬまま、怪訝そうに問いかけてくる。
「ちょっと、鍵をかけ忘れていたの?」
「鍵はいつもかけていないんだ。特に取られて困るものもないし。普段は清滝一門や、若手棋士のだれかが勝手に来てて溜まり場になっているんだけど、さすがにこの時間には誰も来てないだろうな」
「不用心ね。治安最悪の大阪でそんな暢気で居たら、命の一つや二つ失っていそうなものだけれど」
「おい。やめろ。そうやってすぐ大阪をディスるのは、神戸人・京都人の悪い癖だぞ?同じ関西、実際はそう変わらねぇよ」
「そうかしら?その意見には全く同意できないのだけど・・・」
そう言って、決して動こうとはしない天衣を安心させるため、仕方なく俺が先に入る。
「ただいま~!だ~れもいませんねぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
思わず、声が裏返ってしまう。
見知らぬ女の子が――天衣と同じくらいの小学生に見える女の子が俺の部屋にいた。
そして、溌剌とした声を俺にかける。
「おかえりなさいませ!お師匠様っ!!」
あ・・・ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺は無人の部屋だと思って扉をあけたら、中にかわいいJSがいた』
な・・・何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった・・・。
頭がどうにかなりそうだった・・・催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ・・・
などと言っている場合かーー!!
天衣は俺を幼女誘拐犯か性犯罪者かのような眼で見てくる。
いや、事実そう思っているのだろう。
俺だって師匠の部屋に突然見知らぬ幼女がいたら黙って110番する。そういうものだ。
俺は必死に、自分は知らないということをボディランゲージで天衣に送った後、事実関係を把握するため、謎のJSへ向き直る。
天衣とは雰囲気が全く異なり、どちらかといえば『カワイイ』を突き詰めたような天真爛漫系JSに見える。
だが、なぜか俺の中のS心に違和感を感じる・・・。
警戒している?――これは怯えているのか?
なぜ、こんなかわいいJSに?―――いや、きっと気のせいだな。
俺は、その違和感を追いやり、目の前のJSに話しかける。
「ええと・・・・きみは?どうして俺の部屋にいるの?」
「はい!あの、くじゅりゅうやいち!先生でいらっしゃいますよね!?」
JSは若干噛みつつ、そう聞いてくる。
「そうですが・・・・・」
「約束通り、弟子にしてもらいにきました!!」
・・・・は?
「え?弟子?・・・俺が?弟子にするって約束したの?きみを?」
「はい!!」
はっきり言い切る前門のJS。殺気を膨れあがらせる後門のJS。
さらに焦る俺。
「え?いつ?」
「え?あの。去年の竜王戦最終局で・・・・」
「うん」
「廊下で倒れられていた先生にお水をさしあげて・・・・」
「そのお礼に、弟子にしてあげるっていった?」
「いえ、正確にはちょっと違って・・・・」
「うん?」
「『タイトル獲ったら何でも言うことを聞いてあげる』って」
「Oh―――」
ついには背中に何度も蹴りがぶつけられるようになる。
小さく、非力な足なのであまり痛くはないが、感情は伝わってくる。
大変怒っていらっしゃる・・・。
※ちなみに過去の竜王戦の詳細については原作1巻(神)を(以下略)
将棋の神様が『名人にしてやるから、う○こ食え』って言ったら、あの日あの時、師匠が放った
タイトルがかかった、あの場面でならそんな約束をしていても全くおかしくない。
それに、せっかく俺を頼ってきてくれたのだ。
無下にはしたくない。が、後ろの愛弟子も気にかかる。
何とか穏便にお帰りいただくとするか・・・。
「わかった。約束は守る」
「ほんとですか!?」
喜びを露わにするJS。かわいい。が、良心が痛む。
「でも、まず試験してからだ」
「しけん・・・・?」
一転、JSは緊張に身を固くする。かわいい。が、S心が軋む。
「将棋の世界は厳しい。君にやっていくだけの力があるか見せてくれ」
そう言って、俺は部屋の中にJSを計2名連れ込んだ。だが、事案ではない。
そうして、将棋の道を諦めさせるために仕掛けた対局で、俺は彼女の才能に驚嘆することになる。
天衣の時もそうだったが、どうやら俺に将棋の才能を一目で見抜くような力はなかったらしい―――
■原作との違い
・本イベントの発生、3日遅れ
・八一、目覚めたてのS的直感を信じられず、修正力の介入を許す【悲報】
・八一、現時点で両手にJS状態に【朗報?】
今回は、天ちゃんとあいの直接対決はありませんでしたが、
次回から、バチバチやり合う予定です。こうご期待!