その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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16.顕示、私の先生

「飛べよぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

 飛べませんでした。

 俺は世界線変動率1%の壁を破ることはできなかった。

 そして、人生にはCtrlキーもAltキーもDeleteキーもないのだ。

 

 だからこうして土下座している。

 なお、土下座する前に既に俺をサンドバッグとした3分1R×3R制のキックボクシングスパーが行われていることは言及しておく。そのボロキレ状態から土下座体勢に移行し、今に至る。俺はもうダメかもしれない。

 

 これから始まるのは俺の裁判だ。裁判官:姉弟子、検察:姉弟子、弁護人:姉弟子の。

 全部姉弟子じゃねぇか。

 だが俺は今、弁明をする機会を与えられている。やるだけはやってみようと思う。

 

「全ては事故! 俺は世間に恥じるようなことは何一つしていません!」

 

「で?」

 

 っうぐ……でも負けない!

 

「こちら、雛鶴あいさん。俺の弟子になりたいっていって、一人で! 北陸から! 出てきたんです。姉弟子ならそんな女の子を放り出せますか? この大阪に」

 

 大阪の治安をディスるなと天衣には言ったが、こういうときは便利に使える。最高だな大阪。

 姉弟子は一旦矛先を納めた。

 

「そう、じゃあそっちの子は?」

 

 今度は天衣か。こっちはある意味楽だな。

 

「こちら、夜叉神天衣さん。俺の弟子です」

 

「弟子? あんたに?」

 

「そうです。月光会長も師匠もご存じのことです」

 

「……そう。で、なんでその弟子が今日ここにいるの?」

 

 ……ん? これは微妙な一手だな。慎重に返さないとまずい気がする。

 整理しよう。あいちゃんは勝手にあがりこんでた。これは言い訳がつく。転じて天衣。俺が誘った。それはなぜか。電車が動いていなかったから。なぜそんな時間までいっしょにいたか。連敗ストップがかかった歩夢との対局を弟子として応援しに来てくれたから。うん丁寧に説明すれば十分理解してもらえるだろう。

 そうして俺が長考に入っている間に天衣が手をあげていた。

 

「わたしからご説明します。空女王。」

 

「……お願いするわ」

 

 え? ちょ、天衣?

 

「昨晩は八一先生とともに夜を明かしまして。それで交通機関が動き出すまでお家に誘って下さったんです」

 

 おぃぃぃぃぃ!? 間違っちゃいないけど肝心なところが抜けてるぞぉぉぉ!!

 案の定、姉弟子の殺気が膨れあがる。

 

「……八一?」

 

「歩夢です! 昨晩あった歩夢との対局! 連敗ストップがかかってた大事な一局。天衣はその応援に来てくれてたんです! それが朝までかかって!」

 

 ふぃー。セーフ。これで姉弟子も収まったろ?

 だが、天衣は依然挑発的な眼をしている。まだ何かあるのか……?

 

「師匠の大切な対局とは言え、小学生が一人で朝まで? なんで?」

 

 天衣の表情が我が意を得たりと微笑む。

 

「八一先生からお願いされたんです。昨日の対局に勝てたら私からご褒美がほしいって。そうしたら頑張れるからって」

 

 これは……まずいのでは?

 

「……それで?」

 

「だから、私。子供っぽくて恥ずかしいんですけど…… 八一先生♡って呼んであげるって。それで、対局が終わったら一番に呼んであげたくって……」

 

 天衣の表情が恥ずかしそうに、でも幸せそうにはにかむ。

 これはいけない。孔明の罠だ。

 

「……呼んだわけ?」

 

「はい。これからもよろしくお願いします。八一先生♡って」

 

 俺は全てを察していた。天衣が狙っていたのは俺を陥れることじゃない。いや、結果的に俺に被害は来るんだろうが。

 天衣が狙っていたのは姉弟子とあいちゃんへの強烈な先制パンチだ。

 

 結果として、この部屋に修羅が二人誕生する。

 しかし、あいちゃんはある意味露骨にすきすきオーラを出してくれているから分からなくもないんだが、なんで姉弟子が怒るの?

 

 俺は全てを諦め正座して二人を受け入れる。

 

「八一? かわいいロリ弟子に好かれてよかったわねー?」

 

 姉弟子はそういいながら、扇子で俺をビシビシ叩いてくる。痛い。

 

「師匠~? そんなに天衣ちゃんがいいんですか~?」

 

 あいちゃんは俺の耳元に囁きかけながら、正座している左足の小指だけを正確に踏み抜いてくる。小学生の体重でも非常に痛い。これ拷問の手管か何かじゃ……

 俺はただ無言で耐える。

 

「八一?何か言ったらどうなの?」

 

 姉弟子の打撃は上方向から横方向へ変化していき側頭部が殴られるようになる。

 って、この角度は!? 

 ちょtア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!! イイッ↑タイ↓メガァァァ↑ 

 急所への直撃に俺はのたうち回る!!

 

「師匠~? そんなに暴れちゃ危ないですよ~?」

 だが、俺の足の小指はあいちゃんにロックされたままだ。

 こりゅ♪

 う゛ぇぁぁういいいいいいいいいい!!!

 全力でタンスの角に小指をぶつけたような痛み!!

 

 芋虫となった俺に冷たい視線が二対注がれているのが分かる。

 冷や汗を流し、ただただ耐える。

 

 その時、俺の頭が優しく抱え上げられ、ふにょんとしたものに乗せられる。ストッキングに包まれたぷにぷにと弾力のあるJSの太ももだ。

 俺の痛みは一瞬で抜けていき、多幸感が押し寄せてくる。意識が奪われる……

 ああ俺の読みは一歩足りなかった。怒りに駆られて二人にボコボコにされた俺を自分で癒やすところまでして先制攻撃だ。

 二人が意気消沈するのが気配でわかる。

 

 先ほどの計算ずくの笑顔とも、いつぞや天使のようないじらしさとも違う。

 それでもひどく魅力的な、目の前の相手を全て支配してやるという獰猛な笑みだ。

 膝枕をした俺を撫でながら、天衣はそんな表情をしていた――

 

 

 




なぜこのような展開になったのか……

構想段階では荒ぶる姉弟子にWあいで対抗するはずが書き下ろしてみると天ちゃんが姉弟子裁判を粉砕し主導権を完全ゲット。
姉弟子とあいちゃんの横っ面を引っぱたいて、八一は私のもの宣言。
天ちゃんVSその他ヒロインという図式を作ってしまいました。

もはや原作との違いを論じる段階にないのでいつものはなしです。

ちなみにラストの天ちゃんは原作7巻のマイナビ準決の挿絵のような笑顔を浮かべているイメージです。こんな顔もいい。

次回、突撃清滝家の晩ご飯
お楽しみに
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