連載10日目にしてここまで来ました。まことにありがとうございます。
これもひとえに、
アニメ版天ちゃん(CV.佐倉綾音)のおかげです。
……とんでもないビックウェーブがやってきやがった。
いやー、なんというか嬉しいんですけど、自分の力の小ささも痛感させられる一幕でした。
この感情はまさに『くやしい…!でも…感じちゃう!ビクビクッ!』でやつです。
ということで、慢心することなくこれからも一話一話積み重ねていきたいと思います。
本作『その便意が物語を変えた』、略称『便物語』を以前から応援してくださっている皆様、そしてアニメ版天ちゃんに導かれておいでになった皆様も引き続きお付き合いいただければ幸いです。
なお本作は西尾維新先生の物語シリーズとは何の関係もございません。ご注意下さい。(熱い風評被害)
ちなみに、ビックウェーブ(アニメ第4話)の作者の感想は、「お、鬼沢先生がでてねぇじゃねぇか!師匠のオ○ッコのことといい許せん!どういうことだ!?(ヒントBP○)」
ということで、本作では鬼沢さんを出します。
既に夜叉神氏に八一のことを紹介して用は済んでるんですが、出します。
至高のインテリアを前に天ちゃんはどういう反応をしめすのか。お楽しみに。
我が家での大騒動を終えた俺たちは全員で師匠――清滝鋼介九段の家を前にしていた。
姉弟子があいちゃんのことはひとまず師匠に相談して見るべきと提案したからだ。師匠から俺のことを弾劾してもらおうという意図が透けて見えたが、あいちゃんのことを師匠に相談するという点について俺にも異論はなかったので反対はしなかった。
むしろ、姉弟子から師匠に相談しようという提案が出てきたことに俺は驚いていた。確かに妥当な判断ではあるのだが、今この時に限ってはあり得ないと思っていたのだ。
なぜか?
ション便ぶっかけられたからだ。
姉弟子はほかほかの聖水浸しにされるという、人生に置いて普通は発生しないであろう最大級の恥辱を師匠から受けている。ほんの三日前のことだ。
はっきりいって逆破門が起きていてもおかしくない破滅的なできごとだった。それが僅か三日で関係が正常化している? ありえないだろう。
非常に疑問ではあったが、『ぶっかけ平気なんですか?』と本人に聞くのも気まずい。関係が修復されているに越したことはないのだ。後で桂香さんにでも事情を聞けばいい。俺は流れに身を任せることにした。
良い機会なので、天衣を弟子にしたことも報告しようと、夜叉神邸に一報入れてから全員で向かった次第である。
「「ただいまー」」
声をかけて玄関をぐぐる。
俺と姉弟子にとっては、人生の半分以上を過ごした第二の我が家だ。挨拶は『ただいま』こそがふさわしい。
「あら。お帰りなさい」
迎えてくれたのは師匠の一人娘にして慈悲の女神、桂香さん(巨乳)である。
「お父さんも待っているから奥にどうぞ」
姉弟子を先頭にあいちゃん、天衣と続く。最後尾を歩いていた俺は桂香さんに呼び止められた。
「お帰り八一くん。この間はうちの親が迷惑かけてごめんね?」
「気にしないで、桂香さん。師匠も下が緩くなってくる年頃だから仕方ないよ」
「いえ、まだそんな歳じゃないんだけど……」
苦笑している桂香さんに、俺は気になっていたことを聞いてしまうことにした。
「それより師匠と姉弟子の関係は大丈夫だったの? 例の件、心配してたんだけど」
「それね……その……」
桂香さんはしばし迷った後、再び口を開いた。
「銀子ちゃん……その、あの時のこと忘れてしまっているみたいなの」
「……へ?」
「あの後、気絶したままの銀子ちゃんをうちに連れてきて、綺麗にしてあげた後、安静にしてたんだけど。……起きた後、自分がなんで気絶していたのか覚えてなかったの」
どうやら姉弟子はあまりの恥辱に耐えかねて、記憶を封印してしまったらしい。なんて不憫な……
「どうしようか迷ったんだけど、改めて思い出させるのも酷かなって」
「そりゃそうだ」
「だから八一くんも銀子ちゃんの前ではあの件、触れないようにしてね」
「分かりました。了解です」
そこで俺たちは会話を打ち切り、みんなの後を追った。
居間で机を囲んで皆で座ると、それを待っていたかのように師匠が話し出した。
「まずは……夜叉神天衣ちゃんやったね?」
「はい、ご挨拶が遅れました。夜叉神天衣と申します」
「月光さんからも話は聞いとる。八一の弟子になったそうやね」
「はい。その通りです」
「まだまだ頼りないやつやけど、こんなんでもわしにとってはかわいい弟子や。よろしく頼むで?」
「とんでもないです。八一先生は私にとって唯一無二の、これ以上ない最高の師匠です。私こそ清滝先生の一門の末席に加えていただくことになります。至らぬ身ですが、なにとぞよろしくお願いします」
天衣は俺のことを立ててくれる。なんて良い弟子なんだ。
「八一、ええ子やないか。大事に育てるんやで。それがわしにとっても何よりの恩返しや」
「はい、師匠……」
師匠の弟子になってからこれまでのことが思い出され、不覚にもうるっときてしまう。みんなほほえましそうに俺たちを見ていた。
あ。姉弟子は超面白くなさそうにしていました。
「次は……君が雛鶴あいちゃんやね?」
「は、はいっ!」
「あの小さかった子が大きくなったなー」
「え?」
「まだあいちゃんが2歳のころか。会わせてもらっとるんやけど、覚えとらんでもしょうがないな」
「……はい」
「さて、あいちゃん。いくら将棋の弟子になりたくても家出なんかしたらあかんで?」
へ!? そういえば親御さんが了解しているのかは聞かなかったな……
あいちゃんは顔を真っ青にして俯いている。
「終業式のあった2日前にはこっちに来とったそうやけど、今日までどうしてたんや?」
「……その。……くじゅりゅう先生がいらっしゃならかったので、大阪の知り合いの旅館でお世話になっていました」
「ひな鶴の一人娘やからな。同業者の知り合いも多いか」
なるほど3日前は俺が帰ったのは深夜だったし、2日前は天衣の家、昨日は夜通し対局だったから待ちぼうけしていたわけか。悪いことをしたな。
「家出してきたってことはご両親は?」
「反対されてます。……将棋をやることも……くじゅりゅう先生に弟子入りすることも。でも私は――――!」
それからあいちゃんは将棋への思いを、俺への思いを切々と語ってくれた。
俺は――俺の姿を見て、将棋をこれほど好きになってくれた子がいることが誇らしく、とても嬉しかった。
姉弟子はまたも面白くなさそうだったが、天衣は意外なことに納得したような、共感したような、そんな顔をしていたことが印象的だった。
「師匠。あいちゃんの棋才はほんものです。なんとかしてあげられないでしょうか」
「そうやな。こんな子一人助けられんでプロ棋士は名乗れん」
「ええ師匠! 俺にできることなら何でもしますんでっ!」
「ん? 今何でもするって言ったよね?」
へ? 何その返し?
「お父さん最近ネットとかスマホアプリとかにはまってるから……」
桂香さんは苦笑している。
「八一。あいちゃんのご両親にはわしが話を通しとく」
「はぁ」
「お前はあいちゃんを内弟子にして『研修会試験』に通るように鍛えたげ」
「はぁ!? 内弟子!?」
「そうや。いつまでも知り合いの旅館へ迷惑をかけされるわけにもいかんやろ」
「でしょうけど、いくらなんでも内弟子って……」
「内弟子ってなんですかー?」
「あいちゃん、内弟子っていうのはね。師匠――八一くんの家に住み込みで修行をする弟子のことよ」
「いいです! それすごくいいですー!」
さっきまで青い顔してたのに、あいちゃんは今やご満悦だ。
姉弟子はものすごい勢いで舌打ちを連打している。あるいはボイパの練習中なのかも知れない。
「でもいきなり二人も弟子を持つなんて……」
俺は天衣のことを気にしつつ言う。
「まあ、いいんじゃないの? 八一先生」
へ? いいの? 天衣の意外な反応に俺は驚く。だからその後のつぶやきを聞き逃していた。
「今更そんなことじゃゆらがないもの、この気持ちは」
「よし! 桂香! 新たな清滝一門の誕生を祝って宴会や!」
「宴会ですー!!」
「はいはい。それじゃ、お好み焼きを焼くわね」
そして、
師匠はガハハと笑いながらビールを飲み干す。
桂香さんから一門の関係は親戚と同じと教えられたあいちゃんが姉弟子を『おばさん』と挑発し、姉弟子は『小童』と切れながら返す。
お嬢様育ちの天衣はお好み焼きを食べ慣れないのか、ちまちまとちぎっては小鳥が啄むように口に運ぶ。
そんな天衣を桂香さんが優しく見守っている。
幸せな
そして楽しいひとときも終わりを迎え――
「天衣も泊まっていけばいいのに」
「昨日は家を空けてしまっているから。お爺さまに顔を見せてあげないと」
「そうか」
車で迎えに来てくれた晶さんの元へ向かう天衣を俺は見送っていた。
まだ他のみんなは居間で騒いでいるがこちらは静かなものだった。
何か言わないといけない気がして俺は冗談交じりに言う。
「天衣もよければ俺の内弟子になるか? 大阪まで通うのも面倒だろう?」
「私はいいわ。家からここまで、近いものよ?」
「……そうか」
このお嬢様はそう答えるだろうと分かってはいたが、どこか俺は落胆していた。
「でも――」
天衣はこちらへ駆け寄り、俺を見上げる。二人の距離は一歩分というところだろうか。
「忘れないで。八一先生の一番弟子は私よ?」
そう言い残して、天衣は帰って行った。
さて、俺もそろそろ寝るとしよう。
明日から弟子のいる新たな生活の本格的スタートだ。
■原作との違い
・天ちゃん清滝一門にお披露目
・姉弟子、ボイパでyoutuberを目指す
・師匠、淫夢をたしなむ
16話から止まらない天ちゃんのヒロイン力よ。
そして姉弟子が空気に。すまない。
次回、弟子登録に行こう
お楽しみに。