その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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久しぶりに天ちゃんのヒロイン力がなりを潜める日常回。
でもちょっとした行動はしてる模様。
俺でなきゃ見逃しちゃうね。




18.銘醸、違いの分かる男

 

 

 師匠の家で朝食をいただいた後、俺はあいと連れだって家に帰った。

 家であいの当面の修行の方針を説明するためだ。

 あいは数をこなせばこなすほど強くなるはず。将棋道場に飛び込んで対局しまくるように命じた。その間、俺が天衣の方につくことに非難が飛んだが、あいと天衣のタイプの違い、朝晩は内弟子のあいについていることを説明し、しぶしぶではあるが承知させたのだった。

 

 

 

 その後、福島駅で天衣と合流して将棋会館『連盟』へ向かう。

 

「こ、ここが……しょーぎかいかん……!」

 

「そう、ここで弟子登録をすることで正式な弟子として認められるんだ」

 

「そ……そうなんですね。早く行きましょう!師匠!」

 

「そんなに焦らなくても逃げやしないでしょ」

 

 そう、俺たちは新弟子登録をするために連盟へ来たのだ。後は二人の研修会試験の申し込み。その後あいは連盟内の道場で修行もする予定だが。

 あいが真っ先に連盟へ踏み込み、俺と天衣が続く。

 自動ドアを抜けると、姉弟子がいた……

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

 超きまずい。姉弟子は俺達三人を冷たく睨んでいる。

 昨日天衣はおろかあいも俺の弟子と認められてしまい、目論見が完全に崩れた姉弟子は終始不機嫌だった。その後、あいから『おばさん、おばさん』と絡まれ続けた姉弟子はブチ切れ、『頓死しろッ!』と捨て台詞を残し、師匠の家に泊まらず一人帰って行ったのだった。

 

「……ロリ王」

 

 今日もご機嫌は斜めらしい。ひどく不名誉な捨て台詞を残し、連盟から出て行く姉弟子。

 

「おばさん、何しに来てたんでしょー?」

 

「さてな。ところであいさんや、姉弟子におばさんと言うのは止めなさい。師匠命令だ」

 

「えー? でも桂香さんは一門は親戚関係みたいなものだって言ってましたよー? おばさんでいいじゃないですかー?」

 

 君は本当に恐れを知らないね。痛い目に遭うのは俺なんだよ? それに桂香さんにはおばさんって言ってないじゃん。明らかに姉弟子への嫌がらせじゃん。

 

 

 

「天衣ちゃん、何見てるのー?」

 

 結局おばさん禁止令を了承しないまま、あいはいつの間にか物販コーナーを見ていた天衣のところへ駆け出す。

 

「扇子よ。プロ棋士のサインが入ってるの」

 

「ええー! もしかして師匠のもあるんですかー!?」

 

「いや、俺のは今は売り切れかな?」

 

「残念です。師匠、新しくサインしたら教えてくださいね」

 

「ああ、そうだな。……お、あい!あっちに藤○四段の29連勝記念ミニ屏風があるぞ!」

 

 字のうまさに(ネット上で)定評のある俺のサイン扇子を弟子に見せるわけにはいかない。

 

「ええー!? あい、その人は知ってます!」

 

「今、人気だからなー」

 

「29連勝ですかー。でも師匠ならもっと連勝してますよね!」

 

 う……あいちゃんがキラキラした目で見てくる。

 

「……ちょうど止まっちゃったところなんだよねー?」

 

 連敗がな。

 

「そうなんですか……でも師匠ならまたすぐに29連勝くらいしちゃいますよね?」

 

「そ、そうだね……」

 

 

 

「天衣ちゃん、なにをぎゅっと握ってるんですか? あ! 扇子!? 買ったの!?」

 

「ええ、個性的で面白い字の扇子があったからついね」

 

 個性的で面白いですと!? まさか……買ってしまったのか、アレを……

 

「そうなんだ! どんなの? 見せて見せて!」

 

「……そうね。そのうち対局で使うからそれまで内緒にしておくわ」

 

「ええー!?」

 

 天衣が意味ありげにこちらを見てくる。これは……

 

「さあ! そろそろ弟子登録にいくぞ! ふたりとも!」

 

 慌てて俺はふたりの話を切り上げさせた。

 

 

 

「失礼しまーす」

 

「あ、八一君……じゃなかった九頭竜先生。おはようございます」

 

 事務局に入ると子供の頃からの付き合いの職員さんが挨拶を返してくれた。

ついでに言えば、先日を苦行(う○こ拾い)ともにした人でもある。俺たちは堅い絆でつながれているのだ。

 

 このまま彼女が対応してくれるらしい。

 

「今日はこの子達のことでお邪魔したんですけど……話聞いてますか?」

 

「ええ、さっき空先生からうかがいましたけど……大丈夫なんですよね?」

 

「へ、なにがです?」

 

「いえ、その……九頭竜先生がロリコンになったとか、見かけたら警察に通報しろって仰ってたので……冗談ですよね?」

 

「冗談に決まってるじゃないですか!? 今日はふたりを俺の弟子として登録するためにきたんですよ。ほら、俺の師匠からの推薦状です」

 

「そうですよね。冗談ですよね。それじゃふたりとも、この用紙に記入してください」

 

 あのクソ姉弟子、俺たちの絆にヒビを入れようとするとは……腹が立って腹が立って震える。

 

「書けましたー」

 

「わたしもよ」

 

「はい、それじゃあ確認させてもらいます。ちょっと待っててね」

 

 職員さんがふたりから書類を受け取って確認を始める。そして────

 

「ひっ!?」

 

 職員さんは小さく悲鳴を上げると、青い顔をし、手を伸ばす。

 ガシッ

 

「ちょっと!? どうしたんですか!?」

 

 俺は受話器に伸びたその手を咄嗟につかんで、慌てて問いかける。

 

「やっぱり本当だったんじゃない!? 早く通報しないと!」

 

「何がですか!? ちょっと落ち着いてください!」

 

「何が落ち着いてよ!? 白々しい! 子供達を守らないと!」

 

「だから落ち着いてくださいって! 姉弟子が何をいったかしらないですけど、冗談を真に受けないでください!!」

 

「冗談!? 何が冗談なものですか! この書類が動かぬ証拠よ!」

 

「書類? とにかく少しだけ落ち着いて。 姉弟子は何ていったんですか?」

 

「愛に飢えてる九頭竜先生は、あいって名前の9歳(10年もの)の幼女達を狙って拐かしているって」

 

 

 

 

 

 

 

 Oh...

 

 名前(銘柄)年齢(ヴィンテージ)にこだわって幼女を集める変質者。

 

 とんだロリコンソムリエじゃねぇか!? 人聞きが悪すぎる!!

 

「名前と年齢がいっしょなのは偶然ですから!!」

 

「そんな偶然があるものですか! ごまかすにしてもひどすぎる! 師匠が師匠(う○こ)なら弟子も弟子(ロリコン)よ!!」

 

 いや、気持ちは分かるけども! 分かるけどもさ!

 っていうか、俺のことそんな風に思ってたの!? 俺たちの絆は偽物だった!?

 

 

 

 説得は超大変でした。姉弟子許すまじ。

 へとへとになりながらも新弟子登録と研修会試験の申し込みを終え、次にあいを道場へ送り出した。そこでも人気者な竜王の俺は子供達に囲まれ一悶着あったのだが、あいはすぐに慣れたようで楽しそうに次々と対局をこなしていく。

 

 

 

 それを見届けた俺と天衣は、あいを残し一路天衣の修行の地へ向かうことにした。

 目指すは 後半の海 新世界!!

 

 

 

 




■原作との違い
・藤○四段、介入(登場人物として出てくる予定はありません)
・天ちゃん、八一の扇子ゲット
・天ちゃんとあいちゃん、同時弟子登録

さて、次回はいよいよパンサー狩りが始まるわけですがどうしよう?
原作が完璧すぎて手の入れようが……

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