やってきました新世界はジャンジャン横町!
大阪でもっともホットでソウルフルな場所だ。『新世界』の名は伊達じゃない。
「どうだ、天衣? お嬢様にはこんなところ初めてだろ?」
「ええ、日本にもこんなスラム街があったのね」
「そこまでひどくねーよッ! 大阪ディスんな!!」
いや、確かに夜は一人で歩くのは危ないくらいには治安が悪いが……
「それで八一先生? こんなところにきて何をするの?」
「もちろんお前の将棋の修行さ」
俺と天衣はあいを将棋会館へ残し、晶さんと合流して次なる舞台に来ていた。
「こんなスラムで?」
「だからスラムじゃないっちゅーに。通天閣はかつては大阪で一番の将棋のメッカだった。その名残からか今も新世界にはここでしか戦えない凄腕の将棋指し達がいるのさ。……さぁここだ」
『双玉クラブ』、明らかに場末感がただよう汚い将棋道場だ。
「凄腕って……単なる小汚い道場に見えるけど。そこらで指してる連中もたいしたことなさそうに見えるし」
「確かにプロ棋士や奨励会員に比べて棋力は落ちるかも知れないが、またそれとは違う魑魅魍魎たちさ。今のお前を鍛えるには最適なターゲットだ」
「……まあいいわ。八一先生を信じる。それで? どうすればいいの? とりあえず対局してくればいいのかしら?」
「いいや、普通にやったんじゃ意味がない。ここにはここの流儀がある。お前がこれから挑むのは『真剣』という名の賭け将棋だ。こいつを持ってけ」
「タバコ……じゃないわね。中身は丸めた千円札?」
「こいつが掛け金だ。負ければ渡す。勝てばもらう。今5本入っているから空になるか、いっぱいになるかすれば今日の修行は終わりだ」
「そう。7連勝すればいいわけ? 分かりやすくていいわね」
「そういうこと。奥の方で暇そうにしてるのと指してこい」
「奥の方? ……わかったわ。行ってくる」
天衣はターゲットを決めたらしい。さすがにこの空気にはなれないのか、天衣には珍しくおそるおそる進んでいく。
天衣が向かった先は────またとんでもないのを選んだな……
ヒョウ柄の服。ブロッコリーのようなパーマ。そして色の入った金縁眼鏡。その奥では野獣の眼光を放っている。その姿はまさにヒョウ。パンサーとしかいいようがない。が、それより何より────
「おい先生。あれは……おっさんなのか? おばさんなのか?」
「どちらともいえません……」
晶さんがそう聞いてきたのには訳がある。
パンサーが着ているのはヒョウ柄の──ワンピース。そうパンチにワンピースなのだ。パンチは大阪のおっさん御用達。ヒョウ柄ワンピースは大阪のおばさんのトレードマークだ。格好から男女どちらかは特定できない。そしてここ新世界はかつて巨匠、三島由紀夫も愛したゲイ・タウンという一面も持つ。そう、第三の選択肢もありうるのだ。
俺たちはしばしパンサーの性別予想で盛り上がる。予想では性別♂がやや優勢だ。そうこうしているうちに天衣対パンサーの戦いの火蓋が切って落とされた。
振り駒の結果はパンサーの先手。まずはお互いに角道を開け、パンサーの次の一手は────
「っ!? ……はぁぁぁ!?」
角頭の歩を突く一手にあいは驚きの声をあげる。
「本当にここって場所は……」
だが、俺は期待通りの展開に思わず笑ってしまう。
俺は早くも天衣の修行の初期段階について成功を確信していた。
その後、結局天衣はパンサー相手にタバコの箱を空にして返ってきた。
俺はたいそう悔しがる天衣お嬢様に真実を伝え、火に油を注ぐ。しばらく見てなかったけど、確かに初対面の時はこんな感じだったな。場末の道場にたむろする連中程度にカモにされたことに烈火のごとく怒る天衣お嬢様。いとかわゆし。いい具合に暖まったところでそろそろ前を向かせることにしよう。
「俺はお前に完璧を求める。完璧な将棋を」
天衣の天賦の才は受け将棋だ。それを完成させるためのファクターをここ新世界の魑魅魍魎相手に奪い取らせる。
連中が持つ盤外の技術。こと、焦り・不安・動揺といった相手の負の真理を操る手管に関しては、プロ棋士の上を行く。
それを己のものとしたとき、天衣の受け将棋は『完璧』なものとなる。
そうすれば────
「そうすれば────もう誰も、天衣、お前に勝てなくなる」
「…………それは女王も?」
■原作との違い
・天ちゃん不穏な決意
やっぱり難しかったパンサー戦。
結局パンサー戦はキンクリしちゃいました。
いっそ、この話そのものをキンクリしようかとも思いましたが最後にフラグを仕込むためだけに書きました。
ということで今後も新世界での出来事はキンクリしていきますので、中身が気になる方は原作2巻(神)を買ってどうぞ。
次回、JS襲来
あ、明日は宴会のため一日空くと思います。よろしくどうぞ。