やだ、ロリ王かっこいい……
あと、章題を正式版に変更しました。
俺はこの日、負けられない大勝負に必勝の覚悟で臨んでいた。
相手は永世名人資格者、月光聖市。現代最強の盲目棋士にして将棋連盟会長だ。
後手番の俺が選択した戦型は『一手損角換わり』。俺と会長はお互いにこの戦型のスペシャリストだ。『一手損角換わり』使いとしてどちらが上か。その意地のぶつかり合いでもある。
一手損角換わり相腰掛け銀を経由して、互いに攻めては受け、受けては攻めるねじり合いの中盤戦を終え、はや終盤。
戦況は会長が大駒三枚を手にし、圧倒的な火力でもって盤上の大半を支配しているものの、俺も端から手を入れ、搦め手から会長に迫っている。まだまだ分からない状況だ。
だが———
「熱い……実に熱い。久しぶりに味わう感覚です」
生きる伝説はそう言いながら、光を失っているはずの目を見開き、
「ぎりぎりのこの終盤。血湧き肉躍るこの感覚———滾る!」
そう言って示した一手は、3一角打つ———王手!!
「まっ……!!」
———まさか、詰まされてるのかッ!?
今俺たちが争っている対局は帝位リーグ最終戦第五局。
以前の連敗が響き俺はこのリーグからの敗退が決定している。対して会長もリーグ残留は決めてはいるが帝位への挑戦権には既に届かないことが決まっている。まごうことなき消化試合だ。
そんな消化試合になぜ俺がこれほど熱くなっているのか。その理由は数日前にさかのぼる。
その日俺は天衣が登校している時間を見計らって夜叉神邸を訪れていた。
以前から気になっていた、俺と会うまでに天衣はどのように将棋を学んでいたのかを知るために弘天氏に会いに来たのだ。
「九頭竜先生、ご足労ありがとうございます」
「いえ、俺こそ急にお邪魔して申し訳ありません」
「とんでもない。いつでもいらしてください。……して、今日の御用向きは?」
「実は……天衣さんについてうかがいたいことがあって来ました」
「なるほど。本人がいないほうが良い話ですな?」
「そうですね。おそらくデリケートな話かと思って。まずは内々に話させていただければと」
「承知しました。何なりとおたずねください」
「ありがとうございます。……天衣さんが俺の弟子となるまでどのように将棋を学んでいたのかを知りたいのです」
「それは……」
「彼女は少々特殊な将棋を指します。そのルーツを知りたいのですが」
「……あれは不憫な娘なのです」
俯いた弘天氏は搾り出すように教えてくれた。
天衣に将棋を教えたのは天衣の両親であること。天衣の両親が既に他界していること。それ以降ほとんど独学で学んでいたこと。
将棋に強い執着を持っていること。それは理解できる。悲しい理由ではあるが将棋を深く学ぶことで、両親の残した棋譜から彼らの思いをくみ取ろうとしている、もっといえば死者と対話できるようになろうとしているのではないか。将棋を極めれば、それができてしまう。
だが、それと『一手損角換わり』は結びつかない。あれは特殊な感覚が必要とされる戦型だ。いかに天衣の才能が圧倒的なものでも、それだけで何とかできるようなものではない。血も滲むような修練が必要だ。アマチュアにほとんど存在しない戦型である以上プロの棋譜をもとに気の遠くなるような研究をしたとしか思えない。
「天衣さんのご両親はプロ棋士という訳ではないのですよね?」
「ええ。そこまででは。ですがあれの父親は将棋のアマチュア名人でした」
「それは……」
アマチュア名人。そして『一手損角換わり』。そこでようやくつながった。
目的を果たした俺は夜叉神邸を辞してあと、連盟に寄り棋譜を漁ってから家に帰った。アマ名人には一つの特典が与えられる。それがプロ名人への挑戦権だ。果たして天衣の父親と時の名人———月光聖市との対局の棋譜は確かにあった。
そして俺は一つの記憶を呼び起こしていたのだ。その対局の記録係は当時奨励会6級の俺だった。俺は見ていたのだ。二人の名人の対局はまれに見る熱戦の末、会長の勝利に終わった。その後のふたりの会話を覚えている。天衣の父親を弟子に誘った会長に対して———
「僕には幼い娘がいます。今からプロを目指す意思はありません。ですがもし僕の娘が大きくなって棋士になりたいと言ったら、その時は———」
天衣が師匠を選ぶ条件に出した現役A級棋士かタイトルホルダーかという条件。あれは月光会長を指定するものだったのだろう。父親を破り、父親が望んだ相手。だけど俺は今更だれであろうと天衣を譲るつもりはない。だから———
「九頭竜先生。持ち時間を使い果たされましたので、一分将棋でお願いします」
「……はい!」
この人だけには負けられねぇ!! 3一同玉!!
そこから会長による怒濤の王手ラッシュが始まった。
だけど、頭金を打たれるまで俺に投了はない!
まずは命をつなぐため、入玉を目指して逃避行を始める。
ノータイムで打ち込んでくる会長の攻め手を躱せ!
「……よし!」
必死に会長の追撃を躱して入玉を完了。これで何とか攻めに移れるはずだが———
「2八銀」
「ッ?」
まさかの連続王手! しかも遠方からの馬の支援を受けていて玉でとれない!?
「10秒、9・8・7……」
ええい! 迷ってる時間はない!
銀の直下、隣と死角を抜けて自陣に戻る前代未聞の戦術。ようようと攻め上っておきながら尻を捲って逃げるようで格好が悪いが是非もない!
そこからも延々と続く会長の王手を首の皮一枚で躱し続けて一五六手目。
1五玉ッ!!
「ここまでですね」
俺の玉が五段目まで退き、ようやく攻めが切れたところで会長が投了を告げた。
「あっ…………ます……!」
俺は礼を述べるが、消耗のあまりまともに声が出ない。
格好の悪い勝ち方だったが、それでも勝ちは勝ちだ。それにこの人の連続王手を15回も凌いで、あまつさえ勝ったのなんて俺が初めてじゃないか……?
緊張から解かれ、永世名人を制した達成感に包まれていた俺。
だけど会長は俺を凍り付かせる一言を放ってくれた。一二九手目に5八金と打っていたらその時点で俺の負けは決まっていたというのだ。
つまり俺の勝利は相手のミスに救われた結果のものだった。会長は王手ラッシュをかけながらそれに気付いたのだ。
この人が全盛期だったら……いや今でも目さえ見えていたのなら———
圧倒的なタイトル獲得数を誇る現名人を差し置いてこの人こそが史上最強だという声が未だに大きいことにも頷ける。
どう考えても今の俺より上だ。天衣の師匠に相応しいのも。だけど———
「これで、あの時の借りを返す事ができましたかね?」
「え?」
露わになった実力の差に苦悶していた俺に不思議なことをいい、笑みながら会長は去って行った。
俺と会長は今回が初対局だ。貸し借りなんてないはずだが……(師匠のう○こを除いて)。
俺はしばし惚けていたが、ふと我に返る。
そうだ。あいつを待たせている。俺もいかないと。
■原作との違い
・八一が燃えている理由
ということでVS会長戦でした。
だいぶオミットしてかいてますが、原作は遙かに熱いので原作を是非(以下略)
そしてシリアスに徹することができず、最後にう○こネタを挟んでしまいました。
憎い。笑いをとりにいかずにはいれない自分が憎い……
さて、次回は早くも2章のエピローグです。
果たして八一が待たせているのは……
いったいどっちの『あい』さんなんだ……
なお姉弟子の可能性はない模様。すまない。
ちなみに次回も既に予約投稿済みです。
レイニー止めで待て。