その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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前話までのシリアスな流れに続き
八一の超熱い話をぶっ込んでやったぜ(UC)



第三章.竜たちの咆哮
01.survival


 その日、俺は家路を急いでいた。猛烈に。

 だがいくら急いでいても走るわけにはいかない。

 

 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻さないように。いや別に女装をしているわけではないが心持ちはマリア様の庭に集う乙女たちがごとく淑やかに。内股で。

 決して走ってはいけない。だが疾く! 疾く! 光のごとく!

 いつもなら内弟子に何かお土産でも買って帰る商店街も今日ばかりは足早にパスしていく。

 

 

 とはいえ別にリリ○ン女学園に入りたいわけではないし、競歩で記録を狙っているわけでもない。あくまで俺は男でプロ棋士なんだ。

 一つ一つ説明していこう。

 乙女だなんだという妄言は意識を逸らすために過ぎない。内股なのはちょん切って乙女になったからではなく決壊を抑えるためだし、走らないのも紅○薇さま(ロサ・キ○ンシス)の教えではなく衝撃を与えないためだ。

 

 説明が周りくどい?

 OK。結論から言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 漏れそうだ。深刻に。

 

 

 対局中から強烈な尿意を我慢していた俺は、対局が終わるとともに連盟を飛び出し、この不毛なRTAに挑んでいた。(対局は悲しいことに俺の負けである)

 人としての尊厳を賭けてこの勝負に負けるわけにはいかない。

 ただでさえ、先日より師匠には『う○こたれ』という称号がついているのだ。ここで新たに俺が『しょん○んたれ』などという称号を受け取ってしまっては、師弟あわせて『糞尿○れ』という栄冠にノミネートされてしまいかねない。(そもそも師匠が両方たれてるじゃんってツッコミはなしだ)

 だから俺は何が何でもこのRTAをやりきらなくてはいけないのだ。

 

 

 だがこのおもらしRTAも既に終盤、俺も要領をつかんでいた。

 重要なのは二つ。

 一つは人の動きを予測することだ。前方にいる人達が前後・左右どちらに動こうとしているのか、人の交差するポイントではどう動くのかを先読みしながら余裕を持って躱すのだ。後方からの自転車の接近は車線(人線?)を変更するときだけ後方を確認して躱せ。

 もう一つはコース取りだ。とくにコーナーでの。

 そんなの壁際最短距離を最速で曲がるのがいいに決まっている?

 そいつは素人考えだ。in-in-inのコース取りは二つの意味で危険だ。

 第一に最高速度での急激な方向転換は体にGをかけ膀胱を圧迫しちまう。これだけでもどれだけリスキーか分かるだろう?

 そして本当に危険なのはこの次だ。壁際ぎりぎりから曲がろうとするってことは死角に飛び込むってことだ。もし飛び込んだ先に歩行者がいたらどうなる? 激突して一発ゲームオーバーだ。

 こいつがゲームのRTAならトライ&エラーで障害物の有無を確認しながら進めるのもいいだろう。だけど残念ながらこいつはやり直しの効かねぇ正真正銘1回きりの真剣勝負。いわばRRTAだ。そんな一か八かの博打に賭けるわけにはいかねぇんだ。

 だからこそ取るべきコースは車のレースと同じくout-in-out。最高速度を維持しつつ緩やかな弧を描いて、前方の障害物を確認しながら駆け抜けるんだ。そうすれば確実にゴールは見えてくる。

 

 

 

 なに? そもそも連盟でトイレを済ませてから出てくればよかったじゃないか?

 冗談はよしてくれ。俺がそんなことにも気付かないほどFOOLだと思ってたのか?

 だから要はそうできない理由があったんだ。

 

 そいつは俺の今日の対局相手だった。名前は山刀伐尽(なたぎりじん)八段。A級第四位の強豪だ。プロデビュー戦の俺を走る人間スプリンクラーに変え、また竜王デビュー直後からの11連敗、その最初の一敗目になった因縁の相手でもある。

 だけどだからブルっちまったってわけじゃねぇんだ。

 

 そう、やつにはホ○の疑いがあった。

 対局中も『対局って……いってみればふたりの共同作業ですよね……』とか『ここのところ……ずっとキミのことばかり頭から離れないんです……』とか『この胸の高鳴りがキミに伝わってしまわないか……不安だったんだョ?』とか囁いてくるんだ。

 おあつらえ向きにやつの二つ名は『両刀使い』だ。

 盤外戦術の一環なのかも知れない。むしろそうであって欲しい。だがアレは演技というには少々……。

 それは特定の趣味嗜好の人達へのヘイトじゃないか? ああ、分かってる。ダイバーシティ(多様性)が大事な時代だなんて事はこっちだって重々分かってるんだ。だけどあんた、それに自分の処女(ケ○の穴)をかけられるかい? 彼らだって普段はいいやつらばっかりさ。俺だって百合もいける口だ。だけど俺に性欲を向けられるとなったらそいつは別の話だ。そうだろう?

 俺が対局を中座してトイレに行こうとしたときやつはこともあろうにこう言い放ちやがった。

『ん!? トイレぇ!? トイレなのかい!? いっしょにイクかい!?』ってな。

 あれもやつの盤外戦術で、やつはファッション○モだったのかもしれない。ただ連れションにいきたかっただけで、用を足す俺を後ろからホってやろうなんて思ってもいなかったのかもしれない。だけどさっきのコース取りの話と同じさ。俺には一か八かに処女(ケ○の穴)をかけるクソ度胸はなかった。そういうことだ。

 

 

 だから処女(ケ○の穴)と人としての尊厳、両方を守るためこうしておもらしRRTAに挑んでるんだ。

 そしてようやくこのRRTAもゴールの時だ。俺の家は連盟にほど近い。さらに階段も少ない2階の部屋だ。これくらいの衝撃ならまだ内股の防御で耐えられる。今ばかりはこの部屋を選んでくれた姉弟子には感謝しかない。……いや、そもそも道中にコンビニがあればここまで苦労していなかったかもしれない。感謝は5割引だ。

 そして最後の難関を突破した俺は扉を開け放ち室内へ突入した。鍵をかけない習慣で本当に良かった。そして約束されし理想郷(トイレ)へ一直線に飛びこむと九頭竜ダムから放水を開始した。

 

「ほえぇぇぇぇぇぇ……」

 

 やがて恍惚が訪れ、極度の緊張から解放された。先ほどまでは緊張しすぎてキャラが変だったかも知れない。なんか気分はハードボイルドな刑事風だった。

 

 

 そうして意識がクリアになると、ドアの外から呼びかけられる声に気付く。

 

『先生! 八一先生! 大変早く来て!!』

 

 声の主はどうやらの一番弟子の天衣らしい。珍しく非常に焦っている。

 一体何があったんだ?

 

 最後の一滴まで出し切ってからトイレを出て、天衣の声のする和室へ入る。

 すると、天衣の傍、畳の上に———

 

 

 二番弟子にして内弟子のあいがランドセルを背負ったままうつ伏せに倒れていた———

 

 

 

 なんじゃこりゃぁぁぁぁぁ!?

 

 どうやらハードボイルドモードを解くのは少々早かったらしい。

 

 

 




■原作との違い
・八一、固ゆで卵になる
・天ちゃん、第一発見者に

1/4程度の分量で済ますつもりだったオシッコエピソードがなぜか1話丸々の分量に。
いえ、書いてて楽しかったんですけどね。

構想段階ではトイレに天ちゃんが入っていて、ハードボイルド八一がジャック・バ○アーばりに鍵ごとドアを引きちぎって突入。天ちゃんがいることに驚いて放尿というアイデアもありましたが、天ちゃんにヨゴレはさせられねぇという脳内会議満場一致でボツとなりました。良かった。
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