その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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UA5万目前。お気に入り1千目前ということで
今回はラブコメ御用達のサービス回。
お楽しみあれ。

あと今回は場面展開が多いので◇記号を挟んでみました。



02.愛の国 Gandhara(前編)

 

「……八一先生、彼女の遺言を伝えるわ」

 

「死んでねぇから!?」

 

 

 畳に倒れていたあいを抱き起こす俺にとんでもない冗談を飛ばしてくる一番弟子。

 天衣に条件反射的に突っ込んでからあいの様子をうかがう。

 ひとまず呼吸はしている。けれど息も絶え絶えだ。

 

「あい! どうした!? 誰にやられた!?」

 

「八一先生も乗ってるじゃない」

 

 いかん。前回の刑事気分がどこか抜けきってなかったらしい。

 

「あい? あい? おい、大丈夫か?」

 

「……ぉ……きぃ……ぉ……ふ……」

 

 あいは意味不明な言葉を呟いている。

 

「これは……ダイイングメッセージね」

 

「だから死なないって!?」

 

 まさか本当にダイイングメッセージじゃないよね……?

 

「あい!? 何を伝えたいんだ!?」

 

「……おっき……な……おふ…ろ……」

 

「おっきな?」

 

「お風呂?」

 

 なんだそりゃ?

 

 意味不明な ダイイング メッセージに俺と天衣は顔を見合わせる。

 

 

 そこから俺はひとまず患者へのヒアリングを続けた。

 結論から言うとあいは大浴場欠乏症らしい。嘘のような本当の話だ。温泉旅館の娘であるあいは生まれてからこの方、大きな風呂を長期間にわたって欠かすことはなかった。それが大阪に来てはや2ヶ月。慣れない環境(小さい風呂)にストレスがたまり、ついに倒れてしまったというわけだ。特殊な閉所恐怖症みたいなものだろうか。

 

 ともかく原因が分かれば後は簡単。あいを銭湯へ連れて行くことにした。もちろん嫌がる天衣も引き摺って。銭湯に行くことを告げるとあいも復活し、天衣の連行を手伝ってくれた。だがこのことが後に事件を引き起こすことになるとは誰もその時はしらなかったんだ……

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「ふにゃぁぁぁぁ~~~~………♡」

 

 とろけるような二番弟子の甘い声が広い浴場に響き渡る。

 あいは久々の大浴場にご満悦のようだ。

 

「ししょー、大きなお風呂気持ちいいですねー♡」

 

「……そうだね」

 

「…………」

 

 俺はそれだけ何とか返す。

 天衣は無言だ。機嫌が悪いのだろう。

 

「どうしたんですかー、ふたりとも? せっかくのおっきなお風呂なんだからもっとリラックスしたらいいのに?」

 

「……そうだね」

 

「…………」

 

 残念ながらリラックスできているのはあいだけで、それ意外は重い緊張感に包まれている。それというのも————

 

「ししょー、こっち向いたらどうですかー?」

 

「こっち向いたら殺すわよ!!」

 

「向かないよ!?」

 

 

 

 なぜか俺は弟子二人と混浴していたからだ。

 ……どうしてこうなった?

 

 

 

 

 

 

 俺たち3人は清滝師匠の家から歩いてすぐの場所にある銭湯に来ていた。

 俺や姉弟子が桂香さんとよく一緒に来ていた古い銭湯だ。ちなみに桂香さんも誘ったのだが、今日は同窓会に出るとのことで断られていた。

 

 番台で料金を払っている横で天衣はまだブチブチ言っている。

 往生際の悪いことで。

 

「何で私まで……」

 

「まあまあ、たまには姉妹弟子で裸の付き合いもいいだろう?」

 

「ですよ。天ちゃん」

 

 こういう反応をされるとからかいたくなるよね。紳士諸兄には同意いただけると思う。

 

「何だったら俺も一緒に入って九頭竜一門で絆を深めるか~?」

 

「キモッ、死ねば良いのに」

 

 辛口ぃぃ!

 

「わたし師匠のお背中を流します!」

 

「ちょっと!貴女何を言って!?」

 

「はは! 冗談だよ。じゃあ俺は先に行くぞ」

 

 そう言って俺は男湯へ入っていった。後ろからは二人でまだ何か言い合いをしているのが聞こえている。

 

 二人とも早く入るんだぞ~

 

 

 

 だが思えば俺はこの時に二人の争いを仲裁しておくべきだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が体を洗い終わり湯船に浸かった頃、カラカラとドアが開く音がした。

 誰か別のお客さんが来たらしい。と思ったのだが————

 

「ししょー」

 

「へ?」

 

 聞いたことのある声に振り向くと。

 

「ちょっと!? 本気!? 何考えてるの、貴女!?」

 

「ほらほら、天ちゃんもゴーですよー」

 

「は……はぁー!?」

 

 そこにいたのはかろうじて体にタオルだけ巻き付けた天衣とタオルすら手に持っているだけの素っ裸で、天衣をグイグイ押し込んでくるあい。

 

「な、何してんだお前ら!?」

 

「番台さんから10才未満は男湯に入っても大丈夫って聞いたんです。それに今の時間ならだれもこない貸し切り状態だって言っていたので」

 

 

「いや、そう言う問題じゃなく……」

 

「八一先生! こっち見ないでよ変態!!」

 

「えっああっ、ごめんっ」

 

 慌てて後ろを向く。

 

「もー、押しかけてるのは私たちなのに師匠に失礼だよ。天ちゃん」

 

「私に関しては貴女が無理矢理引っ張ってきたんでしょう! 服まではぎ取って!」

 

 実家の旅館を手伝っていたからか、あいは意外に力が強い。対して天衣は華奢な見た目通り非力だ。確かに腕力に訴えれば嫌がる天衣を男湯に引きずりこむことも可能だろう。

 

「さあ、天ちゃん。背中流すよ。あい、お客さんのお背中流すのは得意なんだから」

 

「いいから! 自分でするから、離して!」

 

「そうしたら天ちゃん逃げるでしょー。ほら、あいの方がお姉さんなんだから言うこと聞いて」

 

「お姉さんって2ヶ月くらいの差じゃない!? それにそんなことを言ったら私の方が姉弟子よ!」

 

「姉弟子ってそれこそ書類を出したのは数秒の差だよ? 内々での約束も2~3日くらいしか変わらないと思うけど……まあ、いいや。じゃあ姉弟子、おせなか流しまーす」

 

「ちょっと……んっ! ひゃっ!? あぅ……どこまで触って!?」

 

「お客様かゆいところございませんかー」

 

「あ……んっ…んぁ…あっ…ぁ…あっんっ……♡」

 

 声だけしか聞こえないってのもいいものですね。想像力がかき立てられる。

 天衣はあいの超絶テクニックで息も絶え絶えだ。これ体洗われてるだけなんだよね? 愛撫じゃないよね?

 

「……天衣、そんなにすごいのか?」

 

「師匠も後でお背中流しましょうかー?」

 

「い、いや! 俺はさっき自分で入念に洗ったからいいよ!」

 

「そうですか。残念ですー」

 

「…………」

 

 興味はあるが天衣が声も出せなくなっているのだ。半端ではあるまい。

 それに9才の親族でもない女の子に男湯で背中を流させる16才男子は非常にヤバい気がする。9才の女の子どうしだからほほえましいのだ。銭湯の男湯というシチュエーションに目を瞑れば。

 

 

 

 

「お邪魔しまーす。師匠」

 

 その後、グロッキーになった天衣をあいが引っ張って湯船に入ってきて場面は先ほどに戻る。

 

 

 

 




■原作との違い
・天ちゃんを敬遠している桂香さん同席せず
・桂香さん不在のため姉弟子呼ばれず
・天ちゃんとあい、男湯に乱入


ということでお風呂編はもう1話続きます。
今回は天ちゃんとあいの関係性に焦点を当ててみました。
将棋の絡まないところでの力関係はこんな感じに。
やっぱりあいの豪腕が際立ちますね。

次回は作者による天ちゃんゴリ押し回です。
お楽しみに。

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