その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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04.Get Wild

「こんな所に連れてきてどういうつもり?」

 

「俺を手伝ってくれるんだろう、天衣?」

 

「手伝うのはいいけど、この前の銭湯でのことで調子に乗って入浴を手伝ってくれなんていうつもりじゃないでしょうね?」

 

「よく分かったな。やっぱりこの前の裸の付き合いで天衣との絆も深まったんだな」

 

「最高にキモいから通報していいかしら?」

 

「師匠、師匠! あいは師匠の入浴をお手伝いしますよ!」

 

 弟子達からは対照的な反応が返ってきた。

 

「はは。冗談だよ。でもありがとう、あい。今日の本当の目的はお風呂じゃなくて将棋なんだ」

 

「「将棋? こんなところで(ですか)?」」

 

 二人が驚くのも無理はない。俺たちが訪れているのは京橋の商店街の奥にあるお風呂屋さん。その名も『ゴキゲンの湯』だ。

 駅からの道中にあるいわゆる『大人のお風呂屋さん』ではなく本当の銭湯である。ちなみに『大人のお風呂屋さん』の看板を見ても天衣は特に反応しなかった。さすがに店名を見ただけでは例の能力は発揮されず、あれらが何なのかを見破ることはできなかったらしい。別に残念じゃないよ?

 

 

「普通は驚くよな。まあ百聞は一見にしかずだ。入ってみれば分かるよ」

 

 そう言って暖簾をくぐり、正面の番台にいた店員さんに声をかける。

 

「こんばんはー」

 

 そこにいたのは飛鳥ちゃん。この銭湯の娘さんで17才の高校生(なかなか巨乳)だ。飛鳥ちゃんは無口だが良い子だ。父親の居所を尋ねると恥ずかしがり屋な彼女は顔を真っ赤にしながら身振り手振りで2階だと教えてくれた。

 彼女に礼を言って、先に2階に上がらせてもらうことを告げる。そうして料金を払った俺は弟子達を引き連れて階段を上りだした。

 階段を上っている最中にあいからなんか因縁を付けられた。俺は女性の知り合いが多すぎるとかなんとか。とくに天衣も弁護してくれず冷たい目だ。師匠悲しい。

 

 

 だがそんな二人も目的地に着けば期待通りの反応を示してくれた。

 

「これ……将棋道場ですか!? お風呂屋さんの中に!?」

 

「しかもバーみたいなおしゃれな内装ね。生ピアノまで流れてるし……ってあの人?」

 

 天衣は気付いたらしい。そう。道場の隅でピアノを弾いている男性こそ———

 

巨匠(マエストロ)!」

 

『捌きの巨匠(マエストロ)』———生石充玉将である。

 

「八一か、久しぶりだな」

 

「そうですね。最後にあったのはもう半年前くらいです」

 

「そうだな。まだお前が竜王になってなかったころだ」

 

「護摩行はどうでしたか? その間に俺にもいろいろあったんですよ」

 

「弟子を取ったっていう噂は聞いたな。うしろのちっこいの……どっちだ?」

 

 巨匠(マエストロ)が天衣とあいを見ながら言う。

 

「どっちもです」

 

「なに?……そうか。ま、座れ。久しぶりに顔を出してくれた礼だ。軽く捌いてやる」

 

 一瞬巨匠は怪訝な顔をしたが、すぐに平静に戻ると珍しいことに俺を練習将棋に誘ってくれた。勿論俺に否はない。

 

「おっす。よろしくお願いします。」

 

 竜王になった俺の力を見てもらおうじゃないか。

 そして———

 

 

 

 

 

 

 ———軽く捌かれた。

 ※八一が軽く捌かれたその内容を詳しく知りたい方は原作3巻を(以下略)

 

「ブラボー!!」「アンコール!!」

 

 まるで魔法のような将棋にギャラリーは大湧きだ。あいも一心不乱に拍手を贈っている。天衣は———

 

「これが捌きの巨匠(マエストロ)の将棋……棋譜を並べるだけではつかめない繊細さと豪快さ……とんでもない躍動感ね」

 

 とても感心しているようだ……悔しい…!

 だが確かにその通りだ。もはや芸術的とまで言える捌き。飛車も角もぶった切りどんどんと駒をぶつけては得た駒を盤上に放つダイナミックな将棋だった。

 さすがは『振り飛車党総裁』として将棋ファンの半数から熱烈な尊敬を受けている人だ。

 そしてこれこそが、俺が次のステージに進むために必要なピースだ!

 

「生石さん! お願いがあります!」

 

「うん? なんだ、改まって?」

 

「俺に…………振り飛車を教えてください!」

 

 

 

 俺のこのお願いは簡単には受け入れてもらえなかった。

 まず、俺の発言を振り飛車党への転身ととって驚愕したあいがこれまでの俺の振り飛車ディス(原作3巻もしくは本作一章12話を参照のこと)を暴露して、道場に集った振り飛車党員達に殺意を向けられた。下手したらリンチにあってたところだ。

 次に山刀伐さんに完敗したことを引き合いに出され、俺と研究会をして何か巨匠(マエストロ)にメリットがあるのかと問われた。俺に答えはなかった。

 そこを救ってくれたのは俺の弟子達だった。

 居飛車・振り飛車両方備えてオールラウンダーになるという目標をぶち上げた俺に感化されたあいが振り飛車を覚えたいと言い出した。そこに生石さんが食いついたのだ。俺にはあんなにつれなかったというのに。そのことにたいして文句を述べた俺に対して生石さんは、

 

「この子みたいな可愛い女の子が振り飛車を指してくれたら振り飛車の普及につながるだろ? これこそギブアンドテイクってもんだ。もちろんそっちのお嬢さんも。お嬢さん達、お名前は?」

 

「雛鶴あい、小学四年生です! 研修会D1です!」

 

「夜叉神天衣、同じく小学四年生で研修会D1です」

 

「…………あい……か。どうやら噂は本当だったらしい」

 

「噂ですか? どんな噂なんです?」

 

 研修会に強い女の子が同時に二人も入ったとかそんなのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「八一、お前は深刻なロリコンで変質的なこだわりのもとに弟子を厳選したって噂だよ」

 

 

 

 で あるか。

 もはや是非もなし。はいはい俺はロリコン、ロリコン。

 

 

 その後、脳内詰め将棋で力を披露したふたりに生石さんはさらに乗り気になり、二人のついでに俺も振り飛車を指導してもらえることになった。

 生石さんにしてみれば、俺に対してはさんざん焦らしたつもりだろう。だが気付いていない。そもそも俺はこうなるだろうことを予想して弟子達を連れてきたんだということを。生石さんはもともと子供には甘いのだ。今回の読み合いでは俺が玉将に勝ったということである。

 

 

 そこ、JSを出汁にしてゲスいとか思ってないよね?

 

 

 




■原作との違い
・天ちゃんゴキゲンの湯へ
・八一の悪評、巨匠の耳に
・八一、巨匠に読み勝つ




ということで今回よりゴキゲンの湯編です。
ちょっと次話以降の構成に苦労しているので明日の投稿は少々遅れるかもしれません。
ご了承ください。


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