その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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日頃、誤字報告をいただいている皆様ありがとうございます。
この場で感謝申し上げます。


07.innocent world

 あの後、入浴中に飛鳥ちゃんとちょっとした一幕があり、羞恥の極地に達した俺は無人のロビーで扇風機に当たりながらうなだれていた。

 自分の思い上がりがあまりにも恥ずかしかったのだ。

 ※八一が何を思い上がっていたのかは原作3巻(神)を(以下略)

 

 

 そんな俺に話しかけてきたのは。

 

「師匠ー!」

 

「もう! 引っ張らないでよ!」

 

 天衣の手を引いたあいだった。

 

「おぉ、みんな風呂からもう出たのか?」

 

「わたしたちだけです。師匠に将棋を指してもらいたくて抜け駆けしちゃいました!」

 

「……私はいいって言ったのに。まだ髪も乾かしてないのよ」

 

 天衣は頭にタオルを巻いているがまだ濡れているのだろう。あいに至っては水がポタポタ垂れている。

 

「あい。髪はしっかり乾かさないと。もし風邪でも引いたらかえって将棋を指す時間は減っちゃうぞ」

 

「……あぅ。ごめんなさいです」

 

「ほれ。乾かしてやるからそこに座って」

 

 番台の下に入っていた予備のドライヤーとブラシを取り出しながら鏡台の前にあいを座らせる。

 

「い、いいんですか!? ありがとうございます……」

 

 まずはあいの頭をタオルで包んで水気をぬぐう。

 

「まあ、たまにはな。みんなには内緒だよ? それじゃ始めるぞー」

 

 ブイィィィィン

 

「お客様、お加減いかがっすかー?」

 

「はわー……とっても気持ちいいです……」

 

「お客様は猫っ毛ですねー」

 

「あいは猫さんですー」

 

 にゃんにゃかにゃーと歌い出す猫のあいさん(9)。かわいい。

 ただ、途中で姉弟子の髪を乾かしていたエピソードを話すと不機嫌猫さんになったりもしたが。やがて乾かし終わり、髪の毛をいつものように二つに括って完了だ。

 

「ししょー。ありがとうございました! とっても素敵でした♡」

 

「お粗末様でした。……それじゃ次は天衣の番だな。こっちおいで」

 

「はぁ!? わ、私はいいわよ! ドライヤーさえ貸してくれたら自分でやるから!」

 

「遠慮するなって、ほら」

 

「そうだよー、天ちゃん。師匠はドライヤー屋さんになれるくらい上手なんだから」

 

「なによそのニッチな職業は。……ってもう。分かったわよ。座ればいいんでしょう!」

 

 俺に押されてしぶしぶ天衣は席につく。

 

「それじゃ始めるぞ。天衣」

 

「さっさとしてちょうだい」

 

 覚悟を決めたのか、天衣は目を瞑る。

 

 ブイィィィィン

 

 ドライヤーの風に天衣の髪が揺れ出す。

 濡れているからというのもあるのだろうが、本当に艶やかな黒髪だ。こういうのを烏の濡れ羽色というのだろうか。なんとなく触ってみたくなって、俺はヘアブラシを置き、天衣の髪に手ぐしを通す。

 

「ちょっと! 八一先生、なんで手で触るのよ!」

 

 天衣はびっくりしたのか、見開いた目を怒らせて抗議してくる。けど———

 

「いや、悪い。本当にきれいな黒髪だから何となく触ってみたくなってな。……だめか?」

 

 触ってみると絹糸のようにつやつやで、さらにやみつきになる手触りだ。許されるならこのまま続けたい。

 

「な……ダメかって……何言って……」

 

 途中で途切れた言葉に俺は判断は保留だと見なして続ける。

 

「……手ぐしなんかで髪が傷んだらどうしてくれるのよ……」

 

 天衣が何を呟いているのかは分かったが、ドライヤーの音で聞こえないふりだ。髪を梳く手だけはより丁寧に動かす。

 俺に止める気がないことに気付いたのか、天衣はぎゅっと目を瞑って黙る。黒髪の間から覗く耳がピンクに染まっている。湯上がりだからという理由だけではなさそうだ。

 あいもそうだったけれど、天衣の髪も長い。乾かすのにはそれなりに時間がかかる。けれどもどんな時間にも終わりが来るように天衣の髪も乾いてしまった。あまり乾かしすぎるのもよくない。未練とともにドライヤーのスイッチを切り天衣に声をかける。

 

 「さ、天衣。終わったぞ」

 

 「……ありがとう。八一先生」

 

 天衣は小さく礼を返す。

 

 

 

 

「むぅ。また二人だけの世界を作る……師匠のだらぶち」

 

「うん? どうかしたか、あい?」

 

「いいえ! なんでも! それより師匠! あいもお返しをしますよ!!」

 

「お返し? いや、気持ちはありがたいけど俺の髪はもう乾いてるぞ?」

 

「えーと、それじゃあマッサージなんてどうですか? 温泉旅館の娘なので結構自信あります!」

 

「マッサージか。……いいな」

 

「それじゃあ、師匠。こっちの畳にうつぶせになって下さい」

 

 俺が横になるとあいはさっそくマッサージを始めてくれる。

 

「お客さ~ん。こってますね~」

 

「…………」

 

「体を酷使しすぎなんじゃないですか~。もっと普段からケアしたほうがいいですよ~。……内弟子に手伝ってもらって」

 

「…………」

 

 自信があるというだけあって確かに手際はいい。JSにマッサージされるという行為そのものが極上の癒やしでもある。しかし、だ。それで棋士の体にしがみついた頑固なこりをほぐせるかと言えば力不足と言わざるを得ない。具体的にはもっとSTRが必要だ。だけどJSの腕力には限界がある。何か他に手はないだろうか。要は別の力を加えれば良いのだ。電力・熱力・風力・重力……ハッ!?

 

「あいさん、あいさん。俺を踏んでくれまいか」

 

「へっ!?……ししょー?」

 

「いきなり何言い出してるの? また通報されたいの?」

 

 その言い草はひどいな!?

 マッサージしてくれていたあいも、それを横でみていた天衣もドン引きしている。

 いかん。誤解されている。

 

「いやいや! 変な意味じゃなくて! あいの力だとちょっと弱いから、いっそ足踏みマッサージならちょうど良いかなーとだな」

 

「そうなんですかー?」

 

「…………」

 

 天衣はまだ疑わしい目をしているが、あいは一応納得してくれたらしい。

 

「で、でも師匠を踏みつけにするわけには……」

 

「大丈夫大丈夫。あくまでマッサージの一環だから。どんとこいです」

 

「それじゃあ失礼して……参ります!」

 

 

 ふみっ

 

 

 お……おぉぉぉぉ!?

 母なる大地の引力を受けたJSの重み……なんて心地良いんだ……

 

「これはいい……すごくいいぞ。あい!」

 

「よかったですー。それじゃあ続けますね」

 

 そうこうしているとJS研のみんながお風呂から戻ってきた。

 あいが俺を踏んでいることに初めはびっくりするも、事情を説明すると彼女たちも協力してくれる。

 

「くじゅるー先生、おかげんいかがですかー!」

 

「うちのほうも気持ちいいですか?」

 

 俺の両足をマッサージしてくれる澪ちゃんと綾乃ちゃん。

 

「ふみふみー♡ ちちょー。しゃうのふみふみ、きもてぃぃ?」

 

 そして俺の腰を中心に足踏みマッサージしてくれる天使の中の天使。

 さらに肩から背中を足踏みマッサージ中のあい。すばらしい。

 

「ああ、みんな。最高だよ……最高だ」

 

 

 だが、唯一欠けているピースがある。

 

「天衣はやってくれないのかい?」

 

 俺はキメ顔でそう言った。

 

「キモい。死ねば」

 

 天衣の反応は激辛だ。だがリジェネが掛かっている今の俺なら耐えられる。

 

「天衣もやってくれると師匠、嬉しいんだけどなー?」

 

「貴方、今の自分が周りからどんな風に見えているか想像できる?」

 

 かわいいJS達にかしずかれ、まるで王様のようだろう。きっと。多分。おそらく。

 

「…………」

 

 俺は期待を込めた眼で天衣を見上げる。そして先に根負けしたのは天衣のほうだ。

 

「……はぁ、分かったわ。踏むなんて気持ちの悪いことはしたくないけどハンドマッサージくらいならやってあげる」

 

 そうして、俺の手のひらや腕を天衣の小さくプニプニとした指がマッサージしてくれる。

 今全てが完全となった。俺の五体全てにJSが取り付いて一生懸命癒やしてくれているのだ。

 

 ディモールト素晴らしい! 最高だ!

 

 いかに最新技術の粋をこらしたマッサージ店やエステ店に通ってもこれほどの癒やしは提供できないだろう。そのことは確信をもって言える。そうこれが……これこそが…………。

 

「J……S……リフレ……か!」

 

 ゴリッ

 

 命の喜びに浸っていた俺の後頭部に突然押しつぶすような力がかかる。

 

「あ、あい? そこは踏まなくて良いんだよ? そこは頭だからね?」

 

「それで?」

 

 声の主はあいではない。それどころか天衣でもなければJS研の誰のものでもない。ふと気付けば背中や足からは重みが消えている。みんな避難したらしい。

 

 ということはこの声は、まさかまさかまさかまさかまさか———!

 

「八一、ずいぶん楽しそうね?」

 

 

 A☆NE☆DE☆SHI !?

 

 

「い、いえ! これはちがっ、ぐぇッ!?」

 

 俺の頭にかかる力が増し、ぐりぐりと捻られる。

 

「何が違うの? あんたが人間だってこと? 実はミジンコだった?」

 

「……いえ、そうではなく。決していかがわしいことをしていたわけではなくてですね。これはあくまでマッサージでして……」

 

「それで出てきた言葉が『JSリフレ』ってわけ?」

 

 聞かれていたのか!?

 

「JKリフレっていったらいかがわしいお店のことだけど、JSリフレは違うの? ねぇ、八一?」

 

 いかん。さらに圧力が増している。このままでは俺の頭は人造○間16号のように———

 

「ッ……」

 

 死の覚悟さえよぎったその瞬間、急に俺の頭から重さが消えた。

 姉弟子は後ずさっている。そして反対側には天衣。

 どうやら見かねた天衣が姉弟子を突き飛ばしたらしい。

 

「どんなにキモくても人の師匠の頭を足蹴にするのは止めてもらえるかしら? 不愉快だわ」

 

「……私はそいつの姉弟子なのだけど?」

 

 身を起こした俺を挟んで二人が向かいあっている。

 おーい。天衣さん。俺を挟んで姉弟子を挑発するの、止めていただけないですかね。命に関わるよ?(俺の)

 

「そうね。貴女が八一先生の姉弟子……つまり私にとっても”おばさん”であることは理解しているわ。 だから目上として尊重するわ? それに”今の”貴女は二冠でもあるのだもの」

 

 尊重するといいつつも、特に天衣に恐縮しているような様子はないし敬語に切り替えることもない。

 

「…………」

 

「だけどこちらの事情もご理解いただきたいものね。”おばさん”よりも実の師匠のほうを優先するのは当然のことでしょう?」

 

 姉弟子の表情はいかにも忌々しいというようだが、天衣は殺気だった姉弟子を前にしても余裕の表情だ。本当にどんな強心臓をしているのだろう。

 

 ギリッ

 

 姉弟子は歯がみすると天衣から視線を外し。

 

「頓死しろッ! 将棋星人ども!!」

 

 言い捨てて母屋のほうに去って行く。将棋星人? なんだそりゃ?

 ※姉弟子の発言の真意を知りたい方は原作3巻(神)を購入して(以下略)

 

 

 しかし巨匠(マエストロ)。姉弟子が研究相手ならそう言えよぉぉぉぉぉぉぉ!!

 今回のこれは避けられた悲劇じゃないかぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

「……頓死しろ、ね。……さて、頓死することになるのはどちらかしら? それなりに毒は回っているようだけど。楽しみね?」

 

 

 




■原作との違い
・八一、天ちゃんの髪を乾かす
・八一、天ちゃんのハンドマッサージを受ける
・姉弟子、屈辱

天使な天ちゃんと悪魔な天ちゃんを同時に味わえる一粒で二度おいしい一話となりました。
次話はジンジン戦です。
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