その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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思いの外早く書けたのでひとまず投稿します。
変わらずストックはありませんが。


マイナビチャレンジマッチは安定のキンクリとなっております。
見たい方は原作を買ってどうぞ。





第四章.其を玩弄して打ち毀す
01.九頭竜八一最後の日


 

 

 

「ししょー」

「…………ッ!?」

 

 振り向けばあいがいる。最高にかわいい笑顔で俺に向けて手を振っている。

 

 だけど今だけは会いたくなかった。

 なぜか?

 

 

 

 

 

 

 命に関わるからだ。俺の。

 

 

 あいは笑顔だ。とてもかわいい。だが目が笑っていない。

 ガラス玉のような瞳で俺をまるで観察対象の虫のように見ている。とても怖い。

 ではなぜそんなのことになっているのか?

 

 

 

 

 それは今まさに『あーん』してもらっているところだったからだろう。俺が鹿路庭さんに。プリンを。

 今日俺は、『ニコ生』で棋帝戦第三局の解説者を務めていた。これも竜王である俺に舞い込んだ仕事だ。

 お相手の聞き手は美人女子大生棋士として人気な鹿路庭珠代女流二段(巨乳)だ。対局は休憩時間に入り、俺たちも休憩ということでおやつとしてプリンが差し入れられた。そこで鹿路庭さんが茶目っ気を発揮して俺に『あーん』をしてきたのだ。こうなってしまっては俺も彼女に恥をかかせるわけにはいかない。受け入れるしかないだろう? いやいやだよ?

 

 そこにスタッフが休憩の終わりとともにゲストの登場を告げた。

 今はマイナビチャレンジマッチ突破のお祝いも兼ねてJS研のみんなと東京観光をしているはずの二番弟子の声がなぜかして———

 

 

 

 振り返れば奴がいる。

 ちなみに一斉に『おはようじょ』というコメントが流れ出した。

 

「え、えーとね。あいさん? 俺は決して遊んでいたわけでも、楽しんでいたわけでもなくて。これもね———」

「りゅうおうのおしごと……なんですか? 美人に『あーん』してもらうのも」

「……そうだよ」

 

 いかん。あいの目がゴミでもみるようなものに変わっている。

 そこに救いの手が。

 

「ええと、九頭竜先生? この子は?」

「えっと! それはですね!」

 

 鹿路庭さんからの質問に答えながら何とか流れを変えないと!

 だけどその救いの手をぶった切ったのもあいだった。

 

「雛鶴あい。小学四年生です。九頭竜先生の内弟子をやってますッ!」

「あ、元気なあいさつありがとうね。…………ん? ”内”弟子?」

「はい。師匠の家に住み込みで手取り足取り教えてもらっています」

「…………それは」

 

 いかん。鹿路庭さんの俺を見る目が性犯罪者を見る目に変わっている。

 『ニコ生』の視聴者のコメントを映し出す画面に目を向けると。

 

『JSと同棲ってこと?』『うらやまけしからん』『クズ竜王爆死しろ』『やっぱりロリコンじゃないか』『何教えてるんですかねぇ?』『通報するべき?』

 

 するな! ……いかん。俺へのヘイトがうなぎ登りだ。なんとかせねば。

 

「将棋! 将棋をねッ! 俺が教えているんです! この子はすごく才能があるから!!」

 

 俺は必死に弁明を計る。だが事態はジェットコースターのごとく悪化の一途をたどるのだった。奇しくもその引き金をひいたのはマイエンジェル——

 

「ちちょー♡」

「シャルちゃん!?」

 

 トテトテと舞台袖からやってきたシャルちゃんはうんしょっと俺の膝に登り座る。

 うん。シャルちゃんは天使。はっきりわかんだね。コメントも天使の登場に大盛り上がりしている。

 

「……あのー。九頭竜先生? この金髪のお子さんは……?」

 

 恐る恐る聞いてくる鹿路庭さん。それに答えたのはシャルちゃんだった。

 

「しゃうはね、しゃうおっとぃずぁーう。ろくしゃい。ちちょーのあいじぅだよー」

「あ、愛人?」

「うん」

 

 鹿路庭さんの疑問に大きく頷くシャルちゃん。

 しっかり自己紹介できて偉いねー、シャルちゃん。そして死んだねー、俺。

 

「……せ、先生? 6歳の女の子を愛人って……?」

 

 戦慄した表情の鹿路庭さん。『ニコ生』のコメントも大荒れだ。

 

『クズ竜はクズ。はっきりわかんだね』『八一さんひくわー』『お巡りさんコイツです』『性の喜びを知りやがって、お前許さんぞ!』

 

 しまいには、

 

『ロリ王とはッ—— 誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉! すべてのロリコンの羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、ロリ王。故に——! ロリ王は孤高にあらず。その偉志は、すべてのロリコンの志の総算たるが故に!』

『然り! 然り! 然り!』

 

 誰だよ、お前ら。

 

 

 

 あーもう、滅茶苦茶だよ。

 

「自業自得です! おっぱいのおっきな女の人に言い寄られてデレデレして! 師匠のだら! だらぶち!」

 

 違うの。違うんだよ。あくまで礼儀として『あーん』を受けただけでね?

 

 

 

 さらに、澪ちゃんと綾乃ちゃんが現われるに至り視聴者数はうなぎ登り。コメントは祭り状態に。完全に収拾がつかなくなる。スタッフは視聴者数に気をよくして止めようとしないし。俺は途方に暮れるしかない。

 

「……八一先生、大丈夫?」

 

 そう慰めてくれるのは最後尾からやってきた天衣だ。

 

「……ちょっと大丈夫じゃないかなー」

 

 何となく天衣の頭を撫でて心を落ち着かせる。

 

『YES ロリータ NO タッチ』『イリーガルユースオブハンズ』『自然になでポしようとするクズ』

 

 厳しいね。君たち。

 

「えーと、九頭竜先生。今度はどなたですか?」

 

 もはや呆れるしかない鹿路庭さん。

 

「夜叉神天衣。八一先生の一番弟子だけど」

『『『正妻キター!!!』』』

「はぁ!? 誰が正妻よ!? 言葉に気をつけなさいよ! クズども!!」

『コメ拾ってくれた』『やさしい』『ツンロリちゃんぺろぺろ』

「……気持ち悪い。みんなまとめて死ねば良いのに」

 

 心底気持ち悪いという顔で暴言を吐く天衣。だがネット住民達はこれくらいでへこたれる奴らではない。むしろご褒美だろう。ほら。

 

『幼女からの”死ね”いただきましたー!』『これはいいツンロリ』『辛辣ぅー。だがそれがイイ!』『おかわり待ちで全裸待機中』『もっとだ! もっとこいよ!』

 

 大喜びだ。

 さらにそれを天衣が気持ち悪がって罵倒し、絶賛するという無限ループが続くかと思われたがある一言から流れが変わった。

 

『ちょっと待て。こんなよいツンロリに竜王だけが懐かれていていいのか、おまいら?』

『ハッ!?』『ハッ!?』『ハッ!?』『ハッ!?』『ファッ!?』

「ちょっと! 誰が懐いてるですって!?」

 

 俺の手を払いのけて否定する天衣。だけどむしろそれは火に油を注いだようだ。

 

『流れるようなツンデレ』『ナチュラルツンデレ』『うらやまけしからん』『許すまじ』『おこ』『屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ……』

 

 ものすごい勢いで稼がれるヘイト値。しまいには、

 

『クズ竜は、何ひとつ恥じる事もないのか。ゆるさん、炉利につかれ、棋士の誇りをおとしめたロリコン。その夢を我が血で汚すがいい。竜王に呪いあれ、その願望に災いあれ。いつか、フリークラスに落ちながらこのディ○ムッドの怒りを思い出せ』

 

 本当に誰だよ、お前。後、フリークラスとか縁起でもなさすぎぃ。

 

 

 

 そのままJS祭りと俺への弾劾が続くかと思いきや、その直後に挑戦者の名人が棋帝を寄せに入りみんなの注意がそちらにいった。良かった。

 名人の寄せには俺と天衣とあいだけが気付いたミスがあり、そこから展開した議論で二人の圧倒的な才能も明らかになった。俺がロリ好きで二人を弟子に取ったわけではないことをみんな分かってくれただろう。多分。良かった。

 鹿路庭さんが二人を尋常じゃない目で睨んでいたのは気になるが。

 

 そして対局自体は、そのまま名人が寄せきり棋帝位奪取とあいなった。

 これで名人はタイトル99期達成。さらに名人は竜王戦の挑戦者決定戦まで駒を進めている。

 仮に名人が挑戦者となった場合、俺は神とも賞される最強の棋士にタイトル100期在位、日本中がお祭りになりかねないほどの期待という向かい風のなかで戦うことになる。

 その事実に俺は青ざめるしかなかった。

 

 

 そしてこの『ニコ生』は、消沈する俺を慰めるためにシャルちゃんが元気の出るおまじない=頬にキスをしたことで『通報しました』の嵐となって終わりとなった。

 ちなみにこの日の放送は、なんと視聴者数300万オーバー。将棋中継史上最高の数値を更新した。そして300万人以上が竜王JSチュー事件を目撃したのだった。

 

 

 




■原作との違い
・八一、ネット民からロリ王認定
・天ちゃん、ネット民から正妻認定(ちょっと嬉しい)
・八一、ディ○ムッドからフリークラス落ちを祈られる

ちなみに特に描写していませんが、ロリ落ちしている八一は原作ほどたまよんにデレデレはしていません。それでもあいの怒りの閾値を超えましたが。

いっそ、あいの怒りを買わずこのエピソードそのものをスルーしてしまおうかとも思いましたが、天ちゃんを第三者から正妻認定しておきたかったがために採用しました。

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