その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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05.邂逅、漆黒と紅玉の少女

 その部屋には、一人の女の子がいた。

 小学生くらい――会長の話だと確か小学三年生――の女の子がいて、俺の顔をみると透き通った美しい声でこう言った。

 

「いらっしゃいませ。九頭竜八一八(818)段」

 

 ………………うぐぅ。

 

 状況を整理しよう。

 夜叉神氏が襖を開けたその部屋には、小さな女の子がいて、美しく輝く瞳でこっちを見ている。

 すごくきれいな女の子だ。小学生の女の子ではあるが、かわいいというよりきれいと表現するのがふさわしい。

 華奢な手足をきちんと折りたたんで正座したその女の子は、部屋の入り口で立ちすくむ俺を挑むように見上げていた。

 将棋盤の前で正座する姿は凛として、一枚の絵画のように美しい。

 そんなJS(女子小学生)が開口一番、強烈なパンチを叩き込んできたのだった。

 

 ……正式に弟子にしたら、師匠の名前でエゴサーチするのは禁止にしようと心に固く誓った。だって涙が出ちゃう。男の子だもん。

 

「月光会長や鬼沢のおじ様が揃って推薦するほどの方が、師匠となってくださると聞いて、私とても楽しみにしていたの」

 

「………………」

 

「楽しみ過ぎて少しあなたのことを調べたのだけど、今度は何だか不安になってしまったわ。あなたはまぐれでタイトルを一期取っただけのザコ棋士に過ぎないのではないかって」

 

「………………」

 

「もし本当にそんなザコ棋士なんだとしたら師匠ヅラされるなんて我慢ならないから、そうではないって証明してくれないかしら?」

 

 JSは目の前の将棋盤を指しながら、そうのたまう。

 

 可憐な姿からは想像できないほどのじゃじゃ馬だ。だが、俺は、というか棋士なら誰でも、実はこういう手合いには慣れている。棋士を目指す才能あるガキは大概、一度は天狗になるものだからである。天狗のままでいられるかは別だが。

 本気モードに必要な眼鏡と扇子を身につけつつ、念のため保護者に確認する。

 

「厳しくしてよろしいんですね?」

 

「存分に」

 

 こういう手合いを躾るには、本人が想定する以上のハンデをつけて、大勝するのが一番だ。駒を2枚落とした時には平然としていたが、さらに2枚追加で落とすと案の定、俺の侮りにJSの顔が怒りで赤く染まる。

 そして「殺す!」と息巻いて指し始める。怒り顔もかわいい。

 ただ、その瞳の奥には僅かに期待も見え隠れしている気がする。師匠となる俺が本当にそれほどの力を持っているのだろうかと。

 

 手を進めていくと定跡をしっかりと勉強していることが見て取れる。そこで今度はプロになる前、奨励会時代に培った駒落ち将棋の新手筋を用い、揺さぶっていく。

 

「っ…………!?」

 

 目に見えて動揺している。意外に素直な性格しているようだ。かわいい。

 さらに揺さぶる。

 

「え? …………ええっ!? こ、こんな手筋…………成立しているの……?」

 

 楽しくなってさらにさらに揺さぶる。

 

「ぐっ……! ま、まだよ!」

 

 屈辱に顔を歪める、キレイ系ツンJS。とてもかわいい。

 そしてそんなJSをいじめる俺氏、とても楽しい。

 実は俺はSだったのかも知れない。周りにいた女性がドSの姉弟子と母性満点系の桂香さんくらいだったのでこれまで発揮されることはなかったが。後は、曲者ぞろいの女流タイトルホルダーとかな。

 

 だがSとしての俺が満たされるその一方で、師匠になるかもという俺は不満を感じ始めていた。

 この綺麗な子は、とても綺麗な将棋を指す。だが、定跡頼りの綺麗すぎる将棋で泥臭さも粘り強さも感じない。結論、才能がない。

 

 この子ほどの器量持ちだ。下手に棋士を目指すよりアイドルなんかを目指した方がいいのではなかろうか。年上の男である俺に殺気を放って立ち向かえるほど度胸もあるし、大成するだろう。

 なんだったら俺がファンクラブNO.001になってもいい。竜王戦優勝賞金で個人スポンサーになるまである。

 

 天衣ちゃんファーストライブの最前列でオタ芸を披露することを夢想しながら、俺はこの対局を終わらせようと攻めに転じた。

 

「ッ!! きた…………!」

 

 逆撃を受けて恐怖に顔を引きつけらせるJS。とてもかわいい。

 うなだれた天衣をみて、心が折れた音を聞いたような気がした。傲慢JSお嬢様もこうなってしまうと憐れだ。

 きっとこれほどのことは、生涯初めての屈辱───初体験なんだろう。

 何かほの暗い喜びを感じた気もするが、それを振り切り一息で介錯するべく攻撃の手を強める。天衣の陣地はなすすべもなく、壊滅していく。

 

 だが…………

 

「ま……だッ!まだ、私は戦える!!」

「なに!?」

 

 投了を待つ気持ちでいた俺は、天衣の上げた顔をみて驚愕した。

 彼女の美しい瞳が紅玉のように爛々と輝き、俺を睨み付けていた。

 敗者の眼では断じてない。天衣の心を折ったと思ったのは俺の早計だったのだ……。

 

 そして始まった彼女の抵抗はさらに驚嘆に値するものだった。盤上、手持ち、全ての戦力を総動員し、俺の攻撃を紙一重で躱していく。堅固ではない、決して堅固な守りではないのだが、あと一歩俺の攻撃が届かないのだ。

 それは定跡ではない…… 彼女の才能が生み出した彼女だけの守りだ───

 そして守りだけではない。攻めにはやる俺を引きずりこみ、息を切らした瞬間に首を掻ききってやろうという鋼の意思を盤面から確かに感じる。

 

 これは……

 

 その時、俺は初めて彼女のことを正しく認識した。

 彼女のライブでオタ芸を打とうなどと考えていた先ほどの自分をぶん殴ってやりたい。

 彼女は持っていたのだ。決して折れない心とそれに支えられた『受け将棋』という圧倒的な才能を!

 

 

 ―――この子は強い!!

 

 

 

 

 

 とはいえ、俺はその後きっちり巻き返し、天衣を詰ましました。躾ははじめが肝心だからね。仕方ないね。

 ボロボロ涙をこぼしながらこちらを睨んでくるツンJS。尊い。

 

 これが俺と天衣の初めての出会い。これが将棋界に激変をもたらすことになるとは誰も予想していなかった。この出会いを演出した月光会長以外は。

 

 

 

 そしてそれ以上に誰も知るはずもなかったのである。Sの目覚めに戸惑う俺が、その裏で王道(年上系巨乳党)からダークサイド(ロリコン)に落ちていたことを。

 

 

 




■原作との違い
 ・八一にまだ弟子がいないことから天ちゃんの好感度特大アップ
 ・八一の連敗記録がまだ止まっていないことから天ちゃんの好感度若干ダウン
 ・八一、ロリに耐性がない状態のため、若干おかしくなる
 ・八一、ヤンロリに出会い尻に敷かれる前のため、Sに目覚める
 ・八一のSと天ちゃんの受け属性ツンロリが合わさり、八一深刻なロリコンに落ちる【朗報】

天ちゃんは小悪魔系天使だからね。ロリに耐性がない状態で会ったら落ちるのも仕方ないね

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