その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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天衣ドルマスター、是非ともプレイしてみたい。
どっかのスマホゲーの会社が実現してくれないですかね。


08.今、何をなすべきか

 

「なに? 送る先は清滝家でいいの?」

「うん。……師匠の竜王戦が終わるまで、おじいちゃん先生の家でお世話になるようにって言われてるから」

 

 先ほどまで大金星に浮かれていた妹弟子の顔が悲しみに陰る。

 なるほど、今朝様子がおかしかったのはそういうこと。八一先生にただ単に怒られただけではなく家から追い出されてしまったらしい。そこまでするってことは八一先生もよっぽど追い詰められているようね。

 

 現在、私たちがいるのは新大阪駅。時刻は既に23時を回っている。

 今日のマイナビ本戦初戦に私たちはそろって勝利。私はタイトルホルダー相手、妹弟子は奨励会員相手、ともに外から見れば大番狂わせといっていいのだろう。対局後の取材はうざいくらいに盛り上がった。取材を終えると時刻は既に18時を過ぎていた。その後、東京駅で食事をしてから21時台の新幹線に乗って新大阪まで戻ってきた。今はちょうどタクシーに乗り込み妹弟子を送っていこうとしていたところだ。引率についている大人は晶だけだし、この時間に小学生を一人で放り出すのはちょっとね。

 

 妹弟子の言葉に晶が行き先をタクシーの運転手に伝える。

 タクシーは闇夜を走り出し、車内は重い沈黙に包まれていた。今は変に慰めの言葉を伝えるのも逆効果だろう。私はしばし目を閉じて、車体の揺れに身を任せた。

 

 

 

 

 

 

「こんばんわー、あいです。お世話になりますー」

 

 清滝邸の玄関に入ると妹弟子が挨拶をする。私はその後ろに晶といっしょについている。ここまできたのだからさすがに顔を出すくらいはしておいたほうがいいかと思ったからだ。

 

「?……こんばんわー……桂香さーん?」

 

 けれど、呼びかけにだれも出てこない。たしかにまもなく日付もかわろうという時間だけれど、事前に連絡も入れているし、外からも灯りが点いているのが見えていたのだけれど。

 

 耳を澄ませると、家の奥から微かに泣き叫ぶ声のようなものが聞こえてくる。一体何事? 妹弟子と顔を見合わせているとやがて声は止み、ババアが奥からパタパタと出てきた。

 

「ごめんね。お待たせ、二人とも」

「それはいいんですけど、何かあったんですか桂香さん? 叫び声みないなのが聞こえてきましたけど」

「あはは……銀子ちゃんがちょっとね。でも大丈夫よ」

 

 空銀子が泣いていた? 対局で負けたとかではないでしょうし、八一先生と何かあった? 妹弟子が追い出されたのを聞いて、八一先生の力になれるのは自分だけとウキウキ気分で押しかけて、手ひどく追い返された。……そんなところかしら? 目に浮かぶようね。実にありそうだわ。

 

「あいちゃんはしばらく家にいてくれるのよね? お父さんも喜ぶわ」

「…………お世話になります」

 

 そこで妹弟子の声が暗く沈み微妙な空気が流れる。ババアは一瞬困った顔をするも切り替えるように言う。

 

「えっと、……そうだ、二人とも勝利おめでとう! タイトルホルダーと奨励会員を相手に大金星じゃない!」

「別にあの程度の相手余裕よ」

「あ、あいも! 余裕でしたー!」

 妹弟子も私に対抗するようにそう言う。確かに読みの量で圧倒した、才能でねじ伏せるような勝ち方だった。正面からの空中戦になるとかなりのものね。

「ふふふ。……そういえばこれで二人とも女流棋士の申請資格も手に入ったわよね。そっちについてもおめでとう。すぐ申請する?」

「……あ、それは……」

 

 またもや、妹弟子の表情が曇る。全く話の持っていきかたが下手クソね。そんな話をしたら師匠との関係を気にするに決まっているでしょうに。そこであんたまで困った顔をするんじゃないわよ。結局私がフォローする羽目になるじゃない。

 

「……今のところ、そのつもりはないわ」

「そうなの?」

「八一先生もまだ忙しいでしょうしね。……それに女流棋士には無敗の『浪速の白雪姫』サマが、アマチュアの小学生に負けて失冠するなんてのも面白いでしょう?」

「……相変わらずのビックマウスね。後で本人に伝えておくわ」

 

 苦笑しながらババアはそう言う。

 

「好きになさい。……それじゃあ私はこれで失礼するわ」

「あら。これから神戸まで帰るの? もう時間も時間だからあなたも泊まっていけばいいのに」

「結構よ。空銀子もいるのでしょう? 戦う相手とは馴れ合う気はないわ」

 

 もう2戦勝てば、女王戦への切符を手に入れることになる。

 

「そう。残念ね。お休みなさい」

「天ちゃん。お休みなさい。送ってくれてありがとうね」

 

 その言葉に手だけ振って返し、晶を急かしてタクシーに乗り込む。

 そうして私たちは清滝邸を後にした。

 

 

 

 

 

 

「晶。家に帰る前に少し寄り道をしてもいいかしら?」

「勿論構いませんが、こんな時間にですか?」

「ええ。多分急いだほうがいいと思うから」

 

 日付は既に変わっている。けれど彼はまだ起きているだろう。研究に必死で寝られているとは思えない。

 干渉しないで彼自身の力で立ち直るのを待とうと思っていたのだけれど。……妹弟子を追い出し、頭が上がらなかったはずのオバサンを泣かせたというのはよっぽど追い詰められているみたいだ。何ができるとも言えないけれど会ってみるべきだろう。……いいえ。私自身が彼に会いたいと思っている。だから———

 

 

「福島区のXXXXまでお願い」

 

 

 タクシーの運転手に行き先の変更を告げる。

 そうして八一先生に何を伝えるべきか、到着までの少しの間、物思いに耽るのだった。

 

 




■原作との違い
・あいちゃん、マイナビ1回戦に快勝
・あいちゃん体調を崩さなかったため、食事をしてからゆっくりと帰宅。
・姉弟子、内弟子の居ぬ間を狙って先走り原作通り撃沈。
・天ちゃん、動く

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