その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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原作9巻特装版に付く予定の『あいちゃんのヤンデレ度チェック』とはいったい……



12.約束

 

「天衣、どうしてこんなところに?」

「別に……静かな所に行きたくて旅館内をうろついていたらたまたま夜空がきれいに見える場所だったからここにいただけよ。八一先生こそどうしてここに?」

「どうしてって……ここ、対局室から俺が泊まってる部屋への通り道なんだけど」

「……そう」

 

 どうやらそういうことらしい。館内を歩き回っているうちにそんなところに来ていたとは。

 

 八一先生がさらに近づいてくる。

 

「八一先生、よたよたしているけどだいぶ疲れているようね」

「ああ、さすがにな」

「場合によっては今日指し直しになる可能性もあるんでしょう。大丈夫なの?」

「まあ、名人も条件は同じだ。何とか今のうちに休息をとるしかないな」

「……そうね」

「ここは静かだし、今日は寒くもない。自室に帰るのも面倒だしここでもよさそうだな」

 

 そう言いながら、八一先生は私の隣に腰を下ろしてくる。何となく居心地が悪く身じろぎしてしまう私。そこから何か感じ取ったのか八一先生が聞いてくる。

 

「……迷惑か、天衣?」

「何も言ってないでしょう? 迷惑なんてことないわ」

「そうか。安心した」

 

 そう言って笑いかけてくる八一先生。なぜか顔が熱くなってしまい、八一先生から中庭へ向き直る。

 

「それより、早く少しでも疲れをとらないとまずいんでしょう? 何か手伝えることはある?」

「うん?」

「……だから、そのマッサージとか……私でできることがあれば何でもいいんだけど……」

「ん? 今何でもって言ったよね?」

「え、ええ……」

 

 突然、八一先生の表情が真顔になり、視線にも力が増したので思わずたじろいでしまいながらもそう答える。

 

「それじゃあ———」

 

 八一先生が要求してきたのは。

 

 

 

 

 

「…………ねぇ、八一先生?」

「何だい、天衣?」

 

「正気?」

「ホワイ? もちろん正気だよ?」

 

「…………そう。普通こういう場合は膝枕してほしいとかそういう要望になるんじゃないの?」

「ああ、なるほど。いや、もちろん天衣の膝枕は素晴らしいものさ。よく知ってる(※一章16話参照)。だけど名人との激闘に疲れた体を急速に癒やすにはそれでも力不足だ。いわば膝枕はケアルラ、今必要なのはケアルガなんだ」

「よく例えがわからないのだけど」

「ファーストエイドやヒールではなくキュアが必要なんだ」

「だから分からないって言ってるでしょう!」

 

「まあいいじゃないか。ほら、はよう。……あ、後素肌に直接触れた方が効果が高いから、ちょっと服はだけてね。完全に脱ぐまではしなくてもいいけど」

「…………死にたいわけ?」

「…………何でもするって言ったのに」

「う……」

「そうか。天衣が師匠のためにできる何でもって、そこまでだったんだね……」

「……わかったわよ」

「うん? 今なんて」

「分かった! 分かりました!! やればいいんでしょう!?」

 

 そういうと天衣はベストとその下に来ているシャツのボタンを開け始める。

 

「あざーす。それじゃあ、はようはよう。ほらそっちの柱にもたれるようにして、それからもっと足開いて」

 

 それから俺自身は、開かせた天衣の足の間に潜り込む。

 そして露出した天衣の肌の上にそっと乗せた。

 

「……うんッ……」

 

 くすぐったかったのか天衣は小さく声を漏らす。

 

 

 そして俺は———ほあぁぁぁぁ……

 

 

 天にも昇る心地を味わっていた。

 ディモールト素晴らしい!! これで我が軍は後10年は戦える……

 

「……どう? 八一先生、満足?」

「ああ、最高だ。最高だよ」

「……そう。良かったわ」

 

 あぁ、しゅごい癒やしだ。感無量でござる。

 そんな言葉にならない感動に浸っている俺を見て天衣は苦笑する。

 

「何がそんなに気に入ったのか……よく分からないわね」

「一言ではとても言い表せないな……」

 

 そんな天衣に俺はその素晴らしさを何とか伝えようと言葉を紡ぐ。

 

「まず、指摘しておくべきはその触感だな。幼くも瑞々しい皮膚が抜群の肌触りを提供してくれる」

 

「そして、何より素晴らしいのはその弾力だ。薄くピンと張った皮膚のと、みっちりと詰まった内蔵が生み出すコントラスト。結果、柔らかく沈みこみつつも、確かな反発力で俺をしっかりと受け止めてくれている」

 

「次に挙げるべきは呼吸による収縮だ。ゆっくりとそして僅かに上下に揺さぶられることによってまるで揺り籠に乗せられているような安心感をもたらしている」

 

「更に忘れちゃいけないのが、温かな体温とミルクのように甘い体しゅ———」

 

「八一先生………………………………………キモい」

「はい。ごめんなさい」

 

 素直に謝る。少々熱く語りすぎたかも知れない。これはたたき落とされるだろうか?

 柱にもたれて足を投げ出して座っている天衣。今俺はその天衣のお腹を枕にするように横になっている。あるいは端からみれば俺が天衣に抱きかかえられているように見えるかも知れない。そんな状態で天衣の極上のお腹の感触を堪能しているのだった。このアルカディアから早くもおさらばかと身構えながら沙汰を待つ。

 

「もう、八一先生は本当に———」

 

 仕方ないわね。そう言いたげな表情でそっと天衣は笑ったのだった。

 どうやらこのご褒美タイムは今しばらく続くらしい。俺は視線を天衣から外すと夜空を見上げた。都市部から外れているからか夜空にはキレイにたくさんの星が瞬いていた。

 

 

 

 

 

 

 夜空を眺めながらしばらく互いに無言で時を過ごした後、俺は昨日から気になっていた事を口に出した。

 

「天衣……昨日はごめんな」

「……なんのこと?」

「女流棋士登録の事だ」

「ッ……」

 

その時の事を思い出したのか天衣は息をのむ。

 

「あの書類は本当は天衣と先に記入するべきだった。ごめんな」

「…………何を謝っているのかよく分からないわね。そんなのどっちが先だっていいじゃない」

「……そうか。俺の一方的な思い込みならそれでもいい。ただそのまま聞いてくれ」

「…………」

 

 天衣からの返事はない。構わず俺はそのまま続ける。

 

「あの時、場を壊さないためにもあいの申請書を書くしかなかった。だけど一番は天衣だから。だからそれだけはお前に伝えておきたかった」

 

 言いたいことは伝えた。反応をうかがおうと視線を天衣に向ける。けれどその前にそっと目を天衣の手で塞がれ、閉ざされた。

 

「……言いたいことは分かったわ。……でも別に私は順番なんて気にしていないし……何も謝られるようなことはないわ……」

 

 視覚を封じられている以上、天衣の様子は他の感覚で探るしかない。

 天衣の体は小刻みに振動し、俺の頬にはポタポタと冷たい滴が数滴落ちてきていた。

 

「……そうか」

「……そうよ」

「…………」

「八一先生が気にするようなことは何もないんだから……」

「……ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 しばらくそのまま時を過ごした。俺の視界は今だ天衣にふさがれたままだ。

ややあって俺は再度口を開く。

 

「良かったらさ、天衣」

「……何? 八一先生」

「今からでもお前の申請書を書こうか」

「……別に今はいいわ。急いでいないから」

「……そうか……」

 

 ここで少し無言の時間が流れる。

 

「ところで先生」

「ッ……何だ?」

「12月10日……私の誕生日なんだけど、10歳の」

「ああ……」

「それからクリスマスも近いわよね」

「そうだな」

「だから……その間でプレゼントが欲しいのだけど」

「…………分かった。任せろ」

 

 俺が請け負うと天衣の手がどかされた。

 遮るものがなくなった俺の視界には、少し目が赤くなった天衣の、けれども確かに笑顔が映っていた。

 

 

 

 12月10日と12月24日の中間、12月17日。その日は竜王戦7番勝負の最終局が予定されている。

 

 ここからの名人との4連戦、一つも落とす気はない。

 

 

 

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