指し初め式を終えると次は新年会だ。
我らが清滝師匠は蔵王先生に潰され、マーライオンと化して桂香さんや晶さんに担ぎ出されていることから分かるように激しい飲み会となるイベントである。
そのため、指し初め式に続いて参加している記者陣の取材対象は未成年棋士が中心になる。やはり人気なのは初の女性プロ棋士に一番近い姉弟子と———
「八一さん、あけましておめでとうございます」
「創多か、お疲れ」
今、目の前で俺に挨拶してくれている椚創多だ。
「昨年末は竜王位防衛おめでとうございます。4連勝での大逆転……とってもかっこよかったです」
「おう、ありがとうな」
以前から俺のことを慕ってくれてるかわいい後輩だ。この新年会でも自分から挨拶に来てくれた。だがその人気ぶりによってあっという間に取材陣に囲まれて引き離されてしまう。その人気の理由は明快だ。椚創多は現在小学五年生。そして
その階級は既に奨励会二段にある。そう。初の小学生プロ棋士となる可能性があるのだ。
創多と入れ替わりに戻ってきた天衣とあいにそのことを教えてやると大いに驚いていた。無理もない。自分と一つしか歳の違わない子供が既に姉弟子と同格にあるのだから。
そして次にやってきたのは、鏡洲飛馬三段。最年少プロ棋士の可能性がある創多とは対照的に29歳の最年長奨励会員だ。俺が奨励会に入る前から三段で、悪い意味にもなってしまうが奨励会の主といえる。俺も奨励会時代に大変お世話になった。そんな鏡洲さんに二人の弟子を紹介する。
「は、はじめまして!」
「夜叉神天衣と申します。よろしくお願いします」
あいはガチガチに緊張しながら、天衣は意外なことに殊の外丁寧に挨拶して頭を下げる。俺の顔を立ててくれているらしい。
弟子達の挨拶が終わったところで今度は鏡洲さんのことを二人に紹介する。俺が奨励会で一番お世話になった先輩だってことを。俺のことを奨励会入会時から知っているって事で天衣が話を広げる。
「八一先生って奨励会に入会してきた頃はどんな子供だったんですか? まだ小学生ですよね?」
「あ、あいも知りたいです!」
「八一の奨励会時代? うーん、入会してきたのは確か今の二人くらいの歳のときだよな?」
「そうなんですか?」
「生意気なガキだったなー。勝っても負けてもあんまり感情を見せなくてさ。一度Bが付いたときもクールぶってたもんなー?」
「そ……そうだったかなー?」
いかん。話が何だか悪い方に言っている気がする。このままでは嬉し恥ずかしエピソードを暴露されかねん。何とか話を逸らさないと……
だが、俺の奮闘むなしくいくつかの爆弾は投下されてしまうのだった。
◇
その後、鏡洲さんは以前頼んでいたブツが見つかったと教えてくれた。データ化して鵠さんに渡しておいたとのことだ。なぜ鵠さん?
まあ、それはいいのだが、データという単語にあいが食いついた。
えっちなデータではないのかとあらぬ疑いをかけられたのだ。
煙に巻こうとするがますますヒートアップするあい。男同士が秘密裏にやり取りするデータなどえろデータしかないとでも言いたげだ。あいどころか天衣まで疑わしげな視線を向けてくる。
あいが騒ぐとその声が周囲にも伝播する。どこかから「児ポ法が……」という恐ろしい声も聞こえてくる始末だ。
サプライズプレゼントに関わることだから内緒にしたかったのだが、駒を作るための文字データだと言うところまで白状させられてしまった。
そして、それだけでなく言い訳に必死で致命的なことに気付くのが遅れることになってしまったのだ。
———ぽおおおおおおおおお!!
———んぽおおおおおおおお!!
「「んぽお?」」
新年会会場の外から聞こえてくる謎の雄叫び。
天衣とあいが首を傾げて疑問符を浮かべる。
そして俺はその正体に思い至り真っ青になる。
「やばいッ!! 桂香さん!」
「は、はい!?」
「子供達を連れて逃げて下さい! 早く!!」
「逃げるって……誰から!? どこへ!?」
「どこでもいいから! とにかく一秒でも早く連盟から離れるんだッ!!」
桂香さんは手近にいたあいの手を掴み、走り出す。
そちらへ天衣も送りだそうとして、そして遅きに失したことに俺は気付くのだった。
「おち●ぽおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
正気を疑うような絶叫とともにドアを乱暴に開け放ち一人の女性が飛び込んでくる。そう。先ほどからの雄叫びはこの女性が卑語を叫びながら走ってきたものだったのだ。
「銀子! 銀子はどこだ!? あとおち●ぽぉぉぉ!!」
声の主は日本酒を一升瓶ごとラッパ飲みしつつ、もう片方の手で日本刀を振り回している痴女にして美女。
「……………」
あまりのことに天衣は絶句。
「な、ななな何なんですか!? あの人!?」
さすがのあいも大混乱に陥って、手を引く桂香さんに問いかけているが、桂香さんも固まってしまって答えは返らない。
姉弟子の名と男性器を交互に絶叫しながら暴れ回る、あまりにJSの教育に悪いこの人は———
「……ほ、
どうやら天衣は知っていたらしい。まあメディアを通してではない実物の姿に驚愕は続いているようだが。
この 痴女 女性は
なのだが、酒乱が酷く酔っ払うと放送禁止用語を連呼するという困った癖があり、かつ一年の内360日くらいは常に酔っ払っているという……。噂では某大国の大統領に招待された席で「プーチ●のち●ぽはどんなだ? うん?」と絡み続けて処刑されそうになったこともあるらしい。
その酒乱の大棋士がなぜ男性器の卑称とともに、姉弟子の名前をなぜ叫んでいるのかと言えば、下ネタ友達というわけではなく、囲碁と将棋という違いはあれど同じく棋界で男性の壁を打ち破ろうとしている姉弟子のことを特別目に掛けてくれているのだが———
「シュ、シューマイ先生。私はここです」
「おお! いたか銀子! イイおち●ぽしてるか!?」
「し、してませんッ!!」
「なにィ? なぜだ!? なぜおち●ぽしてないんだ!?」
「なぜもなにも! そんなことするわけないじゃないですかッ!!」
「なぜだ!? 今日はヤリ初め式とか言うおち●ぽ祭りなんだろう!?」
「指し初め式です! さ! し!」
「ええイッ! ヤリ初め式でも挿し初め式でも、呼び方なんぞどうでもいい!! 重要なのはおち●ぽしたのかどうかだ!! 八一の十代イライラおち●ぽ、メ●穴にズッコンバッコンして、最後は子●に密着ドピュドピュしたんだろう!? くそッ!! うらやましい!!」
「だからしてませんってッ!!」
最低の絡みに顔を真っ赤にしながら必死に否定する姉弟子。そこでシューマイ先生は一時沈静化し、あまりにも不可解というように姉弟子に問いかける。
「なぜおち●ぽしない? 八一は短小なのか?」
おい。
「ち、……知りませんッ!」
「食わず嫌いは良くないぞ、銀子! 短小だろうと巨根だろうと、まずは咥え込んでみることだ!! 八一! やいち●ぽはどこだ!?」
なんという酷い呼び方。小学生時代にもそんな呼び方されたことねぇぞ。
そしてヤバい。シューマイ先生と視線が合ってしまった。こっちに飛び火する。
「そこにいたか! やいち●ぽ!! お前、なぜ銀子とおち●ぽしてやらな———!?」
シューマイ先生はこちらにずんずんと向かってきながら俺に突っかかろうとしたところで、なぜか足を止め、口をつぐみ、驚愕に目を見開く。
一体何を驚いて? その理由は次のシューマイ先生の言動で判明した。
「や、八一……おまえ……。いくらおち●ぽしたくてもヤっていい相手とダメな相手があるぞ……?」
そう言うシューマイ先生の視線の先には、避難させようとして俺が肩を押していた天衣の姿があった。
「なッ!?」
そして俺が驚きで詰まり、咄嗟に否定できないうちにシューマイ先生が致命的な一言を発した。
「なんてことだ! 八一! そんな幼気な子供を剥いて、まだくびれもない腰をしっかり掴んで高速ピ●トンした上に、中●しまでキメるなんて!!」
「してませんよッ!!」
必死に否定するが、周囲の将棋関係者は『ざわ・・・ざわ・・・』としていた。
「なに!? 正●位でしてない!? それじゃあ『初めてはこの体制が負担が少ないから』とか言いながら騎●位でヤって、腹撫でながら『ここまで来てるんだよ。分かるかい?』とか言ったのか!!」
「違げぇよッ!?」
「くそッ! 銀子! お前がもたもたしているから八一のやつ、具合のいいキツキツミニマ●にガンギメF●CKしてしまったぞ!!」
痛い! 周囲からの凶悪性犯罪者を見るような目が痛い! 事実無根なのに!!
次から次へと出てくるパワーワードに何を言われているのか分からず呆然としていた天衣も、さすがに自分が何やらとんでもないことを言われているらしいと理解したのだろう。顔を真っ赤にして激怒する。
「なッ……何を訳の分からないことを言ってッ!」
だが、シューマイ先生には天衣のそんな態度も照れ隠しに見えたらしい。頭を抱えて絶叫する。
「ジーザス! こんな幼女をアヘ●Wピースしそうなほどトロトロになるまでおち●ぽ調教するなんて!!」
あまりにもあんまりな言いように天衣はもはや言葉も発せない。
その後もシューマイ先生は姉弟子に対して「処女膜も破れなくて才能の壁が破れるか!!」という迷言を残し、「女というのは男よりも弱いから、その克服には強烈な努力が必要だ」という名言に見せかけて「その努力のためにおち●ぽが必要だ」という最低のオチをつけるなど、やりたい放題ヤって暴れ続け、そして連盟職員につまみ出されて退出させられるという将棋現代史に残るような惨劇を残していった。
こうして仕事始めは 膜 幕を閉じたのだった。
こんなのでいいのか、プロ棋界。