その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

68 / 93

今回はキンクリ多めになっております。
原作での補完推奨です。(ダイマ)




05.デビュー

 

 惨劇となった指し初め式を終え、まだまだ年初イベントは続く。

 翌週にはJS研の皆(天衣除く)と初詣にでかけ、そのまま俺のアパートに舞台を移しJS(ひめ)はじめ、違うシャルはじめ、じゃなくて初JS研が執り行わなれた。

 

 初JS研では竜王戦の最中に取った写真の公開や澪ちゃんの女流棋士志望宣言。その思いに対する俺なりのアドバイスや、俺からの助言に感動した澪ちゃんから俺への告白。その後の練習対局では気合いが入りすぎたあいが『貸し盤』状態の将棋盤を割ってしまうアクシデントがあり、なぜかお詫びと称して着ていた振袖を脱ぎだした。そしてそれに触発された他のみんなも脱ぎ出すという初脱ぎ大会へと発展したのだった。

 

 そして今日。

 

「つれー。JS研のみんなに好かれすぎてて、マジつれーわー」

「そう。良かったわね。ロリコン名利に尽きるじゃない」

 

 目の前の少女はそうバッサリ切り捨てた。

 俺は今、夜叉神邸にて一番弟子を前に今年初のレッスンを行っている。指導対局の感想戦をしながら初JS研の話をしていたのだ。交友関係を深める意味でも天衣にも参加して欲しかったんだけどな。

 

「せっかくJS研みんなでのイベントだったんだから天衣も来れば良かったのに。対局相手にも困らないし、俺からの指導もその場でしてやれたのに、なんで来なかったんだ? 特に何か用事があったわけじゃないんだろう?」

 

 

「……それに出ていたら、こうして二人っきりで会って指導してもらえないじゃない」

 

 

「なにか言ったか?」

「いいえ。……私は競争相手と馴れ合うつもりはないの。女流棋士として最低限の義務は果たすけど、それ以外は自由にさせてもらうわ」

「……そうか」

 

 ところで俺は別に難聴というわけじゃない。つまり、先の天衣の呟きもバッチリ聞こえてたわけで。

 

 ああぁぁ、もぉぉぉぉぉ。かわいすぎんだろぉぉぉぉぉぉぉ。

 

 俺と二人っきりで会う機会が減るのが嫌だから、みんなとの集まりには参加しないって……

 何なの? 俺を萌え殺したいの?

 

 竜王戦の時、いやそれ以前から薄々気付いてたけど天衣お嬢様の好感度高すぎィ。

 いやね? 俺は別にロリコンじゃないよ? ロリコンじゃないけどね?

 こんな健気な愛情表現をツン系美幼女から連打されてぐらつかない男がいるだろうか。いやいない(反語)。そら、あんな初夢も見ますわ。

 

 俺は何とか表面上取り繕いながら話を進め、天衣のご両親や、その遺品の話などを聞き出し、その後、天衣を将棋会館の『棋士室』に連れて行く約束を取り付けたのだった。

 

 

 

 

 

 

「こんちゃーす」

「よっ」

「八一さん♡」

 

 勝手知ったる何とやら。軽いノリの俺の挨拶に返してくれたのは、鏡洲さんと創多の二人だった。

 

「さ、二人とも。入った入った」

「……失礼します」

「お……おじゃまします……」

 

 そううながす俺に押されておどおどと入ってきたのは天衣とあいの二人だ。

 ここは関西連盟ビルの棋士室。吉日(姉弟子が記録係をやっていて確実に棋士室にいない日)を選んで二人の棋士室デビューをするべくやってきたのだ。

 残念ながら鵠さんの手助けを得ることはできなかったが、俺と親しい鏡洲さんと創多がいたのはありがたい。

 早速、鏡洲さんが気を利かせて二人を手招きしてくれる。そのまま棋士室デビューの相手を務めてくれるらしい。

 

「夜叉神ちゃん。一局どうだい?」

 

 鏡洲さんが天衣を対局に誘う。その誘いに天衣も素直に応じた。

 

「……よろしくお願いします」

 

 二人の対局はある意味順調に推移した。

 奨励会三段に平手で挑んだ天衣だが、棋士室デビューとは思えない老獪な打ち回しで鏡洲さんにリードを許さない。そんな天衣を油断できない相手とみたのか中盤戦以降、鏡洲さんも奨励会由来の新手を惜しみなくつぎ込んで揺さぶりにかかる。奨励会三段と女流二級の対局は意外なほどの熱戦と成り、最後は鏡洲さんが寄り切って勝利した。

 

「いやー。これで小学四年生か。まいったね、ほんと」

 

 対局を終えた鏡洲さんの感想がこれだ。

 プロ棋士と遜色ない鏡洲さんと平手で打って良い勝負ができる。今の天衣の実力がこれか。本当、女流としては史上最強レベルで破格の才能だな。

 まず間違いなく女流タイトルに近いうちに手が届く。どころか奨励会に転向してもおそらくいずれプロ棋士になれるだろう。このことを客観的に確認できただけでも棋士室に連れてきた甲斐があったな。

 その後、あいと創多の対局も行われた。こちらは残念ながら、創多の初手3八金、三手目7八金という奇策に翻弄され実力を出し切れないまま、あいの敗けとなった。

 

 

 

 

 

 

 棋士室デビューが終われば次は大盤解説デビューだ。

 大盤解説の『聞き手』は女流棋士の大切な仕事となるため、今のうちに体験させてやりたかったのだ。

 おあつらえ向きに、今日の公式対局はA級順位戦・生石充玉将VS於鬼頭曜(おきとよう)帝位というタイトルホルダー同士の好カード。連盟内の将棋道場にはお客さんがいっぱいで都合が良かったのだ。

 棋士室デビューの対局は天衣が先だったので、今回はあいから。かわいいJS女流棋士の大盤解説デビューということで期待できるかと思っていたのだが……これが蓋を開けてみると(俺が)大やけど。どんな問題が起こったのかは口にしたくない。(原作六巻をご確認下さい)荒ぶるあいちゃんは桂香さんに頼んで引き取っていただきました。

 

 僅か15分で交代となったあいの後を引き継ぐのは天衣なわけだが、これは正直あまり期待していなかった。あいの悲劇の直後であるし、天衣自身の性格もあるしね。

 だがこれが意外や、天衣は聞き手役はうまかった。受け答えは丁寧。話の振りも的確。駒の受け渡しもスムーズで、対局者の新構想にもしっかりと気付いて、その驚きを観客へ伝播させた。

 途中、《コンピュータに負けた最初のプロ棋士》云々で若干怪しくなったが、俺が必死に路線を修正しようとしていたのに気付いて合わせてくれたおかげで、なんとか無事に大盤解説をまっとうすることができたのだった。

 

 と、こうして天衣の棋士室&大盤解説デビューはうまくいったわけだが、二人のタイトルホルダーの対局そのものは荒れ模様だった。序盤はリードを奪っていた巨匠に、勝負所でミスが出て痛恨の投了負けを喫してしまったのだ。

 俺と天衣はその後の感想戦を見学するため対局室に入った。対局者二人からは離れたところに陣取って様子をうかがう。記録係をしていた姉弟子と観戦記者の鵠さんは俺たちに気付いたようだったが、対局者二人は先の勝負の時のまま緊迫した雰囲気で向かい合ったままこちらを一瞥もしない。

 

 生石さんが変化を示し、於鬼頭さんが淡々と応じる。この繰り返しだ。感想戦は一時間に及んだが玉将がどれだけ変化を示しても帝位の優位は揺らがなかった。

 これは痛い。もうまもなく玉将戦が始まる。そこで生石玉将に挑戦するのは、於鬼頭帝位だ。今回の対局はその前哨戦だったといえる。その前哨戦で生石さんが準備していた研究は、この対局と感想戦で完膚なきまでに破られてしまった。玉将位防衛を考えると今から新たな武器を用意する必要がある。開幕までもう時間がない中でだ。

 

「八一、銀子ちゃん。明日、時間あるか?」

「俺は大丈夫ですけど……姉弟子は? 学校あるでしょ?」

「夕方からなら」

「研究会をしたい。泊まりがけでやれるように準備して来てくれ。よければそっちのお嬢さんもどうだい?」

 

 意外なことに生石さんは天衣にも声をかけた。

 

「私もですか? 私の実力では力になれるとは思えませんが……」

 

 天衣は困惑したように声を上げる。

 

「そんなことはないさ。この間の女流玉将との棋譜は見せてもらった。実に面白い将棋を指す。もしかしたら今の俺に必要なのは、お嬢さんのような新しい発想なのかも知れない」

「……そうですか。私でよければ喜んで」

 

 こうして、俺たち4人の打倒帝位に向けた研究会が開催されることになったのだった。

 





というわけで生石研究会に天ちゃんも参加の流れに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。