「刮目せよ!!我が奥義――『ライトウイング・ホーリーランス』!!」
「ぐっ・・・」
神鍋流1五香―――歩夢きゅんが編み出し、その後、帝位リーグ蹂躙の原動力となった強力な一手だ・・・。
が、今日に限って言えば望むところではある。関西ではこの一手を以前より研究してきた。
だから敢えて、この手を出させるように誘導したのだ。
「歩夢、悪いがその槍、今日限りでへし折らせてもらうぜ!!」
「なにっ?」
俺は研究で出した結論を、盤面に再現する。
そして、歩夢きゅんは全てを悟ったかのようにうなだれる。
俺は、勝利を確信した。
「ひゃっひゃっひゃー、やったー、俺の勝ちだー!!」
だが・・・・。
「何勘違いしているんだ、八一」
「ひょっ?」
「まだ、我のバトルフェイズは終了してないぞ!」
「何をいってるんだ、歩夢きゅん。お前の手持ちの戦力じゃもうどうしようもないじゃないか」
「速攻魔法発動『バーサーカーソウル』!!」
そう叫びながら歩夢きゅんは思いもよらぬ一手を繰り出してくる。
俺は、その場しのぎの手しか返せない。
「ドロー、モンスターカード!!」
歩夢きゅんは、そんな俺に追加攻撃を加えるかのごとく、駒を奪っていく。カード?何のことだ?
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
「ドロー、モンスターカード!!」
もはや俺は何の抵抗もできず、なされるがままだ・・・。
あまりの有様に観戦記者を務めていた鵠さん(巨乳)が見かねて止めに入る。
「もうやめてぇっ、神鍋六段!」
「HA☆NA☆SE☆我はゴッドコルドレンDA!!」
「もうとっくに竜王の駒は0よ!!もう勝負は着いたのよぅ・・・」
そう、俺の王将以外の駒は全て取り尽くされ、いわゆる全駒状態だ・・・。
最悪の負けパターンだ・・・。
そうして歩夢きゅんは、もはや投了する気力もない俺を見て我に返り、そっと王将を取って勝負を終わらせたのだった。
打ちひしがれていた俺はとぼとぼと帰路を歩いていた。
そして、何を思ったか止せばいいのにWebサイトを見た。
【クズ竜王】九頭竜八一の八一八段への昇段を祈って鶴を折る109スレ【祝12連敗】
『今北。今日はどんな将棋だった?ライバル対決』
『スレタイが全てを物語ってる』
『いや、それは分かる。将棋の内容知りたし』
『クズ竜王が勝利宣言した直後に逆転。王将含めて全駒されて敗退』
『マジかwwwwww本物のクズだなw』
『いつもはすぐ諦めてたけど、今日は諦めきれず、最終的に投了する気力もなくなってた』
『おう、サンドバッグのこと歩夢きゅんのライバルって呼ぶの止めろよ(提案)』
『同歩』
『禿同歩』
『しかし連敗記録止まらねぇな』
『駒取られるの止まんねぇからよ・・・。だからよ、連敗記録も止まるんじゃねぇぞ・・・』
『希望の華生えるwww』
『これもう、八一八段昇段祈って鶴を折る必要もないな』
『果報は寝て待つべ』
「うわああああああああああああああああああああああああ!!」
俺は泣いた!そして走った!!
顔中からあらゆる体液をまき散らし、走るスプリンクラーとなった!!
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
悔しかったのだ!
情けなかったのだ!
恥ずかしかったのだ!
負けたことが。自分の驕りが。弱い自分が情けなかった。
ライバルだと思っていた相手に、いや俺のことをライバルだと思っていくれているだろう相手に全駒などという屈辱的な完敗を喫したことがどうしようもなく申し訳なかった。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
気がつけば夜が明け、いつの間にか大阪を出て、神戸を過ぎ、淡路島に至っていた。
でも、そんなことはどうでもいい!!
山があれば山を越え、海があれば海を泳ぎ世界の果てへ。将棋のない世界へと走っていたのだ。
俺は将棋を捨てるぞ!!J○J○ーーーーーー!!
そんな俺の背中に声がかけられる。
「先生!?、九頭竜先生!?」
この声は彼女の?
なぜこんな時間に彼女がこんな場所に?
そもそも一陣の風となっている俺に彼女が追いつけるはずが――――。
だが、そのとき―――――
■原作との違い
・弟子の同席がなかった八一、歩夢きゅんに完敗
・八一将棋やめるってよ