その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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第七章の始まりです。
今回からまた投稿時間を変更します。
一周回ってきた感がありますが、引き続きよろしくお願いします。


第七章.激闘
01.三年後


 

「あれ?」

 

 おれは対局相手の確認に将棋会館に来ていた。そこで対局予定表を確認してその内容に疑問を持った。妙に今後予定されてる対局相手が高段者や実力者ばかりなのだ。

 なんでだ? 対局予定表の隅から隅まで見回す。

 

「あ」

 

 そして気付いた。

 

「B級1組ィ!?」

 

 なぜか俺の所属がB級1組になってた。

 いやいやいやいや。なんでさ?

 俺は現在C級2組。最下層にいたはずだ。それが何でいきなりB級1組になってるんだ? わけがわからないよ。

 さらに対局予定表を穴が空くほど眺め回す。

 

「あ」

 

 そして気付いた。日付が3年後のものになってる。なんでさ?

 いたずら? スマホを取り出して日付を確認する。けれどスマホの日付も俺が記憶する日付より3年進んでいる。というかスマホ自体がよく似た、けれどより洗練されたデザインのものに変わっている。新機種だろうか。

 とにかく落ち着け俺。FOOLに、違うCOOLになるんだ。まずはここまで得た事実から可能性を整理しよう。

 

 ①俺は3年後の世界にタイムリープした

 ②俺は突然ここ3年分の記憶を失った

 

 うん。どっちでも変わらんわ。

 

 

 どうしようもなくて途方に暮れてしまう。そんな俺の腕が突然引かれた。

 

「おわッ!?」

「こんにちは、八一先生」

 

 誰か知り合いが挨拶してきてくれたらしい。とりあえず挨拶を返して、会話から情報を引き出そう。

 

「はい。こんにち———」

 

 息を飲んだ。引かれる手の先。腕を絡める絶世の美少女がそこにいた。

 おそらく歳の頃はティーンに入ったか入らないかくらい。身長は俺より頭半分ほど低い。華奢な体躯を清楚な白のブラウスとダークレッドのロングスカートに包んでいる。そこから覗く手足はほっそりと長い。顔は同じ人間かと思うほど小さく、その美しい輪郭のなかに全てのパーツが絶妙に配置されていた。

 見たことがない少女だ。けれど不思議と見覚えがある気がする。その美しい赤みがかった大粒の瞳。艶やかな黒髪。お前は———

 

「———天衣、か?」

「不思議なことを言うわね、八一先生。それ以外の誰に見えるって言うの?」

 

 13歳になった天衣。元々美しい女の子ではあったけれど……これはもうこの世のものとは思えない。そんな彼女が柔らかく笑んでいた。

 

「…………そういや何か用か? 天衣?」

「あら、用が無ければ話しかけてはダメなのかしら?」

 

 口を尖らせる天衣。そんな表情も美しい。俺はどぎまぎしてしまう。

 

「い、いや。そんなことはないよ。……すまん」

「冗談よ。今日、八一先生対局でしょ? 私もなの。終わったらレッスンも兼ねて八一先生の家に行くわね」

「あ、ああ」

 

 了承の返事をしたところで、天衣がさらに腕を引いてくる。かがめって事か?

 そして天衣は顔を寄せそっと耳打ちしてきた。

 

「今晩は泊まっていけるから…………………いっぱいえっちしましょうね、八一せんせ♡」

 

 慌てて身を起こす。

 

「お、おまッ、何言って!?」

「何よ。今更これくらいで慌てなくてもいいじゃない」

 

 天衣は顔を赤らめながらも悪戯っぽく笑っている。

 え!? 俺たちって本当にそんな関係なの? 俺、13歳とヤッチャッテルの!?

 

「……えーと。つかぬことをお聞きしますが。天衣さん」

「うん? 何よ、改まって」

「あー、俺たちがその。……そういう関係になったのっていつからだったっけ?」

「なッ!?」

 

 これには天衣さんも真っ赤。

 

「何それ!? そんなこと言わせてどうしようっていうの!?」

「い、いや。純粋な興味からと言いますか、怖いもの知りたさといいますか」

 

 顔を赤らめたまま睨んでくる。超かわいい。

 

「そう。そういうことを言わせるプレイってわけね。……ヘンタイ」

「いや。そうではなく」

 

 皆まで言うなとばかりに再度腕を引っ張ってくる。耳打ちしてくれるようだ。

 

「小学校卒業の日にその…………そっちも卒業したいって、八一先生にお願いしたんじゃない」

 

 何それ。アウト(JS)? セーフ(JC)? いやどっちでもアウト(12歳)だ! 未来の俺、なにやってくれちゃってんのー!?

 

「この屈辱は将棋で返すから。もうすぐ三段リーグを抜けて公式戦で八一先生をへこませてやるんだから。覚えてなさい!」

 

 混乱の極みにいる俺に、最後にもう一つ爆弾を投げつけて天衣は走り去っていった。

 え、何? 3年後の天衣は奨励会に転向してるの? それでもう三段? どんだけだよ。

 

 

 知れば知るほど混乱してきてしまう。けれどその混乱が収まる前にまた別の誰かがやってきたらしい。背中を叩かれる。

 

「よッ」

「ああ、鏡洲さんですか」

 

 振り返ればそこにいるのは鏡洲さん。若干老けたかな。3年後も将棋会館にいるってことはプロになれたのか。良かった。

 

「相変わらずJCとイチャイチャしやがって。見せつけてくれるねぇ」

「見てたんですか。いやぁ参ったなぁ」

「さすが九頭竜光王だな」

「いやぁそれほどでも……ってコウオウ? なんですかそれ?」

「九頭竜八一専用のタイトル。光の王と書く。ちなみに源氏物語の主人公から取ってる」

「源氏物語の主人公って……それ、幼女さらって自分好みに育てて妻にしちゃうロリコン界のスーパーヒーローじゃないですか!?」

「ぴったりだろ?」

「んなわけあるかぁ!!」

 

 ※光源氏は若紫を10歳(学説によっては8歳)でハイエースして4~5年後に食ってるので、九頭竜光王はある意味それを超えている計算

 

「でも、もう浸透してるぞ」

「へ?」

「やあ、九頭竜光王」

「光王じゃねぇか」

 

 後ろからかけられた声に振り向けば、盲目の永世名人と捌きの巨匠(マエストロ)の姿があった。さらに後ろに続くプロ棋士のみんな。

 

「光王」「光王」「光王」「光王」「光王」「光王」「光王」「光王」「光王」「光王」「光王」「光王」「ロリ王」「光王」「光王」「光王」「光王」

 

 うわぁぁぁぁぁぁッ

 

 

 

 


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