その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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密林で公開になった9巻の表紙を見て。
やったー!天ちゃん回だー!やったー!

次にあらすじを見て。
銀子戦かー。どうなるんやろ。さすがに銀子有利な気もするけど、あらすじの内容見るとワンチャンあるか? 八一が天ちゃんを励まして2連敗からの3連勝で逆転勝利とか。
すげー楽しみ。あと天ちゃんの着物姿。

そして気付く。
あれ? 女王戦? あれ……供御飯さんは? 挑決はどうなった?
いや、女王戦に天ちゃんが挑むんだから天ちゃんが勝ったのは分かるけど、挑決3番勝負は……キンクリ? 8巻であれだけ供御飯さんプッシュしたのに? それともあらすじにかいてないだけで挑決もやるの? でもそうすると女王戦五番勝負が薄くなっちゃうよね?
と、もにょり中の今日この頃。


02.それぞれの受け止め方

「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ガバッっと跳ね起き周囲を見渡す。見慣れた俺の部屋だ。

 カレンダーとスマホの表示を確認してみれば覚えのある日付だった。時刻はお昼過ぎ。内弟子はとっくに学校に行っている時間だ。

 

「夢かぁ…………………………ああぁぁぁぁぁッ!」

 

 俺はいったいなんて夢を見てるんだぁー!

 思わず頭を抱える。天衣と、その……そういう関係なんて。しかもあいつの方から誘わせるなんて、どんな願望だよ。フロイト先生やユング先生に診察してもらうまでもない。有罪(ギルティ)だ。

 

 あんな夢を見た原因は分かっている。昨日のアレが原因だ。なんばの道具屋筋、天辻碁盤店での一幕。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『好きです。誰より貴方のことが。八一先生』

 

 天衣からの告白を受けたのだ。驚きだった。驚愕だった。

 天衣から相応の好意をもたれていることにはさすがの俺でも気付いていた。けれどまさか、プライドの高い天衣が告白してくるなんて思ってもみなかったのだ。

 

 思わぬ事態に動転した俺は頭が真っ白になりフリーズした。何の言葉も返せないまま10秒20秒30秒。天衣は一向に返ってこない俺からのリアクションに何ら動じず。

 

『それじゃあ帰りましょうか。八一先生』

『え? おぅ?』

 

 何食わぬ顔で俺の手を引くと、店の出口へと向かった。慌ててあいが追いつき反対の手を握ってくる。二人の弟子たちに先導されるかのように駅への道を辿った。

 

 横目で様子をうかがっても天衣の様子は平然としている。あまりにも。

 とても人に愛の告白をした直後のようには見えない。まさかさっきの告白は白昼夢だったんじゃ。自分の直前の記憶すら疑わしくなったその時。

 

『ッ!?』

 

 息を飲む。天衣とつないでいた手。不意に解かれると今度はほっそりとした指が俺の指の間を撫でてきた。五本の指と指が互い違いに交差すると再びキュッと握られる。またもや驚いて視線を天衣に。

 

 その表情は動いていない。けれど頬が僅かに。赤く染まっていた。

 

 視線を正面にもどす。つないだ手がとても熱い。もう二度と離さないとばかりに強く、あるいは溶け合うように結ばれた手が。そのことが、先までのことがまぎれもなく現実なんだと、何より雄弁に伝えていた。

 

 大阪駅での別れの際にどちらからともなくそっと解いた時には、もともと一つだったものが離ればなれになったような、そんな違和感すら感じたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 何を浸ってたんだ。あの時の俺は。七つも年下の女の子に告白されて何の返事もせず。その後も天衣にリードさせて。端から見たらとんだヘタレ野郎じゃないか。

 

 あまつさえ先ほどの夢だ。救いようがない。

 けれど天衣にあんなことを言われたら嬉しいだろうな……って油断するとすぐ思考がそっちの方向へ。

 客観的に見て俺は実に浮かれていた。あの告白への返事。YesなのかNoなのか、もはや考えるまでもない。

 

 ああ、けれど。夢に出てきたような天衣に。あと二年~三年後、美しく成長したあの子にあんな風に誘われたら、良き大人として自重し、諭せるだろうか? 全く自信がない。

 新たな難題が表面化した瞬間だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 お昼休みの教室。いつもなら賑やかなこの時間なのに今日は水を打ったかのように静まりかえっています。特にインフルエンザの流行なんかで出席者が少ないわけではありません。普通にみんないます。なのにみんな一切口を開かないのです。

 

 その理由ははっきりしてます。けれどだれも手を打つことができませんでした。これは自分が何とかしないとと澪ちゃんが一念発起。意を決して話しかけました。

 

「ねぇ、あいちゃん」

「……なぁに? 澪ちゃん」

「週末何かあった?」

「…………なにもないよ?」

「本当に?」

「…………本当だよ。なんで?」

「だってあいちゃん———朝からずっと殺気はなってるもん。過去最大級の」

「え? うそ?」

 

 あいちゃんは今気付いたとでも言うように目を丸くしました。でもその目は相変わらずガラス玉ようで、殺気も止みません。

 

「うそじゃないよー。あいちゃんの殺気にみんなびびってるんだよー? 美羽ちゃんなんか登校して教室に入った瞬間にお漏らししちゃったんだからー」

「わ。ごめんなさい」

 

 あいちゃんはみんなに迷惑かけていたことを謝ります。でも殺気は止みません。

 

「それで? 週末、本当は何があったの?」

「うーん。……実はね」

 

 そうしてようやくあいちゃんは話し始めました。けれど殺気は収まるどころかどんどん強くなっていきます。

 

「師匠とあいと天ちゃんの三人で道具屋筋に行ったんだ」

「道具屋筋ってなんばの?」

「うん。そこにある碁盤屋さんに行ったんだー」

「ふーん。何しに行ったの?」

「師匠がね、プレゼントしてくれたの。女流棋士になったお祝いだって」

「えー? いいなー。何もらったの?」

「あいは将棋盤で天ちゃんは将棋駒だよー」

「わー。いいないいなー。澪も欲しいよー…………あれ? でもじゃあ、何であいちゃん怒ってるの?」

「…………プレゼントをもらった後お礼を言ったの。あいも。……天ちゃんも」

 

 いよいよあいちゃんが放つ殺気は空間を歪めんばかりになっています。まるで破裂寸前の風船か導火線に火が点いた爆弾のようです。そのことをクラスのみんなは敏感に察知して刺激しないよう息を潜めていました。これ以上触れてはいけない。澪ちゃんもそう感じてはいましたが、勇気を振り絞って話を進めることにしました。

 

「う、うん。……それで?」

「それで……それでね。…………天ちゃんが告白したの」

「告白って?」

「………………師匠に。好きですって」

「ええええええええええええええええええ!? 天ちゃんがッ!?」

 

 まさかの事態です。恋バナでした。それも天衣ちゃんの。澪ちゃんもこれにはびっくりです。思わず殺気も忘れて興味津々。あいちゃんを問い詰めてしまいます。

 

「それでそれで!? どうなったの!?」

「どうもなってないよ。師匠は何も答えないまま固まって。ちょっとしたら天ちゃんが、それじゃあ帰りましょうかって」

「ええぇぇぇー? くじゅにゅー先生のヘタレー」

「ヘタレじゃないもん。別に師匠は天ちゃんのこと好きでもなんでもないんだから。天ちゃんを傷つけないように黙ってたんだよ」

「そうなんだー」

「それは違うわね」

「「!?」」

 

 自信満々の声が割って入りました。その声の主はそう。クラス一のおませさん、美羽ちゃんです。あいちゃんの殺気にびびって離れて小さくなっていましたが恋バナとあっては黙っていることはできません。

 

「答えられなかったのは意識してる証拠よ」

「…………」

「意識してしまえば後はすぐよ。あっという間に進展して恋人になっちゃうんだから」

 

 ドラマだか雑誌だかの受け売りで鼻高々です。それに対してあいちゃんは。

 

 

 

「……………………殺すよ?」

 

 

 

 まさかの死の宣告です。これを受けて美羽ちゃんの股間が決壊。ナイアガラの滝が発生しました。黄色でした。

 

 

 教室はあいちゃんの殺気の坩堝。小学生達の泣き声が響き渡る地獄と化すのでした。

 

 


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