その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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08.悪夢、癒やす天使

「先生!? 九頭竜先生!?」

「はっ!?はぁはぁはぁはぁはぁはぁ・・・・・」

 

 

 目を開けると、見知らぬ天井――。

 そして、心配そうに俺の顔をのぞき込む、黒髪の少女――――。

 そうか、昨晩は夜叉神邸に泊まったのだった。

 

 あ、特にお風呂で遭遇なんかのラッキースケベイベントはありませんでした。

 俺、リトさんじゃないしね。仕方ないね。

 むしろ、精悍なお兄様方といっしょに大浴場に入っていたまである。俺の未来はどっちだ。

 

 

 全てを理解した俺は、少女を安心させるためボケることにした。

「知らない天井だ・・・」

 だが、少女――夜叉神天衣には伝わらなかったらしい。

「・・・?何を言っているんですか、先生?」

 これがジェネレーションギャップか・・・。

 認めたくないものだな。自分自身の老いというものは。

 

「悪い、心配かけたな。天衣」

「なっ!?心配なんかしていないわ!朝食に呼びに来たら、滑稽に悶えている男がいたから、人として最低限の対処をしていただけよ!」

 照れているのか、真っ赤になって怒るツンJS。至高。

 

 だが、ニヤニヤしている俺に気付いたのか、天衣は強烈なカウンターを放ってくる。

「寝言で『歩夢』って名前を呼んでたけど、夢の中で今日予定されている帝位リーグ戦にボロ負けしていたのかしら?竜王、12連敗おめでとうございます」

「うぐっ・・・・」

 

 全駒からの八一スレのコンボは精神崩壊に至るほどキツかった・・・・。夢でのことではあるが・・・・。

 トラウマものの悪夢を思い出し、弱気になった俺はつい聞いてしまう。

「俺と歩夢どちらが強いと思う?天衣は」

「貴方と神鍋六段?さぁ、分からないけど。最近の実績だけ見れば神鍋六段じゃないの?」

 ツンJSは厳しい・・・・。でもそうだよね・・・・・。

 

 しかし、さらに落ち込む俺を見かねたのか、ツンJSは背中を向けながら一言だけ付け足してくれたのだった。

「でも・・・。どちらを私の師匠にしたいかと聞かれたら、貴方だって答えるわ」

 ・・・・・・俺の弟子マジ天使!

 

「くだらないことを言ってないで、さっさと起きなさい!食事を用意したといったでしょう!!」

 天使な弟子は照れたのか、そう言い放つと廊下へ駆けていった。

 

 

 

 その後、俺は夜叉神家の人たちとともに朝食を取り、天衣と指導方針を共有するため、オリエンテーションをすることにした。

 

 部屋の中には、天衣と黒スーツの女性――天衣のお付きで池田晶さんというらしい(巨乳)――と俺の三人だけだ。

 そして俺は考えていた天衣の指導方針について切り出す。

「当面、天衣は研修会に入れず、俺独自の手法で鍛えることにしようと思う」

「は?なんでよ?さっさと場数を踏むべきじゃないの?」

「俺の見立てでは、今の天衣でも、研修会の入会試験や下位相手なら問題ないと思う。だがC2辺りの女流棋士一歩手前レベルは厳しいはずだ」

 

「なんですって!?私が女流になるになれない程度の連中に劣るっていうの!?」

 案の定、激怒する高慢お嬢様。だが・・・。

 弟子のプライドのくすぐり方はすでに理解している。

 

「俺は自分の見立てに自信がある。だから天衣も信用してくれないか?現時点でC2と勝負にならないとは言わない。だけど一方的に勝てるとも思わない。どうせなら研修会デビューから女流棋士になるまで無双、のほうが格好いいだろ?」

「ええ、ええ。分かりました。私が選んだ師匠ですもの。育成方針には従うわ。でも私は女流になるまでなんて言わず、女流タイトルを総なめにするまで無双するわ」

 

 頼もしい弟子の更なるビッグマウスに俺は苦笑しつつ、告げる。

「天衣は定跡の研究なら自分一人でもできる。それ以外の部分を最初に徹底して鍛えれば後は勝手にどんどん強くなれるはずだ。俺が竜王防衛戦に追われて、手をかけてやれなくなる前までにその状態に持って行きたい」

「そうね。それじゃあ、早速今日は何をするの?」

 

「残念だけど今日はここまで。俺はこの後、対局があるから」

「そうだったわね。私の師匠が連敗中、じゃあ格好がつかないからさっさと止めてらっしゃいな」

「もう一声!かわいい弟子からご褒美があれば俺、頑張れるんだけど」

「もう!じゃあ連敗を止められたら正式な師匠と認めて、『八一先生』と以後呼んであげるわ!」

 弟子なりのエールを受け取り、ほっこりしながら俺は連盟ビルに向かう。

 

 

 

 だけど、どうするべ。歩夢対策。

 

 




ということで夢落ちでしたーからの完全オリジナルエピソードです。
ですので、毎度の原作との違いはありません。しいていうなら全てが違い。
天ちゃんの可愛さを補強するためにカッとなってやった。反省はしてない。

そして、竜王は死なぬ。何度でも蘇るさ!

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