その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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09.克己、清滝棋士の生き様

 関西将棋会館の五階――『御上段の間』、上位者のみに使用が許される関西将棋会館で最も神聖な場所。

 ちなみに、先日我が清滝師匠が窓から創世のビッグ○ンを放った場所でもあり、そういう意味でも神聖な場所だ。

 

 そこで正座し、俺は戦いに向けて気を高めていた。

 対面にはすでに対局相手である神鍋歩夢六段も着いており、紅茶をたしなんでいる。

 ※神鍋歩夢六段の詳細については原作(神)1巻を(以下略)

 

 今朝の悪夢を受けて、今日の作戦を変更すべきか否か、ずっと考えていた。

 だが結局、俺は自分の研究を信じることにした。

 というか、夢の内容を思い返してみると、あれは明らかに将棋ではなかった。あれは、何か異世界のゲームだ。途中から俺の手番はひたすら飛ばされていたし。

 気にする必要はないだろう。

 

 そうして、対局が始まった。

 序盤はどちらも定跡の通りにぽんぽん進めていく。

 

 そして・・・・、

 

「刮目せよ!!我が奥義――『ライトウイング・ホーリーランス』!!」

 ぐっ・・・、きやがった。だが問題ないはずだ。

 俺は念のため、じっくりと読みを入れ、その上で事前研究の一手――香車放置の桂馬取り――を打つ。

 

 まだ悪夢から完全には自由になれない俺は、歩夢が『甘いぞ!八一ぃ!!』とか言い出さないかと内心びくびくしながら歩夢の次の一手を待つ。

 

「フッ・・・・この色、この香り、紅茶こそまさに英国貴族の嗜み・・・・」

 当の歩夢は優雅に紅茶をすすっている。

 そして、歩夢が次の手を打たないまま、昼食休憩となった。

 ほっ。良かった。『バーサーカーソウル』なんてなかったんや。

 というか、将棋で速攻魔法ってなんだ。

 

 

 そうして、歩夢きゅんとのランチタイムの後、対局が再開される。

 悪夢を完全に払拭した俺は、事前の研究に沿って手を進めていく。

 歩夢の飛車を攻め、馬をかわし、中盤戦へ。

 だが―――。

 

「受けよ!隠されし我がもう一つの槍を!!竜殺!ゲオルギィィィィーーーーウスッ!!」

「やば・・・・・・ッ!!」

 ここで、新手・・・だと!?

 『神鍋流3六香』とでもいうべきこの一手はあることを意味している。

 歩夢は俺の事前研究すら飲み込む研究をしていたということだ。

 用意されていた技名といい、明らかに俺をターゲットに準備をしている。

 

 これは・・・・・。俺の脳裏には今朝の悪夢がまざまざと・・・。

 ・・・・悪夢を意味あるものと信じるべきだったか・・・・。

 こうなっては、全駒なんて無様をさらす前に、思い出王手なり何なりして、投了に向けた棋譜作りをすべき・・・か?

 

 

 すっかりネガティブにとらわれた俺。

 だがその脳裏に不意に黒髪の愛弟子の声と表情が蘇る。

『ま・・・・・・だッ!まだ、私は戦える!!』

『そんなの、言わなくてもわかるでしょうっ・・・!』

『でも・・・。どちらを私の師匠にしたいかと聞かれたら、貴方だって答えるわ』

『もう!じゃあ連敗を止められたら正式な師匠と認めて、『八一先生』と以後呼んであげるわ!』

『好き!好き!八一先生!天衣を師匠のお嫁さんにして!!』

 

 

 そうだ。俺はもう夜叉神天衣の師匠なんだ!

 竜王としての体面なんて関係ねぇ!

 俺はあの子の、受け将棋を極めようとしている弟子の師匠として、関西棋士の、清滝一門の棋士の魂『泥臭かろうが決して諦めない』将棋を伝えなきゃならない!

 こんなところで下を向いてる場合じゃねぇ!!

 

 

 

 後、俺の心象風景に捏造なんてなかった。いいね?

 

 

 

「・・・・・・悪いな歩夢。まだまだ付き合ってもらうぜ」

「なに?」

 歩夢の疑問には答えず、俺は盤面を泥沼化させる一手を放つ。

 記録係も観戦記者も顔をしかめる、見苦しいクソ粘りの一手。

 それに対して歩夢は・・・。

「我が竜殺しの槍を受けてまだ立ち上がるか・・・・。」

 これに勝てば、愛弟子に『八一先生♡』と呼んでもらえるもんでね!

「よかろう。それでこそ、我が永遠の好敵手。それでこそ悪のドラゲキン」

 ドラゲキン言うなしっ!

「『白銀の聖騎士』ゴッドゴルドレンに後退はない!いくらでも付き合ってやるとも!!」

「ありがとよ!親友!」

 だが、いくら騎士を気取ろうともお前は豆腐屋の倅!そこに勝機はある!

 

 

 そして、決着は翌日午前三時過ぎ。400手越えに及んだ熱戦は俺の勝利に終わった。

 超朝型人間である歩夢の睡魔という、盤外につけ込んだ泥臭い勝利ではあるけれども。

 

 

 女の子が俺を待っていると職員に告げられ、慌てて連盟ビルの玄関に向かった俺を待っていたのは天衣だった。

「何だ。そんなに師匠に会うのが待ち遠しかったのか?」

「Webで観戦していたら、負けそうだったから。真っ先にお悔やみと逆破門を言ってあげたかったのよ。こんなに待たされるとは思わなかったけど」

 俺と天衣は軽口をたたき合う。

「どうだ?勝ったぞ?」

「泥仕合の末のクソ勝利じゃない」

 Oh・・・。ツンJSは辛いね・・・。

「でも、まあ約束だから。これからもよろしくお願いします。八一先生?」

 Oh・・・。俺の愛弟子、マジ天使・・・。

 

 

 帰り支度をしながら、俺は晶さんからメールが来ていたことに気付く。

『どうしてもお嬢様が九頭竜先生を待ちたいと仰っている。だが私は明日、朝から組の仕事があり、戻らねばならない。九頭竜先生には申し訳ないが、くれぐれもお嬢様のことをお願いする』

 なるほど、晶さんがいないのはそういうことか。

 っていうか『組』って言っちゃってますねぇ、どういうことすか月光会長。

 

 

 連盟ビルを出ながら俺は天衣に提案する。

「まだ、始発も動いてないな。近くに俺の家があるからそこで時間を潰すか」

「八一先生の家?何だか汚そう」

「年代物のボロアパートだけど、この寒空の下にいるよりマシだろ?」

「そうね。お言葉に甘えるわ。八一先生」

 こうして俺はJSを家に連れ込むことに成功するのだった。

 いや、何もしないよ?俺はロリコンじゃないですし?

 

 

 

 そして、俺はこの日、第二のJSに出会う。

 

 




■原作との違い
 ・勝因、天ちゃん
 ・歩夢きゅん、対局室に放置
 ・JSを家に連れ込む事案発生
 ・Webで八一を確認したヤンロリ、八一宅で待機

深夜の連盟ビルにJS一人で待たせてもらえるものか怪しいですが今回もご都合主義で一つ。

次回、迫るヤンロリの闇。八一、暁に死す(誇張表現)

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