その便意が物語を変えた   作:ざんじばる

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ここにきて誤爆w
今慌てて体裁を整えているところですw


06.女王戦第四局

 女王戦第四局。ここまでは大阪通天閣、和倉温泉ひな鶴、神戸アンジェリークKOBEと各地を転戦してきたが、残りの対局は関西将棋連盟ビルにて行われる。予算が厳しい女流の状況を表しているとも言える。立地の有利さで言えば姉弟子が若干有利だろうか。

 

 ここまでの対戦成績は、女王の1勝2敗。二連敗からようやく一勝を拾ったわけだが未だ天衣が王手をかけた状態だ。今対局はその天衣の先手。果たしてその勝敗は。無敵の女王まさかの失冠、最年少新女王誕生なるか。注目度はいやが上にも高まっていた。

 

 対局室では二人、瞑目して向かい合っている。その胸中やいかに。二人の姿を俺は大盤解説場から見守っていた。

 

『本日の解説は、九頭竜竜王。聞き手はうち、供御飯万智が務めます。よろしゅう』

 

 目の前では、供御飯さんが口上を述べている。俺が言うのも何だがよく受けてくれたと思う。挑戦者決定戦で天衣に敗れた悔しさも癒えていないだろうに。それだけこの勝負の行方が気になるということか。

 

『さて、夜叉神女流二段の初手は5六歩。これは……』

『ゴキゲン中飛車明示ですね』

 

 映像の中の天衣は、盤上中央の歩を突いていた。

 

『お弟子サンは先手でも振り飛車も指すんどすなぁ』

『天衣はオールラウンダーですね。居飛車振り飛車両方指しこなします。特に振り飛車は生石玉将の薫陶を受けていますからね』

 

 周囲からざわめきが聞こえてくる。

 

「居飛車は竜王が教えて、振り飛車は玉将が仕込んだ? それはもう関西トップ棋士による英才教育じゃないか」

 

 ふふ少し気持ちいい。

 

 姉弟子は角道を開けるいつも通りのオープニング。天衣の飛車が中央へ飛ぶ。姉弟子はゴキ中対策のオーソドックスな駒組みを進める。天衣も左銀を繰っていき———

 

 俺は先日の天衣との会話を思い出す。天衣はまず意外性に満ちた一手で姉弟子の頭を強制的に覚まさせると言っていた。ゴキ中が意外性に満ちた一手? いやきっとまだ何かあるな。

 

 そしてその予想はもうまもなく明らかとなった。まず姉弟子も飛車を振る。

 

 12手目———2二飛。

 

『空女王も飛車を振りましたな』

『相振り飛車は感覚的に居飛車と共通する部分が多いですからね。そんなに意外な選択ではありません』

 

 だがその後の天衣の指した手は。意外なんて一言で表せるものじゃなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 さあ、目を覚まして。思い出しなさい。空銀子。目の前の相手は。私は。才能も実力も貴女を上回る敵手よ。

 

 15手目———2八飛。

 

 中央へ振った飛車を初期位置へ戻した。一手損角換わりならぬ二手損居飛車といったところかしら。空銀子は目を見開く。今までに一度たりとも見たことがないだろう局面。意味が分からないと言った顔ね。

 

 ひとまず飛車先の歩を突いてくる。駒組みを進める。空銀子は玉を右辺へ。私は中央へ据える。先に角交換を仕掛けた。同桂とされた後、すかさず自陣角。桂馬を交換した後で成り込んでやった。先に馬をつくることに成功。

 

 桂馬を打ち込んで攻め手を増やしにかかる。空銀子も同じく桂馬の打ち込みでこちらの陣を荒しにかかるが無視。打ち込んだ桂馬を跳ねて成る。飛車を咎めた。空銀子も桂を跳ねさせ私の銀を喰う。王手。同金としている間に飛車には逃げられた。

 

 49手目———4二歩

 

 さらに歩を打ち込んで敵陣を抉る。相手は手抜いて銀を打ち込んできた。同金とし、同銀とされた。こちらからも銀を打ち込み同銀、同銀。これで一旦空銀子の攻めては消えた。

 

 さあ今度はこちらの番よ。

 

 57手目———4一歩成。

 

 打ち込んでいた歩をと金に変える。空銀子が飛車を逃がし。

 

 59手目———4二成桂。同金。同と。

 

 空銀子の守りを1枚剥いだ。手番が相手に移り、逆撃を仕掛けてくる。

 

 62手目———6五桂。6六銀打。5七桂成。同銀。7八銀。

 

 手番が戻ってきた瞬間にこちらも相手を叩く準備。

 

 67手目———8六桂打。6三銀。

 

 次の激突は端から。

 

 69手目———9四歩。同歩。同香。9三歩。同香成。同玉。

 

 空銀子の玉が出てきたところで一旦手じまい。馬を前線から引き戻す。手番が移る。

 

 76手目———6九銀打。王手。

 

 この一撃を、飛車を切り飛ばすことで受ける。

 

 77手目———同飛。同銀。同玉。4九飛。5九金。4二飛成。

 

 空銀子は散々私の陣を荒らし回った後、自陣に残っていた私のと金を取り去りながら竜を作って手番を返してきた。

 

 やってくれたじゃない。次はこっちの番よ。桂を空銀子の玉頭へと跳ねる。

 

 83手目———9四桂。8二金。8五桂。王手。9二玉。9三歩。同桂。同桂成。同金。8二銀。9四金。7一銀成。

 

 ここまでで空銀子の陣を荒らした上で、飛車も取り返した。やられた分はやり返したわよ、空銀子。そしてまだまだ終わりにはしないわ。

 

 空銀子が銀2枚取りを狙い自陣角とした後。それには付き合わず。

 

 95手目。9五歩。7一角。9四歩。8一玉。9三桂。

 

 突入口を開けた端から手駒を叩きつけてこじ開けていく。さあ終わりの時が見えてきたわよ。

 

「悲壮な将棋ね。空銀子」

「ッ……何を?」

「あれもいらない……これもいらない……いろんなものを削ぎ落としていった将棋だわ」

「…………黙れッ」

 

 尻を振って逃げる空銀子の玉を追い詰める。

 

 101手目———8一金打。6一金。9一金。

 

 一縷の望みを求めて空銀子は桂馬を打ち込んでくる。馬・銀両取り。無視。

 

 105手目———9二飛車。王手。

 

「将棋以外いらないと。余計なもの全てを捨てないと強くなれないと思った?」

「黙れェッ! お前に何が分かる小童ァ!!」

 

 苦し紛れの香車での受け。桂馬を跳ねさせる。空銀子も無視して桂馬を跳ねさせる。馬取り。同桂として断ち切る。更に銀を放り込んでくるが、敵陣奥に温存されていた竜へ香車を突きつけて黙らせる。

 

「分かるわよ。だって既に通った道だもの」

「うッ……ぐッ……」

 

 まるで過去の自分を見ているようで恥ずかしいったらない。

 

 空銀子は香車の前に歩を打ち込んで遮ってくる。乏しい抵抗だ。端歩を成らせる。空銀子の玉が逃げる。

 

「…………下らない。私には将棋があればいい」

「そんな考えでいる限り私には一生勝てないわ」

「ほざけッ」

 

 そして激突。

 

 115手目———7一成桂。7七銀成。8二飛成。7二角。6一成桂。同玉。4六香。4三歩。5五桂。4五桂。7一金。5一玉。4五香。3一桂。2四角。3三桂。6三桂。同角。6一金。同玉。4二竜。

 

「この世に無駄なものなんて何一つない。捨てていいものなんてない。一つ一つが。その全てが私の力になった」

 

 私の中に芽生えたこの感情が私を強くしてくれた。人を愛すること。恋に落ちること。この気持ちがある限り私は負けない!

 

 私の竜が空銀子の竜を刈り取ったところで、彼女は静かに頭を垂れた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 感想戦。気もそぞろに手を戻していく。正直なところ、この場を放り出して八一先生の所へ向かいたかった。女王位を奪取したことの報告をするために。そしてその腕の中に飛び込むために。

 

 我慢だ。もう少し。もう少しだけ。棋士としての礼節を尽くさないといけない。勝ったからこそ余計に。それにしても意外だった。これまでの三局。全て向こう側で感想戦を拒否していたというのに。

 

 巻き戻して84手目。空銀子の手番。そっと示した手順は。

 9二玉。

 受けもしないでただ玉を下げる!? そんなことをしたら8二に手駒を打ち込まれて———。いや詰まないのか? 私の手駒からではそこから詰ませることができない? 守りとして成立してる? だとすると金駒一枚こちらは少なくなってまだまだ難解か?

 

 苛立ちから顔を上げれば、空銀子もこちらを見ていた。唇を片端歪めて。

 

「なに? 見落としてたの?」

「あんただって対局中には気付かなかったんでしょうがッ! クソババアッ!!」

 

 鼻で笑う空銀子に掴みかかるため立ち上がろうとして。

 

「どうどうッ! 天衣抑えろ!!」

 

 いつの間にやら立会人に続いて対局室へ入ってきていた八一先生に取り押さえられる。なんて失態。八一先生にこんな醜態を見られるなんて。この女のせいで!

 

「姉弟子も! 大人げないですよッ」

 

 空銀子はツーンとした顔で明後日の方を見ている。その様がまた腹立たしい。

 

 その後の挨拶と打ち上げは非常に刺々しいものとなった。

 

 




せっかく聞き手として供御飯さんに出てもらったのに、場面の挟みようがなかった。万智さん活躍させられなくてゴメン。


便物語も残すところ最終エピローグのみとなりました。
今後の予定を活動報告に載せています。
よろしければご確認下さい
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