卵が全滅してオレでも予測してなかったショックを受けてからしばらく。あの予備躯体のことはフィーラーと呼称することにした。
奴は建造途中のチフォージュ・シャトー内を徘徊してるらしく、現状何かをやらかすようなことはしていない。甚だ不本意だが、問題を起こさない以上は無闇に構うのは止める。躯体を取り戻したいところだが、アイツに絡むと疲れる。特に精神的に。
まぁアレだ。身体は時間がかかるがまた錬成すればいい。既に作業は並行して行っているし、奴が何もしなければ問題はない。
――――――――と思っていた時期がオレにもあった。
「あのバカは……っ!!」
今はチフォージュ・シャトー内を全力疾走で走っている。別に運動とかそういうのじゃなくて、全てはフィーラーが悪い!!
「フィーラーッ!!」
入り組んだ通路を抜けて扉を蹴破って中に入る。
11号と書かれたプレートの扉が吹き飛んだ。
中にはベッドと机、そしてベッドの上で11号に覆い被さるフィーラーがッ!!
「息が上がって赤面する11号は絵面でアウトだッ!! さっさと離れろフィーラーッ!!」
「ぐへっ」
ドロップキック。綺麗にフィーラーの脇腹に入った。ざまぁみろ。
「ちょっと目を離した隙に何をするかと思えばッ!! 11号にナニを吹き込もうとしてるッ!?」
「いててて……もう、容赦ないなぁ
「怒ってなどいないッ!! オレは貴様がナニをしようとしていたのかを問うているッ!!」
「ナニって……子作りの仕方?」
「どう考えてもアウトだバカッ!!」
「いやだって11号くんちゃんが知りたいって言うから……知識を植え付けなかった
「話して良いことと悪いことの区別くらいはつけろ」
「ヤダ☆」
コイツ知っててオレがすることとは正反対のことをやらかすから質が悪い!!
きっかけは日課の消化中のこと。
チフォージュ・シャトー建設は基本的にオレの予備躯体の劣化品を使って行っており、その進捗は感覚器官のハッキングによって監視できる。
ついでに、チフォージュ・シャトーのそこら中に散らばる奴らはフィーラーの監視カメラの役割も果たす。フィーラーは基本的に建設作業を眺めるのがほとんどで、よく視界に映る。
フィーラーの奴は基本的に話しかけないので、助かったことに劣化品たちは完全にオレだと思い込んでいたらしいが……ナニを思ったのか、フィーラーの奴は惜しげもなく11号に突然接触し始めたのを見てしまったのだ。
こんな風なのを。
『やぁ』
『……? キャロル? 珍しくこんなところに……どうしたのですか……? 普段と比べるとかなりフランクな気がするんですが……』
『いやなに、ちょっとした余興だよ。ねぇ、君は自身がどう生まれたか知ってるかい?』
『? はい、錬金術によって造られましたが……』
『じゃあ、普通の人間はどうやって産まれるか、その知識はあるかい?』
『…………いえ、無いです。そう言った知識は植え付けられなかったので』
『だと思った。……ねぇ、気になるかい?』
『……人間の誕生、ですか?』
『そうとも。知識とは探求するもの。君の本能は知識を求める……違うかな?』
『……知りたい、です。ボクは、色んな知識を覚えたい!! 例え劣化品でも、ボクは!!』
『うん、じゃあ今から教えてあげようじゃないか』
『え? で、でも、ボクはチフォージュ・シャトー建造の仕事が……』
『大丈夫大丈夫、代わりの子を配置してあげるからさ。さぁ』
『ひゃっ!? そ、そんな、お姫様だっこ……!?』
『案ずることはないよ。話はベッドで聞かせてあげる』
……………………いやバカだろ。完全に誘導してるじゃないか!! 絶対に確信犯だ。
「あ、あれ、キャロルが2人……?」
11号が困惑した目でオレとフィーラーを交互に見た。
……ああ、そういえば11号含め劣化品には説明してなかったか……。
フィーラーの見た目は完全にオレと瓜二つだ。見間違うのも無理はない。性格は正反対だがな!! というか性格が可笑しい時点で気付いてほしかったんだが!!
「11号、コイツはフィーラーだ。オレの予備躯体で通称はバカだ」
「辛辣ぅ……」
「予備躯体……ボクらとは違うのですか……?」
「スペックが違うだけでエラー個体なのは違わない。だから、今後一切コイツの言う事に耳を傾けるな。他の個体にも伝えておけ」
「ちょっと待って、
「一生壁と話していろ」
「
さて、こうは言うがコイツがまた11号に絡むのは周知の事実。下手なことをされて不確定要素が割り込むことは避けたい。
いや、コイツがいる時点で既に大分手遅れな気はするんだが……。
「さっさと仕事に戻れ、11号。今日のノルマが達成されるまで寝るのは許さん。フィーラー、貴様はオレと来い。じっくり話し合おうじゃないか」
「子作りについて?」
「貴様の今後の処分についてだよわかるだろ!?」
「えー、どーせつまらんことでしょ」
「貴様が問題さえ起こさなければそんなつまらんことなんぞしなかったわ!! 反省の一つでもしたらどうだ!?」
「すると思う?」
「絶対にしないからここでさせてやるッ!! ラリアットォッ!!」
「ぐべぁッ!?」
完璧に入った。堪らず仰向けに倒れるフィーラー。倒れながら両手を顔と同じ高さまで上げてチョキを作り……、
「アヘ顔ダブルピースはやめろォッ!!」
「ぐほっ」
こいつ、油断も隙もない!!
鳩尾を全力で踏み付けると流石に効いたのかピクピク痙攣しながら白目を剥いて気絶した。……自分の見たこともない表情されるのは正直引く。
「………………………………………………………………、」
「……ん、んんっ。そういう訳だ。さっさと仕事に戻れ、11号」
「へ、あ、はぁ……はい……」
フィーラーの襟首を捕まえて、ズルズルと引きずって部屋を出る。壊れた扉は錬金術で直しておいた。
「結局何も教えてもらえなかった……これはもしかして、ボクに自ら調べてみろという隠された意図が……? そうか、日々探求、自ら進んで調査しなくちゃ意味がないんだ……ッ!!」
でもキャロルのアヘ顔ならちょっと見たいかも