セレナ「ネフィリムって女の子だったのね」マリア「ファッ!?」
ネフィリムの起動実験は失敗だ。
計器の針の全てが限界値を振り切り、非常事態を告げる警報が鳴り、赤いランプで点滅し続ける。
結果が示すのはネフィリムの暴走。ネフィリムが置かれている密閉空間は光に溢れ、多量のエネルギーが充満しているのがわかる。
「セレナぁ……ッ!!」
マリア・カデンツァヴナ・イヴはその光景にへたり込むことしかできなかった。
今、ネフィリムの暴走を止めるべく、マリアの妹であるセレナ・カデンツァヴナ・イヴが絶唱を歌おうとしている。
セレナが絶唱を放てば、彼女はそのバックファイアで傷ついてしまう。下手をすれば死んでしまうかもしれない。
けれど、今セレナが歌わなければネフィリムの暴走は止まらない。止められない。
エネルギーベクトルを操作する特性を持つ彼女の歌なら、止められるのだから。
「っ、やっぱり嫌だ……ッ!!」
でも、それでも、マリアはそれを許せない。許容できない。止めたい。止めなければ。
管制室から実験室へと駆け出す。
なぜセレナが尻拭いをしなければならないのか。全部が全部大人の勝手だというのに。
納得できなかった。だから、マリアは駆け出したのだ。
「――――Gatrandis babel ziggurat edenal――――」
「待ってッ、セレナぁぁぁっ!!」
その先はダメだ。それでは、セレナが……ッ!!
階段を駆け下りて、廊下を駆け抜けて、大して遠くもない部屋が嫌に遠く感じる体感時間を走った。
大きな自動扉は半ばから開かれ機能を停止している。その隙間に無理矢理体を潜り込ませた。
既に光は収まり、部屋中は炎と瓦礫塗れ。殺風景だった光景は既にない。
「――――Emustolronzen fine el baral zizzl――――」
セレナの絶唱は続く。
歌のする方へ目を向ければセレナが。
そして、彼女に対峙するようにしている
あまりの異様さにマリアは一瞬息を詰まらせた。
「――――Gatrandis babel ziggurat edenal――――」
四足歩行のソレは、後頭部が伸びた頭を有し、腕と脚はそれぞれ肘や膝らしきとこから突然太くなっている。
表面は暗いグレー、ところどころに煮えたぎる溶岩のような赤と黄金が混じったラインがはしっていた。
「――――Emustolronzen fine el zizzl――――」
絶唱が放たれた。
直後だった。
バケモノがセレナ目掛けて飛び掛かったのだ。
「――――――――――――――――ッッ!!!!」
声が出なかった。バケモノに、セレナが、
バキッ、と。
何かが
見れば、ネフィリムの体表にヒビが広がっており、徐々にその破片が落ちては地面に当たり光の粒子となって霧散していった。
「――――あ、れ……?」
セレナは不思議な感覚に小さく声を上げた。
絶唱の直後、ネフィリムに飛び掛かられて……いや、
捕まえられた訳ではなく、優しく抱擁されるような加減で彼女はネフィリムの懐にすっぽりとおさまったのだ。
直後、ネフィリムが崩壊を始めた。自身を包むような腕も、大きな体も、崩れ落ちてゆく。
「嘘、どうして……っ」
その行為にセレナは目を見開く。
目の前のネフィリムは
完全聖遺物ネフィリムの持つ特性は、聖遺物へのハッキングに近い。
アガートラームを纏っていたセレナだからこそ、ネフィリムが接触してきた瞬間にだけアガートラームへ干渉し、バックファイアを身代わりしたことがわかったのだ。
なぜこんなことをしたのか。
ぐるぐると疑問が頭の中をループし続ける中、ネフィリムはいよいよその形を失おうとしていた。
既にあれだけ大きかった体躯はセレナと同じくらいの光にまで縮み、体表を覆っていたグレーのスキンは何もない。ただ目の前に、光の塊があるだけになった。
「セレナッ!!」
「っ、姉さん……っ!?」
顔中を涙で汚したマリアが駆け寄ってきてセレナへ飛びついた。気が気でなかったのだろう。声も体も震え、ただただ強くセレナを抱きしめた。
良かった、良かった。そう繰り返すマリアに、セレナは大丈夫、と返して背中を優しくさすってあげた。
『そしてェっ!! 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンッ!!』
「「ッ!?」」
直後、声がした。
目の前の光の塊から聞こえる、少女の声。
突然の出来事に二人は息を飲み込んで光を見た。
次の瞬間、光が弾ける。
その眩しさに目をつむり、光がおさまったところでゆっくりと目を開いてみると、
『にゅふっ、お呼びとあらば即参上ッ!! 我こそはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! ネフィリムゥッッ!!!!』
そこに立っていたのは、少女であり、人外。
背後で機器が爆発しているのを背景に、○面ライダー1号の変身ポーズを取っている。
「だっ、誰……?」
セレナはたずねる。
目の前の人間でない彼女は、明らかにセレナの理解できる言葉を発していた。
しかし、
『今自己紹介したよ?』
何言ってんの? と言いたげに彼女は返してくる。
その容姿は人間的な四肢を有しているが、明らかに人ではない。
まず肌の部分は全て濃い灰色で、その質感はゴム質に見える。目立つのはとにかく長い後頭部だ。斜め上へ突き出しているソレは被り物ではなく継ぎ目もない。頭部と完全に一体化しているのだろう。
瞳は丸々と可愛らしいが、結膜が漆黒に染まり虹彩はギラギラ黄金色に輝き、瞳孔は血のように赤い。
手足は先ほどのまでのネフィリムと同じく、肘と膝の先から太くなっており、それより身体に近い部分は不安になりそうな程に細い。指は左右3本ずつ、丸くなった腕の先に。足は象を彷彿とさせる円柱のようなずんぐりとしたつま先に鈍角の爪がついている。
胸元には不思議なデザインのプレートのようなモノ。ネフィリムの時の骨格をイメージしているのだろうか。
「じゃあ、本当に、ネフィリム……?」
『そう言ってんじゃーんっ。なに、ホントに信じられない?』
ニッ、とその少女――ネフィリムはギザギザの牙を覗かせて笑った。
『まっ、どうでもいっか。取り敢えずお腹すいたからなんかちょーだい?』