No.1 夢への一歩
事の発端は、中国・軽慶市にて発光する子供が生まれたというニュースだ。
人類の歴史上類を見ないこの『超常』現象は、世界中を賑わせた。そして、これに続くように世界各地で同じような現象が報告された。触れずに物を動かす者、氷を生み出す者、自身を炎に変える者。これらの能力は『個性』と呼ばれた。いつしか、世界人口の八割が『個性』を持ち、『超常』は『日常』へと変わっていった。
そんな中、とある職業が生まれ脚光を浴びていた。
『ヒーロー』
『個性』が現れる以前では夢物語だとされていたヒーローは、今では誰もが憧れ、目指すものとなった。
そして、とある少年もまたヒーローを目指していた───
*
とある中学校の職員室にて、生徒と教師が向き合う形で座っていた。生徒の名前は、
「天海、高校はどこに進学するつもりだ?」
担任が問うと、
「自分は雄英に行こうと思っています」
と、天海は答えた。
「そうか。そうなると学部はヒーロー科か?」
「そうですね」
「まぁ模試ではB判定出てるし、このまま伸ばして行けば受かるだろう。いやー教え子がウチの中学校初の雄英ヒーロー科合格者になると思うと鼻が高いよ」
「先生、気が早いですよ。それに雄英合格者なら以前もいたじゃないですか」
天海は笑いながら答えるが、
「前の合格者は普通科だ。他の科ならともかく、
担任はそう答えた。
『雄英高校』。No.1ヒーローオールマイトを始め、名だたるヒーロー達を輩出した高校。そのためヒーロー科を目指す者が例年多く、偏差値70越え、倍率300倍近くと、日本屈指の難易度を誇る。そんな雄英高校に受かるかもしれないとなると教師の間でも話題になるのは当然と言えば当然である。
「とにかく、入試まであと半年だ。ここで気を抜いて志望校に行けなかった、という奴がたまにいる。余計な心配だろうが気を付けろよ」
「大丈夫ですよ。自分はそんなことしないって先生も知ってるでしょ」
「それもそうだな。あー、ちょっと待ってろ」
そう言うと担任は職員室の奥に行った。暫くすると、数枚の書類を持って帰ってきた。
「ほら、雄英関連の書類だ。今のうちに色々調べとけ」
それらの書類を天海は一言礼を言って受け取った。
「よし、今日の面談はこれで終わりだ。もう帰っていいぞ」
「ありがとうございました。では、失礼します」
そう言うと天海は深くお辞儀をし、職員室を後にした
*
家に着いた天海は、自分の部屋のベッドの上で横になっていた。
(先生はああ言ってくれたけど、まだボーダーラインぎりぎりって感じだな。どうせなら確実に受かるレベルまで上げておきたい)
そう思い、徐に壁のほうを見やる。そこには天海が憧れる二人組のヒーローのポスターが貼ってある。
(この人達みたいなヒーローになるためにも、今頑張らねーと)
天海は横になりながら右手を天井に伸ばし、
「待ってろよ、雄英高校ッ!」
そう静かに呟いた。
*
受験日当日。
天海は雄英高校の前に立っていた。周りに自分と同じく雄英を受ける受験生が多数いる中、
(とうとう来たな)
天海はそう心の中でつぶやいた。
(やれることは全部やった。中学の範囲は総復習したし、”個性”の鍛錬だって相当こなした。落ちる気なんてさらさらねえけど、落ちた時のことなんて考えるな。前だけ見据えてろ!)
自分にそう言い聞かせ、天海は歩みを進める。途中、くすんだ金髪の男子生徒が緑色の天然パーマの男子生徒に怒鳴り散らしていたが、それを横目に見ながら彼は受験会場に向かった。
*
『今日は俺のライブにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!』
「‥‥‥」
(気まずいっ!誰か答えてやってくれ!)
天海は心の中で叫んでいた。
今、壇上にいるのはプロヒーロー兼雄英教師の『プレゼント・マイク』。入試の説明をしてくれるのだが、彼のパフォーマンスのおかげで会場は今、なんとも言えない空気になっている。誰か一人でも答えれば幾分かマシだったろうが、真面目に入試に来ている受験生達が答える訳がない。
『こいつあシヴィーー!!!受験生のリスナー!実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ!!!アーユーレディ!?』
『YEAHH!!!』
(自分で言っちゃったよ!どんなメンタルしてんだ‥‥‥)
二度目の呼びかけにも誰も答えてくれなかったが、プレゼント・マイクは気にせず説明を始める。簡単にまとめると、
・演習場にはそれぞれポイントが割り振られた『仮想
・”個性”を用いてそれらを行動不能にしてポイントを稼ぐ
・他の受験者を攻撃する等、ヒーローらしからぬ行為はアウト
ということだ。
『俺からは以上だ!!最後にリスナーへ我が校”校訓”をプレゼントしよう。
”更に向こうへ
それでは皆良い受難を!!』
*
「でかすぎだろ」
天海は、開口一番そう言い放った。演習場に着いたのだが、その大きさが尋常じゃない。街を丸々持ってきたかのような広さ。これが何個もあるのだから驚きだ。さすが雄英と言ったところか。
しかし、天海にはそれより気になっていることがある。
「何で『0P敵』なんて用意するんだ?」
先ほどプレゼント・マイクが説明した仮想敵の中に一体ポイントが割り振られていないものがいた。天海はそれに対して、ずっと違和感を感じているのだ。
「単に戦闘力を見るなら全ての仮想敵にポイントをつけるべきだ。0Pなんて誰も倒そうとしねーし、見つけても避けるだろう。それとも何か別の意図が───」
『ハイスタートー!』
「は?‥‥ッそういうことするか!」
二拍遅れて天海は走り出す。
『どうしたあ!?実践じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!?』
「まじで!?」
「急げ急げ!」
他の受験者も天海に続く形で走り出す。
『標的補足!!ブッ殺ス!!』
「!早速来たか」
先頭にいた天海に1P敵が突っ込んできた。それに対して天海は左手を相手に翳し、右手を握りこみ腰の辺りで構える。すると拳がどんどん水で覆われていく。眼前まで1P敵が近づいた瞬間、天海は右腕を振りぬいた。
「うおらぁっ!!」
振りぬいた右腕からは人の頭大の大きさの水の塊が、弾丸のような速度で飛んでいき1P敵の頭部を吹き飛ばした。頭を失い、力なく倒れた1P敵を踏みつけながら、
「この調子で行くぞ!!」
好戦的な笑みを浮かべながら天海は叫んだ。
*
「───大分数が減ってきたな」
天海は両手から水を噴射して、上空から演習場を眺めていた。
彼の"個性"は『水』。
自身の体から水を生み出すことができ、直接触れている間は水を操ることができる。出力を上げれば空を飛ぶことだってできるのだ。
周囲の状況をひとしきり把握した天海は、出力を落としながら地面に降りた。
「ここらの敵はほとんど倒したっぽいな。ポイントは結構稼いだと思うが、もう少し倒しに行くか。」
そう言って場所を移そうとした時──
───辺りに轟音が鳴り響き、地面が大きく揺れた。
「な、何だこれ!?」
突然のことに驚く天海であったが、すぐにその原因を見ることとなった。
30mはある体躯の大型仮想敵が前方からビルを崩しながら現れた。
「こいつが0P敵か。けど、わざわざ相手にする必要はねーな」
0P敵を一瞥し、当初の予定通り移動しようする天海。
しかし、そんな彼の目にある光景が飛び込んできた。
0P敵の前方、瓦礫の側に誰かがいる。
「なにしてんだアイツ?早く逃げねーと敵が来・・・・もしかしてアイツ!!」
0P敵が近づいて来るにも関わらず、その人物は動こうとしない。いや、動けないのだとしたら‥‥。
「くそっ!」
その瞬間、天海は両手から水を放出して全速力でその人物の元に向かう。恐るべき速さでその人物の元に着いた天海は、しゃがみこんで声を掛ける。
「おいアンタ!何で逃げねーんだ!」
「あ、脚が・・・瓦礫に挟まって‥‥」
瓦礫の側にいたのは、黒髪ショートの少女だった。
少女は痛みに顔を歪めながら抜け出そうとしている。そうしている間にも0P敵は目の前まで迫っている。
(今助けてもギリギリ間に合わねーな‥‥。だったら───。)
すると天海は立ち上がり、0P敵を真っ直ぐ見る。
「ちょっと待っといてくれ。今からアイツぶっ倒してくる」
「ハァ!?あんなデカいの無理だって!ウチはいいから早くアンタだけでも逃げ───」
「バカ言うな!!ヒーローになろうとしている奴が目の前の人間救けねーでどうする!!」
少女は逃げるよう言うが天海はそれを遮って叫んだ後、0P敵に向かって飛んでいく。0P敵は巨大な右腕を振るい迎撃するが天海はそれを縫うように躱す。そして0P敵の首の前に着くと、人差し指と中指を伸ばし指先から細く水を放出する。それで0P敵の装甲を水圧カッターのように切り抜き、そこに腕を突っ込む。
(ロボットなんてのは精密機械の塊だ。つまり、ショートさせれば動きは止まる!)
「くらいやがれぇぇぇぇええ!!!」
そう叫び、天海は突っ込んだ腕から0P敵の内部に大量の水を全力で流し込んだ。
それはとどまることを知らず外にも溢れ出した。
しばらくすると、0P敵の全身からから"バチバチッ"と音が聞こえ巨大な体が傾き、そのまま脇のビルの中に轟音と土埃をたてながら倒れこんだ。
「ハァ・・・ハァ・・・。少しがんばりすぎたな・・・」
離脱していた天海は、膝に手を置き顔色を悪くしながらも笑みを浮かべ呟いた。
そして、
『終了~~~!!!!』
試験終了のアナウンスが響き渡った。
*
「歩けるか?」
「いや、ちょっとキツイかも‥‥」
終了後、天海は少女を瓦礫から出したのだが、少女の足は赤く腫れあがっていた。とても歩ける状態ではなさそうだ。
「仕方ねーな。」
天海はそう言いながら靴と靴下を脱ぎ、靴紐をベルトに結びつける。
「ちゃんと掴まっとけよ」
「えっ?‥‥ひゃっ!?」
すると少女の体を浮遊感が襲い、視界がどんどん地面から離れていく。
「このまま救護班のとこまで行くぞ。歩かせるわけにも行かねーし」
「ちょ、ちょっと待って!それはいいんだけど何でこの持ち方なの!?」
今、天海は足から水流を出して少女と一緒に飛んでいるのだが、その運び方が問題だった。体の前で彼女を両腕で抱える形、いわゆるお姫様抱っこである。年頃の女子には恥ずかしいのか、彼女は顔を赤くして抗議してきた。
「仕方ねーだろ。これが一番安定するんだ。ていうか、そういう反応されると俺も恥ずかしいんだけど。」
「じゃあやんなきゃよかったじゃん!ウチこの格好で他の人に見られたくないんだけど!」
「我慢しろ。アンタの脚が悪化しないように急いでんだから」
そんな事を言い合っているうちに救護班のもとに着いた天海は彼女を引き渡した。
その際どこからか強烈な視線を浴びせられた気がしたが、彼は気にしなかった。
「じゃあ、俺はもう行くぞ」
「あ、ちょっと待って!」
「ん?」
その場を去ろうとする彼を少女は呼び止めた。
「ありがとう、救けてくれて」
「気にすんなよ。あれは俺がやりたくてやったことだし」
少女の感謝の言葉に彼は笑いながら返す。
「じゃあな。今度会うときは雄英で会おうぜ」
「うん」
そう少女に言い残し、天海は試験会場を後にした。
*
「あーー気持ちわりい。やっぱ無茶しなきゃよかった」
天海は自販機で買ったスポーツドリンク片手に、壁にもたれ掛かりながら、そう呟いた。
彼の"個性"『水』は使うに当たってデメリットがある。それは使い過ぎると"脱水症状"を引き起こすと言うものだ。
先の試験で0Pを倒すために大量の水を生み出した彼だが、気合いを入れすぎて少し許容限界を超えてしまったのだ。そのため彼は今、軽度の脱水症状に襲われているのだ。
「やっぱり
思い出しているのは試験の終盤の戦闘。人命を優先して倒したと言っても0Pは0P。他の仮想敵を倒しに行けば、もっとポイントを稼げたわけだが、
「ウダウダ言っても仕方ねえか。『覆水盆に返らず』って言うし」
終わってしまったことは仕方ない、そう考えることにした。
こうして、天海の雄英受験日は終わりを告げた。
「あ、名前聞いときゃよかった」
皆さん初めまして。二次小説は書いたことがないため拙い文章かもしれませんが、これからよろしくお願いします。