Deap Ocean   作:ナルミヤ

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最近になって『」』の前に『。』がいらないことを知りました


No.10 駆け抜けろ 障害物競争!

『さ~て実況していくぜ!! 解説アーユーレディ!? ミイラマン!』

『無理矢理呼んだんだろうが・・・』

 

 放送席にてテンションの高いプレゼント・マイクの振りを不機嫌そうに返す隣の相澤。しかし、プレゼント・マイクはそんなことお構い無しに実況を始める。

 

『早速だがミイラマン! 序盤の見所は!?』

『今だよ』

 

 相澤はスタートゲートを見つめながら短く答えた。

 

 スタートと同時にスタジアムの外へと続く道は、多くの生徒が一気に詰めかけたことで大渋滞となっていた。

 怒号やら悲鳴やらが飛び交う上をひとつの影が(よぎ)る。生徒たちは影の正体を見ようとしたが、影が過ぎ去った後そんな彼らに水が降り注いだ。

 

「冷たっ!? おい誰だ、水かけたの!」

 

「悪いな。何してもいいって話だからな」

 

 怒鳴る生徒に一言詫びながら、天海は群衆の上を飛んで追い越していく。スタートゲートから伸びる通路は道幅こそ狭いが上方向には開けており、天海が"個性"を使用して飛ぶには十分すぎる高さだ。

 

「空飛べて良かったぜ。しっかし、これだけ苦労させるってことはスタート地点(ここ)が既に・・・」

 

 

 

「最初のふるい」

 

 

 

 刹那、身も凍るような冷気が生徒たちの足元を過ったかと思うと、通路の地面から天井までが一瞬で凍りつく。先頭を走っていた轟の仕業だ。さらに轟は自身が駆け抜けた後の道も軒並み凍てつかせていく。ゲートを抜けてすぐの地点では多くの生徒が思うように進めず頓挫していた。

 

「ハッ、相変わらずやることが派手だな」

 

 空中にいた天海はその攻撃から逃れていた。しかし、それは天海だけでなく、A組は各々のやり方で轟の攻撃を避けていた。戦闘訓練やUSJでA組は轟の"個性"が強力であることは知っていたため、あらかじめ対策を講じていたのだ。さらに後ろの方では、同じヒーロー科のB組を含め、他クラスの生徒たちも轟の妨害を回避していた。

 

 そんな彼らを尻目に轟はトップを走るが、突如現れた巨大な影に足を止める。それは後続の生徒たちも同様だった。

 

『さぁ、いきなり障害物だ!! まずは手始め・・・第一関門 ロボ・インフェルノ!!』

 

 彼らの目の前に立ちふさがるのは、一般入試で使用された仮想敵たち。加えて、各試験場に一体しかいなかった0P敵までもが大量に配置されており、まるで巨大な壁のようだ。推薦組を除くヒーロー科しか知らぬそのスケールに、普通科などの生徒は戦々恐々とする。

 

 しかし轟はそれらを一瞥し、自分に襲いかかろうとする0P敵を一瞬で氷漬けにした後、その股下をくぐり抜ける。さらには不安定な状態で凍った0P敵が倒れたことで足止めにも成功し、轟はトップを独走する。

 轟に追い付こうと爆豪、瀬呂、常闇は0P敵の上を乗り越えていく。

 

「上いってもいいが、一位狙うなら・・・・・・最短ルートだな!!」

 

 一方の天海は体を横に向け、降下しながら自分の足元に水を溜め込む。0P敵は近づく天海に気付き攻撃する。しかし、天海は着地すると同時に足元の水で大きな波を作り出し、0P敵の攻撃を避けながら滑るようにして進んでいく。その姿はさながらサーファーのようだ。

 

『オイオイ、次々と突破していくな!! つーか一足先に行く連中、A組が多いなやっぱ!!』

『他のクラスの奴らも悪くはないが・・・立ち止まる時間が短い』

 

 A組は唯一敵と対峙したクラスだ。上の世界を肌で感じた者、恐怖を植えつけられた者、対処し凌いだ者。感じたことは各々違うが、それらは全て彼らの糧となり、迷いを打ち消している。それがA組が一歩抜きん出てる理由だ。

 

『どうやら第一関門はチョロいみたいだな!! んじゃ第ニ関門はどうさ⁉』

 

 プレゼント・マイクの声を受けながら、生徒たちが次にたどり着いたのは、

 

『落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォール!!!』

 

 底が見えない程深く、大きな谷。そこに突き刺されたかのように点在する足場をそれぞれ金属製のロープが繋いでいる。

 しかし、臆することなく轟はロープを氷結させながら滑るように渡っていき、首位を維持している。

 

「くそがっ!!!」

 

 その後ろには調子を上げてきた爆豪が続き、爆豪の背中を天海は追う形となっているが、天海は少し焦っていた。

 

「チッ、やっぱり爆豪の方が速いか・・・!!」

 

 天海は舌打ちしながら呟く。

 爆豪と天海、両手で"個性"を用いて移動するという点では似ているが、その性質は大きく異なる。爆豪の"個性"『爆破』は掌の汗腺から分泌されるニトロのような物質を用いて爆破させている。則ち体を動かし汗の量が増える後半は自然とペースが上がる。

 対して天海の"個性"『水』は体内の水分を用いるため後半は出力を上げにくい。そのため、天海は爆豪より一歩遅れてしまうのだ。

 

(直線勝負じゃキツいか・・・。燃費は向こうの方がいいからな。三つ目の障害で速度が落ちりゃいいんだが・・・)

 

 天海が思案しているうちに、ザ・フォールを抜けた轟は第三関門に入る。

 

『一面地雷原!!! 怒りのアフガンだ!! 地雷の位置はよく見りゃ分かる仕様になってんぞ!! 目と脚酷使しろ!!』

 

 マイクの言う通り、地雷が埋まっているであろう位置の土は色が少し違い、こんもりと盛り上がっている。ただ、位置が分かっても地雷は所狭し埋まっているため、安易に駆け抜けようとして一つを踏み抜けば連鎖爆発を起こしかねない。

 

『ちなみに地雷! 威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』

『人によるだろ』

 

 漫才の様な掛け合いが聞こえる中、轟は無数の地雷の間を縫うように歩いていく。

 

「なる程な、こりゃ先頭ほど不利な障害だ。エンターテイメントしやがる」

 

 後ろでは他の生徒が踏んだであろう地雷の爆発音が響いている。しかし、それらとは違う爆発音が徐々に轟の元に近づいてくる。

 

「はっはぁ、俺は・・・関係ねーーー!!」

 

 両掌を爆発させ、獰猛な笑みを浮かべた爆豪が轟の横に並ぶ。

 

「てめェ、宣戦布告する相手を間違えてんじゃねえよ!!」

 

 そう叫びながら、爆豪は轟に向けて爆破する。轟は何とか下がって躱したが、その分爆豪にリードを許してしまう。負けじと轟は爆豪の腕を掴み、氷結させながら引っ張る。

 両者一歩も引かないトップの攻防。速度は落としながらも突き進む二人だったが、ここに新たな乱入者が現れる。

 突如二人の前にソフトボール大の水がいくつも降り注いだ。それによって地雷の信管が作動し、爆煙が二人の脚を止める。

 

「ビンゴだ!!」

 

「くっ、天海か!?」

「水野郎が・・・!!」

「随分白熱してるじゃねーか? 俺も混ぜてくれよ!!」

 

 掌から水を発射しながら飛んできた天海がトップ争いに食い込んだ。

 

『先頭三人が首位を奪い合う!! 喜べマスメディア!! お前ら好みの展開だああ!!』

『推薦入試一位に実技試験トップ2か。実力が拮抗してる分手間取ってるが、早いとこ抜けないと他の奴らも来ちまうぞ』

『後続もスパートかけてきた!!! だが引っ張り合いながらも・・・先頭三人がリードかあ!!?』

 

 轟は氷結を、爆豪は爆発を、天海は水流を。三人は互いの"個性"を駆使して先に行こうとするが、一人が前に出れば残り二人に妨害される、といったことが繰り返されるため思うようにいかない。

 

 しかし、突如後方で起こった地雷一つとは思えないほどの大爆発を皮切りに、その均衡は破られることとなる。

 

 三人は妨害するのも忘れ後ろを振り返る。爆煙の中から一つの影が猛スピードでこちらに向かってくるのが見える。その正体は、

 

『偶然か故意か、A組緑谷爆風で猛追ーーーー!!!?』

 

 仮想敵の残骸に乗った緑谷だった。

 

 

 

 *

 

 

 

 数分前。

 天海が丁度轟と爆豪の脚を止めていた頃、緑谷はようやく地雷ゾーンに差し掛かっていた。

 

(ダメだ、遠い!!)

 

 先頭三人はそろそろ地雷ゾーンを抜けるところにいる。普通に抜けようとしても追いつくことはできない。しかし未だワン・フォー・オールの調整が上手くできていないため、"個性"を使ってオールマイトのようにひとっ飛びという訳にもいかない。

 

(考えろ!! "個性"が使えない今、どうすれば三人に追いつける!? 他の人たちみたいに慎重に行ってるんじゃダメだ! かっちゃんや天海くんみたいなスピードを出せれば・・・・・・待てよ、かっちゃんみたいに?)

 

 今緑谷がいるのは地雷ゾーン。手元には仮想敵の装甲。そして必要なのは先頭に追いつけるほどの瞬間的なスピード。その三つが繋がり、緑谷は一つの方法を思いついた。

 

 そこからの緑谷の行動は早かった。

 

 緑谷は仮想敵の装甲を使って近くに埋まっている地雷を掘り起こし始めた。追い越していく生徒たちは『何をしているんだ』と言わんばかりの視線を緑谷に向けるが、緑谷は構わず作業を続ける。

 やがて、十個ほど掘り起こしたところで緑谷はそれらを一ヵ所に集める。そして少し離れたところで装甲を体の前に構える。

 

「借りるぞ、かっちゃん! ・・・大爆速ターボ!!」

 

 緑谷は装甲が下になるように集めた地雷をの上に飛び込んだ。そして地雷は一つ残らず作動し、耳をつんざく轟音と共に緑谷を装甲ごと遥か上空へ(いざな)った。舞い上げられた緑谷は高度を落としながら、先頭三人へ近づいていく。

 

『A組緑谷爆風で猛追ーーーー!!!? つーか抜いたあああああー!!!』

 

 そして勢いそのままに首位へと躍り出た。しかし、それを三人が黙って見ているはずがない。

 

「デクぁ!!!!! 俺の前を行くんじゃねえ!!!」

 

 爆豪は怒りをあらわにしながら、轟と天海を無視して緑谷を追う。

 

「後ろ気にしてる場合じゃねえ・・・!」

「体力は温存しようと思ってたが・・・そうも言ってらんねーな!!」

 

 轟は後続に道を作ってしまうがために、敢えて作らなかった氷の道を作り始め、天海は掌だけでなく脚からも水を放出することでスピードを上げて、前を行く二人を追う。

 どんどん緑谷に近づく三人。それに比べて緑谷は高度と共に速度も落ちていく。

 

(マズイ、抜かれる! 着地のタイムロス考えたら、もっかい追い越すのは絶対無理!! でも、この三人の前に出られた一瞬のチャンス!! 掴んで離すな!!!)

 

 緑谷のすぐ後ろには元・先頭の三人が迫っている。この状況を打開するために緑谷は───

 

(追い越し無理なら──・・・抜かれちゃダメだ!!)

 

  持っていた仮想敵の装甲を、思い切り地面に叩きつけた。埋まっている地雷は一気に作動し、爆風で緑谷を前に押し出した。それに反して、後ろにいた轟、爆豪、天海の三人は爆破をもろにくらい、脚を止められたがすぐに動き出す。しかし、緑谷も三人に追いつかれまいと必至に脚を前に運ぶ。

 

 そして───

 

『さァさァ、序盤の展開から誰が予想できた⁉ 今一番にスタジアムへ還ってきたその男────・・・』

 

 多くの観客が見守る中ゴールゲートを抜けて来たのは、

 

 『緑谷 出久の存在を!!』

 

 息を切らせた緑谷だった。

 

 後続の三人は緑谷に続いて轟、爆豪、天海の順でゴールする。

 

「また・・・くそっ・・・!! くそがっ・・・!!!」

「・・・・・・・・・」

 

「やられたな・・・。まさかあんな方法で追い越されるなんて思わねーよ」

「天海くん・・・って大丈夫⁉ すごい顔色悪いよ!!」

 

 青い顔で話しかけてきた天海に緑谷は心配する。

 

「もう喉もカラッカラだ。後で八百万に水でも出してもらうわ」

「あれ? 天海くんって水を出せるんだよね。じゃあ自分で作って飲めばいいんじゃ・・・?」

「どういう訳か、俺が出した水は俺が飲んでも、全く体に吸収されないんだ。まぁ、そんなうまいことできてないってことだな」

「そうだったんだ」

 

 そうこうしている間に他の生徒も次々とゴールし、顔を上気させ何処か様子がおかしい八百万もゴールした。

 

「八百万。ゴールしたばっかで悪いんだが、コップ一杯でもいいから水を作ってくれねーか?」

「水ですか? それは構いませんが・・・お手数でなければ先にこちらをどうにかしてくださいませんか?」

「あ? どれだ?」

 

 天海が聞くと八百万は振り返り背面を見せる。そこには、

 

「ひょおおお!! 一石二鳥よ、オイラ天才!」

「サイッテーですわ!!」

 

 "個性"を用いて、鼻血を流しながら八百万の臀部近くに張り付く峰田(みねた) (みのる)がいた。彼が鼻血を垂らしているのは序盤にロボットに殴られたのが原因なのだが、この状況では全く別の理由に思えてくる。

 

「よし、任せろ。この変態をすぐに引き剥がしてやる」

「お、おい待て天海!! 同じ男のお前なら、今のオイラの気持ちが分か・・・・・・ごぼぼぼぼぼぼぼぼっ!!!」

「俺とお前を同類にするな」

 

 峰田は天海を説得しようとするが、天海に容赦なく放たれた水流に飲み込まれた。

 

(うわぁ、USJの時と同じ目してる・・・)

 

 偶々近くでその様子を見ていた尾白は顔を蒼くさせた。尾白曰く、峰田を見据える天海の眼は(ヴィラン)に向けるそれと同じだったという。

 

 そんな一幕もあったが、第一種目の障害物競争は特に大きな怪我人が出ることもなく、無事終了した。

 

 

 

 *

 

 

 

 障害物競争を終え、ヒーロー科全員に加え普通科とサポート科から一名ずつの計四十ニ名が選抜された。第一種目を勝ち上がった生徒たちは休む間も無く、第ニ種目へと移る。

 

「第ニ種目はコレよ!! 騎馬戦!!!」

 

 主審のミッドナイトは高らかに次の種目名を叫ぶ。

 騎馬戦のルールは以下の通りだ。

 

 参加者は2~4人で自由にチームを作る。基本的なルールは普通の騎馬戦と変わらないが、唯一違うのは各自にP(ポイント)が割り振られ、それらの合計が騎馬のPが決まるということ。つまり、誰と組むかによってポイントが変わるのだ。

 

「与えられるPは下から5ずつ増えるわ!! 四十ニ位は5P、四十一位は10Pといった具合よ。そして・・・一位の緑谷くんに与えられるPは

 

1000万!!!!

 

 1000万という桁違いのPを聞き、四十一の視線が一斉に緑谷に集まる。当の本人は「1000万?」と消え入るような声を出して立ち尽くしている。

 

「そう、上位の奴ほど狙われちゃう─────・・・下克上サバイバルよ!!!」

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