「物間、あんま煽んなよ。同じ土俵だぞそれ」
「ああ、そうだね。ヒーローらしくないし・・・それによく聞くもんね。恨みを買ってしまったヒーローが
物間と同じチームのB組生徒、
「おっおっおおォォ・・・」
「爆豪落ち着け! 冷静になんねえと
「無駄だ切島」
切島は今にも爆発しそうな爆豪に落ち着くよう促すが、天海はそれを遮った。
「こうなっちまった以上、爆豪はもう止まんねーよ。それに標的があの物間って奴になるなら好都合だ。このまま下がったらA組がナメられる」
「おォオオ・・・」
爆豪は震えながらも、何とか怒りを押し殺すような形で掌で爆発を起こす。
「っし進め切島・・・!! 俺は今・・・すこぶる冷静だ・・・!!!」
「頼むぞマジで・・・!」
相変わらずの敵顔負けの笑みを浮かべる爆豪の言葉を受けて切島たちも腹を括った。切島たちは勢いよく踏み出し、物間たちにぐんぐんと近づく。
「死ねえ!!!」
爆豪が物間目掛けて爆破を起こすが、物間は笑顔を崩さぬまま軽々といなす。攻撃を受け流され前のめりになった爆豪だが、すかさず態勢を立て直し物間に向き直る。
しかし、目の前には物間の掌。
そして次の瞬間───
───爆豪の目の前の空間が爆ぜた。
「ははぁ・・・! へぇ! すごい! 良い"個性"だね!」
物間は真新しい玩具を見つけた子どものような表情を浮かべた後、切島の髪を叩いた。
「俺の・・・!!」
「爆豪おめーもダダ被りか!!」
「ッくそが!!!」
予想外の攻撃に怯んだ爆豪だったが、再び物間目掛けて右の大振りで爆破をかます。
「ホントっ良い"個性"だよ・・・僕の方が良いけどさ」
しかし煙が晴れたそこには、硬化させた左半身で攻撃を受け止めた物間がいた。
「んなああー! 俺の!? また
「違え、こいつ・・・コピーしやがった」
「正解!」
物間 寧人:"個性"『コピー』
触れた者の"個性"を触れてから5分間は使い放題! 同時に2つとかは使えないぞ!
「まぁバカでもわかるよね」
「ッのやろ・・・!」
「ッ!? 切島、下がれ!」
「何だ天・・・おわっ!」
天海が切島に警告したが、切島が下がるよりも先に横から白い液体が、爆豪と物間の間を遮るように降り注いだ。
「何だこの白いの! くそっ動けねぇ!」
切島の右足に降りかかったそれは瞬時に固まり、切島をその場に固定していた。
「んだこれ接着剤か何かか? 天海、どうにかなんねえか?」
「多分できる。つか、できなきゃ負け確だしやるしかねーだろ!」
そう言って天海は右手から水を出して、切島の脚と接着剤との僅かな隙間に流し込む。
「切島、全力で硬化しろ!」
「え? お、おう!」
「いくぞ・・・・・・おらぁ!!」
切島が脚を硬化したのを確認して、天海は大量の水を隙間に無理矢理流し込んだ。元あった空間以上の体積の水を押し込まれ切島の脚を覆っていた接着剤は一瞬膨らむが、耐えきれなくなりバラバラに弾け飛んだ。
「おお、ありがとよ天海! これで動ける!」
「~~~ッものまね野郎!!」
「だあああ!! 勝手すな爆豪ーーー!!!」
切島が解放された瞬間、爆豪が離れていった物間たち目掛けて飛んでいってしまい、三人は慌てて追いかける。その最中、天海は現在の順位と持ちPが映し出されたスクリーンを睨んでいた。
(今俺たちは持ちPは0だから当然最下位。こっからどうやって逆転する?)
残り時間は既に一分を切っている。一番手っ取り早いのは現在一位の轟から1000万を奪うことだが、距離が離れており加えて轟は緑谷チームと一対一の状態にするために氷壁を作り出していた。中の状況が分からない中、奪いに行くのはあまりにもリスキーだ。
(そうなるとやっぱり近い奴らから奪うのが一番か。ただ、時間もねえから標的をしっかり決めないと───)
そこまで天海が考えた時、スクリーン上の自分たちの順位が一気に三位まで浮上した。何事かと辺りを見渡すと、瀬呂のテープで引き戻される爆豪の手にハチマキが二本握られていた。どうやら四対一の状況にも関わらず奪ってきたらしい。
「飛ぶときは言えってば!!」
瀬呂が悪態をつきながら爆豪を受け止める。しかし爆豪が奪ってくれたおかげで天海たちは一気に逆転することができた。あとは維持するだけでも予選通過は確実だ。
「まだだ!!!」
だが爆豪は妥協しなかった。
「完膚なきまでの一位なんだよ取るのは!!」
『俺が一位になる』
爆豪は体育祭の自分の宣誓を思い出す。
彼が求めているのは絶対的な一位だった。"結果"だけではない。それに至るまでの"過程"でもトップに君臨したいのだ。
「さっきの俺単騎じゃ踏ん張りが効かねえ、行け!! 俺らのPも取り返して1000万へ行く!!」
「いいぜ爆豪! この際とことん行ってやろうぜ!」
「ったく!」
「お前ら、ほんと男らしいぜ!」
爆豪だけではない。彼の熱は天海と切島、瀬呂にも伝播していった。
「しょうゆ顔! テープ!!」
「瀬呂なっと!!」
爆豪の指示通り瀬呂がテープを射出する。しかしそれは物間たちの脇に逸れた。
「水野郎! 進行方向に水張れ!!」
「天海だ! いい加減名前で呼べ!!」
一向に名前で呼ばない爆豪に吠えながら天海は自分たちと物間たちを結ぶようにして、水を地面に張る。
「よっしゃあ! お前らしっかり掴まれよ!」
瀬呂がテープを巻き取ると同時にが爆豪が自身の背面に向けて爆破を起こす。天海の水で地面との摩擦を減らし、瀬呂の巻き取る力に加えて爆豪の爆破で生み出された推進力を元に、四人はとてつもないスピードで物間たちに急接近する。それに気付き
『爆豪容赦なしーーー!!! やるなら徹底! 彼はアレだな完璧主義者だな!!』
「次!! デクと轟んとこだ!!」
観客が爆豪たちの逆転劇に沸き立つ中、彼らはすぐさま狙いを絞る。残り時間は二十秒近くしかないが、彼らはまだ1000万を諦めていない。
「切島は全身硬化! 瀬呂は氷壁にテープつけろ! 推進力は俺が作るから爆豪は目の前まで行った瞬間に爆破でこじ開けろ!」
「俺に命令すんな!」
「全員行くぞ!!」
「「おう!!」」
「無視すんじゃねえ!!」
爆豪が何か言っていたが、彼も言い合う時間がないのは理解しているためすぐさま身構える。天海は瀬呂がテープを準備したのを確認した後、右手を後ろに構えてありったけの水を放出した。それと同時に瀬呂がテープを巻き取る。四人は先ほどとほぼ同じ速度で行く手を阻む氷壁に突進する。
「「「「おおおおおお!!!!」」」」
氷壁が眼前に迫った瞬間爆豪が両手から爆発を起こし、進行方向の大半の氷を吹き飛ばした。壊しきれなかった氷は全身を硬化した切島が戦車の如く砕いていく。
そして四人は見事に氷壁を突破した。
『そろそろ時間だ。カウントいくぜ、エヴィバディセイヘイ! 10!・・・9・・・』
プレゼント・マイクのカウントダウンが聞こえる中、轟チームと緑谷チームが最後の攻防を繰り広げている。
「轟だ、爆豪!!」
「わっとるわ!!」
天海が1000万の在処を叫び、爆豪が怒鳴りながら飛び出す。
常闇の
麗日が全員を浮かせて突っ込む。
轟が指示を出して八百万が伝導用の武器を創造して手渡す。
爆豪が轟目掛けて爆速ターボで近づき、ハチマキを奪おうと───
『TIME UP!』
したところで競技終了が告げられた。爆豪は勢いを殺しきれずに轟を少し通りすぎたところで顔から地面に突っ込んだ。
『それじゃあ早速上位4チーム見てみようか!!
1位 轟チーム!!』
「はぁ、勝ちはしましたけど薄氷を踏む思いでしたわ」
「すまない・・・。俺のせいで迷惑をかけた」
「そんな事・・・飯田さんがいなければ私たちの勝利はなかったですわ」
「ウェ~イ」
「・・・・・・」
飯田が三人に謝るが八百万が慰める。後半動けなかったとしても飯田の"レシプロ・バースト"がなければ、轟チームは緑谷から1000万を奪うことができなかったのだ。上鳴もアホになりながらも慰めるようにサムズアップする。ただ一人、轟は何処か浮かない顔だ。
『2位 爆豪チーム!!』
「あ~~、あと十秒くらいありゃなぁ・・・」
「まぁ2位なら上々だって。結果オーライ」
「そんな事思うかよ、あいつが」
「だああああああ!!」
天海、瀬呂、切島の三人は概ね満足はしているが、爆豪は一人悔恨を晴らすかのように叫んでいる。あれだけ宣誓で啖呵を切っておきながら予選はどちらも2位なのだ。爆豪にとってこれほどやりきれない気持ちはないだろう。
『3位 鉄て・・・アレェ⁉ オイ!!!
「ご苦労様」
「・・・!? ・・・・・・!!?」
普通科の生徒、
『4位 緑谷チーム!!』
「うわああああああああ!!!」
「あんな一瞬で取るなんて! すごいよ黒影!!」
「オ、オウ! マァ俺ニカカレバチョロイモンダヨ!」
「フッ、面白い男だ。さっきまでの気迫はどこにいったのやら」
「はぁ、果たしてサポート会社の方々は注目してくれたでしょうか・・・」
まさか予選通過できているとは思ってもいなかった緑谷はまるで間欠泉のような涙を溢れさせた。その傍らでは麗日が最後の最後でハチマキを奪った黒影を褒め称え、常闇は涙を流す緑谷を見てニヒルな笑みを浮かべる。発明は難しい顔で競技中に壊れたジェットパックをいじっている。
何はともあれ、これで最終種目に進む16名が決まった。
『一時間程昼休憩挟んでから午後の部だぜ! じゃあな!!』
*
スタジアムから外に向かう通路にて。
「天海、最終種目進出おめでと」
「おう、ありがとな。耳郎たちは残念だったな」
「ほんと悔しかったよ。轟に凍らされたおかげで後半全然動けなかったし」
耳郎たちの騎馬は轟と上鳴の強力コンボで足止めをくらっていた。耳郎と砂藤の"個性"で何とか氷を砕いて脱出はできたが、結局ハチマキを奪うことは叶わず予選落ちとなってしまった。
「そうだ。ウチお昼ごはんはヤオモモと食べようと思ってたんだけど、よかったらどう?」
「そうだな。でも男子俺だけだと寂しいから切島とかも誘って・・・」
耳郎から昼食の誘いを受けた天海だったが、ちょうど十字路に差し掛かった時天海の視線が脇道の奥に注がれた。
(あいつどこ行くんだ・・・?)
「どうしたの?」
「悪ィ耳郎。ちょっとトイレ行くから先行っといてくれ」
「え? ちょ、トイレはこっちの方が近・・・」
耳郎は呼び止めようとしたが、天海は言い終えるのを待たずに通路の奥に走り去っていった。