Deap Ocean   作:ナルミヤ

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No.13 それぞれの思い

「───俺の親父はエンデヴァー、知ってるだろ。万年No.2のヒーローだ」

 

 騎馬戦を終えて他の生徒たちが昼休憩で校舎に戻る中、轟と緑谷は人気のない通路の影で向かい合うように立っていた。

 

「お前がNo.1ヒーローの何かを持ってるなら俺は・・・・・・尚更勝たなきゃいけねぇ」

 

 轟は氷のように冷たい威圧感を話ながら、自身の過去を緑谷に話し始めた。

 

 

 

 彼の父親であるNo.2ヒーローのエンデヴァーはデビュー当時からその実力を遺憾なく発揮し、破竹の勢いで名を馳せた。だが、そんな彼でも未だにオールマイトを越えたヒーローにはなれずにいる。極めて上昇思考が強いエンデヴァーは次の策を講じた。子どもに自身の野望を果たすことにしたのだ。

 

 人類に"超常"が起きてから第二~第三世代間の頃、『個性婚』というものが存在した。

 親の"個性"を強化して子どもに受け継ぐことだけを考えて配偶者を選ぶ結婚。個性婚が現れてすぐ、倫理観が欠落しているという理由で問題になり、法律によって現代に至るまでこれは禁止されている。

 しかし、エンデヴァーはこれに眼をつけた。No.2ヒーローとして活躍しているエンデヴァー。資産と実績は十二分に持っていた。彼は自身の"個性"を強化できる"個性"を持った女性の親族を金で丸め込み、その女性と結婚した。その間に生まれた、両方の"個性"を有した子どもこそが同時に"轟 焦凍"だった。

 

 

 

「俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たそうってこった。うっとうしい・・・! そんな屑の道具にはならねえ」

 

 忌々しそうに声を荒げる轟は、顔の火傷を隠すように手を翳す。

 

「記憶の中の母はいつも泣いている・・・。『お前の左側が憎い』と、母は俺に煮え湯を浴びせた」

 

 轟の口から告げられたあまりにも凄惨な過去に緑谷は戦慄した。かける言葉すら見つからなかった。

 

「ざっと話したが俺がお前につっかかんのは見返すためだ。クソ親父"個性"なんざなくたって・・・・・・いや・・・使()()()"一番になる"ことで奴を完全否定する」

 

 

 

 

 

「───何か・・・とんでもない話聞いちまったな」

「・・・・・・・・・」

 

 轟と緑谷が話していた通路の角で天海と爆豪は佇んでいた。爆豪は轟と緑谷が脇道に逸れたのを追いかけてきて、天海はその爆豪を追いかけてきて今に至っている。

 

「・・・関係ねぇよ」

「あ?」

「半分野郎にどんな事情があろうと関係ねぇ。俺が一位になるのを邪魔するならねじ伏せる。それだけだ」

 

 爆豪はそれだけ言い残して来た道を戻りだす。

 

「・・・そうだな」

 

 天海も後に続く。

 

 結局のところ、誰にどんな事情があろうと彼らが一位を目指す理由は変わらないのだ。

 

 緑谷は最高のヒーローになるため。

 

 爆豪は最強のヒーローになるため。

 

 轟は父親を否定するため。

 

 天海は人々を守れるようになるため。

 

 彼らは皆、己の理想を叶えるために一位を目指してひた走るのだ。

 

 

 

 *

 

 

 

 昼休憩も終わり雲ひとつない快晴の下、再び集まりだした生徒たちに向けてプレゼント・マイクの声が響き渡る。

 

『最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ! あくまで体育祭! ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!』

 

 ヒーロー科だけでなく普通科やサポート科にとっても、体育祭はプロヒーローや企業へのアピールの場だ。このレクリエーション種目は最終種目に残れなかった生徒たちへの救済措置とも言えるだろう。

 

『本場アメリカからチアリーダーも呼んで、一層盛り上げ・・・・・・ん? アリャ?』

「なーにやってんだ・・・・・・?」

 

 ノリノリで説明していたプレゼント・マイクが突然すっ頓狂な声を上げ、隣にいた相澤も呆れた様子でスタジアムを見やる。そこには彼らの頭に疑問符を打ち立てた原因がいた。

 

『どーしたA組!!? どんなサービスだそりゃ!?』

 

 そこにいたのはアメリカから来たチアリーダーたちと同じ格好をしたA組女子メンバー。オレンジ色が基調のヘソが見える程丈の短い衣装とミニスカート。首には衣装と同じカラーリングのチョーカーを巻き、両手には応援ものには欠かせないポンポンが握られている。完成度は非常に高いのだが雄英生がこういう格好をするプログラムは無いため、実況の二人が戸惑うのも当然である。

 

「あー・・・耳郎? お前ら何してんだ?」

 

 どういう訳か暗い顔をしているA組女子に近づき、戸惑いながらも耳郎に尋ねる天海。

 

「その・・・午後からはウチらも着替えて応援合戦しなきゃいけないって聞いて」

「なるほど。ちなみに聞くが、それ誰から聞いた?」

「・・・・・・峰田と上鳴」

「・・・ハァ」

 

 耳郎の回答を聞いて大まかな経緯を理解した天海は同情を通り越して呆れてしまった。

 

「アホだろあいつら・・・!」

 

 羞恥心と怒りからか頬を赤く染めた耳郎が、持っていたポンポンを地面に叩きつける。

 

「いやお前らも大概だろ。あの二人が言ってる時点で察しろって」

「うっ! だって相澤先生からの言伝(ことづて)って言ってたし・・・」

「合理主義の相澤先生がそんな事回りくどいことする訳ねーだろ」

 

 "何事も合理的に"が相澤のモットーだ。仮に応援合戦の件が本当だったとしたら、相澤なら遅くても朝の時点で伝えているはずなのだ。女子たちはその時点で気づくべきだった。

 

「大体衣装だってもらってねーだろ。それどうしたんだ?」

「ヤオモモが創造してくれた」

「何で八百万もそこで創るんだよ・・・・・・」

 

 最早救う余地もない八百万の天然ぶりに天海はゆっくりと頭を振る。八百万が創らなければ彼女たちはこんな辱しめを受けることはなかったのだが。

 

「うぅ・・・ほんと恥ずかしい」

「まぁ着ちまったもんは仕方ねーよ。それに結構似合ってるぞ? 可愛いし」

「可愛・・・!? ~~~っのバカ!」

 

 天海に誉められた耳郎は顔を真っ赤にしながら、足元にあったポンポンを天海の顔面に向かって投げつけた。真っ直ぐに宙を舞ったポンポンは見事にクリーンヒットした。

 

「ブフッ!? おまっ、人が真面目に誉めてやったのに何すんだ!」

「う、うっさい! 可愛いとか言うな!」

「何だよいきなり・・・。あっ、もしかして照れてんのか? 可愛い奴─── 」

「だから言うなっての‼」

「うぉ! お前また投げやがって・・・。お返しだっ!」

「うわ! やったな、このっ!」

 

 再びポンポンを投げつけられて火がついたのか、天海は傍らに落ちているそれを耳郎に向かって投げ返しだした。反撃をもらった耳郎も負けじと投げ返す。といってもポンポンは二個しかないため、お互い投げつけられたのを受けては返してを繰り返す、何とも滑稽な攻防を繰り広げている。

 

「まぁまぁ二人とも、夫婦喧嘩はそのくらいにしてさ」

「「夫婦喧嘩じゃない‼」」

 

 葉隠が喧嘩する二人を嗜めると、二人は同時に叫んで否定した。あまりにも息ピッタリなので他の者は皆苦笑する。そんな周りの視線に気づいた二人は気恥ずかしくなり、落ち着きを取り戻した。

 

「ったく、本選前に何でこんな疲れなきゃならないんだ」

「アンタが変なこと言うからでしょ」

「別に変なことじゃねーだろ。切島、行こうぜ」

 

 疲れた様子の天海は傍を通りかかった切島に声をかける。

 

「おう。つかお前ら何言い合ってたんだ?」

「今言ったらまた怒りだすから言えねーわ。全く、女子の考えてることはさっぱり分からん」

「よく分かんねえけど大変そうだな」

 

 切島に愚痴を溢しながら天海はスタジアムの中央に向かう。彼の後ろ姿を見送りながら耳郎は一人呟く。

 

「ハァ、何でウチこんな必死なんだろ・・・」

 

 未だ火照る顔を冷ますかのように手を当てながら、天海の後を追うようにして耳郎は歩きだした。

 

 

 

 *

 

 

 

 最終種目はトーナメント形式の一対一のガチバトルだ。形式こそ違えど例年サシで競っているのが雄英体育祭だ。組み合わせはくじ引きで決められ、組が決まり次第レクリエーションを挟んで開始となる。ちなみにトーナメントに進出する16名はレクリエーションに参加するもしないも自由とされている。選手の中には体力を温存したい者もいれば、息抜きとして参加したい者もいるからだ。

 

「んじゃ一位チームから順に・・・」

「あの・・・! すみません」

 

 主審のミッドナイトがくじ引きを始めようとした時、一人の生徒が挙手した。

 

「俺、辞退します」

 

 辞退を申し出たのは尾白だった。彼の申し出に周りの生徒たちはどよめき、近くにいた緑谷と飯田は理由を聞く。このトーナメントはプロヒーローに自分の実力を見てもらえる、貴重な機会なのだ。それを棒に振ろうとする尾白の発現は中々に理解し難いものだった。

 

「騎馬戦の記憶・・・終盤ギリギリまでほぼボンヤリとしかないんだ。多分奴の"個性"で・・・」

(!? 尾白くんが組んでたのは確か・・・)

 

 緑谷が視線を送った先に居たのは普通科の心操 人使だ。緑谷と目が合った心操はフイッと顔を逸らす。

 

 自分のしようとしていることがとても愚かなのは分かっている。しかしこの最終種目は皆が力を出し合い争ってきた座であり、そこに訳が分からないまま並ぶのは自分のプライドが許さない。これが尾白の言い分だった。

 

「僕も同様の理由から棄権したい! 実力如何以前に・・・()()()()()()()が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」

 

 そう言って辞退する旨を伝えたのはB組の庄田 二連撃。彼も尾白と同じく騎馬戦の記憶が無いらしい。

 

『何か妙な事になってるが・・・』

「ここは主審ミッドナイトの采配がどうなるか・・・」

 

 そう。如何なる理由があろうと、判断はミッドナイトに委ねられている。彼女が認めなければ辞退は出来ないわけだが───。

 

「そういう青臭い話はさァ・・・好み!!! 庄田、尾白の棄権を認めます!」

(((好みで決めた・・・!!)))

 

 ミッドナイトは案外すんなりと認めた。

 

「えーと、二人には悪いけど私は出るね? 折角のチャンスだし」

 

 手を合わせて申し訳なさそうにする芦戸。彼女も記憶を失っていたが、それによって棄権するか否は自由だ。誰に強制されるものではない。

 

「となると、繰り上がりは五位の拳藤チームだけど・・・」

「そういう話で来るんなら・・・ほぼ動けなかった私らよりアレだよな? な? 最後まで頑張って上位キープしてた鉄哲チームじゃね?」

 

 サイドテールの女子、拳藤(けんどう) 一佳(いつか)は一緒に騎馬を組んでいたクラスメイトに確認を取った後、鉄哲たちを推薦した。

 

「拳藤、お前・・・」

「馴れ合いとかじゃなくてさ、フツーに」

「お・・・おめェらァ!!!」

 

 拳藤の言葉を受けて涙ぐむ鉄哲。

 結果、鉄哲チームからは鉄哲と塩崎(しおざき) (いばら)が繰り上がりとなった。

 

「抽選の結果、組みはこうなりました!」

 

 第一試合 緑谷VS心操

 第二試合 轟VS瀬呂

 第三試合 塩崎VS上鳴

 第四試合 飯田VS発明

 第五試合 芦戸VS天海

 第六試合 常闇VS八百万

 第七試合 鉄哲VS切島

 第八試合 麗日VS爆豪

 

『よーし、それじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間! 楽しく遊ぶぞレクリエーション!』

 

 楽しめと言われても本選に進む者たちにとってはそんな余裕はなく、まさしく束の間の時間だ。

 

 相手の攻略を練る者。

 

 平常心を保つ者。

 

 戦いに備える者。

 

 精神を研ぎ澄ます者。

 

 緊張を解きほぐそうとする者。

 

 それぞれの思いを胸にあっという間に時は来る。

 

 一年最強を決める戦いが今、始まる───

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