耳郎に理不尽な制裁をされた翌日の朝。
「あ、おはよう天海」
「っ!! おう、おはよう・・・」
通学途中で、天海は耳郎にばったり出くわした。
昨日のことが若干トラウマとなった天海は、ビクつきながらも挨拶を返す。
「どうしたの? 元気ないじゃん」
「・・・昨日あんなことした張本人がよくそんな事聞けるな」
「アンタと上鳴がやましいこと考えたのが悪いんじゃん」
「だから違うって言ってんだろ。アレは元々上鳴が・・・。ハァ、もういいわ」
「ん。素直でよろしい」
「納得いかねー・・・」
あの後何とか誤解を解こうとした天海だったが、耳郎は全く聞く耳をもたなかった。言い訳は後で聞いてやると言ったにも関わらずだ。
今も説得しようとしたが、昨日の疲れと『どうせ聞いてもらえないだろう』という気持ちも相まって、天海は不本意ながらも早々に諦めた。
その後、『上鳴も同じ目に会わせてやる』と朝から物騒なことを言い出す耳郎を天海が宥めながら、二人は学校の正門前に着いた。
しかし、そこは多数のマスコミで埋め尽くされていた。
「ちょ、何これ。通れないじゃん」
「マスコミ・・・ってことは、オールマイト目当てか」
マスコミは正門前で待ち構え、登校してくる生徒たちに我先にとインタビューして回っているようだ。向こうは『聞き終えたら次の生徒に行けばいい。』程度に考えているのだろうが、生徒側からすれば受け答えしているうちに遅刻してしまうかもしれないし会話が苦手な生徒もいるため、はっきり言って迷惑行為以外の何者でもない。しかし、無下に扱うのも憚られるというものだ。
「ったく。耳郎、俺の後ろにいとけよ」
「え? わ、分かった」
マスコミを一瞥し、天海は正門に近づき耳郎も後を追うように続く。すると案の定記者たちが話し掛けてかた。
───教師オールマイトついてどう思いますか?
「そうですね。やはりNo.1ヒーローが教鞭を振るってくれることもあり、それだけで雄英に来る意味があると思いますね」
───なるほど。ちなみにオールマイトの授業の様子について聞かせてもらえませんか?
「彼は僕たち生徒に対してフレンドリーに接してくれるため、とてもよい授業の雰囲気を作ってくれています。しかし、彼もまだ新米教師。授業に四苦八苦する、普段のオールマイトには見られない一面を見ることもできました」
普段からは想像できない爽やかな笑顔で丁寧に受け答えする天海に、耳郎は呆気にとられる。
「すいませんが、僕たちこれからHRがあるので教室に向かってもいいですか?」
───はい。 時間をとっていただきありがとうございました。
インタビューを終え、正門を抜けた天海と耳郎。玄関に向かう途中で耳郎は天海に問いかける。
「誰アレ」
「誰って、俺だが?」
「いやいやいや、ウチあんな爽やかな友達知らないんだけど!! 僕とか言ってたし!」
「何と言われてもアレは俺だ。丁寧な口調で喋れば、誰でもアレぐらい変わるだろ」
「にしてもあんなに変わるかな?」
「おーい、天海! 耳郎!」
報道陣を抜けてきた上鳴が、二人の名前を呼びながら駆け寄ってきた。
「おう上鳴、おは・・・」
天海は挨拶を返そうとしてハッとする。横を見れば耳郎が昨日と同じ目をして、彼女の気持ちを体現したかのようにイヤホンジャックがゆらゆらと揺れ動いている。
「上鳴! 逃げろ‼」
「あ? なに言っ・・・・・・てぐぅ!!??」
天海が警告したが遅かった。イヤホンジャックを刺され爆音を流された上鳴は、体を痙攣させながら地面に倒れ伏した。
「耳郎おまっ、さっきやめとけって言ったばかりだろ!!」
「ウチやらないなんて一言も言ってないし」
そう言って耳郎はスタスタと先に行ってしまった。
置いていくわけにもいかないので、天海は意識を失った上鳴を肩で支えて教室に向かった。
*
教室に着いた天海は、何とか意識は取り戻した上鳴を席に座らせる。芦戸や切島に事の経緯を聞かれたが、沈黙を貫いた。はっきり言ってトラウマレベルなので話したくないのだ。
その後、HRの時間となり相澤が教室に入ってきた。相澤は昨日の戦闘訓練について少し触れた後、学級委員長を決めるよう指示を出す。
集団を導くというトップヒーローには必要不可欠な力を鍛えられる役ということもあり、ほとんどの生徒が立候補するが飯田の提案で投票で決めることに。結果、緑谷が委員長、八百万が副委員長となった。
そして普段通りの午前の授業を終え、昼休み。
「天海。今から上鳴と飯食いに行こうぜ」
「オッケー」
切島に誘われ、食堂に向かう天海。
雄英には、クックヒーロー『ランチラッシュ』切り盛りする食堂、”ランチラッシュのメシ
「しっかし二人とも。マジな話で朝に何があったんだ?
列に並びながら質問する切島。朝の教室での天海と上鳴の不審な様子を見て、真剣に心配しているのだ。二人は事の顛末を語った。
「───天海は完全にとばっちりじゃねえか」
「そうなんだよ。こんなことになったのは全部このバカのせいだ」
「おい、何全部俺のせいにしてんだ!! お前も想像して顔赤くしてたろーが!!」
「お前があんな事言わなきゃ、そこまで至ってなかったんだよ!!」
「落ち着けって二人とも。そもそも上鳴がそんな事考えるのがいけないんだろ」
「なーに聖人ぶってんだ切島!! 女の濡れて透ける服には男のロマンが詰まってるんじゃねえか!!」
「あそこで露骨に狙いにいくのは男以前に人としてダメだろ。」
下らない論争を繰り広げる三人だったが、三人のいる食堂に突然けたたましいサイレン音が鳴り響いた。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』
放送を聞いた周囲の生徒たちが慌てる様子から、ただ事ではないと悟った三人。とりあえず指示通りに避難しようとするが、
「皆さんストップ!! ゆっくり!! ゆっくり!!」
「押すなって!! ・・・むぐぅ」
「んだコレ」
パニックになった生徒たちは避難しようと非常口に押し掛ける。切島は何とか落ち着かせようとするが、その声は喧騒にかき消され三人は人々の流れに飲み込まれてしまう。
「どうする!? このままじゃ怪我人が出るかもしれねえぞ!!」
「上鳴! こいつら感電させて動き止めろ!!」
「お前サラッととんでもないこと言うな!? できるわけないだろ!!」
「皆さん・・・大丈ー夫!!」
突如飯田の声が響いた。声のした方を向けば、飯田が非常口の上でピクトさんのようなポーズで叫んでいる。
「ただのマスコミです! なにもパニックになることはありません。大丈ー夫!! ここは雄英!! 最高峰の人間に相応しい行動をとりましょう!!」
飯田の呼びかけが功を奏し、落ち着きを取り戻した生徒たちは静かに食堂から避難した。
その後警察が駆け付けたことで、今回の騒ぎの原因であるマスコミは撤退した。午後からは通常通り授業は行われることとなったが、始業前に緑谷が食堂での行動を理由に飯田を委員長に推薦。他の者たちの後押しもあり、飯田が委員長に就任することとなった。ちなみに副委員長である八百万の立場は全く考慮されなかった。
*
────マスコミ襲撃事件から数日後の午後のヒーロー基礎学。
今回行うのは『
そして、
「すっげ―――!! USJかよ!!?」
一行が到着したところは誰かがそう叫んでもおかしくない場所だった。
広大なドームの中に点在する倒壊した市街地、切り立った断崖、船が沈没した巨大な水場・・・などなど。
遊園地のようではあるがそうではない。
ここは、
「水難事故、土砂災害、火事・・・・・・etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も・・・
(((USJだった!!)))
宇宙服のようなコスチュームを身にまとった、災害救助を中心に活動しているスペースヒーロー『13号』の紹介した、何処かに訴えられそうな名称に一同は心の中で突っ込む。
その後、相澤と13号が本来来るはずだったオールマイトについて話し合った後、13号が生徒たちに向き直る。
「えー、始める前にお小言を一つ二つ・・・・・・三つ・・・・・・」
(増える・・・・・・)
どんどん増える小言の数に戦慄するA組。そんな彼らの胸中を知らないまま13号は話し始める。
彼が伝えたいことは、今の超常社会は”個性”の使用を厳しく規制することで一見成り立っているように見えるが、一歩間違えれば容易に人を殺せる”個性”を個々が持っていることを我々は忘れてはいけない。相澤の体力テストで自身の秘めたる可能性を知り、オールマイトの対人戦闘訓練でそれを人に向けることの危うさを知ったA組の面々には、今回の授業で人命の為に”個性”をどう活用するかを学び、そして自分たちの力は誰かを傷つけるためではなく、助ける為にあることを心得てほしい、とのことだった。
13号の話を聞いたA組のメンバーは、彼に賞賛の声と拍手を送った。
「そんじゃあ、まずは・・・」
生徒に指示を出そうとした相澤だったが、妙な気配を感じ後ろを振り返る。
視線を送れば、USJの中央にある噴水広場に突如現れた小さな黒い靄。それは空間を侵食するかのように広がり、その中央から全身に掌を着けた異様な男を筆頭に、おぞましいコスチュームを身にまとった連中が次々と這い出てきた。
「一かたまりになって動くな!! 13号、生徒を守れ!!」
「え?」
突然の相澤の叫びに生徒たちは疑問の声を上げる。
「何だアリャ!? また入試ん時みたいなもう始まってるパターン?」
「動くな。あれは────敵だ!!!!」
切島の呟きに対して発せられた相澤の『敵』という言葉に生徒たちに動揺が走る。
噴水広場では先程の掌の男と黒い靄の男が会話をしていた。
「13号に・・・イレイザーヘッドですか・・・。先日
「どこだよ・・・。せっかくこんなに大衆引きつれてきたのにさ・・・。オールマイト・・・平和の象徴・・・いないなんて────」
「────子どもを殺せば来るのかな?」
向けられた明確な『殺意』。それは、まだ弱冠15歳程度である子供たちの恐怖心を煽るには十分すぎるものだった。
雄英の施設には多くの侵入者用のセンサーが設置されている。しかし、今この状況においてそれらが機能しているようには見受けられない。つまり向こうにはそれらを妨害できる輩がいるということ。
そして、校舎から離れた隔離空間、そこに少人数で入る時間割。これは何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ。
そう推測を建てた轟の言葉に、生徒たちはさらに不安を駆り立てられる。
しかし、そんな生徒たちの気持ちを払拭させるためのように相澤は敵地に向かう。敵も反撃するが相澤の『抹消』により個性を封じられ、さらに首に巻いた布を駆使した体術により次々と撃破されていく。
その間に13号が生徒たちを誘導し、避難させようとするも突如現れた黒い靄の男に阻まれる。
相澤の『抹消』は瞬きをすると一旦解除される。靄の男はその隙を縫って現れたのだろう。
「初めまして、我々は
「───平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたい思ってのことでして。」
突如現れた途方もない悪意。それは超常社会の陰に潜む闇の象徴とも呼べるものだった────。
*
「────どこだ、ここ」
赤々と燃え上がる街の真ん中で天海は呟く。先程の靄の男の発言の後、爆豪と切島が反撃したものの敢え無く失敗。その後広がった黒い靄は生徒たちの何人かを飲み込み、それぞれを別々の災害ゾーンに転送した。天海は今火災ゾーンにいた。
そして、
「ヒャハハハ! ガキが一人送られてきたぞ!!」
「よーし! それじゃあ俺たちでたっぷり遊んでやろうぜ!!」
「すぐには殺すなよ! じっくりいたぶってやらねえとなぁ!」
送りつけられた先には大量の敵が待ち構えていた。そのどれもが天海を見て下卑た笑い声を上げる。
「・・・で・・・・・・んだ」
「あ? 何か言ったかガキんちょ」
「何で敵はこんな奴らばっかりなんだ・・・。反吐が出そうだ」
そう言ってゆらりと立ち上がる天海。
「全く────────」
蘇る幼い頃の悪しき記憶。
「敵は本当に────────」
周りの燃え盛る炎のように、心の中に湧き上がるドス黒い感情。
「────────イライラすんだよッ!!!!」
憎悪を滾らせた双眸で敵を見据え、天海は襲い掛かった────────
次回あたりにオリジナル敵出す予定です。