Deap Ocean   作:ナルミヤ

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アニメ三期まであと一ヶ月!
めっちゃ待ち遠しい!!


No.8 約束

「───ここは・・・」

 

 目を覚ました天海の目の前には白い天井が広がっていた。鼻腔にわずかに広がる薬品独特の匂いから、ここが病院だと推測した。

 

「そうか。俺、耳郎を庇ってその後・・・」

 

 ベッドで横になりながらここに来るまでの記憶を辿る最中、病室のドアが開かれた。

 

「おや、起きてたのかい」

「あっ、リカバリーガール。どうしてここッ!!?」

 

 挨拶を返そうと起き上がろうとした天海だったが、全身に走った痛みに耐えきれず、再び横になる。首だけを動かして自分の体を見やると、全身包帯でグルグル巻きにされていた。

 

「無理しちゃいけないよ。あんたの怪我は相当ひどいからね」

「いつつ・・・。ひどいってどれくらいですか?」

「出血多量に重度の脱水症状、全身の筋繊維や内臓がボロボロな上に毒まであったからね。はっきり言って、今こうやって話してるのが奇跡なくらいさね」

「マ、マジすか・・・」

 

 椅子に座りながら淡々と述べられた自分の状態を聞いて、天海は顔を青くさせた。天海自身、無茶はしたと思っていたが改めて聞くと相当なものだった。

 

「一緒にいた・・・八百万だったかい? あの子に感謝するんだね。あの子が応急処置をしてくれたおかげで、病院も治療が間に合ったんだからね」

 

 八百万は天海が気を失った直後に止血材なりを創造して、簡易的な治療をとってくれていたようだ。

 

「それじゃあ治してあげるから動くんじゃないよ。・・・・・・チユ~~~~!!」

 

 リカバリーガールの"個性"で天海の傷がみるみるうちに癒えていく。傷は完全には塞がっていないが体の痛みも消え、動かせるようにはなった。

 

「これで明日明後日には退院できるだろうね。しばらくは体がだるいけど我慢するんだよ」

「ありがとうございます。それと・・・クラスの皆は大丈夫だったんですか?」

「緑谷が脚を骨折したけど、あんた程ひどくはなかったよ。それ以外は皆大したことはなかったよ。あんたが守ろうとした四人もね」

 

 リカバリーガールが微笑みながら話してくれた内容を聞いて、天海はホッとした。

 

「じゃあ私はもう行くよ。ああそれと、クラスの友達にちゃんと連絡しておくんだよ。皆心配していたからね」

 

 そう言い残して、リカバリーガールは病室を後にした。

 

「連絡、か。そういや俺どれだけ眠ってたんだ?」

 

 気怠い体を起こしてベッドの傍の棚に自分のスマホがあるのを見つけて、天海は徐に手にとる。日付は変わっており、時刻は正午を指していた。

 

「丸一日寝てたのか」

 

 そう呟きながら天海は通話アプリを立ち上げ、A組のグループトークを開く。

 

『今起きた。心配かけてすまん。』

 

 シンプルなメッセージだけを送って天海はリカバリーガールの治癒のこともあったため、布団の中に潜り込み再び眠りについた。

 

 

 

 *

 

 

 

 約一時間後。

 

ドタドタドタドタドタドタ、バタンッ!!』

 

「天海!!」

「へぁ!?」

 

 勢いよく開けられたドアと共にやってきた急なモーニングコールに、天海は変な声を出しながら跳ね起きる。ドアの方を見やれば、耳郎が大きめの袋片手に息を切らせて心配そうな表情をしていた。

 

「何だ耳郎か、びっくりさせんなよ・・・。」

「大丈夫、天海!? 体は!?」

「体は平気だがお前のせいで目覚めは最悪だったよ・・・!」

「それは・・・その・・・ゴメン」

 

 天海はまだ病み上がりなのだ。急な体への負担は来るものがある。胸を押さえながら天海に睨まれ、耳郎はバツが悪そうに眼をそらす。が、すぐに向き直ってベッドの傍の椅子に座り込む。

 

「だってしょうがないじゃん。急に起きたなんて連絡いれてさ、急いで準備してきたんだから」

「だとしても病院なんだから静かにしろって。・・・っておい、よくよく考えたら今日平日だろ。学校行かなくていいのか?」

 

 そう、今日は平日。そして時刻は一時過ぎ。普段なら午後の授業が始まっている時間だ。

 

「今日は臨時休校だよ。昨日あんなことあったばかりだし。それより、はいコレ。お見舞いではベタだけど」

 

 そういって耳郎は袋から大きな籠を取り出した。中にはリンゴや洋ナシ、ブドウなど様々な果物が盛り合わせられていた。

 

「おっ、ありがとな。ちょうど腹減ってたんだよ」

 

 一言礼を言って、天海は籠からリンゴをひとつ手に取る。そして、(おもむろ)に”個性”を発動させた。それを見た耳郎は眼を丸くする。

 

「ちょ、ちょっと天海!! アンタ何してんの!?」

「あ? 何ってナイフもないし水圧カッターで切ろうと・・・」

 

 天海は『何を言ってるんだ。』と言わんばかりに首をかしげるが、耳郎は怒ったような表情で立ち上がる。

 

「バカ!! アンタ起きたばっかなんでしょ!? ”個性”なんて使っちゃダメだって!!」

「いや別にこれくらい大丈・・・」

「ナイフくらい後で借りてくるから!! ほら、早く寝て!!」

「わ、わかった! わかったから体を押すな!! まだ傷口が・・・いだああああああ!!?」

 

 無理やりベッドに傷口ごと押さえつけられた天海は耳郎に涙目ながらに反論する。

 

「お前さ・・・俺が怪我人だってわかってる?」

「わかってるからこそ安静にさせようって思ったんじゃん。」

「言ってることとやってることが矛盾してるんだが。いってて、傷開いたらどうすんだよ・・・」

 

 天海は顔をしかめながら、包帯の上から傷を(さす)る。初めは黙ってその様子を見ていた耳郎だったが、やがてどこか申し訳なさそうな面持ちで口を開く。

 

「天海・・・」

「ん?」

「昨日はありがとね。入試の借りを返そうと思ったのに、また救けられちゃってさ・・・」

「お前そんなこと考えてたのか? 貸し借り気にしてたら、ヒーローなんて返された分で押し潰されちまうって」

「ヒーロー、か・・・」

「・・・お前今日どうした? 何か変だぞ?」

 

 天海は笑いながら返答するが、耳郎の浮かない顔を見て表情を固くする。しばらくすると、耳郎がポツリポツリと話し始めた。

 

「ウチさ、火災ゾーンで(ヴィラン)に襲われた時・・・一歩も動けなかった。アイツの殺気にビビっちゃって・・・今度こそ救けようって思ったのに・・・」

 

 耳郎は俯きながら膝の上で拳を強く握りしめる。

 

「それなのに・・・ウチらよりひどい傷で動けないはずの天海が庇ってくれてさ・・・。ウチ、それが本当に・・・情けなくて・・・!」

「・・・・・・」

 

 耳郎の絞り出すような告白を天海は黙って聞いていた。

 耳郎は悔しかったのだ。あの場で動けなかったことが。ボロボロの友人に庇わせてしまったことが。その事を理解しているからこそ、天海は気軽に『気にするな』とは言えなかった。

 

「ウチ、怖かった。あの時死ぬかもしれないって思った瞬間、金縛りにかかったみたいに動けなくなってさ・・・。天海はさ、怖くなかったの?」

 

 上目遣いで聞いてきた耳郎に対して、天海は頭を掻きながら返す。

 

「そりゃあ、俺だって死ぬのは怖ぇよ。人間、死ぬことを怖いって思うのが普通だ。ただ・・・」

 

 天海は掻いていた手を自分の前で握りしめ、それを見つめながら呟く。

 

「俺にとっては目の前で誰かが死ぬのはもっと怖い、それだけだよ。二度と繰り返したくないからな」

「そういえば昨日も言ってたけど、二度とって・・・」

 

 そこまでいって、耳郎はハッとして口を閉じる。聞いてはいけないことなんじゃないのかと思ったからだ。しかし天海は、

 

「・・・ここまで言っちまったし、耳郎には話しておくか。ただ、今から話すこと、あまり広めないでくれよ。気持ちのいい話じゃねーし、俺もあまり思い出したくないしな。」

「・・・うん、約束する」

 

 耳郎は真剣な眼差しで天海と約束を交わした。天海は上体を起こして話しだした。

 

「昨日火災ゾーンで俺たちを襲った敵、覚えてるか?」

「あの棘男のこと?」

「ああ、スキュアラーっていうんだけどな。八年前、俺の両親はあいつに殺されたんだ」

「・・・・・・!!」

 

 淡々とした口調のなか告げられた友人の悲惨な過去に、耳郎は思わず息を飲む。普段の明るい天海からはそんな様子は一片も感じられなかったからだ。

 

「ホント、当時は気が狂いそうだったよ。何せ目の前で殺されたんだからな。そん時ぐらいからだったか、復讐のことばっか考えてだしたの。ヒーローになったら絶対に殺してやるって年がら年中考えてたよ」

 

 当時の天海は小学校二年生。しかしその齢にして、天海の心は黒く塗りつぶされていった。

 

「そんな状態でずっと生きてきたからな。昨日あいつと会った時は殺すことしか考えられなかった。ただ、あいつは強かった。尾白には格上相手には逃げろって言ってたが、それでも復讐しか俺の頭にはなかった」

 

 

 

「でも、お前らが来てくれたとき思い出したんだ。俺は何のためにヒーローを目指したんだって」

 

 天海は耳郎の方を見ながら笑みを浮かべる。

 

「俺は人を救けるためにヒーロー目指したんだろって、そん時になって思い出してさ。そう思ったら力が湧いてきたんだ。自分の体のことなんてどうでもよかった。それこそ死ぬことなんて怖くなかったんだ。お前ら守って死ねるんなら別に構わな──」

 

「そんなのダメだって!!!」

 

 天海の言葉を遮るように、耳郎は立ち上がって声を張り上げた。

 

「死んでも構わないなんて軽々しく言わないでよ!! もっと自分を大事にしなって!!」

「じ、耳郎・・・?」

 

 突然の耳郎の叱咤に天海は戸惑うが、耳郎は構わず続ける。

 

「何でもかんでも一人で背負い込んでさ!! もし本当に死んだ時のこっちの身にもなってみなよ!! どれだけ苦しいと思ってんの!? 今日だって・・・天海から連絡あるまで・・・どれだけ怖かったかっ・・・!」

 

 そこまで言って耳郎は再びストンと座り込んだ。ポロポロと涙を流しながら。

 

「いっ!? お、おい・・・」

 

 急に泣き出した耳郎を見て、天海は両手をわたわたさせながらかける言葉を考えるが、全くと言っていい程思い付かない。天海は今までの人生の中で同年代の女子に泣かれるといった経験がない。どうやって慰めたらいいかわからないのだ。

 そんな天海をよそに、耳郎は嗚咽を漏らしながらも話し続ける。

 

「天海は命懸けてもいいとか言ってたけどさ・・・。それで死んだら・・・誰かが悲しむんだよ? 巻き込みたくないんだろうけどさ・・・もう少しウチらのこと頼ってよ」

 

 耳郎にそう言われた時、天海は心が軽くなったように感じた。今まで担いでいた何かを下ろしたような、そんな感覚だった。

 

 

(頼って、か。久々に言われたな、そんなこと。)

 

 

「耳郎、顔上げてくれ」

 

 耳郎は涙に濡れた顔を天海に向ける。

 

「お前の言うとおりだ。救けた奴悲しませたら本末転倒だな。だから約束する。お前らに今回みたいな怖い思い絶対させねーし、自分の命を粗末にするようなことは絶対にしない」

「・・・本当に?」

「ああ、(ただ)し!!」

 

 天海は白い歯を見せながら笑みを浮かべ、拳を突き出す。

 

「頼って、なんて言ったんだ。俺が背中を預けられるくらい強くなってくれよ!!」

「・・・ッもちろん! 背中預けるだけじゃなくて、いつかアンタを追い越してあげるよ!!」

 

 耳郎は涙を拭い、笑いながら拳を突き返す。

 

 二人の少年少女の笑顔はとても晴れやかなものだった。




これにてUSJ編は終了です。
毎日のように投稿してる人たちいますけど、どうやってるんでしょうか? スラスラ書けるのが羨ましい・・・。

次回からはいよいよ体育祭です!!
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