法律的におかしい部分が出てくると思いますがファンタジーだと思ってスルーしてもらえると幸いです。
俺は死んだ、そのはずだった。なのに何故俺はここにいる?
高級マンションの一室のような綺麗さと広さがある部屋。その中で自分はベッドの上で目を覚ましたようだ。当然だが知らない場所だし、最後の記憶はアスファルトの上で横たわっていたことだ。あれだけ血を流していたから絶対に死んでしまったと思ったが。
「ここは病院なのか?」
独り言を吐き出す。だが違和感がある。
「あー?うーん?」
やけに自分の声が高いのだ。まるでボイスチェンジャーを通して聞いているような気分だ。
「ってか腕細くなってるし」
怪我をして長い間動けなくなった人の筋力が落ちて体が細くなるというのは聞いたが、まさかそんなに長い間眠っていたのか?かなり酷い怪我だったから治療に時間が掛かったのかもしれない。俺は医者ではないから詳しくは知らんが。
「ナイフが刺さったのは・・・このあたりだよな」
目を閉じながら恐る恐る手を伸ばして腹に触れる。怪我は治ったのか、痛みはなかった。ほっとしながらももう一か所の胸に手を滑らせてゆく。左側の胸に手があたるが謎の感触がある。
「柔らかい・・・?」
心拍計のパッドが胸にあるのだろうか。服の上からではわかりずらく判断できない。ボタンを一つ一つ丁寧に外していく。遂にすべてのボタンがとれ、服の隙間から肌が見える。なぜか嫌な予感がする。
「ええい、男は度胸!」
勢い良くシャツの前を開く。そこにあったのは小さな膨らみとピンク色のつぼみだった。残念ながらこれを男性の胸と判断するのは難しいことだった。中学生くらいのからだつきだった。
「おいおい・・・嘘だろ」
ズボンに手を指しこみ、股座を撫でまわす。あるはずのものはなく、予想していたものだけがあった。
まるでフィクションの出来事に遭遇した気分だった。すべてが嘘に見えた。
だがこの体は間違いなく本物の女の子だった。
部屋を漁る際にもう一つ見つけたものがこの日記。ご丁寧に№が14と記されていてそれなりに真面目に日記を書き続けていたのだろう。№1から13までも綺麗に保存されていた。試しに№1の日記を覗いてみたが幼稚園生の文字を理解するのは難しいので諦めた。やっぱり最新の№14から探るとしよう。
日記を読み始めてから1時間程度経っただろうか、全てというわけではないが久嶋 辰という少女を理解するのは十分だった。まず久嶋 辰は結構なお嬢様で母親が高級ブランドの社長兼ファッションデザイナー、父親は音楽家でかなり売れているということ。しかしそれが仇となったか両親のことで学校の友達からいじめを受け引きこもりになった。両親はそれを咎めず久嶋 辰の心を癒していくことにしたみたいだ。母親から服の作り方を教わり父親から歌を、そうやってこれまで過ごしてきた。小学校中学校と不登校だったが両親のカウンセリングが実り、通信制の高校に通うことを決め無事合格。周りとは馴染めずいたが先生と仲良くなり相談に乗って貰っていたそうだ。
日記に書いてあるのはここまでだった。そしてここからは別の用紙から得た情報。
5月14日22時頃に音楽家の久嶋 和正とその妻久嶋 美沙が交通事故に巻き込まれた。居眠り運転をしていたトラックが信号無視をし、久嶋夫婦が乗っていた車の側面に突き刺さるように突撃。そのまま数十m押され続け電柱にぶつかることでようやくトラックが停止した。近くにいた人がすぐに救急車を呼んだものの久嶋夫婦は衝突で即死。トラックの運転手もハンドルに大きく頭を打ち付けていた。病院に運ばれた後に死亡が確認された。
それが新聞に書かれていた内容だ。運転手が務めていた会社が労働法違反で取り締まられたそうだがこの少女にとってどうでもいいことだった。重要なのは大切な両親を失ったということだ。見ず知らずの赤の他人の俺だがあの日記を見て久嶋 辰にとってどれだけ大切な存在だったかは分かる。そんな二人を失ったのだ、つらくないわけがない。
だから分かる、久嶋 辰が行ったことも。
ずっと目をそらしていた空になった薬と横に倒れたマグカップ。
「あぁ・・・クソ。」
どうしようもなくやるせない気分になる。何故この少女はこんなにも傷つかなければならなかったのか。もしもこんな理不尽を押し付ける奴がいるなら殴ってやりたい。
どうして俺が女になったのかなどもうどうでもよくなっていた。ただこの少女にかかった理不尽をどうにかしてやりたいと思った。例え久嶋 辰の魂が既に居なくなったとしても。
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まず考えたのは生きること。どんなに理不尽でも生き抜く、それが一番の目標だ。俺は女の体になったことを受け入れることは出来ていない。だが生きていればその内何とかなるかもしれない。ならなくても絶望はしないし、いっそのこと女として開き直って生きていくかもしれない。
とりあえず財布に入ってた金でコンビニの弁当でも買いに行くとしよう。
「・・・コンビニどこにあるんだろ」
万能器機であるスマホがあったおかげで地形に迷うことなくコンビニにたどり着いた。思いのほか近くだったし駅も近い、その上公園もある。確かこの公園は久嶋一家がよく遊びに来ていた場所だ。日記によればあのブランコに乗って父親に背中を押してもらっていたはずだ。
「よいしょっと」
近くのベンチに腰を下ろしてビニール袋の中にあるおにぎりと菓子パンを取り出す。大した料理ではないが腹を満たすには十分である。黙々と口に入れながら公園を見渡す。当然だが平日の真昼間に人がいるわけがない。久嶋 辰の体なら何か思い出したりしないかと思ったが残念ながら特にそういったものはなかった。日記に書いてある遊具がそのままあるくらいだ。
静かに食事を済ませて立ち上がりスマホを起動する。一度通った程度では道を覚えられないのでまた地図アプリを頼る。振り返って家を目指そうとすると、いつの間にかスーツを着た男性が立ちふさがっていた。
「すいません。少しよろしいでしょうか?私はこういうものなのですが」
男は胸ポケットか名刺らしきものを取り出し、それをこちらに差し出してきた。恐る恐る手に取ってみる。
[ 346プロダクション アイドル部門担当 武内プロデューサー ]
「アイドルに、興味はありませんか?」
(・・・どうしよう。久嶋さん、あなたの体でアイドルのスカウトされちゃったんだけど)