「・・・プロポーズされたような気がされたのですが、私の聞き間違いでしょうか。」
「いやっ、違っ、・・・その好きとかそういうんじゃなくて!!」
事情を説明しづらく、勘違いされてしまう。確かにプロポーズなのだが、そういう意味ではない。
「何か事情があるのですか?」
「・・・ちょっと耳を貸してくれ。」
武内さんも俺の顔を見て事情を察してくれたのか、椅子の場所を変えてこちらに寄りかかってくる。
俺の家族のこと、遺産のこと、そのあたりを伝える。辰の事情は全て話せるが俺の話は信じてもらえないだろうし隠しておいた。武内さんは顔をしかめたものの事情を把握たようだ。
「未成年が結婚した場合、民法上は成人として扱われるですか・・・確かにその方法ならば後見人を取る必要はありませんが、本当によろしいのでしょうか?話を聞く限り、久嶋さんの伯母様が悪い方には思えないのですが・・・」
確かに他人から見れば素直に後見人をとればいいだけの話だが、辰ではなく俺が信じられないのだ。武内さんがスカウトの時に俺の心を読んだようなことを言っていたが、誰にでも雰囲気を感じ取ることはできる。表情や言葉だけでなく仕草からその人を読み取れる。
俺が美崎さんに感じたのは焦りだ。早く後見人になろうとしているのが怪しいと感じたのだ。だが武内さんにもそれは伝わらないと思う。実際に見ることでしか分からない以上言葉では伝えられない。だからを付けることにした。
「・・・実は俺は両親を失ったショックで記憶を失っているんだ。」
武内さんは驚いた顔をしているが勿論嘘である。武内さんを確実に味方につける為に一芝居うつ。
「目覚めたときにはの葬式が既に終わっていたけど、俺を心配する人はいなかったんだ。普通はさ、もっとこう寄り添ってあげるべきだろ。でもそういうのが全くなかったんだ。」
これは本当のことだ。俺が目覚めまでに誰かが部屋に入った痕跡はなかった。そうでもなければ辰があんなことをしているはずがない。
「俺は周りの人をよく知らない、傷ついてる人を放っとけるような人を信じたくはない。」
「・・・久嶋さんのお気持ちはよくわかりました。ですが私が相手でよろしいのでしょうか?」
「言っただろ、記憶喪失だって。頼れる人なんてあんたくらいなんだ。無論タダでとは言わないさ、あんたと結婚してもらう代わりに俺はアイドルになる。」
「ですが、それは久嶋さんの意志ではありません。あなた自身が望まなければ意味がありません。」
「・・・あんたは情熱があるって俺にいったよな。確かにあるよ、でもそれは俺のためじゃなく他人の為にの情熱だ。誰かの為に動く方が性にあってるんだ。だから、さ」
武内さんは納得はしていないが渋々といった顔だ。
「・・・わかりました。アイドルの為に何でもすると言ったのは私です、責任は取らせて頂きます。ですが条件をつけさせて頂きます。」
「・・・まぁとりあえず聞くよ。」
「一つめはこの結婚は離婚を前提とします。成人になることが目的ならその後は私と関係を続けるべきではありません。」
それは俺も理解しているし、20歳になったら離婚するつもりだったので問題ない。
「二つめは久嶋さんがアイドルになるかは関係のないということです。私は久嶋さんの味方ではありますがそれを理由にアイドルをやらせるのはフェアではありません。」
なるほど、武内さんらしい。だが俺はそんなこと関係なくアイドルになるつもりだ。恩返しという動機は俺を突き動かしてくれる。それを捨てたらアイドルをやる気なんて起きない。
「最後に私は久嶋さんに一切触れません。偽装結婚である以上私とあなたは赤の他人です。」
なんだか大和魂というか侍というか、日本男児だな。いや女である今の体に触れられなくて済むならそれは助かる。辰の体を汚さなくていいんだからな。
「わかった、条件を呑む。」
「では、このことはくれぐれも内密に・・・」
「わかってるさ、親戚と弁護士以外には伝えないよ。そっちも会社には隠し通せよ、バレてプロデューサーじゃなくなったら俺が困るからな。」
「・・・ええ、承知してします。」
話に一区切りが付き、椅子の位置を元に戻す。俺も注文したコーヒーに手をつけるがいつの間にか冷たくなっていた。慌てて話していたせいか時間を忘れていたな。
「そういえば、結婚届ってどこで貰えるんだろう?」
ふと浮かんだ疑問をどうしようかと考えながらコーヒーを飲み干した。
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喫茶店を後にした俺たちはそのまま市役所に向かい結婚届を貰った。16歳と■■歳の年の差婚だからか受付の人から怪しまれるような目で見られたが仕方ない。周りの人から見れば若い父親と娘にしか見えないだろうな。
取り敢えず受け取った婚姻届けに記入をしていくが、あるところで躓く。”証人”の記入部分だ。結婚届など書いたことないから知らなかったのだが、これはまずい。親戚に話しても素直に記入してくれるはずがない上に頼れる知り合いも居ない。武内さんの知り合いに頼むしかないか・・・。
「あんたの知り合いで誰か証人になってくれる人はいるか?」
「・・・職場の方なら何人か。」
職場か、しかしこれから346プロダクションのアイドルになるのだからあまり346プロに事情を知られたくはないんだが。いや寧ろ事情を知っている分、融通を聞かせてくれるかもしれない。最後まで隠し通せるとは俺も思っていないし、アイドルになる前に話してしまうか。
「じゃあそっちに任せる。」
「分かりました。この後一度会社に戻りますので届けの方は私が預かります。」
武内さんは印鑑と証人が書かれて居ない結婚届をビジネスバッグにしまう。俺も記入に使ったボールペンをポケットにしまいその場を片付ける。結婚届を完成出来ない以上ここにいる意味もないので外に出ていく。
「さてと、俺は一旦家の方に戻るかな。・・・っと忘れてた。これが俺の携帯番号だからな、証人が出来たらまた呼んでくれ。」
電話番号が記入されたメモを受渡す。
「分かりました。出来るだけ早くに済ませておきます。」
「じゃあ、頼んだ。」
メモを渡した後、俺と武内さんは解散した。
取り敢えずやれることはやった。これからアイドルになる実感はないが出来ることを出来るだけやろう。アイドルとして結果が出なかったからクビ&離婚ですなんて言われた一巻の終わりだ。せめて4年、成人になるまで見捨てられないようにしなければ。
「よし!俺はやるぞ!」
頬を叩き気合いを入れる。誰も通っていない道路で俺の声だけが響いた。