この物語は第二次大戦に沿った創作です
実戦と違う展開等がありますがご了承ください
<<内火艇1番、作業やめ>>
艦内放送が鳴り響く。マツムラ達は上陸準備を始めていた。 もしもの時の為に備え、各戦車搭乗員には拳銃が渡される。ここにいる日本陸軍兵の中で一番上官であるタナカが一号車を、二、三をまたいで四号車をマツムラが車長を務めることになった。
<<輸送艦、接舷用意>>
まず、マツムラ達は駆逐艦から輸送艦に移り、そこにある九七式中戦車 チハ に乗り込むことになっている。 ヨーロッパ住みの日系人であるマツムラは チハ という戦車は見たことも聞いたこともない。が、自分の命を預ける機械であるから、マトモなもので有ることを祈った。
「全員輸送艦に乗り込め!乗り込んだら戦車内で小一時間待機、指示有り次第上陸するぞ!」
タナカの声に従い、全員輸送艦に移動する。
駆逐艦の外に出てみると、そこには数隻の輸送艦と駆逐艦が皆同じように接舷している。
内心、マツムラは安心した。 まさか4両で交戦させられるのではないだろうかと思っていたからだ。他の輸送艦にも同じように戦車があるようで、計16両での作戦で有ることをタナカから知らされた。
今回の任務はこうである。
輸送艦揚陸後、速やかに展開し、ガダルカナル島にいる日本軍兵が輸送艦に乗り組むまで近辺を防衛すること。
以上。
この内容を聞き、輸送艦内にいる陸軍兵からはどよめきの声が聞こえる。
なぜ撤退する必要があるのか。 敵を島から追い出すのではなく、我々が追い出されるとでもいうのか。
正直、マツムラも驚いた。 16両という大編成であるにも関わらず、攻勢でも防衛陣地を築くでもなく、一時的に輸送艦を防衛せよ という任務とは。
しかし、どんな任務だろうと遂行してみせよう。私は傭兵で、任務に疑問を持つ必要はないのだ。とにかく任務を遂行して生きて帰れれば今はそれでいい と、マツムラは自身に言い聞かせた。
マツムラは チハ という戦車を目前にする。一つ率直な感想があるとすれば、中戦車?である。 傭兵軍の基地で見た 中戦車 とは全く違う。 旧式の戦車――厳密にはルノー戦車に似ているな と思った。 どこが? と言われると、自信を持って答えられるのは砲の付け根とかかなぁ といった曖昧なものだが。 とにかく、信頼性は高いのではないだろうか と思った。
旧式に似てるなら、変な動作不良もないだろうと思ったからだ。
「中国で見たのとは違うな」 「なんでも改造型だそうだ 戦車戦に特化してるらしい」
今は信頼しよう と、マツムラは九七式中戦車に乗り込んだ。
<<上陸する陸軍兵は既に海岸付近に集まっている 3時間で作戦は終了 その後は速やかに各輸送艦へ戻る事 とのことだ また、上陸後は敵に悟られないよう無線は交戦あるまで切る事。 皆の武運を祈る>>
「しっかしまぁ…撤退とはねぇ…」
マツムラの下から声が聞こえる。どうやら無線手がしゃべったようだ。
「車長さん、あんた命拾いしたんじゃないか? もしくは、傭兵のあんたでも 敵地につっこめ なんて命令しないよな?」
「まさか、そんな」
マツムラの頬が緩んだ。
「ちょっとレバーが硬いですね… 油持ってきます」
「おいおい、押すな押すな。 すみませんね、マツムラさん」
戦車の事しか目がないとでも言わんばかりの操縦手と、堅物に見えて冗談が通じるような砲手も口を開く。
どうやら、初めて会ったにしてはそこそこうまくやれてるんじゃないだろうか?とマツムラは思った。
カランカラン――カランカラン――
鐘の音がなる。揚陸開始の合図である。
1号車から順に、排気管から煙が上がる。 マツムラは、生まれて初めて太平洋に、そこに浮かぶ小さな島国に――(戦車を通してではあるが)足を付けた。