日の出の光がガダルカナル島を包む。
潮の香りも強さを増し、清々しい空気も一転、日の出が終わるころにはムシムシとしたジャングル特有の空気になる。
マツムラはその光景に見とれていて、戦車兵たちが何をやっているのか気づかなかった。 どうやら、タナカ率いるA中隊とビーチ側のB中隊に有線の通信を引いていたようだった。
「車長、欧米の日の出は太平洋とは違うんで?」
「自分の居た場所は海から太陽は登ってこないからな… ちゃんとした日の出を初めてみたのさ」
無線手とのそんなやり取りを挟み、そろそろ姿を現してもよいはずの日本兵達を待ち続ける。太陽は既に高く上り、まもなく昼になるころであった。
<<こちらB中隊、異常なし>>
『了解、Aも異常なし ったく…』
タナカもこの状況に苛立ちを見せてきた。 そもそも3時間の予定の作戦であるから、食料や水は最低限の物しか積んでいない。 それも朝のうちにほとんど食べてしまった。
こんなに遅いとは、彼らは来る気があるのだろうか? 夜明け前に聞いた無線も酷いジョークだと思っていたが、ここまでとは。
流石に撤退の命令が出るのが先なんじゃないかと思っていたころ、後部機銃を担当していた無線手が話しかけてきた。
「車長、アレ」
ふと戦車の後方を見ると、山を降りてくる集団が見えた。 しかし、日章旗などは掲げていなかった。
<<各車、注意せよ>>
タナカの声に従い全戦車の搭乗員に緊張が走る。
集団が近づいてくると、その必要はなかったと気づいた。
日本軍の服装をした彼らは、まるで兵士なのかわからない飢えた獣、いや、もはや生き物ではないミイラのような姿であった。
『……こちらA中隊。 回収部隊の到着を確認。 まもなく輸送船に着くだろう。』
タナカも驚きを隠せないようで、またタナカだけでなくその場にいた戦車兵全員が共に驚いていた。
彼らは銃を杖の代わりにしてあるき、ある者は足が無く、 またある者は顔にグルグルと包帯を巻いた姿で現れた。 全員やせ細っていて、今にも倒れそうである。
合わせて200人程であるが、まともに歩けているのは50人もいない。
「彼らに一体何が…」
マツムラがそう呟くと、有線のスピーカでなく、無線機から突如交信が入ってきた。
<<こちらB中隊9号車!敵戦車発見! 視認できる数は12! シャーマンです!>>
アメリカ軍である。
<<こちら1号車!回収部隊がいることを悟られるな!バレたら機銃掃射でなぎ倒されるぞ!B中隊前進用意!A中隊は島の中央、丘に向かうぞ!>>
<<敵、こちらに砲を向けました! ――各車回避行動!…機銃撃て!>>
<<早まるな! B中隊、その場で交戦せよ!A中隊全速前進!>>
多数の銃撃、砲撃音が島に響く。
それでも日本兵達の足は早まらない。 アレで精いっぱいなのだ。
タナカの指示に従い、マツムラは2号車を前進させるよう命じる。
――エンジン音が車内に響いたと思ったら、風を切る音が聞こえた。本能的に身をすくませる。
とてつもない音と共に、並走していた車両が爆発した。