先ほどまで冗談交じりだった声が突然低いトーンに変わり、背筋が凍る。
ブライアン「俺たちに気づくのが遅すぎる。 僚機ならしっかりと周りを見ろ。」
分隊長「あんまり苛めんでくれ。つい先週、タラップがなくても飛行機に乗れるようになったばっかりなんだ」
トイレから帰ってきた分隊長がいつの間にか、私の後ろにいた。
アレクシス「とはいえ、ここは戦場だ。一回の出撃でで死ぬ奴だっているんだぜ まずは今日生きてることに感謝するんだな。」
マツムラ「はっ!肝に銘じておきます!」
ブライアン「フッ、返事だけは一人前だな」
アレクシス「マツムラ、俺たちの機体を見てみるか?新兵のお前とは大違いだぜ?」
私は頷き、アレクシスらが乗ってきた戦闘機を見る。
マツムラ「これは…」
アレクシス「まずイギリスから給与されたこいつの腹を捥いだ。 次に中身だ。」
唖然とするマツムラを尻目に、ブライアンがニタニタと笑っている。
ブライアン「なあに、ただの解体ショーの紹介さ」
アレクシス「エンジンはオーバーホールした。あとこの羽も新造した。」
マツムラ「なぜここまで…?」
アレクシス「そりゃお前、自分の命乗っけてるからに決まってるだろ」
即答であった。分隊長の笑い声が聞こえる。
分隊長「一流の兵は機体も一流ってことだ」
ブライアン「もっとも、機体を一流にするにはまずは己が一流にならなきゃいかんがな」
アレクシス「稼ぎが悪いんじゃ話にならねえや!ガハハ!」
マツムラとビックも思わず笑いだす。先ほどとは打って変わって、団らんな雰囲気になる。
ブライアン「…ブライだ。俺のことはそう呼んでくれ」
アレクシス「お前から愛称を教えるなんて珍しいじゃねえか。 俺はそのまま読んでくれ。ミドルネームをファーストネームにしやがった親を恨んでやるんだ」
マツムラ「は、はい! よろしくお願いします アレクシスさん、ブライさん」
会話を終え、マツムラは機体を眺め続ける。
どうやら機体の中身も違うらしい。 マツムラが乗っている傷だらけの操縦席とは違い、取り外せるものは新しい物に入れ替えられている。ここまでくると機体そのものが違うレベルだ。
しかし、一番気になるのはこの小さな黒板だ。 足元のスペースに、定規のようなサイズの黒板が紐で固定されている。
アレクシス「お、目の付け所がいいな。 それは自分の落とした敵の分線を入れるのさ 今日はブライアンのも一緒に入れてるぜ。 数が多いのはそれが理由だ。 とはいっても、別行動中に敵機を落としたのは俺たちだけだからな? これが、”実力”ってもんよ!」
分隊長「流石だな――――
分隊長たちは会話に花を咲かせる。
しかしマツムラはただ一人、言い知れぬ不安感をぬぐい切れなかった。
ビック「マツムラ、どうした?」
黒板にひいてある線は12本。1本1機なら、マツムラ達が苦戦した4機と合わせれば事前に調べがついている数と同じ、確かに16機。
いや、そんなはずはない。4機分の線は入れ忘れたのだろうか?
マツムラ「アレクシスさん、この数、あなたたちが落とした数でいいんですか?」
アレクシス「ハハ――あ?何がいいたい?」
空気が悪くなるのを感じるが、ここで引き下がってはいけない。
マツムラ「最後の4機、あれも全部アレクシスさんとブライアンさんが?」
アレクシスとブライアンが互いに見つめあう。
ブライ「俺は3機落としたぞ?」
アレクシス「大丈夫だ、数に入れてる。 全部で12機だが」
マツムラ「今日、私たちは一機も落としていません」
ブライ アレクシス「なっ…?」
分隊長「おい、まさか…」
―――そう、あと4機敵機が残っている。
完全に気が抜けていた。お互い確認せず、飛行場についてからというもの、ここが戦場で有ることを忘れていたのだ。
アレクシス「馬鹿野郎!何してたんだてめえらは!」
ブライ「落ち着けアレクシス。ここで言い争っても…」
場の空気はまたも一転し、悪くなっていく。
ビック「こうしてる場合じゃないだろ! とにかく出るんだ!」
基地にサイレンが鳴り響く。
管制塔<<おい、飛行機から離れてなにをやってたんだ!>>
分隊長「すまない、今全機搭乗した」
管制塔<<5分前、レーダーで敵機を捉えた。おそらくだがすぐ近くに来ててもおかしくない>>
ブライ「どうでもいいからサイレンを止めてくれ。離陸に集中できない」
管制塔<<…? サイレンなんて鳴らしてないが…>>
マツムラの額に冷え切った汗が流れる。 祖父の書籍で読んだ事があるのだ。
サイレンのような音を鳴らす爆撃機の話を。
マツムラ「分隊長!上です!」
分隊長「何!?」 ブライ「なっ…」 アレクシス「おっおい!」
その姿は、独軍の急降下爆撃機 Ju 87 スツーカだ。
ビック「こっちに来てるぞ…」
突如、サイレンが止み、代わりに笛のような音が鳴る。
―――死神の笛。 音に気を取られ、上を見上げた時、その正体を見たものは―――
友軍機j「うわああ――――こっこっちにk――――――
―――――――――――――――――――。
無線機からの声なのか、外からの声なのか判別はつかないが、その声は突如として爆音にかき消された。
分隊長「損害を報告!」
幸いマツムラら5人の機体には損害はなかった。
が、それ以外の友軍機はとても飛び立てるような状態には無かった。
地獄のような光景とはまさにこのことを言うのだろう。友軍パイロットたちは下からの爆風で風防を突き抜け、上半身を機体にもたれかけるような形で投げ出していた。
先ほどの声の主も今は息一つする様子がない。
分隊長「…行くぞ」
真っ赤に燃える友軍機を背に、5機の戦闘機は離陸する。
次回から空戦パートです
味方戦闘機は主人公マツムラ含め5機以外全滅しました 数が多いと描写が難しいですからね…
感想がログインしなければ書けないようになってましたが、無制限にしましたのでどしどし意見や感想くださいね! 全てとはいきませんが改善していける場所は改善していきます