ちょこちょこと登場していたオリキャラの物語です。
リオンと咲耶がネギまサイドの主人公なら、彼がハリポタサイドの主人公に相当していく予定です。
今話のあとがきに1章で登場したメインキャラの人物まとめを記載しました。
「君が、――――――かの?」
その老人と出逢ったのは、11歳の何でもない夏前の時期だった。
「そうですが……貴方は?」
その頃の僕は、孤児院で過ごす子供の一人に過ぎなかった。
多少頭が回り、他の子よりも賢しく立ち回ることが出来る程度の非力な子供。
親のことは知らない。
今はもういない母親がこの孤児院の前で生まれてすぐの僕を抱えたまま倒れていたらしい。
発見した孤児院の人が介抱したが、母と思しきその人は、その日の晩を越えることはできずに亡くなったらしい。
その人が残していたのは幾つかの不思議な品物。
使い道の分からない貨幣らしきもの。どうやら材質は金や銀、銅のようだが、市場に流通しているものとは全く異なり、その材質の価値くらいしかなさそうなものがいくつか。
その人が着ていた服。持っていた細い木の棒。
赤ん坊の僕を包んでいた黒いマント。
そのマントには正三角形と内接した円、そして真ん中を貫く直線という何かのマークが描かれていた。
ある日、孤児院を訪れてきた老人は、自分の名を“アルバス・ダンブルドア”と名乗った。
ホグワーツ魔法魔術学校の校長だと。
魔法に魔術
そんなものは……ない。そう、否定することはなぜかできなかった。
「それではダンブルドア、先生、は僕をその学校に入学させる、ということですか?」
「入学してほしい、とは思うが、選ぶのは君じゃよ」
自分が魔法使いである、と説明されて戸惑いはあったが、それよりも不思議と、そうか、という納得が大きかった。
きらきらと瞬くような瞳で、すべてを見透かすようなダンブルドア校長の視線を真っ向から受けて、そこから何かを読み取ろうと見返す。
孤児院ではこうすると周囲の子や大人の考えていることがなんとなく分かる気がしたのだ。それが魔法だというのなら、たしかに自分は魔法使いであるのかもしれない。
視線を受けたダンブルドア校長は孫でも見るような穏やかな笑みを崩さず、その内面に隠されている思いは隠れたままだった。
読み取ることができない。
孤児院で、賢しく立ち回ることができたのは、この力によることが大きいのだが、それが通用しないとなるとどうするべきか。素早く考えを巡らせようとしていると、不意に部屋の扉がギィと音を立てた。
振り向くと扉の陰に隠れながらこちらを見つめる小さな子供、孤児院の子の一人であるマリエルがいた。
びくびく、おどおどと気遣うようにこちらを見ている。
「マリエル。ダメだろ。今、僕はお客さんとお話ししているんだから。さ、あっちでみんなと院長先生のお手伝いをしてきなさい」
できるだけ優し目に声をかけた。
マリエルは孤児院の中でも大人しい子で、他人の言うことをよく聞く、言ってみれば扱いやすい子だから、強く言わなくてもそれで十分だと思ったからだ。
子供多い孤児院でうまく立ち回るやり方として、他の子どもの統率の仕方を工夫することだと思っていたからだ。
いつもなら素直に言うことを聞くマリエルは、しかし言うとおりに出ていこうとはせずに、泣きそうな顔でこちらをじっと見ている。
「おにいちゃん……どっかいっちゃうの?」
舌を打ちたくなった。
周りの子供よりも上に位置するという立ち位置のために、どうやら下手に依存心を抱かせてしまっているのだろう。
頼りになる年上の子が居なくなるかもしれないと知ってか、泣きそうになっている。
「おじいちゃん。おにいちゃんをつれてっちゃうの?」
顔を顰めて黙ったことをどうにか判断したのか、今度はダンブルドア校長の方に問いかけた。
「連れていってはダメかの?」
ダンブルドア校長は、質問には答えずに尋ね返した。
自らの思いは伝えずに暗に示すことで相手の、“おにいちゃん”に抱いている思いを探る気だ。そう察知したものの、それを止めるのも不自然であり、マリエルの口を閉ざすことはできない。
黙っていてくれ、と思いを込めて少女を見つめてみるが、果たして少女は彼の思いを裏切って口を開いた
「…………ここにくる大人の人は、おにいちゃんたちをつれていっちゃう人ばっかりだからキライ。
けど、いんちょう先生は、おにいちゃんたちが元気にすごせるようにって、おいのりしなさいって言うの」
ダンブルドア校長はマリエルの言葉に少しばかり目を見開き、そして優しさを深めた眼差しをマリエルに向けた。
「つれてっちゃやだけど。おにいちゃんが元気になれるなら、おいのりするの」
「マリエル。お客さんを困らせちゃダメだよ。ほら、後で遊んであげるから、もうお行き」
少年の思惑とは裏腹に、率直に自らの思いを告げてしまう少女。その声を遮るように少年が優しげに聞こえる声で再度、立ち去るようにつげた。
優しそうな声の中に含まれる明確な命令。それが分かったのか少女は潤んだ瞳を少年に向けた。
「……みんなも?」
「ああ。みんなで遊ぼう」
やれやれと言葉をかけるとようやく納得したのか、少女はそれでも心配そうに振り返りつつ、扉を閉めて立ち去った。
「随分と、慕われておるのじゃな」
「……人の上に立つというか。そういう役回りが、向いているのでしょうね」
不要な情報を相手に与えてしまったことに、ほんのわずか、悟られないように顔を顰めつつ言葉を返した。
平坦なその言葉に、ダンブルドアは緩めそうになっていた表情をすっと冷たいものに戻した。
なにか告げたいことがあるのか。ダングルドアは口を開こうとして、しかし思い悩むようにその口を閉じた。
長く、深い悔恨に塗れた生き方を思い返すように視線を落としたダンブルドア。
拍をおいて、再び口を開いた時には先ほどの憂いのある色は消えていた。
「さて。それではどうするかの? もちろんワシは君の意志を尊重しよう」
そして、再度、少年の意思を確かめるように問いかけた。
魔法とはかかわりのない世界で、この孤児院で過ごしていくか。
足場を築いたこの孤児院を出て、魔法の世界へと身を投じるか。
逡巡は、なかった。
ただ飛びつくには相手の得体が知れなさすぎるし、あまりにも行く先が不明すぎる。
少年は慎重に言葉を選んでから口を開いた。
「ホグワーツに行きます。行きたい、です……」
もとより行くか行かぬかの2択であるのならば、そこに選択の余地はない。
孤児院などという小さな世界でお山の大将を飾っていた所でなんの意味もないのは明らか。
今の自分には力がない。だからこそ、より大きな力を求めるのだ。
今よりも大きな世界へその身を投じることで。
「ですが、見ての通り僕にはほとんどお金がありません。魔法使いのお金、というのがあればですが。学用品を揃えたり、卒業までの学費を払うことは難しいと思います」
だが、いくらなんでもなにも知らぬ世界に何も持たないままで飛び込むのは、勇気ではない。
今の世界を放り投げて魔法の世界に飛び込んだ結果。学ぶ権利をなくして半端に放り出されてはたまらない。
学費のことを懸念するとダンブルドアはそれを手で制した。
「心配は無用じゃ。そのあたりはワシが協力しよう」
言葉に、妙な違和感を覚えた。
“ワシが”……?
今のが“ワシらが”ならなんの違和感も覚えなかっただろう。普通の学校や社会にもそういった制度 ――概して優秀な子供の学業を支援する制度―― は存在するのだから。
だが先ほど、ダンブルドア校長は“ワシが”と言ったのだ。いくら魔法学校の校長とはいえ、いくら僕が魔法使いの卵だとはいえ、一人の生徒のために個人が協力を申し出るだろうか。
だからか、なんとなく直感で思ったのだ。
「貴方が……? あの、もしかして貴方は僕の母、いえ両親をご存じなのですか?」
眉根を寄せつつ尋ねた瞬間、老人の顔がわずかに強張った。
恐らく失言だったのだろう。
もしくは、そこに気づくかどうかを試したのかもしれない。
「……いや。残念ながらワシは君のご両親のことは知らん。協力する、といっても学用品を揃える手伝いくらいじゃがな」
少し黙した後、老人は答えた。
“両親のこと”は分からない。
そう答えた老人は、しかしどこか懐かしい思い出を振り返っているようにも、寂しげにも見えた。
「そう、ですか……」
重ねて尋ねることもできた。おそらくだが、この人は何かを知っている気がした。
でも質問を続けても困らせるだけだろう。
きっと嘘はつかないけれど、答えてはくれない、そんな気がしたのもあるし、なによりも死に瀕した母を救おうともせず、生まれたばかりの自分を見離した家族とやらに特に興味がなかったのもある。
結局、ホグワーツへの入学と入寮することを決めた。
教科書は卒業生か上級生の不要になったものを譲り受けた。幸いにも文字は魔法使いたちといえども差はなく読むのに苦労はしなかった。くたびれた感のある教科書だが別に問題はないだろう。
そして残りの学用品を揃えるために訪れたダイアゴン横丁。
魔法界のお金をもたない僕にダンブルドア校長は援助としてその代金を払ってくれたが、それが彼のポケットマネーによるものなのか、学校の制度によるものなのかは分からなかった。
めまぐるしく変わっていく世界。
「それでは、また新学期が始まってから会おう」
「はい。ありがとうございます、ダンブルドア校長」
準備は整った。
孤児院の先生たちにも入学と入寮のことは伝えた。小さな子供たちの面倒見役が居なくなることを冗談めかして残念がっていたが、進路が決まったことを一応は祝福してくれた。
1日で多くの事が変わり過ぎて疲れた。
くたびれた大量の教科書と魔法の杖。
鍋や秤などは学校に到着してから譲るという事でここにはない。
昨日までとは異なる魔法世界との繋がりとでもいうべき品々を抱えて誰もいない部屋に戻った。
異なる世界へと足を踏み入れたこと。その事実は疲労した体にあって、胸を躍らせた。
荷物の中から一本の棒きれを抜き出して見つめた。
母が持っていた物の中で、ただの棒だと思われていたものこそが魔法の杖であることをダンブルドア校長から聞き、それが自分の杖となった。
ぬくもりもない、会話した記憶すらない母の遺品。その杖を手にして眺め、
「誰だっ!!?」
突然室内に生じた人の気配に反応して杖を突きつけた。
自分が入ってくるまで部屋の中には誰もいなかったはずだ。なによりもその人影は孤児院の子供や先生とはまるで違うもの。
その動きは単なる反射的なものだった。まだなんの魔法も収めてはいないが、手にしていた杖を不気味な相手に向ける。そのことに戸惑いはなかった。
「ほう。まだ学校にも通っていないのにいっぱしの魔法使い気取りか……ふん。悪くない」
部屋の片隅には黒い影のような男が腕を組んでこちらを見つめていた。
今日訪れたダイアゴン横丁でもよく見かけた黒いローブに身を包んだ姿。
――魔法使いだ。
いつの間に、という疑問は抱くだけ無駄だ。今自分が居るのはもはや昨日までの世界ではなく、魔法の世界なのだ。
そしてその世界において、自分はまだ何の力も有していない。
なんらかの魔法の力、自分がまだ知らない力を用いたのだろうと推測するのはさして難しくはない。
――だが、なぜここに
男の言葉は、まるで以前から自分のことを知っていたようにも聞こえるし、そして知っているのだとしたら、なぜ見知らぬひよっこに声をかけてきたのか。
睨み付ける視線を受けて、男は不敵な笑みを口元に浮かべていた。
「もう一度聞く。誰だ?」
嫌な気配を漂わせる黒衣の男に再度誰何の声をかけた。
声に険が宿り、杖を持つ手に力が入る。
男は口元に浮かべていた笑みをスッと消した。
「碌に魔法も使えんひよっこが。杖を下ろせ」
使えないと分かってはいても杖を向けられ続けるのは嫌なのか、男は自身の杖を見せつけるように突きつけて命令した。
互いに向けある杖と杖。しかし、片方はただの見せかけに過ぎない。
できることはなく杖を下ろし、抵抗の証とばかりに睨み付けた。
「そうだ。それでいい。なに、今日はお前にいいことを教えてやりに来ただけだ」
誰何の問いには応えるつもりはないのだろう。男は一方的に告げた。
「いいこと?」
「ああそうだ。お前の、血筋について教えてやろう」
「血、筋?」
そしてゆっくりと毒を垂らし込むように告げた。
なぜ初めて会った男がそのようなことを知っているのか。
疑問には思ったが好奇の心が芽生えたのも事実だ。
ダンブルドアが語らなかったことを、この男は知っており、そして語る気がある。
興味が傾いていることを見て取ったのか、男は笑みを深くした。
「ああ。偉大なる闇の魔法使いの血筋だ。闇の帝王だなどとほざきながら、赤子に敗れた出来損ないとは違う。大いなる支配者の血だ」
誇るように告げる男の言葉。
その出来損ないというのが何を指すのかは分からない。そして
「お前の祖父の名は――――――」
告げられた言葉はやはり聞き覚えのない名だ。
「誰だ、それは?」
だが、なぜか悪寒をもたらす響きに聞こえた。
まるで体に流れる魔法使いの血が、その名を恐怖たらしめているかのように。
「ふん。嘆かわしいな。あのお方の孫が、あのお方の名すら知らぬとは。アイツもとんだところに貴様を残してくれたものだ。マグルの孤児院などと」
知らぬことを告げると男は落胆したように侮蔑の視線を向けた。
どうやら先の名は魔法界において広く知れ渡った名らしい。
無言で睨み付けると男は溜息を吐いた。
「まあいい。そのおかげで奴の眼を欺けるのだから。貴様が奴から貰ったその古臭い本の中に、あのお方の名もあるだろう。読めば分かる。お前の敵が、本当は誰なのかということが、な」
「お前は、なぜそんなことを知っている。僕の母を知っているのか?」
声が震えた気がした。
男はにやりと笑みを浮かべて黒衣を翻した。
去り際、あたかも置き土産の呪いのように言葉を残した。
――俺は、お前の父親だよ――
言うだけ言って、男は忽然と姿を消した。
まるで、というよりもまさに魔法を使ったのだろう。瞬きほどの時間で男は痕も残さず消えた。
父親。
それは顔も覚えていない母親以上に縁遠い存在だ。
幾つかの物を自分に残して死んだ母親。それとは異なり、父親などというものが自分にも居たのかと思うほどだ。
父親などというものが居たとしたなら、なぜ母は孤児院の前などで野垂れ死ななければならなかったのか。なぜ、自分は今まで孤児院で過ごさなければならなかったのか。
なぜ、魔法の世界に足を踏み入れたその日に、都合よく自分の前に現れたのか。
それではまるで――――その時を待っていたようではないか
そこまで思考が辿りついた瞬間、父親だと名乗った男の意図が分かった気がした。
あの男の口ぶりからすると、おそらく奴はホグワーツの校長であるダンブルドアとは相いれないものなのだろう。
そして恐らく、あの男は自分がホグワーツという学校に招かれる時を待っていたのだろう。
何かをさせるために。
その晩。男に言われた名前を頼りにダンブルドア先生から貰った教科書を開き、そして見つけた。
「闇の魔法使い―――――か……」
魔法の教科書に名を刻むほどだ。その名はたしかに、ある意味では偉大なのかも知れない。
だが……
――悔しくはないか?――
頭の中で、何かが囁いた気がした。
――書物に記されていなくとも、奴もあのお方と同じだったのだ。だが、奴は生き残り、世間の称賛を一身に浴び、最も偉大な魔法使いだなどと呼ばれている。本来ならば、あのお方こそ、その称賛に相応しかったにもかかわらず――
囁く言葉はまるで呪詛のように、心の隙間へと潜り込もうとしてきた。
なぜ自分はこんな貧しい孤児院で暮らしているのだ?
なぜ自分の母は、自分を残して死んだのだ?
なぜ見も知らぬ祖父とやらと共に暮らしてはいけなかったのだ?
愚鈍な者ばかりのこの世界の中で、なぜ自分はこのようなところで燻っているのだ?
――すべてはあの男の傲慢のせい。あのお方の才に嫉妬し、あのお方の持っていた秘宝すら奪って行った。いずれお前が引き継ぐはずだったあの秘宝を、富を、名声を――
――憎い筈だ。やつが。善人ぶったあの男が。お前ならばできる。奴の懐へと潜り込み、知識を得るのだ。秘密を暴くのだ。いずれ奴は知ることになる。自身の行いの愚かさを。最も偉大な闇の魔法使いを、自身が誘い、育てたのだと――
言葉は魔法によって囁かれたものなのか。
それとも自らの内より出でたモノなのか。
・・・・
魔法学校への出発の日。
孤児院のみんなに送り出され、ホグワーツ特急が発着する駅へと着いた。交差するプラットホームへと通じる9と3/4番線。その前にあの男は居た。
「どうだ? お前が居るべき立場が分かっただろう?」
「……それで。お前は、俺に何をさせたいんだ」
別に今さら父親と名乗ったこの男に従う気になったわけではない。
だが、話を聞くくらいならば損はないだろう。父親としてではなく、魔法使いの先達として、魔法の世界で力を手に入れる方法でも教えてくれれば儲けものといったところだ。
返答に男はにやりと笑みを浮かべた。闇の世界に住む者の、粘つくような笑み。内心を見透かしたかのような態度。
ダンブルドアもそうだが、魔法使いには人の心を読む術があるのかもしれない。
もしかすると孤児院で上手く立ち回れたのは自分にもその力の一端が発現していたからかもしれないとふと思った。
「まずは城を探れ。ホグワーツは古の魔法がかけられた城だ。特にサラザール・スリザリン。やつの残したものを探せ」
「サラザール・スリザリン……」
魔法学校の創設者。
ゴドリック・グリフィンドール
ロウェナ・レイブンクロー
ヘルガ・ハッフルパフ
そしてサラザール・スリザリン
目を通した教科書に出てきた名だ。
大昔の魔法使い。
男がその名だけを出したのは、やはりこの男が“そういう”側の魔法使いだからだろう。
「やつもまた偉大な闇の魔法使いだ。必ずや城に何かを残しているはずだ。それはきっとお前の力になる」
それが果たしてこの男のどのような役に立つのか。
心が読めるのならば、父親のためなどという殊勝な心がけをもっていないことくらい分かるだろう。
「うまくやれ。ディズ」
・・・・・
自分が配属されたのは、あの男が言った創設者・スリザリンの寮だった。
スリザリンでは血統が重要視されるらしく、マグルの孤児院出身の俺は当初、蔑まれた。だが、それも1年が経つ頃には変わった。いや変えたのだ。自分の力で。
どうやら魔法使いの世界においても自分は優秀らしい。魔法の世界、といっても所詮は卵の学生たちの集団。教師の魔法使いすら感心するほどの力を示した。
目的のものと思われるモノのあたりがついたのはホグワーツに入り、1年が過ぎ、2年目の半ばが過ぎようとしているころだった。
だが、どうやらそれには何らかの条件が必要なのか、どうしてもそこまでは辿りつけなかった。
2年目が終わり、3年目を迎えた。
魔法の世界に足を踏み入れたという昂揚はとうに色褪せ、今までと変わらぬ世界が続いていた。
だが、3年目の今年は少し期待していた。
闇の世界を終わらせた赤子。ハリー・ポッター。彼がやってくる。
当世においてイギリス魔法界で最も恐れられた魔法使い、ヴォルデモートを打倒した少年。
一体どのような魔法の使い手なのか。
だが
実際見た彼には大いに失望させられた。
確かに箒の扱いは上手く、勇気もあるのだろう。
しかし彼は決してクィディッチや箒のスピードレースでヴォルデモートを倒したわけではない。
それ以外ではとりわけ着目すべき力は見られなかった。
知りたいのは、どうやって彼が闇の世界を閉じる一因を作ったのかだ。
彼の何がそれを為したのか。
それが知りたかった。世界を変える力とはなんなのか。
だから、もう一つの来訪者。魔法世界という、もう一つの世界の魔法使いには大いに期待した。
なぜなら、その内の一人は、明らかに自分やあの男と同じ、いやそれ以上に、その何倍も、深く、濃い、闇の匂いを纏わりつかせていたのだから。
もしも闇の力が、世界を変える、世界を超える力となりうるのなら。
それが欲しい。
ハリー・ポッターもきっと何らかの力を持っているのだろう。隠しているのか、本人もまだ気づいていないのかは分からないが。
だが、それはきっと自分にはないだろう。自分はどうあがいても彼と同じ側には立てないだろうから。
リオン・スプリングフィールド
彼もまた、当初は力を隠していた。いや見せる必要が無かっただけだろう。
だが、あのハロウィンの日。
「アステル・アマテル・アマテラス。風精召喚。剣を執る戦友! 迎えうって!」
異国からの留学生サクヤ・コノエ。
見た目は非力な少女。
戦いなど無縁に見えるお淑やかそうな少女。
見知らぬ魔法を使ってトロール相手に敢然と立ち向かおうとする姿は、立派な心がけといったところだ。
だが、心がけだけで所詮は学生に過ぎない。
異世界の魔法といえどもたやすくトロールを倒すことはできないのか、徐々に押し込まれ、そして新たに出現したもう一体によって一気に窮地に立たされた。
そして
「κενοτητοζ αστραπσατω δε τεμετω!」
少女の窮地に現れたのは“本物”の魔法使い。
聞き覚えのない言語。見たことのない術式。
「ΔΙΟΣ ΤΥΚΟΣ!!」
知らぬ力。圧倒的な力。
振り下ろされた雷の斧は一撃でトロールを打ち倒した。
どれほどの力をまだ隠しているかは分からないが、直感が告げている。
あの力こそ、自分が求めている領域の力だと。
全てを打ち砕き、凌駕する力。
あの力が、欲しい。
視線が交わる。
早々と自寮へと向かう生徒たちの流れから外れて見つめていた自分の視線に気づいたのか、リオン・スプリングフィールドは険のある眼差しをこちらに向けていた。
気づいたのかもしれない。
だが、それでいい。
ただの授業ではアレの本当の力に触れることはできないだろう。
だから、今はまだ楔でいい。
何かある。
そう思わせただけでいいのだ。
人物まとめ
近衛咲耶
本作主人公兼ヒロイン。日本の関西呪術協会の長、近衛詠春の孫にして近衛木乃香の娘。ハッフルパフ所属で学年はハリーより2学年上。魔力量の多い“ほんわかしろまじゅつし”。
リオン・M・スプリングフィールド
もう一人の主人公。詠春によって派遣された咲耶の護衛 兼 精霊魔法講座の教師。氷と雷の魔法を得意とする“つんでれやみのまほうせんせー”。
ハリー・ポッター
原作主人公。グリフィンドール所属。“くしゃがみめがねのおとこのこ”
ハーマイオニー・グレンジャー
グリフィンドール所属。“ぼっちかしこいまじょみならい”
リーシャ・グレイス
咲耶と同学年でルームメイト。ハッフルパフ所属クィディッチチームのチェイサー。座学と魔法薬学は苦手だが実技系魔法は割と得意。“きんぱつきょにゅうのとりあたま”
フィリス・レメイン
ハッフルパフ所属、咲耶と同学年でルームメイト。社交性に富んでおり、寮の内外に知り合いが多い。母親はマグル。学力は平均的なレベル。“らぶせんさーをもつこいのまじゅつし”
クラリス・オーウェン
ハッフルパフ所属、咲耶と同学年でルームメイト。読書好きで寮ではセドリックに次いで優等生の少女。基本無口だが親しい相手には毒舌。“さびしがりやのちびっこまじょ”
セドリック・ディゴリー
ハッフルパフ所属、咲耶と同学年。クィディッチチームのシーカー。学年次席の成績をほこる優等生。“はんさむゆーとーせー”
ルーク・アグリアーノ
ハッフルパフ所属、セドリックのルームメイト。リアという飼い猫がいる。