夏休みと3年目の思い出
<お手紙と写真、ありがとうございます、リーシャ。元気いっぱいのリーシャたちの姿が見れて嬉しかったわぁ。写真の中の人が動くとか、やっぱりまほー使いの写真は違うんやね。面白かったんで、ウチもこっちのまほー使いのお手紙にしてみました。上手く撮れとるとええんやけど……日本はもう随分暑い日が続いとるけど、イギリスの方はどかな?>
手紙から浮かび上がる黒髪の少女。
魔法使いの写真はその中の人物が動くものであり、生粋の魔法族であるリーシャにとってそれは当たり前のものなのだが、どうやら今、浮かび上がっている手紙の主にとってそれは物珍しいものだったらしい。
前回の手紙のやりとりの際に送った写真に対抗意識をもったのか、動く写真ならぬ動く手紙を送ってきた。
<フィーにも電話で伝えたんやけどお泊りの件、おじいちゃんのお許しもらえました。会えるんが楽しみやわ~>
「おっ! やった!」
懸案事項兼お楽しみの一つ。
咲耶のお泊り会企画はめでたく咲耶の祖父の許可が下りたらしい。
手紙の上でちっさい咲耶が顔をほころばせているのを見てリーシャも思わず声を上げた。
<魔法学校に通いだしたことで、こちらの魔法の勉強も本格的に始めていい頃合いだろういうことで、最近は治癒魔法の勉強が増えたんよ。ガッコの宿題もあるから大変やけど、なんとなくやりたいことに近づけとるみたいで嬉しいです。ところでリーシャは宿題終わりましたか?>
「うげっ。よくやるなーサクヤ」
たしかに一足早く家を出なければならない咲耶は夏休み最後に宿題を残して追い込む、といったことはできないだろう。
追い込み型のリーシャは顔を引き攣らせて手紙の咲耶を見た。
昨年、精霊魔法は治癒魔法の基本と制御のための練習しかしていなかったと言っていた咲耶が本格的に勉強し始めたと言っているのだ。
学校から出された大量の宿題に加えての勉強ともなれば大変だろうに、手紙の咲耶からは治癒魔法を覚えられることが嬉しくて仕方ないと言う風に見えた。
「でもそっか。治癒術士になりたいとか言ってたもんな」
人の役に立てたいと明るい笑顔で語っていた咲耶。
苦しんでいる誰かのために手を差し伸べることを当然のように夢として語る彼女と出逢ってからもうすぐ一年が経つ。
第18話 夏休みと3年目の思い出
飛ぶことだけしか考えていない箒バカ。
そんな風に寮で、というか学年で評価されている私だが、当然悩みだってある。
性格に女らしさがない。
性別的にはきちんと女なのだが、友達のフィーにはしょっちゅう身だしなみのことを言われるし、男子から男女とか言われることもしょっちゅうだし……
フィーのような女の子って感じに憧れがないわけじゃないし、クラリスみたいに小動物系の子を見ると可愛らしいと思うし、好きなようにやってるからいいんだけど……お姫様、というのには憧れていたりする。
彼女を初めて見たのは遠くの席からで、興味深げにキョロキョロとあたりを見回す姿が、幼げだったのが印象的だった。
「ねえ、リーシャ。あの人が新任の先生かしら。かっこよさそうじゃない?」
「えっ。あ、ああ。そうだな」
フィリスの言葉に、一瞬反応が遅れた。
かっこいい。それは自分が内心抱いていた思いとは違ったからだ。
1年の時からのルームメイトであり友人であるフィリスは、どうやらあのやたらと整った顔立ちの男性教師に興味津々のようだ。
だが、リーシャはその横、男性に比べれば存在感が薄いが、それでも特徴的な姿をしている可愛らしい女の子に意識を奪われていた。
――まるで異国のお嬢様みたいだ――
それが彼女に、サクヤ・コノエに抱いたファーストインプレッションだった。
魔法省に友人の多い母の伝手で今年、ニホンの魔法協会の孫娘が留学してくるという情報は聞いていたし、恐らく魔法省とパイプのある純血の家の魔法使いだったら大抵知っていたことだろう。
夜空を溶かしたように真っ黒で、クセのない長い髪。やや小柄な身体つきは柔らかそうで、ニホンの魔法協会の孫娘、というよりもニホンのお姫様と紹介された方がしっくりきそうな気がした。
周囲の女生徒はどうやらフィリスと同様にカッコいい男性教師に注目しているらしく、校長先生が“精霊魔法”の講座の新任教師だと紹介したら、途端に色めきだって授業日程を確認していたりする。
「まずは君たちの友人の寮を決めよう、ミネルバ」
「コノエ・サクヤ! こちらに」
「はい!」
校長先生が編入生の、コノエの寮を決めるために寮分けを司っていたマクゴナガル先生を呼んだ。
マクゴナガル先生はこくりと頷くとビシリとした声で彼女の名前を呼んだ。
コノエがぴょんと椅子から跳ね降り、校長先生が組み分け帽子の方へと進み出るように手振りで促した。
彼女と話をしてみたい。
それは留学生、という物珍しさもあったが、それ以上に彼女個人と親しくなってみたいという思いがあった。
お姫様みたいなあの可愛らしい子と。
ただ、同じ寮にはなれないんじゃないかとも思っていた。
わざわざ異国の魔法学校に留学するくらいだから、頭が良く、探究心があるのだろう。勇気がある、かどうかは分からないが、ニホンの代々続く魔法協会のトップの孫娘ということは血筋も立派だ。
レイブンクローやスリザリンの素質は十分。いや、ニホンから言葉の通じにくいイギリスに来たくらいなのだから、きっと勇気もあるのだろう。グリフィンドールの素質だって十分じゃないか。
四寮中、落ちこぼれが集まるハッフルパフ。
そう揶揄されているのは当然知っている。
まあ毎度寮対抗杯では最下位だし、クィディッチでも最下位だしで反論できないことではあるし、リーシャは別にそれをムキになって否定する気もなかった。
フィリスなどはその評価を嫌がっているみたいだが、どんな人でも受け入れるというハッフルパフの個性がリーシャは好きだったし、寮に誇り、とまではいかなくても愛着は湧いていた。
バカにされればムカつくけど、みんなで笑って学校生活を楽しめればそれが一番だから。
自身純血の家の生まれではあるが、そんなのはたまたま親が魔法使い同士で恋愛して結婚したからで、両親とも、特にこだわりはないらしい。
そもそも父親からして、自分以上のクィディッチバカなのだから、自分に勉学の優秀さを期待されても困るというのがリーシャの正直に思うところだ。
期待……と諦めが混ざった思いで帽子が彼女の寮を選んでいるのを見た。
そして
「ハッフルパフ!」
帽子がそう宣言したとき、一番驚いていたのはスリザリンだった。そして同じくらいリーシャやハッフルパフの生徒も驚いていた。
目立つことが無いハッフルパフに、注目度抜群の ――流石にハリー・ポッターほどではないが―― 編入生が入ったのだから。
聞いた話ではニホンの二つある魔法協会の内、血統の古い方の協会の孫娘で、その実家はずっと昔から続く名家。
そんなの血筋大好きなスリザリンの連中にとってぜひともお友達になりたいやつのはずだから。
ハッフルパフに決まって、がっかりするんじゃないか。
歓迎の拍手を打ちながらそう思っていたが、帽子を椅子に戻したコノエは嬉しそうに微笑んでいた。
なんで帽子が彼女をハッフルパフに組み分けたのかは分からない。
けど、その笑顔を見た瞬間、この後やることは決まった。
「初めまして、コノエ! 私、リーシャ! リーシャ・グレイス」
ま、とりあえず挨拶からだよな。
一緒の部屋で過ごして、たくさん話をして、一緒に魔法の練習をした。
そうして分かったことだが、彼女は思っていた以上に楽しいお姫様だった。
そして……
「あれ? フィーとクラリスは?」
「ん~。クラリスは図書室で本借りてくるって。フィーはいつもの告白の呼び出し。次のホグズミードでも誘われてんじゃね?」
「そっか~……ほえっ!? 告白!?」
談話室のソファーでごろりとだらけていたリーシャに自習を終えた咲耶が声をかけた。
「そっ。2年くらいの時から結構あったよ。あれ、サクヤ知らなかったっけ?」
「ほわぁ~、フィーモテるんやなぁ」
四六時中一緒にいるわけではないが、それでもよくともに行動するフィリスやクラリスがいないと落ち着かないという感じがある。
「まあなぁ。私が男でも、フィーみたいなのは好きになるだろうしな」
まだ出会ったばかりだった1年目はともかく、同じ学び舎で過ごしていくうちに色々な面が見えてくる。
2年生の冬ごろからだったか、フィリスはよく男子から告白されるようになっていた。
特にホグズミードという格好のデートスポットへと行くことのできるようになった3年生からは同級生や上級生からの告白が増えたように思う。
「リーシャは?」
「んあ?」
「リーシャは告白されたことないん?」
恋愛話になったからだろう。
サクヤは近くのソファに腰掛けて興味津々とばかりに尋ねてきた。
「はっ。あるわけないじゃん、男だったら私みたいなのよりああいう女の子って感じのがいいだろ」
前からこの少女は私の恋愛ごとに好奇心をかけたてられているようだが、実の所、私が誰かに好意を抱かれているなんてあるわけないと思っている。
おしゃれに気をつかい、優しく面倒見と気立てのよいフィリス。
本の虫になりかけているクラリスだって、小動物的な庇護欲をかきたてる可愛らしさがあるし、咲耶だって実はかなり人気がある。
対して自分は箒で飛ぶくらいしか取り柄という取り柄がないし、それにしてもチームのシーカーであるセドリックほどではない。
勉強に至ってはほぼ壊滅的で、実技だって優等生というほどではない。
自分が抱く女の子らしさとやらから、自分は最も遠いんじゃないかと思っているし、それを直せる気もしない。
でも
「そかなぁ。ウチリーシャのこと好きやで?」
「ぶっ、なっ!!?」
「箒で飛んどるリーシャ、すっごいカッコよくて、キラキラしとって、すっごい綺麗やもん!」
ほわほわとした顔で告げる友。
向けてくるその視線に籠っているのが、友愛であることは分かる。
それでも
「…………へへへ。嬉しいこと言ってくれるじゃん、サクヤ」
「えへへ」
今はまあこれでいいやと思える笑顔だった。
異国から来た可愛らしいお姫様。
愉快で大切な友達の、親友の一人だ。
「今出てって、私たちはどうかって聞いたら、サクヤどんな返答するかしら?」
楽しそうにじゃれているサクヤとリーシャの様子を談話室の影からこっそり見ていたフィリスは、先程寮の前で一緒になったクラリスに苦笑しながら尋ねてみた。
サクヤが友達を大切にしてくれているのは分かっている。順番をつけるなんて無粋なことだろう。
彼女の中で一番“好きな”相手は誰かなんて分かってる。
彼女とあの先生の間に昔どんなことがあって、あれほど慕うようになったのかは知らない。けれど、サクヤが本当にあの先生に恋しているのは分かる。
だから、友達として一番は……
「さあ。でもきっと同じ」
「同じ? ……そっか。そうね」
きっと比べることはサクヤを困らせるだろう。そう思っていた。でもたぶんそれは違うのかもしれない。
彼女にとっては大切な友達はみんな、大好きな友達。
見上げてくるクラリスはそう言っているように見えた。
・・・・
<お手紙は“烈風”がフィーとクラリスとハーミーちゃんのとこに行った後、また戻ってくるんで、前と同じように渡してください>
たくさんのことを伝えていた手紙ももう間もなく終わりに近づいているのだろう。
手紙の咲耶はいつも通り手紙のやりとりの方法を伝えてきた。
「あ。やっぱり、あのでかいのまた来るんだ」
日本とイギリスは遠い。
マグルの輸送手段や公的な方法を使えばその限りではないが、生粋の魔法族であるリーシャはマグルの手紙の出し方に馴染んでいないし、公的なやりとりのように仰々しいモノを送るつもりはない。なによりもそれらの方法では時間がかかり過ぎる。ということで咲耶が選んだのは、実家で使役している“式神”という鳥の形をした魔法生物(?)に手紙を運んでもらうという方法だった。
“烈風”という黒くて大きな鳥はイギリスと日本という超長距離をものともせずに全員分の手紙を水で濡らしたりすることなく運んでくる優秀な鳥(?)だ。
まずリーシャの所に手紙を運んできた烈風はフィーやクラリス、咲耶の他寮の友人であるハーマイオニーの所に順々に手紙を配り、そしてまたリーシャから回って返事の手紙を回収しに来るらしい。
よくそれほど体力が持つモノだと感心するが、咲耶曰く「まほーの一種やから大丈夫なんやって」とのことだ。
「よし。んじゃま、いっちょ気合い入れて手紙を書くか」
リーシャは気合いを入れて手紙に書く話題を考え始めた。
――この前は魔法族の手紙でクラリスやリーシャとの写真を送った。
今度は何がいいだろう。
もうすぐホームステイに来るし、家族の写真がいいだろうか。
そういえば咲耶たちの魔法族にはクィディッチがなかったな。
サクヤはクィディッチ好きになったっけ?
まだだった気がする。
うん。
それはダメだな。
よし、それじゃあ今年は頑張ってクィディッチでいいとこ見せよう――
そうして宿題からはどんどんとズレていくリーシャであった。
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魔法世界。
夜が明け、微睡から覚める明け方時。
ウェスペルタティア王都オスティアから西方に位置するとある渓谷に二人の男が対峙していた。
「ついに追いつめましたよ、“福音の御子”。今日こそ貴方を打ち倒し、貴方達が隠す秘密を暴かせていただきます」
一人は眼鏡をかけた理知的な男。
顔の両端に一房ずつ垂れた黒髪。スーツの上から白衣を纏うその姿は、未開ともいえるようなこの渓谷とは合わず、どちらかというとどこかの研究所にでも居そうな男だ。
「また貴様か……アルフレヒト・ゲーデル。一体何度ちょっかいをかけてくれば気が済む」
福音の御子。
そう呼ばれた男、リオンはもう幾度杖を交えたか分からない旧知の相手と対面していた。
メガロメセンブリア元老院議員クルト・ゲーデルの息子。
科学魔法統合理論の応用研究の第一人者として知られる魔法博士。
アルフレヒト・ゲーデル
「無論。貴方の秘密を暴くまで」
この男がいるからこそ、リオンは魔法世界の中でもとりわけメガロメセンブリーナには近寄らなかったというのに、どうやら今回は目的地であるオスティア近郊に網を張られていたらしく、まんまと出くわしてしまった。
「他人の趣味の暴き立てとは随分と悪趣味だな」
「クク。悪趣味? いえ! その秘密こそ、世界に住まう魔法使いの全てが知りたいと望む秘密です! リオン・マクダウェル・スプリングフィールド!!」
詠うように自らの行いの正当性を主張するアルフレヒト。
自分が暴き立てようとしている秘密は、ただ自分一人のものではない。世界の全ての者に知る権利のあるものだとでも言うかのように。
そう
「
リオン出生の秘密。
最凶の不死の魔法使い。人形使い。闇の福音。エヴァンジェリン・AK・マクダウェルを母に持つと
その父が誰であるか、誰も知らない。
いや、二人ほどそうではないかと言われている者はいる。
一人は彼女が追い求め続け、一度は封印したと言われている大戦の英雄。千の呪文の男。ナギ・スプリングフィールド。
もう一人は彼女の弟子。英雄の息子にして、今を生きる英雄。偉大なる魔法使い。ネギ・スプリングフィールド。
いずれにしても、魔法界最悪の存在と魔法界の英雄の息子であると噂されているのが彼なのだ。
誰もがその本当の真実を知りたいと望んでいる。
だが、誰もそれを語ろうとはしない。
その当人たちも、それに近しい者たちも。
聞きだすことも不可能。
なぜならば彼らはあまりに強大な存在であるのだから。
そしてまた、英雄と魔王の息子たる彼もまた強大すぎる存在だ。
ゆえにこそ、アルフレヒトは主張する。
この行いは正しいのだと。
例えそこに当人のプライバシーなど微塵も考慮されていなくとも
「このマッド野郎め」
「なんとでも。真理の探究のためには少々の犠牲などむしろやむなしです。聞いていますよリオン。先日、J・ラカンとやりあったらしいですね」
そして通常ならばアルフレヒトがリオンに勝つことはない。
だが、この日はタイミングが悪い。いや、悪い日を狙い澄ましたのだ。
「さしもの貴方でもかの千の刃と戦って数日では魔力も体力も万全ではないでしょう。そして今日、地球は
J・ラカンとの戦い。そして月齢の変化。
かの英雄を相手にしてはいかにリオンであろうと、いやどのような使い手であろうとも無事には済むまい。殺し合いではなかったとはいえ、大きく削られているのは間違いない。
そして半月。それは吸血鬼の力と人の力が競合し合い、どちらにも傾かないもっとも半端な刻。
修行と称して一人で放り出されて間もないころに、不覚をとったのもたしかに半月の日だった。
「そんな昔の事までよく調べたものだ。ストーカーか、貴様」
「当世最強にして最凶の一人を一介の研究者が相手しようというのです。いくら弱点を調べても足りませんよ」
呆れたように見やるリオン。
たしかに度重なる襲撃に不覚をとり、どこぞの姫君の世話になったのも半月の日だった。
だが、あれから何年もの月日が流れ、そしてその克服の目処もたっている。
そんなリオンに対して、眼鏡に片手をあてながら不敵に笑うアルフレヒト。
こうして面と向かっているのは、自信のあらわれ。
かの
「一介の研究者、ね……それで、この周りのデカブツは貴様の玩具か?」
この場に居る人間は二人だけだが、二人の周りには巨体の鬼神が5体、見下ろすように立っている。
「いえいえちょっとした実験ですよ。私が改良した鬼神兵が福音の御子にどこまで通用するか。計算上では単騎で大戦期の鬼神兵の5倍の戦闘力を有しています」
およそ半世紀ほど前、魔法世界における大戦においてメセンブリーナ連合の主戦力であった鬼神兵。半世紀ほどまえで活躍していたモノでも並みの魔法使いに対してはあまりにも脅威。
しかもこの場に召喚されているのは魔法研究の天才とも呼び声高いアルフレヒトの自信作。改良型鬼神兵が5体。
弱点である時を狙い。
疲弊した隙を狙い。
万全の体勢を敷いた。
如何にリオン・スプリングフィールドが強大な魔法使いであろうとも、アルフレヒトの計算上、これから逃れる術はない……ハズ。
「記録によれば大戦中、千の刃は9体の鬼神兵相手に素手で戦いを挑んだとか。ここにいる新型の鬼神兵は5体。戦闘力の単純換算では大戦中の旧型鬼神兵25体に相当します!! 加えて科学魔法統合理論に基づく武装を各種配備し、ヒューマノイドロボットの対魔法戦士におけるデータの蓄積から個々の適応に応じて如何なる状況においても最適な戦闘パターンを構築!! そして――――」
「やかましいわ!」
悦に浸って語るアルフレヒトの解説を遮って響くリオンの怒号。
飛び上がったリオンの一撃を受けて吹っ飛ぶ一体の鬼神兵。その巨体は谷間を削り拡げ、轟音を響かせて倒れ伏した。
「毎回やり合う度に長台詞吐きやがって!! ご自慢の玩具。粉々に砕いてやるからとっととかかってこい!」
「……ふ。ふふふ。流石は我が友リオン!! 容赦ない
「誰が友だ!! 誰が!!」
鬼神兵たちが手に持つ武器を勇ましくリオンに向け、ここに大戦期さながらの
……数日後
自国の近くで渓谷が氷河と化したという報告を受けた某国の女王が怒っていた。
「谷一つまるごと氷漬けにしたぁ!? 何考えてんのよあのバカ!!」
「どうやらメガロのゲーデル博士と喧嘩したらしいです」
「ゲーデル!? 博士ってことはハカセの息子の方よね。喧嘩だからってそこまでやる!?」
「向こうは鬼神兵を5体ほど持ち出したらしいです」
「どっちも大バカ!!!」
長いオレンジ色の髪に緑と青のオッドアイの女性と黒髪サイドテールの女性。
丁寧な口調で話す黒髪の女性に対して、肩をいからせてズンズンと進むオッドアイの女性は青筋浮かべている。
「それで刹那さん。そのバカどもは?」
「ゲーデル博士の方はメガロに帰ったようです。リオン君の方は客間で……」
この国の女王とその親友は問題児の片割れの待つ客室の扉を開けた。
はたしてそこでは
「そっかー。せっかくの艶姿やったのにリオン君、押し倒せへんかったんや」
「するか! アイツ何歳だと思ってんだ!? 勝手に人をロリコンにするなっ!!」
「えー、親公認の許嫁やのになー?」
「ちがうっ!! ジジイといいアンタといい、どいつもこいつも」
件の渓谷近くの村やメガロとのやりとりに頭を悩ませていた女王をよそに、客間では親友と問題児が悠々とお茶をしながら楽しそうにしていた。
そして
「こんの、バカ助!!」
「もぱらっ!!!」
怒髪天を衝いた女王の拳が、バカ一名に炸裂して吹っ飛ばした。
「あっ。アスナ久しぶり~」
「久しぶりこのか。ちょっと今はこのバカに話があるからあとでね!」
いきなり目の前で親友が娘の思い人を吹っ飛ばすと言う光景を目の当たりにしながら、ほわほわと挨拶をしているのは世界屈指の治癒術士と名高い女性。
「リオン!!」
「あ、アスナ・ウェスペリーナ……!! 真祖直伝の魔法障壁をテキトーに無視するなっ!」
「うるさい!! こっちはあんたのせいであの変態議員にぐちぐちと嫌味言われて頭に来てんのよ!」
「あっ! 待てコラ! 話じゃないのか!? 今回被害者はこっちだろ!? 咸卦法を使うな!!」
「うるさーい!!! 谷一つ氷漬けにしたやつがただの被害者で済むか!!」
ごうっ!!! と咸卦の力を纏った拳がリオンの重厚な魔法障壁を貫通して突き刺さる。
魔法使いの中でも屈指の実力を誇るリオン。
吸血鬼の真祖直伝のその魔法障壁は本来であれば何物をも寄せ付けない……のだが、この女王にはそれが通用しない。
「うーん。なんや久々に見る光景やなぁ」
「確かに。懐かしい光景ですね」
かつてとある少女が、とある吸血鬼の少女を殴ったことがあった。
以来時折じゃれつくようになったあの二人。
口では嫌がっていた吸血鬼だが、久しく感じていなかったその温もりは、きっと彼女の尖った心を丸くしたはずだ。
「おいこら! この暴走女王止、めろんっ!!!」
「待ちなさい、リオン!! 谷の前に変態と一緒になって砂漠も吹っ飛ばしたでしょ!! 風香ちゃんと史伽ちゃんのとこからやたらと砂が飛んでくるようになったって! 聞きなさい!!」
「楽しそうやなぁ」
「……そうですね」
リオンの夏休み、完。
活動報告にも書いているのですが4月は少し色々とありまして更新速度が鈍ると思います。ただひと月以内には更新を続けていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。